新任担当者のための会社法実務講座 第421条 表見代表執行役 |
Ø 表見代表執行役(421条) 指名委員会等設置会社は、代表執行役以外の執行役に社長、副社長その他指名委員会等設置会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該執行役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。 ü
表見代表執行役 会社の代表権がないのにもかかわらず、その取引が行われているビジネス現場では代表権があるものと判断できる表示をして取引をした場合、代表権があると信じた取引相手の保護を図る必要があります。そのときの、代表権があるかのように表示をしたものを表見代表執行役と呼びます。この制度は表見代表取締役(354条)が指名委員会等設置会社以外の会社に対する同様の制度としてあります。 代表執行役は登記事項なので、登記を閲覧すれば一目瞭然です。したがって、新たに会社と取引を始める場合には、登記を閲覧して、その他の事項も含めて確認することがおこわれます。しかし、事業が繁忙なところで、いちいち登記を閲覧するまで手が回らないのが実状で、一般には代表権を有すると認められるような名称の者を代表執行役と信頼して取引しています。例えば、会社と継続的に取引をする相手方としては、取引を開始するにあたっては、登記を閲覧して誰が代表執行役か確認したうえで、その者と取引をすることが期待されていたとしても、その後の取引のたびごとに、いちいちその者が依然として代表執行役であることを登記で確認することを求めるのは困難でであり、その間にその代表執行役でなくなり、その旨登記されたとしても、依然としてその者が同じように取引していた場合には、その相手方を保護すべきである。そういう趣旨で設けられたのが表見代表執行役という制度です。 ※民法上の表見代理との関係 421条は354条と同様に代表権の存在を推測させるような名称の付与自体に責任の根拠を求めているものですから、越権代理や代理権消滅後といったことによる表見代理(民法110条、112条)とは無関係に適用されます。 反対に、421条の表見代表執行役の責任が成立しない場合でも、民法上の表見代理が成立する場合があります。つまり、表見代表執行役は社長とか専務といった外観を与えたか否かが問題となるのであって、代理権(代表権)を与えたという外観がある場合とは別問題ということです。 ü
表見代表執行役の要件 表見代表執行役制度の適用があるためには、次の要件を満たす必要があります。 @代表権を有するものと認められる名称を付している行為すること 代表権を有するものと認められる名称を条文では、社長、副社長その他としていますが、これは限定列挙ではなくて、例示と考えられます。この他にも、頭取、会長、CEOその他場合によっては専務や常務などもそうでしょう。 A上記の名称の使用について、会社の帰責事由があること 執行役が会社と無関係に名称を使用しても、この制度は適用されません。これは、会社が名称の使用を積極的に許諾した場合だけでなく、その執行役が冒用しているのを知りながら適当な手段をとらないで黙認している場合も含みます(表見代表取締役の裁判例として最高裁昭和44年11月27日)。社長を解任され、登記された者が、その後も依然として社長として行為をすることを会社が放置したような場合がこれに当たります。 B名称を使用したものが取締役であること C取引の相手が善意であること この制度が取引の相手方を保護するためのものである以上、相手方が無過失であることまでは求めないまでも、重過失がないことは求められていると考えられています(表見代表取締役の裁判例として最高裁昭和52年10月14日)。 ü
421条の類推適用 条文では、「代表執行役以外の執行役に」とされていますが、表見代表執行役となる事ができるのは執行役に限定されるように見えます。しかし、そうなると、執行役でない者に、例えば最高経営責任者のような通常表見代表執行役と評価されるような名称を付した結果、取引の相手が代表執行役と信じて取引をしたとしても、相手は保護されないことになります。しかし、そのような結果は、外観を信頼した善意の取引相手を保護するという制度の趣旨に反することになります。例えば、354条の場合ですが、会社の使用人が代表取締役の了承のもとに、常務取締役の名称を使用して消費貸借をした事例があります(最判昭和35年10月1日)。例えば、会社の経理部長が、代表取締役と称して取引をなした場合があります。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 |