新任担当者のための会社法実務講座
第407条 監査委員による
執行役等の行為の差止め
 

 

Ø 監査委員による執行役等の行為の差止め(407条)

①監査委員は、執行役又は取締役が指名委員会等設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該指名委員会等設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該執行役又は取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

②前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の執行役又は取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。。

 

ü 差止請求権

監査委員は、「執行役又は取締役が指名委員会等設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合」で、かつ、「当該行為によって当該指名委員会等設置会社に著しい損害が生ずるおそれがある」ときに、当該執行役または取締役に対して、当該行為の差止請求件を有する(407条1項)とされています。これは、基本的には監査役の差止請求権(385条)に倣ったもので、法令・定款を遵守するという執行役、取締役の会社に対する忠実義務(355条419条)を履行させる会社の請求権を、監査委員が会社の機関として会社のために行使するものであって、差止請求権の行使は、会社の機関としての監査委員の義務と解されています。この点において、差止請求権の行使が株主の任意に委ねられています株主の差止請求権(360条、422条)とは性質が異なります。

なお、監査役の差止請求権に準じて、執行役または取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をするおそれがあると認められるとき、または法令定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認められるときは、監査委員は、遅滞なくその旨を取締役会に報告しなければならない(406条)とされています。取締役会が監査委員の報告に基づいて適切な措置をとれば、差止請求権の行使は必要なくなります。監査役については、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものが、法令もしくは定款に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならないとされています(384条)。これに相当する規定が監査委員や監査委員会に関しては設けられていないのは、監査委員は取締役でもあるため、わざわざ384条のような規定を設けなくても、取締役会において他の取締役の違法行為等を指摘してやめさせたり、取締役が株主総会に提出する書類等の違法等を指摘して株主総会への提出を止めさせることが可能なためだからです。そこで、監査委員がしてきをしても取締役会が指摘に従った行動をとらない場合は、差止請求権の行使ということになります。

なお、差止請求権の行使は、監査委員会によらず、各監査委員が独立して行使できるとされています。

ü 差止請求権の要件

・対象となる行為

監査委員の差止請求の対象となる行為は、監査役による取締役に対する差止請求権(385条1項)や株主による執行役や取締役に対する差止請求権(360条1項422条1項)と同じで、次のようです。

ⅰ)目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為

ⅱ)これらの行為をするおそれがある場合

上記のいずれかのを満たしているものか対象となります。

・著しい損害が生ずるおそれ

監査委員の差止請求権のもうひとつの要件として、当該執行役または取締役の行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあることが必要です。これは、監査役により差止請求や株主が取締役に対して差止請求する場合の要件と同一ですが、株主が執行役に対して差止請求をする場合には、回復することができない損害というより厳しい要件が課せられています。監査委員の差止請求権が著しい損害のおそれを要件としているのは、監査役の差止請求権と同様に、まずは監査委員が取締役会への報告を行い(406条)、執行役または取締役に対する本来的な監督機関である取締役会による監督に期待することとし、監査委員による差止請求は、最終的な方法として会社に著しい損害が生ずるおそれがある場合に限定する一方、監査委員は取締役として会社に善管注意義務を負っており、その職務上の義務として請求するのであって、株主による差止請求のような濫用のおそれが少ないためです。

ü 差止請求の手続

・請求の対象となり得る執行役または取締役

監査委員による差止請求の対象となるのは、指名委員会等設置会社において業務執行権を有する執行役と取締役です。

もともと、旧商法の委員会設置会社では執行役のみが対象とされていました。その理由は、委員会設置会社では取締役の権限は業務執行の決定に限られ、業務執行は取締役ではなく執行役がおこなうものとされていたために、執行役が業務執行を行うことを差し止めれば足りると考えられていたためです。それが、会社法では取締役も監査委員による差止請求の対象に加えられたのは、指名委員会等設置会社の取締役にもなお一定の業務執行権限が残っているほか、取締役会及び委員会のメンバーとして意思決定をするだけで法的効果がはっせいするため、差止請求が必要と考えられたためです。例えば、違法な内容の合併契約の決定をする場合などが当てはまります。

・差止請求の方法

 

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条) 

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)  

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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