@第424条の規定にかかわらず、株式会社は、取締役(業務執行取締役等である者を除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人(以下この条及び第911条第3項第25号において「非業務執行取締役等」という。)の第423条第1項の責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。
A前項の契約を締結した非業務執行取締役等が当該株式会社の業務執行取締役等に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失う。
B第425条第3項の規定は、定款を変更して第1項の規定による定款の定め(同項に規定する取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)と契約を締結することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合について準用する。この場合において、同条第3項中「取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第1項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)」とあるのは、「取締役」と読み替えるものとする。
C第1項の契約を締結した株式会社が、当該契約の相手方である非業務執行取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会(当該株式会社に最終完全親会社等がある場合において、当該損害が特定責任に係るものであるときにあっては、当該株式会社及び当該最終完全親会社等の株主総会)において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 第425条第2項第1号及び第2号に掲げる事項
二 当該契約の内容及び当該契約を締結した理由
三 第423条第1項の損害のうち、当該非業務執行取締役等が賠償する責任を負わないとされた額
D第425条第4項及び第5項の規定は、非業務執行取締役等が第1項の契約によって同項に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合について準用する。
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責任限定契約(427条1項)
業務執行取締役以外の取締役の責任に関しては、定款の定めに基づき、会社と当該非業務執行取締役とが契約を締結することにより、責任の限度額をあらかじめ定めることができます。前条の取締役会決議による責任の軽減の場合には、定款の定めがあっても、取締役会が本当に免除の決定をするか否か、免除額がいくらになるか等については不確実性が残るのに対して、この制度の下では事前に限度額が確定するところが違います。
この制度は、主として社外取締役の人材確保のために、賠償責任に関する不安を除去するのが目的とされています。そのため、非業務執行取締役が業務執行取締役となった時点で、責任限定契約は無効となります(427条2項)。
定款には、免除の要件として次の4点を定めることが必要です。
@)非業務執行取締役の任務懈怠の責任であること
A)職務を行うにつき取締役が善意・無重過失であること
B)定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と法定の最低限度額とのいずれか高い額を限度として非業務執行取締役が賠償責任を負う旨の契約を会社と非業務執行取締役間で締結するとができる旨
「定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額」というのは、例えば、定款に「1000万円以上の範囲内」と定め、会社が責任の限度額を「1500万円」と定めるといったことです。
C)Bに言う「定款に規定した額」を定める
責任を免除できる額の限度は、425条の株主総会の決議による責任免除の場合と実質的に同額です。
〔参考〕全株懇モデルによる社外取締役の責任を限定する定款の規定
第27条
2 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、社外取締役との間に、任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、○○万円以上であらかじめ定めた金額または法令が規定する額のいずれか高い額とする。
取締役・取締役会に対して責任免除権限を授権する定款の規定は登記事項となります(911条3項)。責任限定契約を締結している取締役の氏名は登記されませんが、取締役選任の際の株主総会参考書類には、当該候補者との間で責任限定契約を締結する予定がある場合にその概要が記載されなければなりません(会社法施行規則74条1項4号)。また、事業報告には、責任限定契約の概要が記載事項となります(会社法施行規則121条3号)。
〔参考〕社外取締役選任の際の株主総会参考書類の責任限定契約締結予定の記載例
(注)4.当社は、社外取締役がその期待される役割を十分に発揮できるよう、当社定款において、各社外取締役との間で、会社法第423条第1項の賠償責任について、法令に定める要件に該当する場合は、当該賠償責任を法令で定める責任限度額に限定する旨の契約(責任限定契約)を締結できる旨を定めており、現在すべての社外取締役と責任限定契約を締結しています。○○○氏の社外取締役選任が承認された場合は、当該責任限定契約を締結する予定です。
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監査役等の同意(427条3項)
定款を変更して、責任免除の規定を設ける議案を取締役が株主総会に提出する場合には、各監査役、監査等委員、監査委員の同意が必要となります(監査役会設置会社では監査役会の決議ではなく、各監査役の同意が必要となります)(427条3項)。また、その定款の定めに基づく責任の免除について議案を取締役会に提出する場合にも、同じく各監査役、監査等委員、監査委員の同意が必要となります。
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責任限定契約の締結
各非業務執行取締役等と会社との間で責任限定契約を締結するかどうかは、会社の重要な職務執行に該当するから、取締役会の承認を受けた上で(362条4項)、代表取締役が各非業務執行取締役等との間で契約を締結します。
責任限定契約では、定款の範囲内で賠償責任額の最低限度を定めなければならず、その額と法定の最低限度額のいずれか高い額が責任限度額となります。定款の定めた範囲内であれば、契約上の最低限度額は各非業務執行取締役等ごとに異なってもよいとされています。
契約締結の時期については制限はありませんが、非業務執行取締役等の就任契約に含めて締結するのが普通です
〔参考〕社外取締役の責任限定契約書のひとつの例
責任限定契約書
○○株式会社(以下「甲」という。)と社外○○役○○(以下「乙」という。)とは、会社法第427条第1項及び甲の定款第○○条第○項の規定に基づいて、乙の甲に対する損害賠償責任について、次のとおり契約を締結する。
(責任限度額)
第1条 甲の社外○○役である乙は、本契約締結後、会社法第423条第1項の責任について、乙がその職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、金○○万円以上であらかじめ定めたる額又は、会社法第425条第1項に定める次に掲げる額の合計額(以下、「最低責任限度額」という。)のいずれか高い額を限度として、当該損害賠償責任を負うものとする。
一 乙がその在職中に甲から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として会社法施行規則第113条に定める方法により算定される額に、2を乗じて得た額
二 乙が甲の新株予約権を引き受けた場合(会社法第238条第3項各号に掲げる場合に限る。)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として会社法施行規則第114条に定める方法により算定される額
(責任限定後の効力)
第2条 乙は、第1条の定めにより損害賠償責任の限定を受けた場合、甲の株主総会における承認を得ることなく、甲から退職慰労金その他法務省令で定める財産上の利益を受けることができず、また新株予約権を行使し又は譲渡することもできない。
2 乙は、第1条の定めにより損害賠償責任の限定を受けた場合において、新株予約権証券を所持するときは、遅滞なくこれを甲に預託しなければならない。この場合乙は、その譲渡について甲の株主総会における承認を受けた後でなければその新株予約権証券の返還を請求することができない。
(契約期間)
第3条 本契約は、末尾記載の本契約締結日より有効とする。
(再任の効力)
第4条 乙が甲の社外取締役の任期満了時に再び甲の社外取締役に就任した場合は、再任後の行為についても本契約はその効力を有するものとし、その後も同様とする。
(責任限定契約の失効)
第5条 乙が、本契約の有効期間中に、甲又は甲の子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったときは、本契約は将来に向かってその効力を失う。
(協 議)
第6条 本契約について定めがない事項については、甲と乙の間で協議の上決するものとする。
本契約締結の証として、契約書2通を作成し記名捺印の上、甲乙各自1通保有するものとする。
平成○年○月○日
甲 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
株式会社 ○○
代表取締役社長 ○○○○ ◯印
乙 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
○○○○ ◯印
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株主総会での開示(427条4項)
責任限定契約を締結した会社が非業務執行取締役の任務懈怠によりその契約の適用がある損害を被ったことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において次の4点を開示しなければなりません(427条4項)。
@)責任の原因となった事実および賠償責任額
A)免除することができる額の限度およびその算定の根拠
B)責任限定契約の内容およびその契約を締結した理由
C)非業務執行取締役が責任を負わされないとされた額
これは、責任限定契約による責任の免除が行われたことを株主に知らせる趣旨の規定です。定款による授権の適否を株主に再考させる材料を与え、場合によっては定款変更を促すことになるかもしれません。他方、このような規制は、契約に従った責任限定が行われるまで、株主に対しては責任限定契約の内容が開示されないことを意味します。
取締役が開示を怠った場合には任務懈怠責任を問われます。しかし、それによって契約による責任限定の効果が影響を受けることはありません。
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責任限定契約の効力
責任限定契約は、その内容に従って非業務執行取締役等の会社に対する損害賠償責任額を縮減させる効果を有し、そのために契約締結以外に特段の会社行為を要しません。すなわち、会社は責任限度額を超える請求権を行使できないことになります。株主総会において開示された「賠償責任を負うべき額」の算定に過誤があった場合でも、契約の効果として契約内容に従った額まで賠償責任額が縮減します。非業務執行取締役等が職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合には、責任限定契約の要件を充たさないので、責任額の縮減という効果は生じません。
非業務執行取締役等がその会社・子会社の業務執行取締役、執行役、その他使用人に就任したときは、契約は将来に向かって効力を失います(427条2項)。非業務執行取締役等が社内の業務に精通するようになったのだから、社内の業務に精通していないことを理由に責任限定をする必要がなくなったからであると説明されています。この後、当該取締役等が業務執行取締役でなくなったり使用人をやめた場合でも責任限定契約は復活しません。