ü
制度の趣旨・経緯
監査役が職務の執行のために要する費用の会社に対する前払い請求及び償還請求等についての規定は、1981年の商法改正の際に設けられました。それ以前は、監査費用に関する規定はなく、従って委任事務費用の前払・償還請求に関する民法649条の規定が適用され、その場合には、監査役は、その費用が職務執行のために必要であり、または必要であったことを立証しなければならず、会社がそれについて争うような場合は、費用の点から十分な監査をすることが妨げられるおそれがありました。
1981年の商法改正は監査費用に関する規定を新たに設けて、その中で挙証責任を転換して、会社が監査のために不必要であることを立証しない限り、費用の前払または償還を拒むことができないものとして、監査の充実を担保することを図っています。会社としては、監査役の請求が職務執行と無関係のものである場合を除き、その費用が不必要であることを立証することは困難であるから、監査役の職務執行に必要な合理的な範囲の支出が法律上保障されていると言えます。
ü
必要な費用等
ここで対象となっている費用は、監査に必要な一切の費用です。例えば、監査役が往査に必要とする出張旅費、監査のために補助者の雇用を求めたが会社がこれを雇用しなかったときに補助者を雇用したこと、監査のために専門家から助言を受けること等、これらの必要な費用を意味すると解されています。また、監査役設置会社と取締役との間の訴訟について会社を代表する場合、募集株式の発行の無効等の会社の組織に関する行為について訴える場合の費用も、ここに含まれると解されています。他方で、会社の監査費用が足りに買ったことを理由に、十分な監査ができなかったと監査役が弁解することはできないと解されています。
ü
監査費用の請求
監査役が職務執行上必要とする費用の会社による支払いについては、次のように規定されています。
@)監査役がその費用の前払を請求した場合には、会社は、その費用が監査役の職務の執行に必要でないことを証明しない限り前払いを拒めない。
A)監査役が、その費用を立替払いして会社に対し費用・利息の償還を請求した場合も同様となる。
B)監査役が、その費用につき負担した債務を自分に代わり弁済するよう会社に対し請求した場合も同様となる。
監査役は、会社が費用の請求を拒んだときには、これを訴訟上請求することができ、その場合には、それらの費用が監査のために不必要であることを会社が立証しない限り、勝訴することができます。また、そのことを取締役の法令違反としての責任を追求することもできます。さらにその結果、監査のために必要な調査をすることができなくなった旨を監査報告に記載することができます。