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第387条 監査役の報酬等
 

 

Ø 監査役の報酬等(387条)

@監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

A監査役が2人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。

B監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。

ü 監査役報酬の規制

監査役の報酬についての規定は1981年の商法改正によって新たに設けられたもので、それ以前は取締役の報酬に関する規定が準用されていました。取締役の報酬は定款または株主総会の決議によって決められるものとさていましたが、当時の監査役報酬の実務における決め方は、監査役の報酬は取締役の報酬と一括して役員報酬として報酬額の上限が株主総会で決められ、その限度内で取締役会または代表取締役が各取締役及び監査役の報酬の具体的な額を決定するのが通常でした。

この場合、報酬への規制はありましたが、その内容は取締役の報酬の決め方がお手盛りにならないようにする趣旨のものでした。しかし、監査役の報酬に関しては、この規制は意味がないことになります。すなわち、監査役には業務執行ないしその決定の権限がないので、お手盛りで報酬を決めることの弊害ということがありえないからです。監査役の報酬については、取締役とは異なった種類の規制が求められるわけで、それは監査役の報酬が取締役会あるいは代表取締役の意思によって左右されると監査役の地位の独立性が損われるということになります。その考えには、1981年以前の監査役の報酬の決め方はそぐわないものでした。そこで、取締役の報酬に関する規定の準用をやめて、新たに監査役の報酬についての規制を設けることになりました。

ü 監査役報酬の決定

監査役が受けるべき報酬等は、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定める(387条1項)とされています。なお、株主総会において取締役の報酬と一括して決議することは認められないと解されています。つまり、監査役の報酬は、株主総会において、取締役の報酬の議案とは別の議案として、取締役の報酬の上限とは別に上限を定めることになります。

監査役が2人以上の場合であって、定款または株主総会の決議で報酬の総額のみが定められている場合には、その範囲内で監査役の協議により、各監査役の報酬の額を決めることができます(387条2項)。ということは、定款または株主総会で決めるべき額は報酬等の最高限度額であり、そのすべてが監査役に配分される必要はないということです。また、株主総会で一度決められた報酬の総額は、毎年決める必要はなく、変更または廃止されるまで、毎年、その限度内で個々の監査役の報酬が配分されることになります。

ü 監査役が2人以上の場合

監査役が2人以上の場合であって、定款または株主総会の決議で報酬の総額のみが定められている場合には、その範囲内で監査役の協議により、各監査役の報酬の額を決めることができます(387条2項)。監査役の取締役会や代表取締役からの独立性を保障するためには、監査役の報酬の総額を、取締役の総額とは別に定めることとするだけでは十分でなく、各監査役が受ける報酬の額も、取締役会や代表取締役の意思とは独立に決められなければならないので、それを監査役の協議で決められることとなったということです。監査役の協議とは多数決による決議ではなく、全員一致の決定を言います。協議が不調の場合には、報酬額が決まらず、会社は報酬を支払うことはできません。なお、各監査役の報酬の決定を代表取締役に一任するという監査役の協議は、監査役の独立性を保障するという規定の趣旨に反するので効力が認められないということになりますが、代表取締役に原案の作成を依頼し、それについて各監査役が了承して協議が成立するとすることは差し支えないと言われます。

※監査役が1人しかいないときに、定款または株主総会において同人の報酬額そのものではなくその最高限度各を決め、その範囲内で、当該監査役が自分の報酬額を決めるものとしてよいかどうかについては、明文の規定はありません。しかし、そのような定め方をしても監査役の独立性の保障の趣旨には反しないい、また、上限が画されている以上は株主の利益を害することも考えにくいので、許されると考えてよいのではないでしょうか。

ü 株主総会における開示

監査役の報酬等に関する議題に関する株主総会参考書類で開示すべき事項について、取締役の報酬等と同じ規制があります(会社法施行規則84条)。また、監査役が株主総会で意見を述べるときは、その意見の内容の概要の記載も認められています(会社法施行規則84条1項)。

公開会社では、監査役に支払った報酬等の額(総額)は、事業報告の内容の形で、株主・会社債権者・親会社社員に対し開示されます(435条2項、会社法施行規則121条4号)社外監査役にかかる報酬等は、別途記載されます(会社法施行規則124条5、6号)。

ü 監査役の意見陳述権(387条3項)

監査役の報酬を取締役とは別に定めることにしても、株主総会で決議するには議案として提起しなければなりません。株主総会の議案は取締役会で決められます。そこで、監査役の独立性の保障という立場から、監査役には報酬等について意見を述べることができます(387条3項)。

監査役の報酬は株主総会が決するといっても、その報酬議案を株主総会に提案するのは取締役会(298条)ですから、報酬等の増額が相当な状況においてもそのための議案を提出しないとか、提出するとしても不相応に低額の報酬議案を提出するといった問題は起こりえます。これに対して、会社法では、監査役の選任議案の場合の同意権(343条1項)あるいは議案提出請求権(343条2項)に準じて、株主総会における意見陳述権を認めています(387条3項)。これにより、取締役の判断に一定の掣肘を加えることが期待されています。

ü 取締役の報酬等との差異

監査役は業務執行を行わないことから、取締役の報酬等の場合とは異なり、賞与や業績連動報酬、ストックオプションのようなインセンティブ、退職慰労金の功労加算金等について支給の是非を含めた議論があります。以下で簡単に紹介しておきます。

・賞与

監査役は業務執行を行いませんが、監査を通じて会社の信用維持や業績向上に寄与していることから、賞与支給も合理的であると解されています。また、会社法上も、監査役の報酬等の定義(387条)が、取締役の報酬等の定義(361条1項)と同一であることから、監査役への賞与支給を認めているものと考えられます。

ただし、会社の業績向上に直接貢献しないという職務の性質に加え、特別利害関係を有する(賞与増額のため、粉飾決算を容認しかねない)とも言えることから、監査役への賞与支給を不合理とする見解もあります。

なお、賞与が報酬等に含まれるため、監査役への支給に当たっては、株主総会において取締役分と区分して決議し、監査役の協議によって配分を決定する必要があります。また、監査役の意見陳述権の対象となります。

・業績連動報酬と非金銭報酬

監査役の報酬等に関する会社法の規定(387条)には、取締役の報酬等に関する規定のうち、不確定金額報酬(361条1項2号)、非金銭報酬(同項3号)に相当する規定がありません。

この点に関して、会社法の立法担当官は、不確定金額報酬(業績連動報酬)について、経営の意思決定に参画しない監査役の職務に適合しないため当該規定がないと理由を説明しています。その上で確定額の上限を定めれば、その範囲内で配分を決めるときに業績連動報酬の計算方法で各監査役の配分金額を決めるという、実質的な業績連動報酬の工夫は可能と考えられます。

他方、非金銭報酬(現物報酬)についての規定がないのは、現物報酬を禁止する趣旨ではなく、取締役の場合のような現物報酬を相当とする理由の説明義務がないことを表わしているに過ぎないという趣旨を説明しています。

・ストックオプション

上述の通り、非金銭報酬の監査役への支給が認められていると考えられることから、その一種であるストックオプションについても、監査役を対象とすることが可能であり、実際に導入している事例もあります。

ただし、機関投資家によっては、監査役の職務の性格から肯定的に判断しない例もあります。例えば、企業年金基金連合会の株主議決権行使基準では、ストックオプションの付与について、「権利付与対象者の範囲についは、業績向上との関連性が強くないと考えられ場合(監査役、取引先等)は肯定的な判断はできない」と記しています。

・退職慰労金

取締役の退職慰労金と同様に在職中の職務執行の対価としての報酬の後払いであるため報酬等に含まれ。当然に支給することが認められています。ただし、以下の点で議論があります。

金額決定の一任先

退職慰労金の具体的金額について、株主総会において決議されなかった場合、取締役会に一任することは許されず、監査役の協議によって決定する必要があります。

功労加算金の是非

退職慰労金には、報酬の後払い部分と功労加算部分の2種類の要素があります。このうち、在任中の業績等から功労が推認される取締役とは異なり、監査役については、業務執行に関与せず、業績には直接貢献しないため、功労加算を不合理とする見解もあります。

ü 補欠監査役の報酬等

監査役の欠員に備え、株主総会決議によって補欠監査役を選任することができるが(329条2項)、補欠監査役への報酬、手当て等の支給については、会社法上明確な規定がありません。

補欠監査役は、監査役としての業務を行わないため、報酬等を支払うべき理由はないと考えられますが、一方で条件付ながら一定の限度で補欠監査役として拘束するひとになるため、合理的な範囲内で報酬等を支払うことに妥当性もあると考えられます。支払う場合、条件成就までの間、補欠監査役は会社法上の役員ではないので役員報酬制の適用を受けず、実務上も、報酬について特に株主総会には付議しないのが一般的です。なお、補欠監査役を監査役に準じて考えると、その報酬についても念のため株主総会の決議を得ておくほうが良いと考え、その報酬についても念のため株主総会において選任決議に併せて、補欠監査役にいて医学の報酬等を支払う旨を決議または開示し、具体的金額については監査役報酬枠の範囲内で監査役協議により決定することが望ましいという見解もあります。 

 

 

関連条文

監査役の権限(381条) 

取締役への報告義務(382条) 

取締役会への出席義務(383条) 

株主総会に対する報告義務(384条) 

監査役による取締役の行為の差止め(385条) 

監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(386条) 

費用等の請求(388条) 

定款の定めによる監査範囲の限定(389条) 

監査役会の権限等(390条) 

招集権者(391条) 

招集手続(392条) 

監査役会の決議(393条) 

議事録(394条) 

監査役会への報告の省略(395条) 

 

 
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