新任担当者のための会社法実務講座 第412条 指名委員会等の決議 |
Ø 指名委員会等の決議(412条) @指名委員会等の決議は、議決に加わることができるその委員の過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。 A前項の決議について特別の利害関係を有する委員は、議決に加わることができない。 B指名委員会等の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した委員は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。 C前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。 D指名委員会等の決議に参加した委員であって第3項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。 ü
委員会の議事の運営 委員会の運営は、会議体の一般原則によるほか、内部規則、慣行に従って行われます。法令上とくに議事運営に関する規定はありません。各委員会はすべての当該委員で組織され(362条1項)、個人的な信頼に基づき選定された委員が相互の協議・意見交換を通じて意思決定を行う場であり、したがって、代理出席は認められませんし、遠隔地にいる委員の映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(テレビ会議など)による参加は、出席と認められます(会社法施行規則111条3項)。 監査役設置会社の監査役は、取締役会の構成員ではありませんが、業務監査を適切にするため、取締役会出席し、必要があると認めるときは意見を述べる義務があります(383条1項)。 実務においてはも会社の内部規則に、議長は取締役会長または社長に定めているのが一般的です。さらに議長に事故がある時に備えて他の取締役が議長になる順番をあらかじめ定めています。 ü
決議の成立(412条1項) ・定足数要件(412条1項) 議決に加わることができる委員の過半数が出席することが委員会決議を行うための定足数要件です。取締役会の決議により、この定足数要件の割合を加重する、つまり割合を大きくすることができますが、委員会決議ではできません。ただし、取締役会決議でも、要件の割合を軽減することはできません。 各委員会の構成員は社外取締役が過半数であることが必要ですが、定足数の中に過半数の社外取締役は要求されていません。この条文で規定されている定足数は委員会決議を成立させるための定足数ですが、委員会の開催要件としても解されています。というのも、報告事項についても定足数要件が適用されると解されるからです。そうでないと、報告の成立を確認できないことになるからです。 ・議決要件(412条1項) 議決に加わることのできる出席委員の過半数をもって、委員会の決議が成立します。取締役会決議によって、この割合を加重することができます(412条1項第2括弧)。取締役会の場合には、定款の定めにより、この定足数・必要賛成数の要件を加重することはできますが、緩和することはできません(369条1項)。 株主総会の場合は、普通決議があり、そのほかに重要な項目に関しては特別決議があるように決議の種類がありますが、委員会には特別決議はありません。また、委員会に出席した各委員が平等に1個の議決権を有するところは、株主総会のように持ち株数に応じた議決権による多数決とは違います。 また、委員会の場合、決議に参加した委員であって委員会の議事録に異議を表明したという記録が残らないものは、その決議に賛成したものと推定されることになります(412条5項)。これは裁判等で、不正な決議に参加したか否かの証拠とされるものです。 ・書面決議の否定 取締役会の場合は、報告の省略(372条)の他、決議の省略(書面決議)が認められています(370条)。委員会の場合には、報告の省略(414条)は認められていますが、決議の省略は認められていません。それは、緊急性をようする決議事項がほとんどなく、決議について会議の省略を認めては密接な情報共有による組織的・効率的な委員会活動おろそかになると考えられたからです。 なお、監査委員会による会計監査人の解任については、監査委員全員一致の決議ではなく、監査委員全員の同意によるとされています(340条)。 ü
特別利害関係人の議決権行使の排除(412条2項) 決議について特別の利害関係を有する委員は、決議の構成を期する必要上、議決に参加することはできません(340条2項)。なお、特別利害関係を有する取締役は定足数算定の基礎にも算入されません。 委員会決議における特別利害関係は、各委員会の決議事項との関連で検討することになります。指名委員会においては、自己を取締役に再任する案件または解任する案件が問題となります。代表取締役の選定または解職に関しては判例に従えば、再任については特別利害関係に該当せず、解任の場合には該当することになります。 報酬委員会においては、自己の取締役または執行役としての報酬に関する決議について当該委員は特別利害関係を有することになります。 監査委員会においては、自己監査の関連で問題が生ずる可能性がありますが、具体的にどのような場合かは個別に検討することとなります。会社と取締役との間の訴訟について、監査委員が当該訴訟の相手方である場合は、会社代表者は取締役会または株主総会で定められます(408条1項)。 ü
委員会決議の瑕疵 委員会決議の瑕疵については、取締役会決議の場合と同じように、特別の訴訟制度は設けられていません(830条、831条)。その点では株主総会の場合とは違います。委員会決議に瑕疵がある場合は、手続的瑕疵であっても内容的瑕疵であっても、当該決議は無効となります。 委員会の決議の瑕疵があった場合として、次のようなケースが考えられますが、その決議の効力を考えてみましょう。 ・招集手続に瑕疵がある場合 委員会の招集手続に瑕疵がある場合は、特定の委員に招集通知漏れがあったり、招集権者の招集に基づかずに委員会が開催されたり、招集通知期間が不足したりした場合です。このような場合、株主総会とは異なり、会社法は特別の規定を設けていません。しかし、委員会は委員全員によって構成される会社の意思決定機関です。だから、委員全員について出席の機会が保障されなければならず、その会議の招集手続に瑕疵がある時は、合議体による決議の成立過程における重要な瑕疵として、無効であると解されています。 ・欠格事由のある取締役、非取締役あるいは委員以外の取締役が参加した決議の効力 欠格事由に該当する者を株主総会で取締役に選任したとしても、その選任は無効となります。また、取締役が在職中に欠格事由に該当するに至ったときは、その時点で取締役でなくなります。そのような取締役が参加した取締役会の決議は、原則として無効となります(大阪地判昭和57年12月24日)。これと同じように、委員会の決議も無効となると解されています。 ・決議内容に法令・定款違反のある場合 委員会の決議の内容が法令や定款に違反している場合、その決議は無効となります。 ü
委員会議事録の作成等(412条3項) 取締役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、出席した委員が署名または記名押印しなければなりません(412条3項、会社法施行規則111条)。出席した委員には途中退出者も含まれます。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(412条4項)。 ※取締役決議の省略及び報告の省略の場合に作成される議事録については、取締役・監査役の署名または記名押印は要求されていません。 取締役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した委員が議事録に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(412条5項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからである言います。 議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則111条3項) ・実際に開催した場合 @)委員会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない委員が委員会に出席した場合における出席方法を含む) A)議事の経過の要領及び結果 議事の経過とは、開会、提案、協議、報告などの審議内容、表決方法、閉会など委員会の経過全般を指し、議事論には、議事の進行過程、発言内容と発言者の主要なものを記載すれば足り、速記録のように逐一内容を記載する必要はありません。 また決議の結果については、一義的に明確になるように完結に記載します。例えば、全員一致の場合は「出席委員全員異議なく承認可決された」、また全員一致でない場合は「出席委員の賛成多数で可決された」と記載するのが一般的です。ただし反対者がいる場合には、反対・棄権した委員の氏名を明記することとなります。 B)決議について特別の利害関係を有する委員があるときは、当該委員の氏名 C)一定の事項について委員会において述べられた意見または発言がある時は、当該意見または発言の内容の概要 D)委員会に出席した執行役、会計参与、会計監査人の氏名または名称 E)委員会の議長がいるときは、議長の氏名 ü
議事録記載の効果(412条5項) 委員会の議事録は会社の法律関係の明確化のために作成され、その内容は重要な証拠資料となります。とは言っても、議事録に記載漏れや事実と異なる記載がされていても、それにより決議の効力や会社の法律関係に影響を与えるわけではありません。委員会の議事録に記載・記録すべき事項を記載せずまた虚偽の記載・記録をしたときは、過料の制裁が課せられます(976条7号)。議事録に署名した委員である取締役に過料が処せられることになります。 議事録に決議の結果が記載等されますが、委員会の決議に参加した委員であって、当該委員会の議事録に異議をとどめたい者は、その決議に賛成したものと推定されます(412条5項)。これにより委員の責任追及が容易になりますが、決議に対する各委員の賛否を議事録に明確にすることを通して委員会の審議を充実することへの寄与が期待されています。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 指名委員会等の決議(412条) 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |