新任担当者のための会社法実務講座 第409条 報酬委員会による報酬の決定の方法等 |
Ø 報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条) @報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めなければならない。 A報酬委員会は、第404条第3項の規定による決定をするには、前項の方針に従わなければならない。 B報酬委員会は、次の各号に掲げるものを執行役等の個人別の報酬等とする場合には、その内容として、当該各号に定める事項を決定しなければならない。ただし、会計参与の個人別の報酬等は、第1号に掲げるものでなければならない。 一 額が確定しているもの 個人別の額 二 額が確定していないもの
個人別の具体的な算定方法 三 金銭でないもの 個人別の具体的な内容。 ü
報酬の決定機関 指名委員会等設置会社では役員報酬の決定に当たって、株主総会の決議は必要となりません。その代わりに報酬委員会が、執行役・取締役・会計参与の個人別の報酬等の内容を決定します(404条3項)。 報酬委員会は3名以上の取締役(報酬委員)から成り、その過半数は社外取締役でなければなりません(400条)。 ü
報酬委員会による報酬の決定 @報酬委員会の対象とする範囲 報酬委員会は、執行役等の報酬を決定するわけですが、執行役等とは、執行役、取締役及び会計参与をいいます(404条2項)。また報酬等とは、職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益です(361条1項)。執行役が使用人を兼務しているときには、使用人の報酬(この場合は給与)も含まれます(404条3項)。執行役が受けるあらゆる報酬について、取締役会の監督機能を強化しようとする趣旨です。 A報酬の決定手続 報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定すると規定されており(404条3項)、まず、具体的な決定に先立ち、報酬の内容の決定に関する方針を定めなければなりません(409条1項)。次に、報酬委員会は、その方針に従い、個人別の報酬等の内容を決定しなければならない(409条2項)とされています。 公開会社においては、上記方針の決定の方法及びその方針の内容の概要を事業報告に記載しなければなりません(会社法施行規則121条5号)。 ※指名委員会等設置会社の取締役の報酬及び会計参与の報酬等は、業務執行に直接携わらないため多額にはならないはずで、株主にとって重要になってくるのは執行役の報酬です。報酬委員会制度が創設された狙いのひとつとして、社外取締役が過半数の委員会がコンサルタント等を利用して合理的な報酬システムを確立し、かつそれを開示することにより、各取締役の業績の報酬への反映及び株主の利害との調整を図ることにあると言われています。 B報酬等の内容に係る決定に関する方針の決定 報酬委員会は、具体的な決定に先立ち、報酬の内容の決定に関する方針を定めなければなりません(409条1項)。このような方針の決定を条文の中で規定するということは、他の経営形態の株式会社では要求されていないものです。その趣旨は、個人別の報酬等の決定の前にまず全体的な方針を決めさせることによって、個々の執行役等の報酬等の決定が公正なものとなるようにするとともに、その方針を事業報告により開示することを義務付ける(会社法施行規則121条5号)ことによって、執行役等の報酬等が適切に決定されるようにすることにあると考えられます。 方針の内容としては、執行役の職位ごとに、支給する報酬等の種類(確定額報酬、業績連動報酬、ストック・オプションなど)およびその構成比率、報酬等を業績に連動させる場合に何を業績指標として用いるか、などが考えられます。 方針の決定にあたっては、会社に費用を負担させて、社外コンサルタントの助言を受けることも可能です(404条4項)。 ※コーポレート・ガバナンス・コードでは原則3−1において情報開示の充実を求め、その中で経営陣の報酬の決定手続とその方針を経営方針の一環として説明するように求めています。そして、補充原則4−2@で役員報酬の明確化を、とくに求めています。コーポレート・ガバナンス・コードでは、経営者には、企業が価値創造にはリスクテイクが伴うので、それを適切に管理して、価値創造を追及する姿勢を求めています。そのような原則の下で、経営者がリスクを前にして怯むことなく価値創造の追及を続けるように、報酬において取締役の動機付けができることを求めている考えられます コーポレート・ガバナンス・コードは報酬委員会の制度趣旨を、積極的に推し進めることを求めていると考えてよいでしょう。 〔参考〕報酬等の内容に係る決定に関する方針を考えるにあたって、ひとつの目安として、つぎのような整理された視点で検討すれば、洩れはないと思います。(『株主に響くコーポレートガバナンス・コードの実務』より、詳しい内容はこの本を読んで下さい) (1)役員・経営者報酬の体系の設計、考え方 ○設計の考え方と報酬総額のレベル ・企業価値向上とリンクしたインセンティブ報酬の考え方(業績連動部分の割合が高い米国型か、固定部分の割合が高い日本型か、その中間となる欧州型か) ・グローバルな経営者市場から有能な人材を確保できるのに十分な報酬額の把握 ・同業他社、同規模の上場会社の役員報酬額との比較 ・取締役としての業務に対する報酬と経営陣としての業務に対する報酬の分離、取締役を兼務する経営陣のジョブサイズと兼務しない経営陣のジョブサイズとの報酬額の整合性 ・業務執行に携わらない非業務執行取締役、社外取締役、監査役の報酬の考え方(業務執行を行わず会社業績に直接的責任を持たない監査役は固定報酬のみとするか、業務執行は行わないが重要な意思決定を行う非業務執行取締役や社外取締役は、長期インセンティブ報酬を設定するか、監督機能だけを求め固定報酬のみとするか) ○固定報酬と業績連動報酬の体系、業績連動報酬の設計 ・基本的な固定報酬と業績連動報酬の割合はどうするか ・短期・中期・長期の業績評価期間の設定 ・業績連動報酬の内容(現金報酬とするか、株主との利益意識の共有化も図れる自社株を使った株価連動型報酬を入れるか) ○個人別の適切な割合・テーブル表の設計 ・役員・経営陣の生活や年収レベルの考慮、経営陣予備軍の幹部社員の給与水準と経営陣の差の考慮 ・役割と責務・ジョブサイズとの整合性 ・各担当別の目標に応じた業績連動報酬の内容 ・役位別と担当別の織り交ぜ方 (2)役員・経営陣に適切な企業家精神の発揮を促すようなインセンティブ型報酬の設計、特に、中長期の業績連動型報酬、ストックオプションや自社株購入促進の仕組みなどを活用した株式報酬の適切な組み込み ・対象者(社外取締役、監査役を対象とするか、幹部社員、子会社社員を含めるか、社外者を含めるか) ・中長期で評価する業績目標、パフォーマンス条件の設定 ・ストックオプションのリスク・リターンの型(権利行使価額を時価とするハイリスク・ハイリターン型か、権利行使価額を1円とするローリスク・ローリターン型か) ・支給上限値・下限値の設定(目標未達時に支給がゼロとなる最低限の業績ラインと、目標到達時の支給額の青天井を抑える上限の業績ラインを設定するか) ・ストックオプションの場合の株式稀釈化レベル ・運営管理などの事務 (3)業績や潜在的リスク等を踏まえた役員・経営陣の評価・監督の仕組み ○全社業績、個別担当業績、非財務面での取り組みなどの評価内容・方法 ・取締役の実効性評価の反映 ・全社業績への責任の割合 ・個人別に設定された担当領域の目標の達成状況 ・年度業績に反映されない中長期的課題に対する取り組みや、業績数値に表われない非財務活的な活動への取り組みや個人別考課などの評価内容とそのウェートづけの設計、評価方法 C個人別の報酬の決定手続 報酬委員会は執行役等の報酬を決定する際には、次の事項を決定しなければなりません(409条3項)。 a)確定金額を報酬とする場合は、個人別の額 b)不確定金額とする場合は個人別の具体的な算定方法 c)金銭でない場合は個人別の具体的な内容 上記の報酬の決定方法は361条1項の取締役の報酬等の決定の方法とおなじ項目と言えます。つまり、報酬に関して決定すべき内容は、監査役設置会社も監査等委員会設置会社も指名委員会等設置会社も同じだということです。違うのは決定するプロセスの手続です。つまり、その他の取締役会設置会社と違って、指名委員会等設置会社の執行役等の報酬の決定について株主総会の決議を要しません。それが、上記の内容それぞれについて、指名委員会等設置会社は、次のように他の取締役会設置会社とは違う決め方をすることなります。 ※指名委員会等設置会社の執行役のなかで使用人兼務の執行役について、その使用人分の報酬、つまり使用人としての賃金についても、報酬委員会で決めるべき報酬等に含まれます。したがって、例えば、執行役員総務部長というのであれば。総務部長の賃金についても報酬委員会で決めなくてはなりません。実務としては、使用人の賃金については会社の規定に従って決められているので、その規定に従って決まった額を報酬委員会が承認するという手順になると考えられます。 a)確定金額を報酬とする場合は、個人別の額 確定金額をもって報酬内容を決める場合には、個人別の額を決定する必要があり、監査役設置会社や監査等委員会設置会社のように株主総会で総額枠を決定するという決定方法を採りません。報酬委員会が報酬に関しては最終的な決定権限及びそれに対する責任を負うと考えられることから、上限を決めてその範囲内で具体的支給額をの決定を執行役に委任することはできません。 したがって、報酬委員会は執行役等の個人別報酬の額を決めることができることになるわけです。しかし、実務的には、ほとんどの場合、報酬の内容の決定に関する方針として確定金額の報酬額の総枠を決めて公表し、個人別の金額はその枠内で配分するように決定しているようです。 b)不確定金額とする場合は個人別の具体的な算定方法 業績連動型報酬にするなど算定方法をもって報酬を定める場合も、確定金額の場合と同じように、具体的算定方法は報酬の総額を決めるだけでは足りず、一義的に個人別金額が決まる算定方法を決定しなければなりません。つまり、具体的算式で総枠を計算して、その範囲内で個人に配分するという方法ではだめなのです。業績等に関する会社数値から最終的に各個人の報酬額が導かれる計算式でなければならないということです。 D報酬委員会において決定された報酬等の相当性 指名委員会等設置会社以外の株式会社では、取締役の報酬等は、定款または株主総会の決議という形で株主の決定に委ねられており、裁判所はその相当性には立ち入らないとされています。これに対して、指名委員会等設置会社の執行役等の報酬等は報酬委員会が決定することから、報酬委員会の委員の善管注意義務・忠実義務を尽くしたかどうかの審査という形で、報酬等の相当性に裁判所が立ち入る可能性は否定できないと考えられています。 ü
報酬等の開示 公開会社である指名委員会等設置会社は、執行役等の報酬等について、事業報告による開示をしなければなりません(会社法施行規則119条2号、121条3〜5号、124条6〜8号)。それ以外の株式会社の場合とは異なり、指名委員会等設置会社は、報酬等の決定方針については、必ず事業報告で開示しなければなりません(121条5号)。方針の開示を通じて、報酬等が適切に決定されるようにするという趣旨からです。 なお、事業報告で開示すべきものとされる報酬等は、361条1項の報酬等と同じ意味であるので(会社法施行規則2条)、404条3項の報酬等とは異なり、使用人兼務執行役の使用人分給与は含まれません。もっとも、使用人給与が多額である場合などは、当該使用人給与分は、「会社役員に関する重要な事項」(会社法施行規則121条9号)として、開示を要することはあり得ます。 ※取締役の報酬等については、金融商品取引法で、有価証券報告書に報酬等の決定手続と事業年度に支払った報酬額、個人別の報酬額(ただし1億円未満の場合開示が免除されます)を記載しなければなりません。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |