新任担当者のための会社法実務講座 第389条定款の定めによる監査範囲の限定 |
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定款の定めによる監査範囲の限定(389条) @公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第381条第1項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。 A前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。 B前項の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。 C第2項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。 一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面 二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの D第2項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 E前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の規定による報告又は調査を拒むことができる。 F第381条から第386条までの規定は、第1項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない 監査役は、取締役の職務執行を監査します(381条1項)が、これを業務監査と言います。これに対して、被郊外会社において定款の定めにより、監査役の監査権限を会計に関するものに限定することを認めたのが会社法389条で、これを会計監査といい、このような会計監査に下仮定された監査役を会計限定監査役と呼びます。 ü
定款による監査役権限の限定(389条1項) 非公開会社は、定款の定めにより、監査役の権限を会計に関するもの、つまり会計監査に限定することができます(389条1項)。非公開会社のうちでも、取締役会設置会社でない会社は監査役を置くことを要しない(327条2項)のですが、この規定は、取締役会の設置の有無を問わず、監査役を置いていれば、その権限を限定することができます。これは、非公開会社では、株主の移動が少ないため、株主が会社の業務に通じていることが想定されも株主による業務の監督がある程度期待できるという事情があるからです。ただし、非公開会社でも監査役会設置会社及び会計監査人設置会社では、このような定款の定めは認められません。これは、監査役会は複数の監査役間の職務分担による組織的監査を予定した機関であり、監査役の権限を会計監査に限定することは、この機関設置の趣旨に反するからです。また、会計監査人設置会社は、すでに会計監査の専門家である会計監査人が置かれている以上、監査役が会計監査のみを担当することに合理性はなく、会計監査人の独立した職務執行を業務監査権原を有する監査役との連携により確保する必要があるからです。 監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定された会社についは、監査役が置かれていない会社におけると同様に、以下の5点において、株主の取締役に対する監視権限が強化されています。 1)取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を各株主に報告しなければならない(357条)1項。 2)各株主が会社に「著しい損害」が生ずるおそれのある取締役の行為を差し止めることができる(360条1項)。 3)各株主は、取締役が法令・定款違反の行為をするおそれがある等のことを認めるときは、取締役会の招集を請求することができる(367条1項)。 4)各株主は、裁判所の許可なしに取締役会の議事録の閲覧を請求できる(371条2項)。 5)取締役・取締役会の決定による役員等の責任の一部免除ができない(426条1項)。 ü
会計限定監査役の職務権限(389条1項) ・会計監査(389条2項) 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定款規定がある場合は、このような会計限定監査役の監となっています。査は、会計監査に限定されることになります。したがって、監査報告の内容も会計監査に限定されます(389条2項)。一方、会計限定監査役を含む監査役設置会社では、計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、監査役の監査を受けらければならない(436条1項)。事業報告も会計限定監査役の監査の対象となっています。 なお、会計限定監査役が作成する監査報告の内容については、会社法施行規則107条において、監査役の職務執行のために、監査役が留意すべき事項を定めています。監査報告の具体的内容は、事業報告などに関しては会社法施行規則129条によります。また、計算書類等に関する監査報告は、次の事項を内容とします(会社計算規則150条1項)。 @監査役の監査の方法及びその内容 A計算関係書類が当該株式会社の財産および損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見 B監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨およびその理由 C追記情報 D監査報告をした日 監査報告の虚偽記載については、会計限定監査役は、会社または第三者に対して損害賠償の責任を負う場合がある。 ü
調査権・報告請求権等 ・総会提出議案等の調査(389条3項) 会計限定監査役は。取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案・書類その他法務省令で定めるものを調査し、その結果を株主総会に報告しなければなりません(389条3項、会社法施行規則108条)。その趣旨は、対象の範囲が会計に関するものに限定される点を除き、通常の監査役の場合と同じです。ただし、会計限定監査役は、常に調査の結果を報告しなければなりません。 ・会計帳簿等の閲覧(389条4項) 会計限定監査役は、会計帳簿またはこれに関する資料を、いつでも閲覧及び謄写することができます(389条4項)。業務監査権限を有する監査役とは異なります。すなわち、会計限定監査役は、直接取締役の職務執行を監査することはできないので、会計帳簿またはその資料を調査することを通じて、間接的に取締役の職務執行を監査することになります。ここでいう会計帳簿とは、会計に関して会社が作成する帳簿をいい、資料とはこれに直接・間接に関係する一切の資料をいいます。これは433条にいう会計帳簿または資料と同様ですが、具体的な範囲は異なることがあります。 ・取締役・使用人等に対する報告請求権(389条4項) 会計限定監査役は、いつでも取締役及び使用人に対して、会計に関する報告を求めることができます(389条4項)。その趣旨は、通常の監査役に関する381条2項と同様ですが、報告請求権の範囲が会計に関するものに限定されている点が異なります。 ・取締役・使用人等に対する報告請求権(389条5項) 会計限定監査役は、その職務を行うために必要がある時は、株式会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(389条5項)。この業務及び財産の調査権は、会計に関するものに限定されていませんが、「その職務を行うために必要があるとき」という要件により、その範囲が限定されることになります。 ・子会社に対する報告請求権・調査権(389条5項) 会計限定監査役は、その職務を行うために必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、または子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(389条5項)。通常の監査役とは異なり、会計限定監査役が子会社に対して報告を請求できるのは、会計に関するものに限られ、また子会社の業務及び財産状況の調査も、その職務権限からの制約があります。 親会社の会計限定監査役からそのような報告または調査の請求を受けた子会社は、正当な理由があるときは、当該報告または調査を拒否することができます(389条6項)。 ü
適用除外(389条7項) 389条7項は、会計限定監査役に対し、381条から386条までの規定が適用されない旨を定めています。したがって、会計限定監査役は、業務監査権(381条)、取締役会への出席および意見陳述の権限および義務(383条)、取締役の違法行為の差止権(385条)はなく、取締役会への報告義務(382条)、株主総会への報告義務(384条)もありません。また、会社と取締役の訴訟における会社代表権(386条)もなく、この場合には、監査役がいない会社と同様に、353条および364条の規定が適用されます。 ü
罰則 取締役等による調査妨害ならびに会計監査役による虚偽の申述等や監査報告の虚偽記載について、それぞれ制裁規定が設けられています(976条4〜7項)。
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