新任担当者のための会社法実務講座 第382条 監査役の取締役への報告義務 |
Ø 取締役への報告義務(382条) 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。 取締役が不正の行為をし、もしくはその行為をするおそれがあると認められるとき、または、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役あるいは取締役会に報告することを要する(382条)。 この報告に基づいて取締役会において、その業務執行の監督権による適切な措置を講ずることが期待されているわけです。なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、監査役に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(367条)。 この報告義務は取締役の行為差止めを求める(385条)場合と比較して、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある場合に限られないこと、取締役が現にそのような行為をしていなくても、するおそれがある場合を含む点において、範囲が広いものとなっています。実際には、取締役会に報告したことによって、取締役会が何らかの対応を期待するというものです。その取締役会報告しても対処されず、取締役が違法行為を実行してしまって、危険が差し迫った場合には、行為差止め請求権を行使することになります。監査役が取締役の違法行為を知りながら取締役会に報告しなかった場合には、任務懈怠となり、責任を問われることとなります。 ü
報告すべき事実 報告すべき事実、つまり、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実について。これには、357条における「著しい損害を及ぼすおそれのある事実」のうちの取締役の行為として生ずる事実を含むことはもちろんのこと、385条に定める取締役の行為も含み、さらに「不正の行為」と「著しく不当な事実」までも含まれます。「不正の行為」には、例えば取締役として対処すべき事項があるのに何もしないことが該当します。法令・定款違反は、取締役の善管注意義務(330条)または忠実義務(355条)のような一般的な義務に違反するものをはじめ、個別具体的な規定、会社ごとの定款の規定に違反するものが含まれます。また、「著しく不当な事実」とは、法令・定款違反ではありませんが、そのことを決定すること・行うことが妥当ではないことであると考えられています。このことは、監査役の妥当性監査による事実の発見であると言えます。監査役による取締役の職務執行の差止請求(385条)と比べても、その射程範囲が広く、また会社に損害が生ずることを必要としていません。 このように考えると、監査役は、業務監査により知り得たことが取締役会への報告義務の報告すべき事実に該当する場合、何もしないことは許されず、その事実を取締役または取締役会に報告しなければなりません。 内部統制システムが構築されている場合、監査役は、この内部統制システムを通して、ここでいう報告すべき事実を発見することが多いであろうし、内部統制システムを通すことなく事実を発見したときは、内部統制システムの構築により定めた報告方法により、取締役は取締役会に対して報告します。 ü
監査役による報告方法 監査役が報告する相手は取締役(取締役会設置会社では取締役会)となっています。公開会社はすべて取締役会設置会社である(327条1項)。357条の場合と同じように、監査役が取締役または取締役会にどのように報告するかは、あらかじめ協議をして定められます。この協議により定めた方法に従い、監査役は取締役または取締役会に報告することになります。 ü
報告を受けた取締役(取締役会)の対応 監査役による取締役(取締役会)への報告が行われた場合、取締役または取締役会の対応について、357条の場合の監査役と同じように、報告を受けた取締役が何もしないこと、または対応措置が不十分である場合には、取締役は善管注意義務を問われ、会社または第三者に損害が生じたときには、取締役はその職務の遂行に当たり任務懈怠があったとして、損害賠償責任を負うことになります(423条1項、429条1項、430条)。もちろん、監査役が報告すべき事実を発見しそれを他の取締役または取締役会に報告することを妨げる行為を行うことは、善管注意義務に違反すると考えられます。 内部統制システムが構築されている場合には、取締役または取締役会は内部統制システムを利用して事実を確認し、他の取締役と話をしたりまたは取締役会での議論を通じて、その事実にふさわしい対応措置をとることになります。 公開会社、つまり取締役会設置知会社の取締役が報告を受けた場合、取締役会を招集する権限を有している場合にはただちにこれを招集する(366条1項)。また、招集権者が定められている場合には、招集権者に招集することを請求する。この請求をした日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会招集の通知が発せられないときには、取締役会招集を請求した取締役は、取締役会を招集することができます(366条3項)。招集された取締役会では、報告を受けた事実について取締役に確認し、さらに取締役会においては適切な対応策をとることになります(366条)。 報告を受けた者としては、受けた報告について検討したことを、記録しておくことが求められます。この点、取締役会では、監査役から受けた報告に関して、取締役会における検討で述べられた意見または発言があるときは、その意見または発言の内容の概要は議事録に記載または記録されます(会社法施行規則101条3項)。 監査役または監査役会が設けられている場合、監査報告(381条1項、会社法施行規則129条1項)または監査役会報告(309条2項、会社法施行規則130条2項)において、その事実が報告されます。例えば取締役の不正行為について報告され、直後の株主総会で株主より質問を受けたときは、監査役はその説明を行う義務を負っています(314条)。 ü
内部統制システムが構築されている場合 内部統制システムを構築する会社は、その構築に当たり、監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制が求められています(会社法施行規則98条4項)。監査役の取締役への報告についても、この体制に即した報告の方法等を会社内部で確立しておくと、それに従った報告を行うことで監査役の報告は足りることになります。 報告を受けて取締役会が開催された場合であっても、監査役は取締役会に出席して必要な場合には意見を述べなければならないことから(383条1項)、報告すべき事実を発見した監査役は出席し事実に関して説明したり当該取締役に質問するでしょうし、監査役会が設置されている場合のならず、複数の監査役がいるときには、ほかの監査役も出席し質問等を行うことになるので、このような事実に対する対処策について、監査役を含めた取締役会において当該事実にふさわしい検討がなされ取締役会としての判断を行うことになります。
関連条文
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