新任担当者のための会社法実務講座 第396条 会計監査人の権限等 |
Ø 会計監査人の権限等(396条) @会計監査人は、次章の定めるところにより、株式会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査する。この場合において、会計監査人は、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならない。 A会計監査人は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、会計に関する報告を求めることができる。 一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面 二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの B会計監査人は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人設置会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は会計監査人設置会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 C前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。 D会計監査人は、その職務を行うに当たっては、次のいずれかに該当する者を使用してはならない。 一 第337条第3項第1号又は第2号に掲げる者 二 会計監査人設置会社又はその子会社の取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又は支配人その他の使用人である者 三 会計監査人設置会社又はその子会社から公認会計士又は監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者 E指名委員会等設置会社における第2項の規定の適用については、同項中「取締役」とあるのは、「執行役、取締役」とする。 ü 会計監査人設置会社について 会計監査人は1974年の商法改正により大会社に対して会計監査人による決算監査の制度を導入したことにより設置が義務付けられることになりました。これは、当時巨額の粉飾決算が相次いで明らかになったことと、そのころから本格化した資本の自由化が株式会社の監査体制の充実の要請に応えたものでした。現在の会社法では、大会社は会計監査人を置かなければなりません(328条)。それは株主や会社債権者など計算が適正であることに利害関係を有する者が多いからということです。監査等イ委員会設置会社及び指名委員会等設置会社も、会計監査人の設置を義務付けられています(327条5項)。また、それ以外の株式会社が定款の定めにより会計監査人を置いた場合(326条2項)には、監査役を置かねばならず(327条3項)、その監査役は業務監査権限を有するものでなくてなりません(389条1項)。これは会計監査人は、業務監査を行う機関とセットでなければ本来の機能を果たすことができないと考えられているからです。 これらの会計監査人設置会社は、その旨と会計監査人の氏名(名称)を登記します(911条2項19号、商業登記法47条2項11号、54条2項)。 ü 会計監査人の地位について 会計監査人は、監査役と同じく株主総会で選任されますが、監査役のような会社の機関を構成する者ではなく(329条1項)、会社の外部の者であって、会計監査人設置会社の計算書類を会社との契約により委任を受けて監査する専門職業人(436条2項、441条2項、444条4項)です。そのため外部監査人と呼ばれることもあります。会計監査人となる資格は、公認会計士または監査法人に限られる(337条1項)ことです。監査法人が会計監査人に選任された場合は、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、会社に通知しなければなりません(337条1項)。 なお、金融商品取引法の適用会社では、財務計算に関する書類(財務諸表)の監査証明をする公認会計士あるいは監査法人と会社法上の会計監査人とは、通常は同一です。上場会社では、その公認会計士あるいは監査法人は財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府例で定める体制について経営者が評価した「内部統制報告書」の監査証明も行います(金商法193条の2第2項)。 会計監査人の被監査会社からの独立性を維持し、監査の公正さを保障するとともに、会計監査人としてふさわしくない者を排除するため会計監査人の欠格事由を定めています。(337条2項)会計監査人としての資格を有しない者または欠格事由のある者を会計監査人に選任しても、その選任は無効であり、また選任後にそれに該当すれば、その時点から会計監査人の地位を失うことになります。そして、そのような者が監査報告書を作成しても法律上の効果を生じません。欠格事由の「公認会計士法の規定により、第435条第2項に規定する計算書類について監査をすることができない者」の具体的内容として、以下の者があげられます。 ・その会社の役員(取締役又は監査役)であり、もしくは過去1年以内に役員であった者など、会社と著しい利害関係がある公認会計士(公認会計士法24条) ・その会社の株式を所有する監査法人なと、会社と著しい利害関係がある監査法人(公認会計士法34条の11) ・公認会計士または監査法人が虚偽または不当な監査証明をし、または公認会計士法またはそれに基づく命令に違反した等の理由により業務停止処分を受け、業務停止期間中のもの(公認会計士法29〜31条、34条の21) ü 会計監査人の職務と権限 会計監査人の基本的職務とそれに伴う権限は会社の連結及び計算関係書類を監査して、監査報告を作成することです(396条1項)。 会計監査人の監査の目的は、会社の経営者がその責任において作成した計算関係書類が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い、会社の財政状態や経営成績を適正に表示しているかどうかについて、会計監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を、意見として表明することにあります。会計監査人が監査した計算関係書類について、無限定適正意見(会社計算規則126条)の表明は、会計監査人が、一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を行った結果、すべての重要な点において会社の財産及び損益の状況を適正に表示していることに、合理的な保証を得たことを意味します。 そのために会計監査人の職務と権限の行使を行うために必要なものとして、次のような措置がとられています。 @)取締役及び使用人に対する報告請求権(396条2項) いつでも、会社の会計帳簿、これに関する資料の閲覧・謄写をし、または取締役や使用人に対し会計に関する報告をもとめることができる。 会計監査人は、自ら実施する監査計画の策定にあたり、景気の動向、被監査会社が属する産業の状況、被監査会社の事業の内容及び組織、経営者の経営理念や経営方針、内部到来の整備状況、情報技術の利用状況その他企業の経営活動に関わる情報を入手し、被監査会社及びその経営環境に内在する事業上のリスク等が、計算関係書類における重要な虚偽表示をもたらすリスクを評価します(監査基準)。評価手続は会社の経営者やその他の役員、従業員に対する質問、ならびに会社の各勘定の分析等を通じて行われます。これらの調査を通じて会計監査人は被監査会社において重要な虚偽表示が生じるリスクのとくに高い項目を確認し、これに対応して自ら実施する監査手続の範囲と内容を画定します。 被監査会社とその環境の評価には、企業の内部統制の評価も含まれます。企業の内部統制は、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守ならびに資産の保全の目的が達成されていることの合理的な保証を得るために、企業の業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスの総体です。会計監査人による内部統制の評価は、これらの内部統制の機能状況によって、計算関係書類に重大な虚偽表示をもたらすリスクがどの程度排除されているかを確認します。内部統制の評価は、監査計画の策定段階にのみ行われるものではなく、内部統制が監査対象期間を通じて継続的に有効に運用されているかどうかを確かめるため、内部統制の運用状況について統制評価手続を監査期間中にも実施します。 会計監査人の監査手続には、内部統制の運用状況り評価手続に加えて、資産・負債や取引の実在性、網羅性及び評価の適正を確認する一連の実証手続も含まれます。実証手続には、分析的手続と詳細テストから成りっています、分析的手続とは、財務データ相互間もまたは財務データとそれ以外のデータとの関係を利用して推定値を算出し推定値を算出し、推定値と実際の財務データを比較することで各勘定に異常な働きがないかどうかを確認する手続です。 詳細テストは、試査によるものです。会計監査人は、限られた時間と人的資源で計算関係書類に重大な虚偽がないことについて合理的な保証を与えることを目標としています。すべての資産や取引を調査すれば確実な保証をえることができますが、現実的ではなく、一部を抽出し、その実在等を確認して。その結果を評価するというものです。 A)会社及び子会社の業務・財産調査権(396条3、4項) 必要がある時は、子会社に対し会計に関する報告を求め、または会社・子会社の業務・財産の調査をすることができる。ただし、子会社は調査が権利濫用である等正当な理由があるときは、これを拒むことができる。 子会社との取引は、親会社の子会社に対する支配力故に、取引の実在性や取引条件の公正性に疑いのあるものが含まれるおそれがあり、このような疑わしい取引が親会社の貸借対照表や損益計算書に反映される結果、親会社の財産や収益の適正な表示が歪められる危険が存在します。会社計算規則では、このような危険に対応するために、関連当事者との取引について個別注記表で注記することを求めています(会社計算規則112条)。したがって親会社の計算書類を監査する会計監査人には、親会社と子会社の取引の実質を調査する必要があります。さらに、連結計算書類の監査においては、連結の範囲に含まれる子会社の財産及び損益の調査は、当然、会計監査人の監査範囲に含まれます。 会計監査人の子会社に対する監査は、会計監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準にしたがって計算関係書類を監査する際に、必要と認められる限りで実施されます。正当な監査の目的を逸脱した報告請求や調査は、4項の規定を待つまでもなく、3項に基づく権限に含まれないとして、子会社は正当に拒絶することができます。 ※会計監査人は、会社の内部統制の状況を把握した上で、監査対象の重要性・危険性等を考慮してその会社に適用すべき監査手続、実施時期、試査の範囲を決定し、監査計画を立てます。監査計画は、監査実施の過程において、事情に応じて修正されます。会計監査人である監査法人の各関与社員・補助者等がその会社の監査に従事する日数、報酬、経費の負担等は会計監査人と会社間の監査契約書に記載され、往査場所、時期、日程等は、それとは別に決定されます。 ü
会計監査人の責任、会社との関係 会計監査人と会社との間は準委任の関係にあります。したがって、会計監査人は、その準委任義務の不履行について会社に対して責任を負います。さらに一定の場合は、取締役や監査役と同様に第三者に対して責任を負うことになります。 会計監査人が、その任務を怠り、会社に対して損害を生じさせた場合には、会社に対して損害賠償責任を負います。さらに監査報告書に、重要な事実について不実記載をした会計監査人は、無過失の証明がない限り、それによって損害を受けた第三者に対して損害賠償責任を負います。例えば、粉飾決算を知りながら見逃した場合などがこれにあたります。 ü
監査の補助者(5項) 会計監査人については、337条で欠格事由が規定され、被監査会社との独立性を欠く場合には、会計監査人ないしは職務担当者となることができませんが、その監査を補助する公認会計士や使用人についても欠格事由を規定し、会計監査の独立性維持を徹底させています。 会計監査人となる事ができない者、すなわち公認会計士法の規定する欠格事由を有する者、さらに株式会社の子会社もしくはその取締役、会計参与、監査役もしくは執行役から公認会計士もしくは監査法人以外の業務により継続的な報酬を受けている者、またはその配偶者は、監査を補助することはできません。 公認会計士以外の使用人を監査補助者として使用する場合には、被監査会社またはその子会社の取締役その他の役員または支配人その差の使用人である場合は欠格事由となります。
関連条文
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