新任担当者のための会社法実務講座
第413条 議事録
 

 

Ø 議事録(413条)

@指名委員会等設置会社は、指名委員会等の日から10年間、前条第3項の議事録をその本店に備え置かなければならない。

A指名委員会等設置会社の取締役は、次に掲げるものの閲覧及び謄写をすることができる。

一 前項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面

二 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの

B指名委員会等設置会社の株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第1項の議事録について前項各号に掲げるものの閲覧又は謄写の請求をすることができる。

C前項の規定は、指名委員会等設置会社の債権者が委員の責任を追及するため必要があるとき及び親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。

D裁判所は、第3項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該指名委員会等設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項の許可をすることができない。

 

ü 委員会議事録の作成等(412条3項)

取締役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、出席した委員が署名または記名押印しなければなりません(412条3項、会社法施行規則111条)。出席した委員には途中退出者も含まれます。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(412条4項)。

※取締役決議の省略及び報告の省略の場合に作成される議事録については、取締役・監査役の署名または記名押印は要求されていません。

取締役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した委員が議事録に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(412条5項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからである言います。

議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則111条3項)

・実際に開催した場合

@)委員会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない委員が委員会に出席した場合における出席方法を含む)

A)議事の経過の要領及び結果

議事の経過とは、開会、提案、協議、報告などの審議内容、表決方法、閉会など委員会の経過全般を指し、議事論には、議事の進行過程、発言内容と発言者の主要なものを記載すれば足り、速記録のように逐一内容を記載する必要はありません。

また決議の結果については、一義的に明確になるように完結に記載します。例えば、全員一致の場合は「出席委員全員異議なく承認可決された」、また全員一致でない場合は「出席委員の賛成多数で可決された」と記載するのが一般的です。ただし反対者がいる場合には、反対・棄権した委員の氏名を明記することとなります。

B)決議について特別の利害関係を有する委員があるときは、当該委員の氏名

C)一定の事項について委員会において述べられた意見または発言がある時は、当該意見または発言の内容の概要

D)委員会に出席した執行役、会計参与、会計監査人の氏名または名称

E)委員会の議長がいるときは、議長の氏名

ü 委員会議事録の備置(413条1項)

委員会議事録は、委員会の日から10日間本店に備え置かなければなりません(413条1項)

議事録の備置と保存は違います。備置は閲覧等を前提とし、営業時間内に適切に閲覧等に応ずることができる状態に置くことを意味します。議事録は備置期間経過後に廃棄されるわけではなく、以後、保存されることになります。会社法は委員会の議事録の備置を会社の義務として規定します。備置に係る職務執行者は、取締役会において、執行役の中から選定されることになります(416条1項)。備置義務を懈怠した執行役は、過料の制裁に処せられます(976条)。

ü 委員会議事録の閲覧謄写(413条2項、3項、4項)

議事録の閲覧謄写については、@議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧または謄写、A議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法によって表示したものの閲覧または謄写をすることになります(413条2項)。会社法施行規則226条19号では、電磁的記録に記録された事項を紙面または映像面に表示する方法としています。

・取締役の閲覧等

取締役は、委員会の議事録の閲覧等をすることができます(413条2項)。委員会の委員が当該委員会の議事録を閲覧等することができるのは当然ですが、委員会の委員でない取締役も、事由に閲覧等することができます。というのも、委員会は取締役会の内部機関であり、取締役会と委員会の緊密な連携がもとめられるからです。そして、取締役には委員会の職務執行を監視する職務権限が認められているからです。

条文では、取締役は、閲覧等を「請求することができる」ではなく、「することができる」と規定しています。したがって、取締役は、備置義務者に請求することなく、自ら閲覧等をすることができます。

・株主、親会社社員、債権者の閲覧謄写

株主、債権者及び親会社社員が委員会の議事録の閲覧等を請求するには裁判所の許可が必要です(413条3項、4項)。委員会の議事録の中には、取締役会の議事録と同様に会社の機密情報が含まれる可能性があります。このため、裁判所の許可を得ることを条件として議事録の閲覧等の請求をすることができることとなっています。

株主は、その権利を行使するために必要あるとき、裁判所の許可を得て議事録の閲覧等を請求することができます(413条3項)。権利には共益権だけでなく自益権も含まれますが、権利行使に際して閲覧等をする合理的必要性が認められなければなりません(869条)。

債権者は、委員の責任を追及するために必要あるとき、裁判所の許可を得て委員会の議事録の閲覧等を請求することができ、親会社社員がその権利を行使するために必要な場合も同様です(413条4項)。債権者の委員に対する責任追及の対象となる責任の典型例は取締役の対第三者責任です(429条)。親会社社員が権利行使のために必要な場合とは、親会社の取締役または執行役の子会社管理に係る任務懈怠責任を追及するために必要な場合などが想定されます。

会社は、裁判所の許可を得ることなく、株主、債権者または親会社社員に議事録の閲覧等を認めることもできます。ただし、事情によっては、閲覧等を認めた執行役の善管注意義務違反を問われることもあります。

ü 裁判所の許可(413条5項)

許可の裁判は非訟事件に該当します。したがって、裁判所の許可手続については、会社法第7編雑則の第3章非訟に規定されています。許可の申立をする場合には、その原因となる事実、つまり、権利行使ないし委員の責任追及の必要性について疎明しなければなりません(869条)。裁判所は、審問の期日を開いて、申立人と会社の陳述を聞かなければなりません(870条2項)。裁判所は、当該請求に係る議事録の閲覧等をすることにより当該指名委員会等設置会社またはその親会社もしくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれかあると認めるときは、閲覧等の許可をすることができません(413条5項)。

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)  

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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