新任担当者のための会社法実務講座
第422条 株主による
執行役の行為の差止め
 

 

Ø 株主による執行役の行為の差止め(422条)

@六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、執行役が指名委員会等設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該指名委員会等設置会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、当該執行役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

A公開会社でない指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。

 

ü 株主による執行役の行為の差止め

株主による差止請求は取締役に対する360条の規定がありますが、執行役に対する差止請求は、取締役に対するものと趣旨は同じです。したがって、制度の内容は360条に準じます。但し、執行役は氏名委員会等設置会社のみ設置できる機関ですから、この制度は氏名委員会等設置会社に適用は限定される制度です。

つまり、指名委員会等設置会社の場合は、執行役の違法行為等に対する差止めは第1次的には監査委員による差止請求(407条)が起こされることになります。これは、株主による差止請求は監査委員によるものと比べて濫用の危険が高いと考えられているからです。その結果差止の対象となる執行役の行為によって会社に「著しい損害が生ずるおそれ」の場合だけに監査委員による差止請求(407条)が可能で、これに対して株主からの差止請求は「回復できない損害が生ずるおそれ」に対象が限られます。

一方、株主の側からみると、指名委員会等設置会社の株主は、執行役だけでなく、取締役の違法行為等の差止請求(360条)も行うことかできます。

会社の損害の事後的救済については423条の損害賠償請求や847条の株主代表訴訟がありますが、事前に防止できる手段として、本制度が設けられています

ü 要件

株主による執行役の行為の差止めの要件として、執行役の行為に関する「目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合」と「回復することができない損害が生ずるおそれがあるとき」ということがあげられます。これは360条の場合と同じ考えが準用できると解されています。

「目的の範囲外の行為」については、客観的に会社目的の範囲内であっても主観的に目的の範囲外であれば差止の対象となるとされています。また、「法令若しくは定款に違反する行為」とは、会社法の個別具体的な規程に違反する行為の他、執行役の善管注意義務や忠実義務といった会社法の一般規定に違反する行為、会社法以外の行政法令等の違反の行為も含まれます。また、「回復することができない損害」の具体的事例として、招集手続に重大な瑕疵のある株主総会開催の差止め、善管注意義務に違反する重要な業務執行行為の差止、株主総会決議を経ない自己株式の取得・事業一部譲渡の差止め、手続に瑕疵のある社債発行の差止め等。

ü 差止請求の手続

・差止請求ができる株主

この差止請求をすることができるのは、公開会社の場合には6ヶ月前から引き続き株式を保有する単独株主で、公開会社でない場合には株式保有期間の要件はありません。また、単元満株主については、この請求をすることができない旨を定款に定めることができます(189条2項)。

なお、請求の相手は執行役であり、会社ではありません。

・差止め仮処分

差止請求訴訟の判決確定までに執行役が係争行為、つまり差止請求している行為を為すおそれがある場合には、その執行役に対してその行為の不作為を命ずる仮の地位を定める仮処分が認められます(民事保全法23条2項)。この仮処分は、被保全権利(差止請求権)そのものを実現する満足的仮処分です。その仮処分の内容は、特定の行為をしてはならない旨の、仮処分債務者である執行役に対する不作為命令です。

ü 差止請求権行使の効果

差止請求権は、通常、仮処分により行使されます。その仮処分に違反して執行役が行為すれば、会社に対する不作為義務違反となりますが、その行為により会社に対し損害賠償責任を負わせるには別に訴訟を起こ差なければなりません。仮処分違反の行為の対外的効力については、その仮処分は、執行役に対する不作為義務を課すにとどまるものです。 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)   

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

 
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