新任担当者のための会社法実務講座 第404条 指名委員会等の権限等 |
Ø 指名委員会等の権限等(404条) @指名委員会は、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の選任及び解任に関する議案の内容を決定する。 A監査委員会は、次に掲げる職務を行う。 一 執行役等(執行役及び取締役をいい、会計参与設置会社にあっては、執行役、取締役及び会計参与をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行の監査及び監査報告の作成 二 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定 B報酬委員会は、第361条第1項並びに第379条第1項及び第2項の規定にかかわらず、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定する。執行役が指名委員会等設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、同様とする。 C委員がその職務の執行(当該委員が所属する委員会の職務の執行に関するものに限る。以下この項において同じ。)について指名委員会等設置会社に対して次に掲げる請求をしたときは、当該指名委員会等設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該委員の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。 一 費用の前払の請求 二 支出をした費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求 三 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求 ü
指名委員会の権限(404条1項) 指名委員会は、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあったは取締役と会計参与)の選任・解任に関する議案の内容を決定する権限を有します(404条1項)。株主総会に提出する議案の決定権限は、原則として取締役会にありますが、取締役・会計参与の選任・解任議案に関する限り、指名委員会に最終的な決定権限があります(416条4項5号括弧内)。 指名委員会等設置会社以外の株式会社では、株主総会に提出する取締役の選任議案は取締役会の過半数の決定または取締役の決議て決定されます(298条1項、会社法施行規則63条)。しかし、その実質的な決定権限は不透明で、社長の専権事項のように運用されている会社が少なくありません。指名委員会等設置会社の場合も、取締役候補者の原案は代表執行役が指名委員会に対して提案するケースが多いと考えられます。しかし、指名委員会は社外取締役が過半数を占めており、最終的な決定権限を有することで、代表執行役のような最高連力者有する実質的な人事権を薄め、社外の目から見ても執行役等の監督を十分にできる人材が取締役に選任される仕組みを構築することを目的としているものです。 このような趣旨から、取締役の選任及び解任議案の内容を決定する権限は、指名委員会に専属するものとされています(416条4項5号括弧内)。取締役会は、取締役の選解任議案の内容を独自に決定することはできないし、指名委員会が決定した議案について取消や内容の変更をすることもできません。そのような指名委員会が決定したのとは異なる内容の議案が株主総会で可決された場合、決議の取消事由(831条1項)となります。 指名委員会は、事業年度の途中で取締役の追加等が必要であると判断した場合、取締役候補者を決定し、その後で、指名委員会がその委員の中から選定する者に、取締役会を招集させることができます。取締役の解任を行うときも、同様に指名委員会の主導で取締役会を招集することができます。ただし、いずれの場合も、取締役会が株主総会の招集を決定しなければ、指名委員会としては、定時株主総会を待つほかはないことになります。 ※法定の指名委員会以外の委員会を設けた場合の権限 取締役会の中に法定の三委員会以外の委員会を任意に設けた場合には、その委員会には、取締役会に代わる業務執行の決定権はありません(416条3項)。しかし、例えば、定款の定めによって、その委員会の所管に属する事項について、その委員会の承認を得れば法定の取締役会の決議要件による決議で会社の意思決定とできますが、その委員会の承認を得ていない議案は法定決議要件を上回る特別の決議要件による取締役会の決議によらねば会社の意思決定とならなと定めることにより、任意の委員会に強い権限を持たせることは、できないことではありません。 ・執行役の選任・解任 指名委員会は、執行役の選解任に関する権限を有しません。その理由は、執行役に対する監督権限が取締役会に属しており、執行役については、それを選任するだけでなく、その職務の分掌、指揮命令関係その他の執行役相互の関係も定めなければならず(416条1項)、それと執行役の選任とは密接に関連することから、その双方について業務の決定の一環として取締役会に決定させることとされています。 ただし、指名委員会等設置会社の内部規則によって執行役候補者を指名委員会が取締役会に提案する旨を定めることはできます。また、取締役を兼任する執行役については、取締役としての選任議案の内容の決定権限は指名委員会にあることから、間接的に執行役の選任ついても権限を及ぼすことができるという考え方もあります。 ・取締役の選解任議案の決定方針 報酬委員会は、取締役の報酬の決定に関する方針を決めることになっていますが、これに対して、指名委員会は、取締役の選解任議案の内容の決定に関する方針の決定についての規定は会社法では決められていません。しかし、決定の恣意性を排除するためには、取締役の候補者の選定や解任について、何らかの基準を設けることは、会社法で否定していません。また、取締役の選解任議案の内容を決定するに当たって、再任される取締役については、これまでの業績等の評価が、また、取締役の解任の前提として解任の原因となる事由・行為等の事実関係の確認が、実際には必要となるでしょう。 指名委員会が取締役の選解任議案の内容の決定権限を有する趣旨から、取締役会が取締役の選考基準を定めて指名委員会を拘束することはできません。しかし、執行役や指名委員以外の取締役が、取締役候補者について原案を提示するなど、一定の関与をすることは禁止されていません。 ・取締役の選解任議案の決定に際しての外部コンサルティングの利用と費用 指名委員会は、取締役候補者の選定にあたって、コンサルティング会社を用いて適当な人材を探すことができ、その費用の償還等を会社に請求することができます(404条4項)。 ü
監査委員会の権限(404条2項) 監査委員会は、執行役等(執行役、取締役、会計参与)の職務の執行を監査する権限を有します。 「職務の執行」とは、執行役等がその地位に基づいて行うすべての行為であり、会計的な側面に限られず監査の対象となります。 監査委員は、執行役等の職務の執行が法令・定款に違反しないかどうかという観点から監査をします(適法性監査)。これによって違法行為が見つかれば、場合によっては、その差止請求を行い(407条)、また、執行役等に対して訴えを提起し(408条)ます。このような違法性監査を行なう点では監査役の権限(381条1項)と同じものです。さらに、監査委員は同時に取締役会構成員であり、取締役会で議決権を行使します。そのため、監査委員会による監査は、執行役による業務執行の妥当性も監査することになります。指名委員会等設置会社における業務執行の妥当性確保のためには、指名委員会・報酬委員会の役割が重要となっていますが、これらの委員会の委員である社外取締役が必要情報を十分に得るためには、監査委員会の役割および監査委員会との連携が不可欠となっています。 また、監査委員会は、取締役の職務執行も監査対象となります。指名委員会等設置会社の取締役は業務を執行することができない(415条)ので、監査委員会は取締役会を通じた執行役等の職務の執行の監督と執行役に委任されなかった業務の執行の決定です。このような取締役の職務の執行の監査を行う方法は、取締役会に出席し、そこでの報告を聞き、各取締役の取締役会での行動について監査することになります。 このように監査委員会は監査のためのさまざまな調査権を有し(405条)、この他に違法行為に対する差止請求や訴えの提起などいった是正権限も有し、あるいは監査報告を作成する報告権限も有しています。 ・監査委員による業務監査 a.組織監査 監査委員会は監査役の場合のような各監査役が独自な活動をする独任制をとっていないため、監査委員会が組織として監査を行い、各監査委員は委員会に従うことになります。実際に監査権限を行使するのは監査委員会から選定された監査委員です。具体的には次の@を中心に、場合によってはAを含み、またBのように監査役会に近い形で行われる場合もありえます。 @)内部統制と会計監査人の独立性確保と活用 監査委員会は、過半数を社外取締役が占め、常勤の監査委員を置くことを義務付けられていないため、監査委員会の活動の中心は、会計監査人の独立性の確保と内部統制に関する監視となります。とくに、執行役等の業務執行についての監査は、内部統制システムを整備した上で、この内部統制システムを利用して監査を行うことになります。したがって、監査委員会による監査は、内部統制システムが適切に構成・運営されているかを監視することになります。 A)執行役の業績評価 執行役が取締役会の設定した経営の基本方針ないし目標に向かってどの程度職務執行したか等、指名委員会・報酬委員会がコーポレートカバナンス面から評価する際に監査委員会がサポートをするという機能が期待されていると考えられます。 B)監査役会型の監査 指名委員会等設置会社では、常勤の監査委員を置くことが要求されていないのは、社外取締役を常勤の監査委員にすることは難しいこと、また、内部統制システムを前提にした組織的な監査を行うことで、常勤者にわる監査と同等の監査が期待できるからです。かといって常勤の監査委員を禁止しているわけではありません。実務上は常勤者を置いているケースは少なくありません。 ・監査報告書の作成 監査委員会は、計算書類および会計監査報告を受領したときは、次の事項を内容とする監査報告を作成しなければなりません(会社計算規則121条1項、129条1項)。 @)監査委員会の監査の方法およびその内容 A)会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときは、その旨およびその理由 (会計監査人が会計監査報告の内容を通知すべき日までに同通知をしないばあいにあっては、会計監査報告を受領していない旨) B)重要な後発事象(会計監査報告の内容となっているものを除く) C)会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項 D)監査のために必要な調査ができなかったときは、その旨およびその理由 E)監査報告を作成した日 この監査報告の内容は、監査委員会の決議をもって定めなければなりません(会社計算規則129条2項)。監査委員は、@からEに係る監査報告の内容が監査委員の意見と異なる場合には、その意見を監査報告に付記することができます。(会社計算規則129条1項) ・会計監査人の選解任議案・不再任議案の内容の決定 監査委員会は、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容決定を権限としています(404条2項)。この権限は監査役会が有する権限(344条)と同じ趣旨のものです。会計監査人の選解任議案等について決議するための株主総会を招集する権限自体は取締役会にあります(416条4項)が、監査委員会が指名した監査委員は、そのような招集決定のために取締役会を招集することができます(417条1項)。 なお、指名委員会等設置会社の会計監査人の報酬は、業務執行者が定めることができます。会計監査人の報酬の決定は業務執行の決定に当たりますが、416条によって取締役会から執行役への委任禁じられる事項には含まれていないため、執行役に委任することもできます。ただし、会計監査人の報酬の決定については、監査委員会の同意を得なければなりません(399条1項、3項)。 ü
報酬委員会の権限(404条3項) 指名委員会は、執行役・取締役・会計参与が受ける個人別の報酬等(職務執行の対価として付与される新株予約権。退職慰労金を含む)の内容を決定する権限を有します(404条3項)。報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定め、その方針に従い、個人別の報酬等の内容を決定しなければなりません(409条)。公開会社においては、この方針は、事業報告に記載しなければなりません(435条2項、会社法施行規則121条6号)。 報酬委員会の趣旨は、社外取締役が過半数を占める報酬委員会が取締役・執行役・会計参与の個人別の報酬等の内容を決定することによって、取締役の独立性を確保し、監督の実効性を図ることにあります。報酬委員といえども取締役ですから、取締役が取締役の報酬等をきめるわけで、そこにお手盛りの危険が全くないとはいえません。しかし、指名委員会等設置会社の取締役が、その立場で受け取る報酬等及び会計参与の報酬等は、非常勤の者してのものになるので、金額としは多くはないはずです。そこで、株主の利害にとって重要なのは執行役の報酬等ということになります。報酬委員会制度の目的は、社外取締役が過半数の委員がコンサルタント等を利用してその合理的な報酬システムを確立し、かつそれを開示することにより、各取締役の業績の報酬への反映及び株主の利害との調整を図ることにあると考えられます。経営の実行者である執行役の報酬等の決定には、経営者の監督・経営者へのインセンティブの付与という性質もあり、報酬委員会はそのような観点から、執行役の報酬等の決定をすることが求められていると考えられます。 なお、報酬委員会の各委員は、自らの取締役としての報酬の決定にあたっては、決議について特別の利害関係を有する委員として、議決に加わることができません(412条2項)。 ・執行役等の個人別の報酬等の内容の決定 執行役等の個人別の報酬等の内容を決定する権限は報酬委員会に専属し、代表執行役に決定を一任することはできないとされています。また、報酬委員会が決定した個人別の報酬等の内容について、取締役会が取消や変更することもできません。さらに、404条3項では361条1項、379条1・2項の適用が除外されると規定されているため、指名委員会等設置会社において株主総会が執行役等の報酬を決定する必要はないし、報酬委員会の決定を株主総会が覆すこともできません。 報酬委員会は、執行役等の腰弁別の報酬等を決定する際に、つぎのことを決定します。(409条3項) @確定金額とする場合は個人別の額 A不確定金額(会社業績を示す指標に連動する等)とんる場合は個人別の具体的な計算方法 B金銭でない場合は個人別の具体的な内容 ・「報酬等」の意義 「報酬等」とは、報酬、賞与、その他の職務執行の対価として会社から受け取る財産上の利益を言います。 このうち、賞与については、剰余金の処分として総会決議を行うことはできず(452条括弧書)、報酬委員会が「報酬等」として内容を決定していなければなりません。指名委員会等設置会社では、指名委員会等設置会社でない会社の取締役の賞与についても同じような規律となり、両者について併せて規定されています。 ストック・オプションの付与については、会社法制定前は報酬委員会が決定するものではなく、新株予約権の有利発行として、取締役会の決議によって議案の内容が決定され、株主総会の特別決議によって付与が決定されていました。会社法では、「報酬等」にはストック・オプションも含むため、その個人別の具体的な内容等について報酬委員会が決定することになりました。 ・使用人兼務執行役の使用人分給与 指名委員会等設置会社以外の株式会社では使用人兼務取締役の使用人分の給与は通常の使用人の給与体系の一環として社内で決められています。これに対して、指名委員会等設置会社の使用人兼務執行役の使用人分給与は404条3項後段の規定により、執行役等の個人別の報酬等と同様に、報酬委員会がその個人別の内容を決めることになっています。執行役が受けるあらゆる報酬等についての個人別の内容を社外取締役が過半数を占める独立性の高い報酬委員会で定めることによって、取締役会全体としての監督機能を強化することが、指名委員会等設置会社の制度趣旨に適うと考えられるからです。ただし、実務上は使用人兼務執行役の執行役としての報酬の決定に際して、使用人分給与を考慮して、決定することが多いと言われています。 ・執行役等の個人別の報酬等の内容の決定の方法 執行役等の個人別の報酬等の内容が適切に決定されるよう、報酬委員会がそのような権限を行使する際に踏まなければならない基本的な方法が定められています(409条)。すなわち、報酬委員会は、執行役等の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針(決定方針)を定め(409条1項)、その方針に従わなければなりません(409条2項)。 なお、指名委員会等設置会社の取締役及び報酬委員会の委員の任期は1年である(332条3項、402条7項)ことから、執行役等の報酬等について、毎事業年度、新たな報酬委員会によってあらためて決定方針が定められ、これに基づいて個人別の報酬等の内容が決定されます。そのため、報酬委員会は、定時株主総会後に新たに組織された後で、速やかに決定方針を定めることが求められます。 ü
費用の前払・償還請求等(404条4項) 各委員会の委員が、その職務の執行について会社に対して規定されている費用に請求をした場合、会社はその費用請求が委員の職務の執行に必要でないことが証明された場合を除き、拒むことはできません(404条4項)。 委員は取締役であり、会社と取締役の関係は委任の関係ですから、この条文にわざわざ規定しなくても職務の遂行に必要な費用の前払い等を請求することは可能です(民法649条、650条)。404条4項は、そのような費用等の必要性についての証明責任を会社の側に転換する点が、民法の規定とは異なります。このことによって、委員会の職務遂行の充実を図ることを目的としています。したがって、各委員は費用前払い請求等をする場合、それが職務の執行に関する費用であることだけを主張すればよく、会社はその請求を拒むためには、それが職務の執行に必要でないことを証明しなければならないことになります。 なお、「職務の執行」とは、委員が所属する委員会の職務の執行に関するものに限られます(404条4項括弧書)。そのため、例えば、ある委員が取締役会全体の構成員として行う職務の執行について費用前払い請求等を行う場合は民法650条に基づくものとなります。 具体的に想定される場合としては、監査委員が監査費用について前払い請求をする場合の他、指名委員会が取締役候補者の選定にあたってコンサルティング会社を用いる場合、報酬委員会が執行役等の個人別の報酬の内容を決定する際に、報酬コンサルタントの助言を受ける場合などです。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等の権限等(404条) 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |