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第390条 監査役会の権限等
 

 

Ø 監査役会の権限等(390条)

@監査役会は、すべての監査役で組織する。

A監査役会は、次に掲げる職務を行う。ただし、第3号の決定は、監査役の権限の行使を妨げることはできない。

一 監査報告の作成

二 常勤の監査役の選定及び解職

三 監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定

B監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない。

C監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない。

ü 監査役・監査役会の設置

株式会社は、定款の定めによって、監査役または監査役会を置くことができるとされています(326条2項)。ただし、次の二つの場合を除いて、です。

@)監査役の設置義務(327条2項

取締役設置会社は、原則として監査役を置かなければならないとされています(327条2項)。監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社は、業務執行の決定を取締役会が行い、株主総会の権限が制約される等のことから、株主に代わる取締役の監視機関として監査役が必要とされます。

A)監査役会の設置義務(328条1項

大会社である公開会社は、監査役会を置かなければならないとされています(328条1項)。

ü 監査役会について

監査役会制度は平成5年の商法改正によって法制化されました。それは、大会社の不祥事が続発したことにより、その自主的監督監査機能の強化のための、監査役の強化の一環としてでした。併せて、監査役の員数の増員(3人以上)と社外監査役の導入も決められました。これは、前回である昭和56年の商法改正においても複数の監査役、常勤監査役制度が導入されましたが、複数の監査役が、個別的に、大規模な会社の業務執行を全般的に監査することは効率的ではない。また、監査役の多様化(常勤監査役や社外監査役)により、個々の監査役の情報格差や情報へのアクセスの難易などの問題が浮かび上がってきました。つまり、多くの大会社において、取締役や使用人といった社内者が横滑りで監査役になっていました。このような社内監査役は、会社の事情に通じ、情報も適切に収集することはできますが、他方、業務執行機関から独立して、客観的に監査することに困難に面もあります。したがって、監査役のうち少なくとも1人は、客観的に第三者的立場で監査することが可能な社外監査役であることが求められました。また、大会社の実務上、監査役が3人以上である場合が多く、社外監査役は原則として非常勤であると考えられたため、常勤監査役を確保し充実させる必要から、監査役の員数が3人以上は必要とされました。これを踏まえて次のように監査役会制度が法定されました。

大会社において、監査役の員数が3人以上とされる場合には、監査役会という会議体を組織するのが自然であるし、社外監査役が導入されたこととも関連して、監査役の間で役割を分担し、かつ、それぞれが担当した調査の結果を監査役全員の情報として、組織的、効率的な監査をすることができるようにするためには、監査役会という形態とすることが適当である。そしてまた、監査役会として取締役等の経営陣に意見を述べることにより、監査役が個々に意見を述べるよりも経営陣に対する影響が大きくなるということが期待されました。

そして、会社法が新たに制定された時に、監査役会制度に変更が加えられました。そのひとつが監査役会制度の自由化です。監査役会は大会社の特例ではなく、一般的な制度となりました。

ü 監査役会の組織と機能について

・監査役会の組織

監査役会設置会社では、監査役は半数以上の社外監査役を含む三人以上で構成され、全員で監査役会を組織します(390条1項)。その3人の監査役のうち半数以上は社外監査役でなければなりません(335条3項)。監査役会設置会社は非公開会社であっても、定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する規定を設けることはできません(389条1項)。監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければなりません(390条3項)。通常、社外監査役出ない監査役の全部または一部が常勤監査役に選定され、監査役3人の会社においては、2人の社外監査役と1人の常勤監査役で構成されている手と言えます。

※半数以上の社外監査役

上記の通り、監査役会の構成員である監査役のうち半数以上は社外監査役でなければなりません。この「半数以上」という言い方は、よく似ている言い方の「過半数以上」とは違うので注意が必要です。過半数というのは半数をすぎるということで半数は含みません。従って、監査役が3人の場合には、社外取締役は2名以上必要です。それでは、監査役が4人の場合を考えてみましょう。「半数以上」というとであれば、半数は含まれるので、最低2人の社外監査役が必要ということになります。これに対して「過半数以上」ということになると、半数を含めず、半数を越えなければならないので。2人という半数を越えなければならないので、3名以上の社外監査役が必要ということになります。

監査役は、社外監査役とそれ以外のいわゆる社内監査役に、及び常勤監査役とそれ以外の非常勤監査役に、それぞれ区別されます。また、監査役会の議長(会社法施行規則109条3項)のほか、特別取締役会に出席する監査役(383条1項)や、取締役に監査報告の内容を通知する特定監査役(会社法施行規則132条5項)が定められます。

〔参考〕取締役と監査役会の関係

監査役会は監査役で構成される法定の機関であり、会社法で定める権限のほか、監査役会の決議をもって。監査の方法、会社の業務および財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定めることができることになっています。このように、会社機関としての独立性を保障されている監査役会です。

監査役は取締役会に出席して必要な意見を述べなければなりませんが、その逆に取締役は監査役会に出席することについては法的な規定はないので、取締役には監査役会に出席する権利も義務もないということになります。取締役は会社に著しい損害を及ぼすおそれのあることを発見した場合には監査役会に報告する義務を有しますが、これは監査役会に出席する義務ではありません。ただし、監査役会は取締役に対して監査役会への出席を求め、報告を求めることはできます。

監査役会は、取締役会と同じように議事について議事録を作成しなければなりません。その議事録の閲覧又は謄写は、株主がその権利を行使するために必要な場合、債権者が監査役の責任を追及ために必要な場合、裁判所の許可を得て行うことができるものです。取締役会が、監査役会に対して決議内容の報告を求める権利はありません。また、監査役会が取締役会から議事録の閲覧又は謄写を求められた時に応ずる義務はありません。

・監査役会の機能

取締役会は、それ自体が業務執行の意思決定機関であり、取締役はその構成員として会社の意思決定に参加するにすぎません。取締役会は、取締役の職務執行の監督機関でもあります。個々の取締役には、取締役の職務執行に対する監視義務が認められますが、個々の取締役が監督機関になるのではなく、取締役会の監督権限を具現化するため、その権限を基礎に、個々の取締役に監視義務が認められるにすぎないというわけです。

これに対して、監査役会設置会社において、監査役会が監督機関となるわけではないのです。監査役会を設置しない会社の監査役と同様に、個々の監査役が監査機関なのです。監査役会は、適切かつ効果的な組織監査を行うために必要な監査行政的な事項の決議機関であり、監査に関連する情報交換や意見調整の場であるにすぎません。

各監査役は、監査役会が監査に関する意見を形成するための唯一の協議機関かつ決議機関であることから、職務の遂行の状況を監査役会報告するとともに、監査役会を活用して監査の実効性の確保に努めます。

大会社の監査報告書は、個々の監査役の報告に基づいて、監査役会がとりまとめたもの(会社法施行規則130条1項)で、各監査役の意見を付記することができると規定されています。これは、個々の監査役とは別に、合議体としての監査役会が監査意見を表明することを認めたものです。

・社外監査役

社外監査役の典型的機能は、他の会社経営者または弁護士その他の専門家が、非常勤の監査役として、大所高所から、あるいは、異なる知見や企業風土の観点から、取締役の職務執行を監査し、会社経営の健全性確保に貢献することです。しかし、社外監査役に、日常的な監査を要求することは困難であり、社外監査役の負担・責任を大幅に軽減するような弾力的な監査役の役割・職務分担の取り決めが必要とされます(390条2項)。監査役間の職務分担・役割分担の定めが合理的であるときは、個々の監査役は、自己に課せられた監査の役割を誠実に遂行し、他の監査役の職務執行について相当の注意をしていれば、任務懈怠の責任は問われない、ということになります。このような免責効果が、監査役会制度の直接的な法的効果であり、これにより、広く社外監査役候補者を求めることができるわけです。また、社外監査役の機能強化のために、監査役会において、常勤監査役より社外監査役に定期的かつ適切に情報提供されることが期待されています。

・適法性監査と妥当性監査

監査役会設置会社における監査役も、監査役会を設置しない会社の監査役と同様、いわゆる適法性監査権限を有するだけです。監査役に取締役の業務執行の妥当性や効率性の監査権限を与えると、監査役の責任が過重なものとなり、また、取締役会と意見が一致しない場合、円滑な業務執行が妨げられることになります。

◎著しく不当な行為

取締役が著しく不当な行為をすることは、一般に、取締役の善管注意義務・忠実義務違反を構成すると考えられているわけですが、この場合「不当」と「不正」を明確に区別する必要があります。「不正」とは利益相反関係が認められる場合の忠実義務違反が典型で、一般的な法令・定款違反よりも悪性が強いもので、「著しい不正」という表現は一般的ではありません。これに対して不当性というのは、違法ではないが(善管注意義務に違反しないが)、積極的評価をすることはできない妥当性判断の一つの基準です。「著しく不当」というのは、明白な不当性が認められる場合で、善管注意義務違反とは紙一重の関係にあるのですが、善管注意義務違反とは必ずしも断定できない場合を意味します。

ただし、不当性が一定限度を超えると善管注意義務違反となるため、監査役は、取締役の職務執行の監査に際して、不当と思われる事項を取り出し、それを監査することとなります。監査役は、監査に際して、妥当性の領域にも踏む込まざるを得ないのであり、監査役の監査権限が適法性監査に限定されるかどうかの議論は監査実務においては差異を生まないと言えます。

監査役は、取締役会において、著しく不当な事項を、義務として報告しなければなりません(382条)。さらに、取締役が株主総会に提出しようとする議案・書類等について調査し、法令・定款違反があるばあいだけでなく、著しく不当な事項があると認めるときは、その調査結果を株主総会に報告しなければなりません(384条)。

◎妥当性監査

監査役の監査報告は、内部統制システムが相当でないことや支配に関する基本方針についての意見を内容としなければなりません(会社法施行規則129条1項)。これは、監査役に対して、「妥当性」の判断を求めるものであると言うことができます。取締役に対する会社訴訟においても、取締役の責任追及訴訟を提起するかどうか、会社が被告取締役側に訴訟参加することに同意するかどうかについても、監査役に妥当性判断が求められます(会社法施行規則218条3項)。

これらは、会社の健全性確保を中心とするコーポレート・ガバナンス関連事項について、監査役に、妥当性監査を求めるものです。このような監査役の「妥当性」監査は、会社に最善の利益を期待する取締役会による妥当性・効率性の監督とは異質のものであると言えます。

ü 監査役会と会社自治

会社法は、監査役会の運営について、基本的な規定を設けているだけです。議事録の作成以外、省令委任もない。したがって、監査役会の円滑な運営のため、会社で監査役会規程を設けています。一般的に、監査役会運営の基本的事項は、定款に定められ、それを基礎に、監査役会規則が社内規程として定められているようです。

〔参考〕全株懇モデルの定款より

 

第5章 監査役および監査役会

(員数)

第28条当会社の監査役は、○名以内とする。

(選任方法)

第29条監査役は、株主総会において選任する。

2監査役の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。

(任期)

第30条監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

2任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期は、退任した監査役の任期の満了する時までとする。

(常勤の監査役)

第31条監査役会は、その決議によって常勤の監査役を選定する。

(監査役会の招集通知)

第32条監査役会の招集通知は、会日の3日前までに各監査役に対して発する。ただし、緊急の必要があるときは、この期間を短縮することができる。

 2 監査役全員の同意があるときは、招集の手続きを経ないで監査役会を開催することができる。

(監査役会規程)

第33条監査役会に関する事項は、法令または本定款のほか、監査役会において定める監査役会規程による。

(報酬等)

第34条監査役の報酬等は、株主総会の決議によって定める。

(監査役の責任免除)

第35条当会社は、会社法第426条第1項の規定により、任務を怠ったことによる監査役(監査役であった者を含む。)の損害賠償責任を、法令の限度において、取締役会の決議によって免除することができる。

2当会社は、会社法第427条第1項の規定により、監査役との間に、任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、○○万円以上であらかじめ定めた金額または法令が規定する額のいずれか高い額とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、監査役会規則については日本監査役協会のひな型が参考になります。

ü 監査役会の権限

監査役会設置会社では、監査役の全員で監査役会を組織します。しかし、監査役会制度の下でも監査役の独任制は維持されており、個々の監査役はそれぞれ独立して権利と義務を有し、各自が独立して監査を行います。したがって、監査役会の機能は、各監査役の役割分担を容易にしかつ情報の共有を可能にすることにより、組織的・効率的監査を可能にするものです。その一方で、従来の監査役が有していた独任制の長所が損なわれてはならないとして、個々の監査役の権限と監査役会との権限の調和が図られています。監査役会の職務は以下の3点であり、監査役会の権限はその職務の遂行に関わるものとなります。それ以外については個々の監査役の権限として残されています。例えば、業務監査の権限自体は、独任制の個々の監査役にあり、ただ監査報告書の作成権限は監査役会にあるということです。

@)監査報告の作成

A)常勤の監査役の選定及び解職

B)監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定(390条2項)

例えば、上記B)について、監査役会は、その決定(決議)をもって、監査の方針、会社の業務・財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定める権限を持っています。しかし、その決定により各監査役の権限の行使を妨げることはできないとされています(390条2項但書)。それは、個々の監査役が自己の判断で行う取締役の責任通級の提訴、業務調査権等を制限することはできないということです。具体的に言うと、監査の方針とは、監査役が監査を行うに当たってとるべき原則や手続を意味し、この監査の方針を具体的に実行に移し、それを実効あるものとするためには、実際に会社の業務・財産の状況を調査する必要があります。これは、監査役の全員が個々に監査役の業務履行の全部にわたって調査するのでは、それぞれが詳細に調査いすることができないことになるので、職務分担を定め、効率的に調査を行おうとするものです。この方針を決める際には、監査役会の過半数によってなされる決議によりますが、これは各監査役の個別の活動を制限するものではなく、監査役会において何らかの定めをしても、監査役がその定めに従うことが自己の監査権限の行使の妨げになると判断すれば、この監査役会の決定を無視して行動することができることになっています。

※監査役会による各監査役の職務分担の決定の意義

監査役会の決定により各監査役の分担を定めることは、調査の重複を避けた組織的・効率的な監査を可能にします。しかし、各監査役が分担された職務以外の権限を行使することを阻止できないから(390条2項但書)、監査役会の決定により職務分担を定めることの法的意義は、定められた分担が合理的と判断される限り、各監査役は、自己の分担外の事項については職務遂行上の注意義務が経験される点にあります。

具体的な監査役会の権限を以下にあげていきたいと思います。

・取締役及び会計監査人から報告を受け、または取締役から計算書類・附属明細書を、会計監査人からは監査報告書を受領する権限。

すなわち、取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合に、取締役から報告を受ける権限、会計監査人が取締役の職務遂行に関し不正の行為または法令等に違反する重大な事実を発見した場合に会計監査人から報告を受ける権限、取締役から計算書類・附属明細書を受領する権限、及び会計監査人から監査報告書受領する権限

・会計監査人の選任、不再任、解任に関する権限

すなわち、取締役会に会計監査人の選任、不再任及び解任の議案を株主総会に提出させる権限、会計監査人の解任権

・監査役の選任議案に同意する権限

・監査報告書の作成に関連する権限

・監査役の職務の執行に関する事項の決定権限

・監査役に職務の執行の状況を報告するように求める権限

※会社法上の監査役会の権限

会社法は、監査役会の権限について規定していますが、それが390条2項に規定されています。それ以外に、人事関連事項と報告関連事項があります。

・監査役・会計監査人の人事関連事項

監査役・会計監査人の人事関連事項として次の事項があります。

@監査役選任に関する議案の同意権、監査役選任議題・議案の提案権(343条1〜3項

A会計監査人選任議案、不再任・解任議案の同意権、会計監査人選任議題・議案、解任・不再任議題提出権(346条

B仮会計監査人選任権(346条

C一定事由がある場合の会計監査人・仮会計監査人解任権と当該解任を株主総会に報告する監査役の選定(340条346条

D会計監査人の報酬に関する同意権(399条

これらの事項は、監査役の全員、過半数の同意または監査役の互選により定めるものとされています。監査役会が設けられる場合には、監査役会を開催して、審議の上、監査役会の決定ないし選定がなされることになります。

・報告の受領等

取締役は会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、ただちに、また会計監査人は、その職務を行うに際して、取締役の職務執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、監査役に報告しなければなりません(357条1項、397条1項)。監査役会設置会社では、監査役会が報告を受けます(357条3項、397条3項)。これにより、監査役が取締役の違法な行為に関する情報を共有し、監査役会において審議することを可能にして、監査の適正さ帰することができます。 

※監査役会設置会社の監査役の権限

監査役会設置会社の監査役も、それぞれが、取締役の職務執行の監査を行う機関です。監査役の監査の権限は、監査役会の有無にかかわらず同じで、監査権限の具体的な行使方法が異なるだけです。

監査役会設置会社の監査役も、独立して取締役の職務執行及び計算書類等を監査し、監査報告を作成しなければならないのであり、この監査を行うために必要な権限は、すべて個々の監査役の権限とされています。

・違法行為の是正権限

監査役は、取締役が不正の行為をし、もしくは不正の行為をするおそれがあると認めるとき、または、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認められるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(382条)。そのために必要あると認めるときには、取締役会招集請求権を行使します(383条)。さらに、監査役は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはそのおそれがあるときには、取締役に対して、その行為をやめることを請求することができます(385条1項)。監査役会設置会社においても、これらは個々の監査役の権限です。

・独立性確保措置

監査役の選任・解任・辞任にかかる株主総会における意見・理由表明権については、監査役会設置会社においても、個々の監査役の権限とされています(345条)。監査役の独立性確保措置として、監査役の報酬等は、定款又は株主総会において定められますが、各監査役に株主総会における意見表明権が認められています(387条3項)。各監査役の報酬等について、定款または株主総会決議がないときは、監査役の協議により定められます(387条2項)。これについては監査費用請求と同様に、監査役会決議にはなじまないと説明されていますが、実際には、監査役会全員一致の決議により、定めることが行われています。

ü 監査役会の職務(390条2項)

@)監査報告の作成

監査役会は、監査報告書の作成を、各監査役の報告に基づいて行います(390条2項、会社法施行規則130条、会社計算規則123条、128条)。監査役会による監査報告の作成は、各監査役が自己の調査の結果または他の監査役の調査の結果に基づいて、監査役会において自己の監査の結果についての意見を表明し、監査役会は、その各監査役の監査の結果に基づいて監査報告書を作成します。

監査役会の監査意見は多数決により形成されます(399条1項)。しかし、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査報告の内容とが異なる場合には、各監査役は、監査役会監査報告の内容を付記することができます(会社法施行規則130条2項)。

A)常勤の監査役の選定及び解職

B)監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定(390条2項)

監査役会の決議で、監査の方針、業務・財産状況の調査の方法その他の職務の執行に関する事項について定めます。これによって、例えば監査役の全員が個々的に会社の業務執行の全部にわたって調査するのではそれぞれが詳細に調査することができずに適当でない場合には、監査役会の決議をもって、それぞれの監査役について職務分担を定める。常勤の監査役とそれ以外とくに社外監査役のそれぞれの役割も、この決議によってさだめられ、組織的な監査を可能にします。ただし、この決議は、監査役の職務の執行の権限の行使を妨げることはできないので、例えば、職務分担の定めが提案された場合に、監査役の全員がそれに賛成して可決されたときは、監査役の全員がそれに拘束されるとともに、その定めが善管注意義務を尽くして相当である時は、その定めに従って職務を行えば免責されることになる。これに対して、この定めが多数決で可決されたが、1人の監査役が反対した時は、それに賛成した監査役は、その定めに拘束されるとともに、その定め従って職務を行えば免責されます。その意味で、この決議の効力が認められます。また、その定めに反対して監査役は、その定めに拘束されず、自らの判断でした調査の結果については、監査役会の求めにより監査役会に報告しなければならないことになっています。そこで各監査役としては、その報告を聞いて、善管注意義務を尽くして判断して相当と認めたときは、その結果に基づいて自己の監査の結果を発表して良い。しかし、さらに自ら調査の必要がある、あるいは担当監査役に調査させる必要があると判断したときは、自ら更に調査し、あるいは監査役会で定めるところにより、さらに調査することができ、また、そのようにする義務があると考えられます。

ü 監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定(390条2項3号)

監査役会は過半数の決議をもって、監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定を行います。これは、職務分担ないし役割分担の定めです。これにより、複数の、多様な監査役が、監査の重複を避け、合理的な監査を行うとともに、社外監査役制度の合理的な運営ができるわけです。

・定めの内容

事業年度当初ないしは定時株主総会終了直後の監査役会において、監査の方針と年間の監査計画、それに基づく常勤監査役ないし社外監査役の職務執行に関する事項(職務分担・役割分担)等の定めがなされますが、期中において必要があるときは、適宜、修正ないし変更することになります。

職務分担・役割分担の定めとして、監査対象を一般的に複数の監査役の間で分担するだけでなく、特定の監査権限は特定の監査役が行使すべきものとすることもできます。例えば、会社の財産状況は常勤監査役間で分担し、取締役に対する訴訟提起については、A監査役の職務とするといったことです。社外監査役については大幅に職務内容を限定して、特段の事情がない限り、監査役会と取締役会に出席することでよいとすることもできます。

・定めの拘束力

監査役の職務執行に関する事項の決定は、監査の職務を遂行するに合理的なものであるときは、個々の監査役は、監査役会の決定に拘束され、理由なく監査役会の定めに従わない場合は、組織的監査の懈怠を理由に責任が生ずると解されています。しかし、この決定は、監査役の職権行使を妨げることはできません(390条2項但書)。監査役会の決定には合理性の推定が働き、監査役は、原則としてこの決定に従って監査の職務を遂行しなければなりません。しかし、その定めが不合理であるときは、監査役は、その定めの変更に尽力するとともに、当面、善管注意義務を尽くして分担外の事項について必要な監査の職務を行うことができ、また、行わなければならないでしょう。当初の定めが合理的であっても、その後の事情により不合理となった場合も、同様です。

監査役が、その定めに反して分担外の事項の監査を行うことが、当然に権限外の職務遂行となるわけではない。その定めが不合理なものでない限り、監査役は、割り当てられた監査事項を誠実に監査しなければなりません。したがって、分担外の監査を行うことにより、分担事項の監査が疎かになった場合や、不必要ないし二重の監査となる場合には、そのような範囲外の監査を行った監査役の責任が問題となります。と言うことは、そういうことがない限り問題とはならないということです。監査役の職務分担・役割分担の定めは、個々の監査役の権限を制約する形では働かず、それが合理的である限りにおいて、個々の監査役に対して免責的な働きを有するに過ぎないと解されています。

・定めの免責的効力

監査役会設置会社の監査役も、監査役会が設置されていない会社の監査役と同様に、独立して監査しなければなりません。しかし、大会社である公開会社では、個々の監査役が取締役の職務執行の全般を監査することは困難です。このため、3人以上の監査役が要求され、マまた、半数以上の社外監査役が強制されています。監査役会制度の下では組織的監査による監査の有効性と効率性を向上させ、社外取締役の機能化も図るため、監査役間の職務分担・役割分担の定めがなされます。

この職務分担・役割分担の定めが合理的であるときは、個々の監査役は、その定めに従って割り当てられた職務を誠実に執行し、監査役会において、他の監査役の職務執行について適切に配慮しておれば、任務懈怠の責任を問われることはないと解されています。

ü 監査報告書(390条2項1号)

監査役会は監査報告を作成する職務権限を有します(390条2項1号)。

会社法は監査報告の具体的内容ないし対象について規定していません。法務省令によれば、監査役会の監査報告には、事業報告及びその附属明細書に係る監査報告、計算書類及びその附属明細書に係る監査報告のほか、臨時計算書類に関する監査報告と連結計算書類に係る監査報告があります。これらの監査報告は、それぞれ別個に作成することも一体化して作成することも可能です。監査役会設置会社では、各監査役の監査報告と監査役会の監査報告が作成されますが、それらを1通にまとめて作成することもできます。

・監査報告書作成の法的性質

会社法には監査役会の監査報告の作成について明示的な定めはなく、監査役会が監査報告を作成する場合には、監査役会は1回以上会議を開催する方法または情報を送受信により同時に意見を交換することができる方法により、監査報告の内容を審議しなければならないとしているだけです(会社法施行規則130条3項、会社計算規則151条3項、156条3項)。なお、この審議については議事録の作成が求められています。

監査役会では、各監査役の口頭または書面による監査結果の報告に基づき、監査役が審議し、監査報告をまとめることになります。この時、監査役は独任制のきかんであることから、各監査役の監査報告が最終的なものであり、監査役会がこれを取りまとめる。監査役会は、436条1項の規定に基づく会社法施行規則129条1項、会社計算規則150条、155条の規定に従い作成された個々の監査役の監査役監査報告に基づいて、表現等について審議し、監査役会の監査報告の内容を取りまとめるにすぎない。そして、それと異なる内容の監査報告を作成した監査役は、当該事項に係る監査役監査報告の内容を付記することができる。これが会社法施行規則130条2項と会社計算規則151条2項、156条2項の趣旨であり、取りまとめに際して1回審議する必要のあることを確認する。監査役会において、各監査役の監査報告を持ち寄り、審議するわけですが、内容的な変更が問題となるわけではないということです。

・監査報告の内容

監査報告の内容は、会社法施行規則130条2項と会社計算規則151条2項、156条2項で規定されています。監査役会の監査報告の内容は、基本的に監査役の監査報告の内容と同様ですが、次の点で相違があります。

@監査役及び監査役会の監査の方法が内容とされること

A監査役会監査報告が作成される場合は、作成日が個々の監査役の監査報告の内容とはされず、監査役会監査報告の内容とされること

B各監査役が監査役会の監査報告の内容と異なる内容を付記することができること

監査役会は、自ら監査するわけではないので、職務・役割分担や監査役間の報告協議の内容、さらには監査報告作成に際しての審議内容を監査役会の監査の方法の記載内容とします。各監査役の監査の方法については、各監査役の監査報告を整理することになります。常勤監査役と非常勤監査役、社外監査役と社内監査役の監査の方法は異なりますが、各監査役の監査報告は別途作成されているのだから、監査役会の監査報告は、個別的にではなく、まとめて記載されることになります。

また、監査役は、監査役会の監査報告の内容について、監査役の監査報告の内容が異なる場合は、当該事項に係る当該監査報告の内容を監査役会監査報告に付記することができます(会社法施行規則130条2項、会社計算規則151条2項、156条2項)。これは、監査報告の内容の正確性を明らかにし、計算書類の確定を株主総会で行うことを確保するためのものと考えられています。しかし、監査独立の原則にとって、決定的な意義を有するものです。 

ü 常勤監査役について(390条3項)

監査役会設置会社は、監査役の中から常勤監査役を選定しなければなりません(390条3項)。

・常勤監査役とは

常勤監査役とは、他に常勤の仕事がなく、会社の営業時間中原則としてその会社の監査役の職務に専念する者です。監査役会の設置が義務付けられる公開会社である大会社の監査役の仕事量は常勤者を必要とするという認識に基づき、その選定が要求されています。ただし、常勤監査役に選定された者の勤務状態が常勤の名に値しなくても、その選定またはその監査が無効になるわけではなく、監査役の善管注意義務違反の問題が生ずることになる。

・常勤監査役の選定・解職

監査役会設置会社は、監査役の中から常勤監査役を選定しなければなりません(390条3項)。その選定は、監査役の過半数をもって行います(393条1項)。定款または監査役会において特別の定めがない限り、常勤監査役は、監査役の任期中常勤監査役となり、監査役の終任により常勤監査役の任も解かれることになります。監査役会が常勤監査役を選定する際、人数の制限はありません。社外監査役以外のすべての監査役、さらには、社外監査役が同意すればすべての監査役を常勤監査役に選定することができます。

また、監査役会は、監査役の過半数をもって、常勤監査役を解職することができ、解職事由にはとくに制限はありません。対象監査役の特別利害関係もありません(369条2項)。常勤監査役に選定された監査役が、常勤監査役としての職務執行を適切に行なわない場合、監査役会は、常勤監査役を解職しなければならない。

常勤の監査役が欠けた時は、遅滞なく、監査役会において、常勤監査役を選定しなければ狩りません。常勤監査役の選定を怠ったときは、過料にしょせられます(976条24号)。

・常勤監査役の職務内容と責任

常勤監査役の職務形態は他の監査役とは異なりますが、監査役の職務権限ないし責任は、常勤の場合とそれ以外の場合とで質的に異なるのではなく、連続的なものです。常勤監査役は、常勤の者として、原則として毎日監査の職務を行わなければならない。常勤監査役が、合理的理由がないにもかかわらず、たまにしか監査業務を行わなかった場合、そのこと自体が任務懈怠となります。常勤監査役は、職務分担の定めにおいて、常勤でない監査役よりも広範に、取締役等に対して報告を求め、業務財産状況を調査すべき権限を付与されることになるので、その割り当てられた職務を誠実に遂行しなければ任務懈怠となることになります。

ü 監査役会への報告義務(390条4項)

監査役は、監査役会の求めがある時は、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない(390条4項)。これにより、監査役間の情報の共有が可能になる。監査役会において職務分担を定めた場合には、この報告を受けることによって、それぞれの監査役が分担した調査の結果をすべての監査役の共通の知識として、それについて疑問があるときには、さらには監査役会において調査する契機とすることができます。なお、この義務は監査を終えた場合にも負うもので、この義務に違反したときは、任務懈怠の責任を負うことは言うまでもありません。

監査役の報告義務は基本的に、期中において、監査役会からの求めに応じて報告する義務です。このほか、決算手続きにおいて、監査報告を提出しなければなりません(会社法施行規則130条)。一方、個々の監査役は、当然には、他の監査役に対して報告を求めることはできず、監査役会を招集して、報告を求める決議を成立させなければなりません。ただし、実際には、各監査役は、監査役会の求めがない場合であっても、組織的監査の効率性の向上のために必要があると認められるときは、自己の判断で積極的に報告をしているようです。

 

関連条文

監査役の権限(381条) 

取締役への報告義務(382条) 

取締役会への出席義務(383条) 

株主総会に対する報告義務(384条) 

監査役による取締役の行為の差止め(385条) 

監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(386条) 

監査役の報酬等(387条) 

費用等の請求(388条) 

定款の定めによる監査範囲の限定(389条) 

招集権者(391条) 

招集手続(392条) 

監査役会の決議(393条) 

議事録(394条) 

監査役会への報告の省略(395条) 

 

 
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