新任担当者のための会社法実務講座 第393条 監査役会の決議 |
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監査役会の決議(393条) @監査役会の決議は、監査役の過半数をもって行う。 A監査役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。 B前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。 C監査役会の決議に参加した監査役であって第2項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。
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監査役会の決議の成立(393条1項) ・株主総会への報告の省略 監査役会の決議は、監査役の過半数(現存する監査役の数が法令・定款に定める)をもって行います(393条1項)。特別利害関係を有する監査役の議決権排除に関する規定はありません(369条2項、412条2項)。株主総会(309条1、2項)や取締役会(369条1項)の場合とは異なり、定足数の定めはありません。現実に出席している監査役の数いかんに関わりなく、監査役全員の過半数をもって、決議が成立します。なお、監査役の現員が、法定の最低数または定款所定の最低数を下回っているときは、法定または定款所定の監査役の最低数を基準に、その過半数の賛成が必要となると解されています。 監査役は、その個人的資質を基礎に株主総会で選任されたものです。このため、監査役会について、取締役会の場合と同様に、代理出席は認められません。もっとも、監査役会の開催されている場所に現にいることは必要ではなく、テレビ会議や双方向の電話会議等により、出席とすることができます。議事録には、監査役会が開催された場所に存在しない監査役、取締役または会計監査人が監査役会に出席した場合におけるその出席方法が記載・記録されます(会社法施行規則109条3項)。 ・書面決議の否定 取締役会の場合と異なり、定款に決議の省略(書面決議)ができる旨を定めることはできません。監査役会の決議事項はそれほど多くないこともあり、決議の省略を認めては、各監査役が独任制の機関であるというだけにとどまらない合議体の機関を設けた意味(密接な情報共有による組織的・効率的監査)が乏しくなるからです。 監査役会の決議事項として、監査役の職務執行に関する事項の決定、常勤監査役の選定・解職が法定されています(390条2、3項)。また、監査役の選任及び会計監査人の選任・解任・不再任に関する株主総会案件について、監査役会の同意権が認められています(343条1〜3項、344条)。会計監査人が欠けた場合または定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役会は、一時会計監査人の職務を行うべき者(仮会計監査人)を選任しなければなりません(346条4、6項)。常勤監査役の選定・解職や仮会計監査人の選任は、機能的に行われることが必要ですが、監査役の過半数の賛成により成立します。 ü
決議以外の監査役会の職務執行 監査役会設置会社では、監査役会の決議とは別に監査役全員の意思決定があります。第一に、監査役会決議とは別個の、各監査役の同意という事例があります。旧商法特例法は、会計監査人の解任決議や取締役の責任の一部免除に関する議案等を提出することに同意する際に、監査役会の全員一致の決議を求めていました(旧商法特例法18条の31)。第二に、監査役の協議事項があります(さらに、監査役の互選について、383条1項)。定款または株主総会決議において監査役の報酬等の総額(上限)が定められ、各監査役の報酬などについて定款の定めまたは株主総会の決議がないとき、各監査役の報酬等は、その総額の範囲内において、監査役の協議によって定められます(387条2項)。この「協議」とは、全員一致の決定を言いますが、従来より、これは監査役会の決議ではなく、適宜の方法により監査役の合意が成立すればよいと解されています。 ・会計監査人等の解任 会計監査人が、@職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき、A会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、B心身の故障のために、職務の執行に支障があり、またはこれに堪えられないとき、監査役会は、会計監査人を解任することができます(340条)。これは監査役全員の同意によって行われなければなりません(340条2項)。なぜ、このような規定形式とされたのか、明確でない。これは、取締役会の行為に対する同意の場合とは異なり、会計監査人の解任という会社の意思決定それ自体については、監査役会の意思決定が必要であると考えられたか、監査役会による会計監査人の解任を監査役会の決議事項と解すると、全員の出席が要求され、それでは立法の経緯に反することとなってしまいます。したがって、これは監査役会の決議ではなく、適宜の方法により監査役全員の同意を得ることによって、監査役会の意思形成がなされると解されることになる。 ・監査報告書の作成 監査役会の監査報告書の作成は、監査役会決議によるものと解されています。ただし、指名委員会など設置会社場合には、監査委員会の決議をもって監査報告の内容を定める旨の明文の規定があります(会社法施行規則131条2項)が、監査役会の監査報告の内容については、監査役会の決議をもって定める旨の明文の規定はありません。単に、監査役会は、監査報告を作成する場合には、1回以上会議を開催する方法または情報の送受信により同時に意見を交換することができる方法により監査報告の内容を審議しなければならないと規定されています(会社法施行規則130条3項)。監査役会は、監査委員会とは異なり、独任制の機関であり、監査役会の監査報告は、個々の監査役の監査報告を取りまとめるに過ぎない。法務省令では、最終決定は、持ち回り決議等、適宜の方法で行うことも妨げないと説明されています。 ü
議事運営 監査役会について、議長の存在は不可欠ではありません(会社法施行規則109条3項)。取締役会の場合とは異なり、監査役会の員数は少ないため、議長を必要としないという理由からですが、実際には議長が置かれているようです。 取締役や会計監査人は監査役会の構成員ではありませんが、監査役会への報告義務を履行するため、あるいは監査役会からの求めにより、適宜、監査役会に出席することができます。ただし、取締役会における監査役のように、職務上当然に、監査役会に出席する義務を負うわけではありません。 ü
監査役会議事録の作成(393条2項) 監査役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、監査役が署名または記名押印しなければなりません(393条2項)。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(393条3項)。 監査役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した監査役が議事論に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(393条4項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからであると言います。 議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則109条3項) ・実際に開催した場合 @)監査役会が開催された日時及び場所 A)議事の経過の要領及び結果 議事の経過とは、開会、提案、協議、報告などの審議内容、表決方法、閉会など取締役会の経過全般を指し、議事論には、議事の進行過程、発言内容と発言者の主要なものを記載すれば足り、速記録のように逐一内容を記載する必要はありません。 また決議の結果については、一義的に明確になるように完結に記載します。例えば、全員一致の場合は「出席取締役全員異議なく承認可決された」、また全員一致でない場合は「出席取締役の賛成多数で可決された」と記載するのが一般的です。ただし反対者がいる場合には、反対・棄権した取締役の氏名を明記することとなります。 B)監査役会への報告事項(357条、375条、397条) C)監査役会に出席した取締役役、会計参与、会計監査人の名称 D)議長が存する場合には、当該議長の氏名 E)395条による報告監査役会への報告を要しないものとされた場合には次の事項 a)監査役会への報告を要しないものとされた事項の内容 b)監査役会への報告を要しないものとされた日 c)議事録の作成に係る職務を行った監査役の氏名 ※上記以外には次の事項の記載も望ましいとされています。 a)出席した監査役の氏名 議事録は出席者が判明すれば足りるので、欠席者に関する記載は必須ではないとされています。 b)取締役の総数等 c)閉会時間 d)作成年月日 ü
決議賛成の推定(393条4項) 監査役会の決議に参加した監査役であって監査役会の議事録に異議を表明したという記録が残らないものは、その決議に賛成したものと推定されることになります(393条4項)。これは裁判等で、不正な決議に参加したか否かの証拠とされるものです。 この関係で、監査役会の議事録には、出席監査役の署名等が要求されています。なお、遅れて出席した監査役、または早退した監査役は、本規定との関連において、署名に際して、その旨を記載する必要があります。このような決議賛成の推定は、監査役の責任追及を容易にすることを目的とするものですが、そのことにより、監査役会の審議が充実することも期待されているというものです。
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