新任担当者のための会社法実務講座 第418条 執行役の権限 |
Ø 執行役の権限(418条) 執行役は、次に掲げる職務を行う。 一
第416条第4項の規定による取締役会の決議によって委任を受けた指名委員会等設置会社の業務の執行の決定 二 指名委員会等設置会社の業務の執行 ü
執行役の権限 指名委員会等設置会社は、経営の執行と監督を分離し、経営の迅速性を確保するとさもに、経営の実効性を高めることを図る経営組織形態の制度ですが、そのためには、業務執行の決定権を執行役への委任が十分に行われる必要があります(416条4項)。また執行役は、会社の業務執行権を有する必要があります。業務執行の決定権限は、原則として取締役会にある(416条1項、2項)ので、執行役の業務執行の決定権限は取締役会による委任の決議によってはじめて生じるものです(416条4項)。したがって、418条の規定は、416条に基づく注意的規定と考えられています。 一方で、指名委員会等設置会社の取締役は、原則として業務を執行することができません(415条)。418条は、その代わりに、執行役が、指名委員会等設置会社の業務執行機関であることを示す条文となっています。指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社では、取締役会は業務執行の決定権限を有していますが、その決定の実行(業務執行)は、代表取締役または業務執行取締役が行います。そして代表取締役は、取締役会から日常的なき業務執行の決定を委任されています。したがって、代表取締役が経営者と呼ばれています。 これに対して、指名委員会等設置会社では、執行役は、取締役会から委任された業務執行の決定権限及び業務執行権を有しています。したがって、取締役会による業務執行の決定権限の委任が大幅に行われている場合には、執行役、代表執行役が経営者と呼ばれることもあるでしょう。 なお、執行役が複数以上いる場合に、任意のものとして執行役会といった会議体を設けることは可能です。ただし、取締役会の権限と抵触する決定はできないのは当然です。 ※執行役員 指名委員会等設置会社以外の株式会社では、執行役員が置かれるケースが多くなっています。この場合の執行役員は、会社が任意に設ける上級従業員(取締役の指揮命令を受ける地位にある)に与えられる職位であり、法律上の制度ではありません。法律上の機関である執行役とは、会社における位置づけや法的性格が大きく異なります。会社が法律上の要求でもないのに、任意に執行役員を設けるのは、第一に、取締役会のメンバーとなる取締役の人数を少なくして、取締役会をより実質的なものにするとともに、第二に、上級従業員に業務執行の一部を与えて経営の機動性を高めることにあると言います。ただし、執行役員は、与えられた範囲といえども業務執行を行う点において、また、その限りで執行役と似ているところがあると言えます。また、執行役員は、執行役とは違って、株主代表訴訟の対象にはなりません。 ü
執行役の業務執行の決定権限(418条1号) 416条4項に基づき取締役会決議によって執行役に委任される業務執行の決定事項とては、次のようなものをあげることができます。 ア)重要な財産の処分および譲り受け(362条4項1号) イ)多額の借財(362条4項2号) ウ)支配人その他の重要な使用人の選任および解任(362条4項3号) エ)支店その他重要な組織の設置、変更および廃止(362条4項4号) オ)定款で要綱を定めた場合の種類株式の内容決定(108条3項) カ)自己株式の取得価額等の決定、子会社からの自己株式の取得(157条、163条) キ)取得条項付株式の取得(168条1項) ク)株式の分割、無償割当(183条、185条) ケ)公開会社の募集株式、募集新株予約権の募集事項の決定(201条1項、240条1項) コ)社債の募集に関する重要事項の決定(362条4項5号) サ)簡易合併等、株主の承認を要しない組織再編の内容の決定(784条、796条1〜2項) これらの決定権限が、取締役会から執行役に委任されればされるほど、経営と監督の分離がより一層図られることになります。 取締役会が業務執行の決定権限を執行役に委任した場合には、取締役会の決定権限と委任を受けた執行役の決定権限との関係が問題となります。第一に、取締役会は、執行役へ委任した事項についての決定権限を喪失するのではなく、依然として決定することは可能です。第二に、委任後に行った取締役会の決定が、執行役がすでに行った決定と矛盾するときは、取締役会の決定の方が優先されることになります。執行役は、取締役会かの監督を受け、取締役会おいて選・解任されるのであるから、取締役会の決定に従わなければ善管注意義務違反となるからです。ただし、執行役が委任され業務執行の決定権限を行使し、それに基づき対外的な業務執行として取引を行っているときには、その取引相手の第三者を保護する必要があるので、取締役会が執行役の決定を覆す決定をしたとしても、一般に取引の効果には影響を与えないとされています。 一般的に取締役会から執行役に委任された決定権限を、他の執行役に再委任することは可能とされています。ただし、取締役会からの委任がの趣旨が、特定の執行役に委ねたもの(一身専属的な委任)で、他の執行役には委ねる趣旨ではない場合には、再委任はできません。したがって、再委任の可否については、取締役会が権限委任を決定したときの趣旨に反するか否かによります。執行役が委任を受けた決定権限をさらに会社の従業員に再委任できるかも同じように判断します。 ※取締役会の委任決定がない場合 取締役会から権限の委任の決定を受けていない事項について、執行役が決定を行い、その決定に基づき行執行されてしまった場合は、原則として、取締役会の委任の決定がないのだから、執行役の決定は権限外で無効となります。従って、その無効の決定に基づく業務執行も無効となります。ただし、その無効な業務執行を前提として事実が進行した場合、とりわけ対外的な取引の相手方の保護が考えることになります。例えば、多額の借財として、取締役会の委任決定がないまま、代表取締役が銀行かに借入をした場合、その取引は相手方が事実を知っているか、知りうべき場合は無効になるいう判例(最高裁判決昭和40年9月22日)があります。 ü
執行役の業務の執行権限(418条2号) 指名委員会等設置会社の取締役には原則として業務執行権限がありません(415条)。したがって、会社としては業務執行権を有する機関がなければなりません。その機関が指名委員会等設置会社では執行役が担いますが、それを418条2号で規定しています。執行役の業務執行の決定権限については、同じ条文の1号に定めがありますが、こちらは416条4項の注意規定で、なお、ここで明示されているので、2号の業務執行権限には決定権限は含まれていないで、決定された事項を実行する権限に限られます。 執行役は、このような意味での業務執行権限を有するので、指名委員会等設置会社は、1人または2人以上の執行役を置かなければなりません(402条1項)。そうでなければ、業務執行機関が存在しないことになってしまうからです。また、執行役を1名しか置かないとすると、その執行役が業務執行全般について権限を有することになるし、複数の執行役を置く場合には取締役会が決定した業務分掌の範囲内で業務執行権限を有することになります、また代表執行役は会社の大害的な代表権を有するので、その設置も必要となります。 ※権限の再委任 執行役が業務執行権限をさらに他の執行役あるいは会社の従業員に委任できるかは、その業務執行の性質、内容、職務分掌の定め等により執行役員当人が自ら権利行使をしなければならないと判断される場合を除いて、可能であると考えられます。したがって、基本的には、ケース・バイ・ケースで判断されます。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 |