新任担当者のための会社法実務講座 第406条 取締役会への報告義務 |
Ø 取締役会への報告義務(406条) 監査委員は、執行役又は取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければならない。 監査委員に対して課せられている報告義務で、監査委員は執行役又は取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(406条)。株式会社の報告義務に関する規定は、ほかにも、取締役の報告義務(357条)、会計参与の報告義務(375条)、会計監査人の報告義務(397条)、執行役の報告義務(419条)があり、さらに監査役についても382条の規定があります。監査委員の報告義務は監査役設置会社の監査役の報告義務(382条)と同様の義務が課されていると考えられます。 監査委員は、監査委員会にわり選定された監査委員と、それ以外の監査委員とでは監査権限が違いますが、報告義務は、その権限の違いに関わらず、すべての監査委員に同じように課されています。監査委員の報告義務は、監査委員会の行動として課されているのではなく、個々の監査委員のそれぞれの行為として課されているからです。このことは、執行役等が不正の行為またはそのおそれがあると認めた監査委員は、その事実を取締役会に報告し、取締役会ではこの報告に基づき、調査・検討を行ないかつ必要な是正措置などの対応を取ることになります。 その報告の対象は、執行役または取締役が行ったかまたは行っている不正行為のみならず、そのおそれのある場合も含まれます。さらに、法令定款違反の事実が、著しく不当な場合も報告義務の対象となります。会社の業務監査の観点から考えると、幅広くこれらの行為を報告の対象とすることで、取締役会においては執行役や取締役のこのような行為を検討することになります。執行役や取締役が行おうとする行為が不正のおそれがある場合、それが407条1項に定める事実であれば、監査委員は、仮処分の請求も含めて、行為の差止請求を行うことができます(407条)。さらに取締役会は行為について判断するのみならず、その行為を行っている者、行った者、または行おうとしている者についても、解任(403条)、損害賠償の請求(423条)等の会社法上の諸規定のみならず、会社ごとに定めている会社の内部規定に従った処分についても、また判断を行うことができます。 監査役協会による監査委員会監査基準では、監査委員の心構えを第3条で定めています。その第6項では、「監査委員は、平素より会社及び子会社の取締役、執行役及び使用人等との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならない」と記されています。このことは、監査委員は、平素より、このように意志の疎通を図り、情報収集及び監査の環境整備をしておくことにより、ここで定めるように事実を監査委員が発見しやすくなり、またこのような事実を発見したときの対応もしやすくなります。監査委員の報告義務を実効性あるものとするためにも、平素からの監査体制の整備が重要となります。 なお、監査委員の報告義務の対象となる事実については、取締役会議事録に記載または記録され(会社法施行規則101条3項)、また監査委員会監査報告に記載されます(会社法施行規則131条1項、129条1項)。さらに株主に対しても提供されます。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 取締役会への報告義務(406条) 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |