新任担当者のための会社法実務講座 第332条 取締役の任期 |
Ø 取締役の任期(332条) @取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。 A前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。 B監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員であるものを除く。)についての第1項の規定の適用については、同項中「2年」とあるのは、「1年」とする。 C監査等委員である取締役の任期については、第1項ただし書の規定は、適用しない。 D第一項本文の規定は、定款によって、任期の満了前に退任した監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を退任した監査等委員である取締役の任期の満了する時までとすることを妨げない。 E指名委員会等設置会社の取締役についての第1項の規定の適用については、同項中「2年」とあるのは、「1年」とする。 F前各項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。 一 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の変更 二 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更 三 その発行する株式の全部の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社がするものを除く。)
株式会社の所有と経営を車の両輪のようにして成り立っています。役員とは、その経営を担うもので、その経営を誰に任せるかによって、実際に株式会社の経営は大きく左右されます。ここでは会社法実務について述べていますので、実務面として、会社法のベースになっている役員の原則的なものと実情について簡単に述べておこうと思います。 ü
役員とは何か 会社法では役員を取締役、会計参与及び監査役をいう(329条1項)、としか言っていません。その意義については説明していません。同じ法律でも法人税法では、役員は経営に従事しているかどうかで判断され、会社法にはない「みなし役員」として税法上の経費判断を行っています。 ここでは、株式会社の経営を担っているものとして、3つの視点から役員の意義と機能、つまり役員に求められているものについて考えてみます。 @会社の視点 会社の視点から導き出される役員像は、全社的な意思決定や業務執行、監督等を担う会社組織のリーダーという姿です。多くの社員を擁する組織の舵取りを担う経営者としての役割で、そこに期待されているのは経営パフォーマンス最大化や持続的な成長です。 A株主の視点 株主から見れば、役員とは、会社の所有者である株主からの委任を受けて経営に当たる代理人です。企業価値を高め、株主と利益をともにする代理人としての役割で、そこに期待されているのは株主との利害の共有です。 B役員個人の視点 役員個人としては、高度な知識・能力・経験を要求され、日本ではそうではないかもしれませんが、海外の企業では人材獲得競争の対象となる。アメリカ企業のOfficerは経営の専門家として、優秀な経営者は業界を超えて引っ張りだこである一方で、業績があがらなければ解雇されます。 ü 取締役の任期 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうちの最終のものに関する定時株主総会の終結の時までが基本です。つまり、実質的には選任されてから2年後の定時株主総会まで、ということになります。定款または株主総会の決議によって、その任期を短縮することができます(1項)。実際のところ、最近の上場会社の少なくない会社が、コーポレートガバナンスや機関投資家の基準を重視して取締役の任期を1年と、定款に規定しています。 なお、剰余金の配当等を株主総会でなくて取締役会が定め得る旨を定款で規定する場合には、取締役の任期を1年とすることが条件となる(459条1項)ので、上述の事情と相俟って、取締役の任期を1年としている会社も少なくありません。 ※株懇モデルの定款─取締役の任期を定款で1年に短縮している例 (取締役の任期) 第20条 取締役の任期は、選任後1年以内に終了すね事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 会社法が取締役任期について最長期を定めている理由として、地位の安定によって生ずる沈滞または専横の弊を防止することに加え、取締役選任の母体である株主の変動があることがあげられてきました。会社法の前身である、商法は昭和25年の改正で、取締役の権限を拡大し、その解任を特別決議として困難なものにしました。その代わり、取締役選任の適否を判断し信任の機会を多くする意味から、それまで3年だった取締役の最長任期を2年としました。 会社法では、その商法を引き継ぎましたが、商法では株式会社や有限会社といった会社形態で取締役の任期を別々に決めていましたが、会社法では公開会社と非公開会社によって任期を分けるように改めました。また、取締役の解任は株主総会の普通決議でできるものとなりました。 ※全株式譲渡制限会社の取締役は10年まで取締役の任期を伸長させることができます。 全株式譲渡制限会社、つまり非公開会社では、所有と経営が一致する場合が多く、株主の変動も少ないため、公開会社に比べると頻繁に株主の信任を得る必要性に乏しいとされています。そのため、取締役の任期を10年まで延長できるようになっています。 ※指名委員会等設置会社の取締役の任期は1年間です。 指名委員会等設置会社は、利益の配分等を当然に取締役会が決定できるものとしているため、剰余金の処分についての株主総会決議を通じて取締役を信任する体制にはありません。このことから、取締役の選任を通じて株主総会ごとに株主の信任を得ることが必要であるとされたため、取締役の任期が1年とされています。 ※監査等委員会設置会社の監査等委員でない取締役の任期は1年で、また、監査等委員である取締役の任期は2年で、かつ定款の規定による任期の短縮はできません。 ※一般的終任事由 取締役の任期は、任期満了のほか、取締役の辞任、死亡、会社の解散、欠格事由への該当などにより終了します。任期途中で取締役が退任した場合、選任される取締役の任期を他の取締役と合わせるため、定款に取締役の任期について前任者の任期を引き継ぐ旨を規定している場合もあります。 ※株懇モデルの定款─補欠・増員の任期を規定している例 第○条 補欠または増員として選任された取締役の任期は、前任者または他の在任取締役任期満了の時までとする。 ü 取締役の任期の起算点 会社法では、取締役の任期の起算点について、旧商法において「就任時」(選任後被選任者の就任承諾がされた時)とされていたものを、「選任時」(選任決議をした時)に改めました(1項)。これは、任期の起算点を「就任時」とすると、就任承諾は被選任者の意向に委ねられる結果、株主総会の選任決議と就任決議との間に長期間の隔たりがある場合などにおいて、任期の終期が株主総会の意思に反する事態が生じるおそれがあります。そこで、そのような事態を避けるため、会社法では、任期の起算点を株主総会のコントロールが及ぶ「選任時」とすることとしたものです。また、補欠の役員の選任決議は役員の条件付選任決議に当たるため、会社法上の役員の任期に関する規律は、補欠の役員として選任された者が、被補欠者が欠け、正規の役員に就任することとなった場合であっても適用されます。したがって、たとえば、補欠取締役として選任された者が正規の取締役に就任した場合には、当該取締役の任期については、就任時ではなく、補欠役員としての選任時を起算点とすることになります。 ※就任登記の原因日付は、実際に取締役としての地位を取得するためには選任決議と就任承諾の両方が必要となるため、就任の承諾をした日となります。 ü 経営体制を変更した場合の取締役の更新 経営体制の変更、例えば監査役会設置会社から指名委員会等設置会社あるいは監査等委員会設置会社に移行した場合、またはその逆の場合には、体制の変更の時点で役員の任期は満了となります。例えば監査役会設置会社から指名委員会等設置会社への移行が株主総会で承認されたとき、任期3年目の監査役は、その時点で任期満了となります。 同様に、全株式譲渡制限会社から株式の譲渡に対する取締役会の承認を撤廃した場合、つまり譲渡制限会社から公開会社に移行したときも同じように、役員の任期は満了となります。 ※決算期の変更と取締役の任期 定款変更に取締役の任期が関係する場合として、取締役の任期は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までですから、たとえば平成30年10月の定時株主総会で、従来の7月末決算を3月末決算と改めた場合、平成29年10月の定時株主総会で選任された取締役の任期は平成31年3月末を事業年度の末日としする事業年度の株主総会の終結時まで、つまり10月ではなくて6月までとなります。 ※任期伸長の定款変更と既存取締役の任期 定款変更による役員の任期伸長の効果は、特別の事情がない限り当然に在任中の役員についても及ぶと解されています。これは任期の短縮の場合も同様です。 〔参考〕監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較 公開会社は取締役会設置会社でなければなりませんが、同時に、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの会社形態をとらなければならないことになります。そこで、この三つの形態について簡単に説明し、それぞれの特徴を比較して置くことにします。なお、それぞれの形態についての詳細は、会社法の該当条文のところで改めて説明していきたいと思います。ただし、会社法の条文は、とくに断りがない場合には、監査役会設置会社を標準として規定していて、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社は、それぞれの場合に限定した条文を置いています。 @監査役会設置会社 取締役会が会社の業務につき意思決定を行い、その意思決定に基づく業務執行を、取締役会が選定した代表取締役その他の業務執行取締役が行う一方、取締役の職務執行に対しては、取締役会から独立した監査役が監査を行うという機関構成になっています。監査役会は、3人以上の監査役で構成され、その半数以上は社外監査役でなければなりません。 この経営形態の取締役会が会社法でデフォルトの、とくに断りのない規定で示しているものです。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社の取締役会は、このデフォルトから外れる部分があるので、その部分をとくに会社法では条文にして規定しているわけです。では、取締役会について概説します。3人以上の取締役の全員で構成される取締役会が、その決議により会社の業務執行の決定を行い、その決定を執行する代表取締役または業務執行取締役を選定し、権限を委任し、かつその者の職務の執行を監視する。その会議の手続にも、個人的信頼に基づき選任された取締役相互の協議・意見交換により一定の結論を得るため、代理出席を認めず、かつ3ヶ月に1回以上招集が必要、等の制約があります。一方で株主総会の権限は制約され、他方取締役会の業務執行の監視のため、監査役会の設置が要求されています。 しかし、実際の企業現場においては取締役会の業務執行は会社法の趣旨からは外れてきている場合の方が多くなっていると思います。上場会社の取締役会は、取締役のほぼ全員が代表取締役(社長)を頂点とする執行担当階層組織の一員であるため、その頂点にいる代表取締役を効果的に監督することが事実上困難になっています。 A指名委員会等設置会社 取締役会は、会社の業務についての意思決定を大幅に執行役に委任する一方、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会を通じて、主として執行役に対する監督機関としての役割を担うという機関構成になっています。各委員会は、3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければなりません。 指名委員会等設置会社の取締役会は、監査役会設置会社の取締役会とは根本的な性格が異なるモニタリング・モデルと呼ばれます。これは海外の上場会社に多く見られるもので、株主により選任された取締役からなる取締役会は経営の基本方針の決定、業績評価、業務執行者の選任・解任しか行わず、かつ、取締役会の構成員の全部または大多数は業務執行に関与しない形の機関構成をとっています。 B監査等委員会設置会社 監査役(会)に代えて、監査等委員会が設置される機関構成を採ります。そして、監査等委員会は、監査等委員として株主総会で選任された3人以上の取締役(その過半数は社外取締役でなければならない)によって組織される委員会であり、取締役の職務の執行の監査等を行います。また、監査等委員会設置会社においては、指名委員会及び報酬委員会の設置は義務付けられていません。言わば、監査役会設置会社と指名等委員会設置会社の中間型と言えます。両者のどちらかに近寄っても、折衷的にするのも、企業の状況に応じてある程度柔軟な制度設計が可能(後述の検討事項の扱い方が鍵)。 C監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較
※公開会社でない株式会社の取締役会 旧商法時代からの株式会社は、定款に取締役会を置く旨の定めがあると見なされていたので、非公開の会社にも取締役会設置会社は少なくありません。そのような会社の取締役は、自身が大株主であるか、株主から派遣された者が、員数合わせのための名目的存在かで、いずれにせよ株主から独立した存在ではありません。しかし、だからといって、取締役会において株主の意思の結集が行われることはむしろ稀です。取締役会がワンマン経営者の諮問機関的存在であればいい方で、まったく会議の開催がなかったり、実質的意思決定は株主の間でなされ、取締役会は形式のみという例も多い、というのが実際です。
関連条文 役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条) 累積投票による取締役の選任(342条) 監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2) 監査役の選任に関する監査役の同意等(343条) 会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条) 監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2) |