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第419条 執行役の監査委員
に対する報告義務等
 

 

Ø 執行役の監査委員に対する報告義務等(419条)

@執行役は、指名委員会等設置会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。

A第355条、第356条及び第365条第2項の規定は、執行役について準用する。この場合において、第356条第1項中「株主総会」とあるのは「取締役会」と、第365条第2項中「取締役会設置会社においては、第356条第1項各号」とあるのは「第356条第1項書く号」と読み替えるものとする。

B第357条の規定は、指名委員会等設置会社については、適用しない。

 

ü 執行役の報告義務(419条1項)

指名委員会等設置会社の執行役に対して、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、ただちに、その事実を監査委員に報告することが義務付けられています(419条1項)。これは、監査役設置会社の取締役の監査役に対する報告義務(357条)と同じようなものです。執行役は、指名委員会等設置会社以外の取締役と同様に会社の業務執行を決定しかつ執行していることから、このような事実を発見したときは、それをただちに監査委員に報告するを義務づけられています。

執行役は善管注意義務を負っています(402条3項)が、取締役の場合と異なり、当然には監視義務を負うものではないと解されています。代表執行役と執行役との間には指揮命令関係があることから代表執行役は執行役に対する監督権限があり、この場合には義務を有することになります。また、取締役会が執行役の職務の分掌及び指揮命令関係その他執行役の関係に関する事項を定めた場合(416条1項)にも、監督・監視かんけいがあ李、その範囲内で監督・監視義務を負うことになります。一方で、このような関係のない執行役には監視義務を負うことはありません。しかし、たとえ監督・監視関係がなくても、執行役はここに定める事実を発見したときは、その事実をただちに報告しなければなりません。

・内部統制システム

執行役の報告義務に関しては、取締役が会社の内部統制システム、指名委員会等設置会社の場合は「執行役及び使用人が監査委員会に報告をするための体制その他の監査委員会への報告に関する体制」(会社法施行規則112条1項)に従い、監査委員会は執行役から報告を受けることになります。また日本監査役協会の「監査委員会監査基準」において、「監査委員会は、執行役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは直ちに監査委員会に報告する体制を確立するよう、執行役に対して求めなければならない」と定めています。この定めからは、会社法が執行役に対して規定している報告義務については、監査委員会の側から日頃より執行役に対して報告することを求めるとともに、内部規則を設けるなどして体制作りをすることが求められています。

・報告すべき内容

執行役の報告義務で報告しなければならないのは、「著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を」監査委員会に報告すると規定されています。したがって、事実を発見したときに、その原因究明を問題とする前に、損害の発生という事実をただちに報告する義務であり、損害の程度についても、報告すべき目的は監査委員会の職務の遂行のためである、損害の評価等は報告を受けて監査委員会が動いて行うので、執行役が勝手に判断すべきものではない。執行役は、自らが何かを判断して対応するというより、むしろ知った事実をただちに監査委員に報告することで、監査委員会に判断及び対応を委ねることになります。

執行役は、会社の業務の執行の決定と執行を行いますが、取締役会の権限には会社の業務執行の基本的な事項の決定をはじめ業務執行の決定について、執行役に委任することができない事項もあるので、たとえば、ある行為が、取締役の決定した会社の経営の基本方針から外れるのか否かなど、執行役の立場からは判断が難しいことがあります。このような場合には、執行役自らが判断するのではなく、執行役としては善管注意義務を負っていること及び報告義務をおっていることから、取締役会または監査役会にその行為について報告したり確認したりこと、又はそのことについて、その事実を監査委員会に報告するが求められます。

ü 執行役の忠実義務(419条2項)

指名委員会等設置会社以外の取締役は、会社に対して忠実義務を負い(355条)、かつ会社の業務執行を決定し、それを執行しています(348条362条363条)。指名委員会等設置会社では、取締役は原則として会社の業務執行を行うことができません。一方、執行役は、それ以外の会社の取締役と同様に業務執行を職務としています。したがって、執行役が会社の業務執行に関して委任された事項を行うにあたり、指名委員会等設置会社以外の取締役と同じような状況に遭遇することから、まず、取締役と同様に、抽象的・一般的な職務のひとつである忠実義務を執行役も負うこととなっています。

ü 執行役の競業取引及び利益相反取引規制(419条2項)

取締役の行う競業取引及び利益相反取引と同様に、執行役がこれらの取引を行うにあたり、会社の承認機関において承認をえなければこれらの取引を行うことはできません(419条2項、356条1項365条)。執行役の競業取引・利益相反取引の承認機関は、取締役会です。すなわち、執行役は競業取引・利益相反取引について重要な事実を開示して取締役会の承認を得て、取引を行わなければなりません。しかも、取引をした後は、遅滞なくその取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(419条2項、356条365条2項)。この承認を行うことは取締役会の専決事項(416条4項)であり、この承認を執行役に委任することはできません。取締役会は、このような承認に関する事項または重要な事実の報告については、議事録に記載又は記録しなければなりません。

・内部統制システムによるチェック

執行役の行為については内部統制システムによる会社内部の制度的なチェックが機能しています。執行役の競業取引や利益相反取引についても、事前チェックとして取締役会の承認を要するのであり、そこで承認を得るために取引の内容を開示し、取締役会での検討結果としての承認を受けること、また事後的チェックとしては、たとえ承認を得た取引の場合でも、その取引を行った執行役は重要な事実を遅滞なく取締役会に報告しなければなりません(419条2項、365条2項)。

そこで、指名委員会等設置会社には、委員会制度と執行役制度による監督と業務執行の関係及び内部統制システムによる組織監査があります。そこでは取締役会及び各委員会の構成員には社外取締役が要求され、とくに各委員会の構成員には社外取締役が過半数以上であること(400条3項)、また監査委員会を構成する取締役の資格についてはより独立性がもとめられています(400条4項)。このような社外取締役を中心として構成されかつ独立性の高い監査委員会が社内監査を行います。

また、執行役が取締役会の承認を得るためには、その行う取引の内容が十分に取締役に理解されるよう情報の開示が望まれ、さらにその内容について取締役から質問されたときは的確に回答することも求められます。このような質疑応答にしたがって検討された上で承認されることになります。そして、取締役会の承認が得られた場合であっても、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならず(419条2項、365条2項)、例えば定例の取締役会で報告すること(417条)になります。執行役がこれを怠れば、執行役の責任が問題となり、取締役会により解任される(403条)こともあるし、会社に損害が出た場合には賠償責任が問われることになります。

なお、日本監査役協会の監査委員会監査基準22条には、監査委員会は競業取引及び利益相反取引に関して、執行役または取締役の義務に違反する事実がないかを監視し検証しなければならない旨を定めています。

・執行役の競業取引及び利益相反取引に関する責任

執行役の競業取引及び利益相反取引に関する責任については、取締役の場合と同じように考えられます。

競業取引の場合には、取締役会の承認を得ようが得まいが、その競業取引により会社が損害を被った場合には、その取引を行った執行役は任務懈怠責任を問われることになります(423条1項)。ただし、執行役が取締役会の承認を得ないで行った競業取引の場合は、自己のために行った場合だろうと第三者のために子なった場合だろうと、自己または第三者の得た利益の額が会社の損害額と推定されます(423条2項)。

そして、利益相反取引の場合、取締役会の承認を得ないで行った結果会社にに損害が生じた場合には、法令違反となり、その取引を行った執行役は任務懈怠による損害賠償責任を会社に対して負うことになります(423条1項)。これに対して、取締役会の承認を得て行った場合で会社に損害が生じた場合、取引を行った執行役は自己のために行った場合の責任は無過失責任とされます(428条)。また、利益相反取引を取締役会で承認した取締役についても任務懈怠が推定されます。

ü 取締役の報告の不適用(419条3項)

指名委員会等設置会社では、監査役を設けることがなく(327条4項)もまた、業務執行を行うのは執行役であって(418条)、原則として業務執行を担うのは執行役であって、取締役は業務執行権を有しません。この場合、取締役は、会社の基本方針を決定し、執行役の業務執行を監視・監督します。したがって、指名委員会等設置会社以外の株式会社の取締役に課されていた報告義務(357条)については、指名委員会等設置会社の取締役には適用しないことになっています(419条3項)。ただし、監査委員は、執行役または取締役の不正の行為、法令定款違反の行為またはそのおそれがある場合は遅滞なく取締役会に報告する義務があります(406条)。

 

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)   

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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