新任担当者のための会社法実務講座 第405条 監査委員会による調査 |
Ø 監査委員会による調査(405条) @監査委員会が選定する監査委員は、いつでも、執行役等及び支配人その他の使用人に対し、その職務の執行に関する事項の報告を求め、又は指名委員会等設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 A監査委員会が選定する監査委員は、監査委員会の職務を執行するため必要があるときは、指名委員会等設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 B前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。 C第1項及び第2項の監査委員は、当該各項の報告の徴収又は調査に関する事項についての監査委員会の決議があるときは、これに従わなければならない。 監査委員会の調査権限は404条2項で規定されています。その権限が十分に行使できるようにするため、監査委員会が選定する監査委員による、執行役等および主要な使用人に対する報告の徴収、会社の業務及び財産の状況の彫塑、子会社に対する報告の徴収そして、子会社の業務及び財産の調査について規定しています。また監査委員の監査の権限は、監査役の監査権限が各監査役に付与されている(381条)のとは違って、各監査委員ではなく監査委員会が選定する監査委員によって行使されます。 ü
執行役等・使用人に対する報告の徴収、会社の業務・財産の調査(405条1項) ・権限を有する監査委員の選定 監査委員会が選定する監査委員は、いつでも執行役等および支配人その他の使用人に対して、その職務の執行に関する事項の報告を求め、また会社の業務および財産の状況の調査をすることができます。権限をする監査委員は、その都度選定することもできるし、そのような権限を特定の監査委員に継続的に付与することもできます。また人数等の規制はなく1人でも複数でも選任でき、監査委員全員をそのような監査委員として選定することもできます。 ・権限の内容 監査委員は下記の内容の権限を行使する際に、必要に応じて補助者を使用することができます。また、監査委員は、その費用を会社に請求することができます(404条4項)。 @)執行役および支配人その他の使用人に対して、その職務の執行に関する事項の報告を求める 報告の対象は、会社の事業全般に及びます。監査委員から報告を求める方法はどのようなものでもかまいません。監査委員が報告を求める際に報告の方法を指定されれば、それにしたがって報告しなければなりません。 A指名委員会等設置会社の業務及び財産の状況の調査 調査の対象は、会社の業務および財産の全般です。調査の方法についての制限はなく、その中には、会計の帳簿その他の資料の閲覧・謄写を行うことや、執行役等・使用人に質問するをすることも含まれます。 執行役等は、監査委員会が選定する監査委員の請求に応じて報告をする義務と、そのような監査委員の調査に協力する義務を負います。監査委員による権限行使が恣意的でない限り、時期・時間の限定をすることはできません。監査委員自身が守秘義務を負っているので、会社の秘密であることを理由に報告・調査を拒むことはできません。 ü
子会社に対する報告の徴収、子会社の業務・財産の調査(405条2項) ・権限を有する監査委員の選定 監査委員会が選定する監査委員は、監査委員会の職務を遂行するための必要があるときは、いつでも子会社に対してその事業の報告を求め、また子会社の業務および財産の状況の調査をすることができます。権限をする監査委員は、その都度選定することもできるし、そのような権限を特定の監査委員に継続的に付与することもできます。また人数等の規制はなく1人でも複数でも選任でき、監査委員全員をそのような監査委員として選定することもできます。 ・権限の内容 監査委員が子会社の報告徴収・調査について次のような内容の権限を行使できます。 @)子会社に対して事業の報告を求める A)子会社の業務及び財産の状況の調査をする 子会社の調査には、子会社の執行役等および支配人その他の使用人に対する質問の権限も含まれます。 以上の権限の行使は、監査委員会の職務を遂行するために必要があるときに限って行使することができます。このことから、@)の報告として、一般的な事業の報告を求めることはできない。報告を求めることができるのは、監査委員会の職務を遂行するのに必要な範囲に限定され、かつ、報告を求める際には事項を限定しなければなりません。また、A)の調査も、その方法には制限はありませんが、調査ができる範囲は、監査委員会の職務を遂行するために必要な範囲に限定されます。 なお、子会社についても、このような報告の徴収・調査権限が認められるのは、会社がその子会社を含めて企業グループとしての事業を行っている場合、会社についてのみ報告の徴収・調査を行うだけでは不十分なことも多く、また、子会社を用いた違法行為が行われる可能性もあるからです。 ・子会社の範囲 子会社の定義は法律によって違いますが、会社法では、総株主の議決権の過半数の保有を含む、経営の支配と定義されています。(2条3号)。これを前提に、子会社の報告徴収・調査の権限が定められています。 監査委員が権限を行使する子会社は、その行使の時点で子会社であればいいとされています。 子会社には外国法人等も含まれます。ただし、実際に海外の子会社等について報告の徴収・調査を行うことができるかどうかは、子会社の設立準拠法によることになります。そのため、外国法または条約等で許容されない限り、海外子会社等に対する権限の行使はできないことになります。その場合、親会社の事実上の支配力に頼って報告の徴収・調査を行い、それが拒否される場合はその旨を監査報告に記載することになります。 ü
子会社の報告・調査の拒否(405条3項) 監査委員の子会社に対する報告徴収・調査に対して、子会社の側では、正当な理由があるときは、拒むことができます(405条3項)。正当な理由があることは、拒否する子会社が証明しなければなりません。 監査役の子会社調査権を規定した381条3項と議論は重なりますが、子会社の営業秘密の保持を正当な理由とすることができるかという問題です。 監査委員の子会社への報告徴収・調査の権限は、監査委員会の職務を遂行するために必要があるときに限って、その範囲内で行使することができるもので、それを超えて行使することはできません。さらに、子会社が独自の利益主体であること、また、親会社の監査委員が当然には子会社に対して守秘義務を負うものでないことなどから、子会社は営業秘密の保持を理由として報告・調査を拒むことができると考えられます。 ü
報告の徴収・調査に関する事項についての監査委員会の決議(405条4項) 監査役設置会社では、複数の監査役がいる場合に、監査役による権限の行使は381条に定められた報告の徴収・調査の権限を含めて、各監査役が単独で行うことができます。また、監査役会設置会では、監査役会による監査の方針や監査役の職務の執行事項の決定によって監査役の権限の行使を妨げることはできないととされていて、監査役の独任制が保障されています。 これに対して、監査委員の場合には、報告の徴収・調査の権限は監査委員会が選定した監査委員のみが権限を有します。監査委員は、監査役とは違って独任制をとられていません。その理由は、複数の監査委員が組織的な監査を行うほうが監査の実効性が高まること、また、会社の内部統制部門に対して独任制をとる複数の監査委員から指示がなされるとすれば組織が混乱するためだとされています。さらに、監査委員会は監査役の場合違って違法性監査だけにとどまらず妥当性監査をも行うことから、妥当性監査の際には監査委員会の多数決によって判断をし、組織監査を行うほうが、むしろ効率的であることからも独任制はとられていません。 それゆえ、監査委員会が選定する監査委員は、報告の徴収・調査に関して監査委員会の決議があるときは、その決議に従わなければなりません。 ü
報告の懈怠・調査妨害等 監査委員会から選定された監査委員の報告徴収・調査に対して、執行役等が報告を怠ったり、調査を妨害した場合、また、執行役等が使用人にによる報告を妨げた場合には、その事実は、調査のために必要な調査ができなかった旨及びその理由が、監査報告に記載されます。また、子会社が報告を怠り、子会社の経営陣や使用人が調査を妨害した場合も同じです。 指名委員会等設置会社及び子会社の執行役・取締役・支配人が、監査委員の調査を妨げた場合、100万円以下の過料に処せられます(976条)。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 監査委員会による調査(405条) 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |