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第124条 基準日
 

 

Ø 基準日(124条)

@株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。

A基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から3箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。

B株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。

C基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。

D第1項から第3項までの規定は、第149条第1項に規定する登録株式質権者について準用する。

 

株主総会の議決権を行使する、剰余金の配当を受領する等、一定時点で株主・質権者として会社に対し特定の権利を行使することができる者を確定する目的で、会社は、一定の日に株主名簿上に記載・記録された者を株主・質権者とみなし、その者に後の時点で権利を行使させる処理をすることができ、これを基準日の制度と言います。振替株式の場合には、会社は、基準日における振替口座簿上の株主・登録株式質権者について総株主通知を受け取ります。

平成16年以前の旧商法の下では、一定の日から権利行使時点まで株主名簿の名義書換を受け付けない形で名簿上の株主・登録質権者を固定するという名簿閉鎖という方法も認められていました。

そもそも、このような制度が必要になるのは次のようなことからです。すなわち、一般に株式会社は、決算期(ほとんどの会社は3月31日としている)から3ケ月以内に定時株主総会を開催します。その株主総会で議決権を行使し、剰余金の配当を受け取るのはどの時点の株主かが問題となります。その総会では、前事業年度すなわち前年の4月1日から今年の3月31日までの事業年度における事業の決算をして、その結果を確定し、決算期時点で生じた利益をもとに剰余金の配当の議案を承認することになるのであるから、3月31日現在の株主が議決権を行使し、それによって確定された決算とその決算をもとに承認された剰余金の配当を受けるべきであり、その後に株式を譲り受けて株主となった者ではないはずです。このように現実の株主の権利を行使する時点と異なる時点における株主に権利を行使させる必要がある場合に、その方法として次の二つがあります。その一つは名簿閉鎖と呼ばれ方法で、上の例であれば4月1日以降定時株主総会終了まで名義書換請求に応じないという方法です。この場合には、株主名簿上、3月31日現在の株主と定時株主総会当日における株主が同一人となります。二つ目は、その間も名義書換請求には応じるが、定時株主総会において議決権を行使する者は一定の日(3月31日)現在の株主名簿の株主と定めることです。この一定の日を基準日といいます。

ü 基準日の設定

基準日の制度は、会社が一定の日を定め、その時点の株主名簿上の株主(基準日株主)に権利行使をさせる制度です(124条1項)。会社が基準日を定めた場合には、株主は基準日に確定され、その後名義書換を受けた者は、株主名簿上の株主となっても、株主として権利を行使することができないのが原則です(124条4項)。

・基準日を定める手続き

基準日を決定するのは株式会社です(124条1項)。会社は、定款をもって基準日を定めることができますが、定款に定めることは必ずしも必要というわけではありません。

定款をもって定めない場合は、取締役会設置会社の場合は、重要な業務執行の決定(362条)として、取締役会で決定することになると解されています。

・基準日株主が行使することのできる権利の内容

会社は、基準日を定める場合には、基準日株主が行使することができる権利の内容を定めなければなりません(124条2項)。

基準日を設定することのできる権利について、条文の文言では限定を設けられてはいませんが、

基準日の制度は一定時点における株主は誰であるかを会社が把握することが困難であることを考慮して、会社の便宜のために設けられた制度であるという趣旨に照らせば、基準日を設定することのできる権利は、議決権、剰余金配当請求権のように集団的に行使される権利に限られると考えられます。

・振替株式の株主の権利行使と基準日

株式の振替制度で取り扱われる株式について会社が基準日を定めた場合には、振替機関は、基準日時点での株主の氏名(または名称)、住所、株主間の銘柄及び数そのた法務省令で定める事項を、会社に対して速やかに通知しなければならない。これが総株主通知で。この総株主通知に基づいて、会社は、通知された事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません。この記帳・記録によって基準日に株主名簿の名義書換がなされてものとみなされます。これにより、基準日時点で振替口座に記載された株主は、会社に対して株主であることを主張することができ、したがって株主の権利を行使することができることとなります。

他方、振替株式について会社が基準日を定めない場合、株主がその権利(少数株主権など)を行使しようとする時は、一定事項を会社に通知するように振替機関に申し出なければなりません。この通知が個別株主通知で、株主が自分が株主であることを会社に対抗するための対抗要件となり、これによって、株主は名義書換なしで会社に少数株主権を行使できることになります。

・基準日から権利行使日までの期間

@)3ケ月の制限

基準日株主が行使できる権利は、基準日から3ケ月以内に行使するものに限られます(124条2項括弧書)。権利行使時の実際の株主と、権利行使をする株主との乖離があまりに大きいことは望ましくないからです。

この3ケ月間の制限により、例えば株主総会の議決権行使の基準日を定めた場合には、株主総会を基準日から3ケ月以内に開催して議決権行使をさせなければならないことは明らかです。他方、3ケ月以内に行使することの意味が必ずしも明らかでない権利もあります。

例えば剰余金配当請求権については、実務上で、決算期における剰余金の配当ということから基準日後の新株主に対し配当するのは適当でないという考えに立ち、定款に「剰余金の配当は、毎営業年度末日現在の株主名簿の株主または登録した株式質権者に対して行う」と定めて、基準日から3ケ月以内配当の決議をすることとしています。

A)制限違反の場合

このような規定に違反して、基準日と権利行使日との間が3ケ月を超える場合には、基準日後も株主名簿の名義書換は行われ、名義書換が不当に拒絶されることはないため、そこで生ずる問題としては、権利行使時点の実際の株主と権利行使する株主との乖離が大きくなることぐらいで、基準日の設定の効力に大きな影響はないとされています。ただし、権利行使の不当拒絶として会社の損害賠償責任が問題になる可能性があります。

ü 基準日に関する公告

会社が定款によって基準日および基準日株主が行使できる権利を定めた場合には、これを決定するたびに事前の公告をしなくてもよいのですが、定款にその定めがなく、取締役会によって決議した場合には、基準日の2週間前までに、これを公告しなければなりません(124条3項)。これは基準日および基準日株主が行使できる権利を株主に知らせ、株式を取得しながらまだ株主名簿の名義書換をしていない株主が、権利行使のために株主名簿の名義書換をしていない株主が、権利行使のために株主名簿の名義書換をする機会を確保するためです。

なお、基準日に関する公告を欠き、または2週間より短い期間前に公告をした場合に、株主の権利行使の機会を害するので、基準日の設定が無効とみなされるおそれがあります。

ü 基準日後に株式を取得したものの議決権行使

基準日株主が行使できる権利が株主総会の議決権である場合で、基準日から株主総会の会日までの間に@募集株式の発行、A合併等組織再編による株式の発行等がなされた場合には、新株主は基準日に株主名簿に記載されていたわけではありません。しかし、とくにAの場合には議決権を認めるべきだという要請が強く、実務上、基準日制度自体が会社の便宜のための制度にすぎないという考え方の下に、@の場合も含め当該株式の原始株主に議決権を認めた例もあり、こうした例も踏まえて、会社の判断により、基準日後に株式を取得した者に議決権行使を認めることができることとされています(124条4項)。

・基準日後の株式の取得

124条4項に基づいて議決権行使が認められるのは、「基準日後に」株式を取得した者であり、基準日前に株式を取得していたが、基準日までに名義書換を失念していた株主に対する適用はありません。もっとも、会社は、名義書換未了であっても、自らの危険において、基準日以前から株式を取得していた者を株主として認め、その者の権利行使を認めることができると考えられています。

124条4項の文言は、基準日後に株式を「取得した者」とされており、新株発行または自己株式処分による取得に限らず、基準日後に会社以外の者から株式を譲り受けて株式を取得した者も含んでいます。しかし、条文は但書で、当該株式の基準日株主(基準日現在の株主名簿上の株主)の権利を害することができない旨が規定されているため、通常は、基準日後に会社以外の者から株式を譲り受けた者の議決権行使を認めることがはできません。通常、基準日後に株式が譲渡される場合、「権利落ち」と称して議決権行使などができないことを前提に低い価格で取引されているはずでありも会社が一方的に譲受人の議決権行使を認めると、譲渡人の利益が害されることとならです。この場合、譲渡人の同意があれば、譲受人の議決権行使が認められることになるでしょう。

基準日後に新株発行または無自己株式処分がなされ、会社が当該株式の取得者に議決権行使を認めると、基準日株主の行使できる議決権の比率は低下することとなりますが、このことは「当該株式」の基準日株主の権利を害することにはなりません。当該株式について基準日株主は存在しないからです。

・議決権行使を認める決定

基準日後に株式を取得した者に議決権行使を認める旨の決定をするのは、「株式会社」です(124条5項)。文言の上では、議決権行使を認めるかどうかは、新株発行等が行われた後に、会社が自由に決することができるようにも読めますが、次の事項を考慮した上で決めることになります。すなわち、株式が取得される事由に応じ、@募集株式の発行等の場合は募集事項の決定に際して決することを要し、A取得請求権付種類株式、取得条項付株式、全部取得条項付種類株式を会社が取得する際に他の種類株式が交付される場合には、取得請求権付株式等の内容としてその旨を定款で定めておくことを要し、B株式無償割当ての場合はその決定に際して決することを要し、C新株予約権の行使の場合には新株予約権の内容としてその旨を決することを要し、D吸収合併等の場合には合併契約などにおいてその旨をけっしていることを要する、と考えられます。

・議決権行使を認める株主

124条4項の条文では、基準日後に株式を取得した者の「一部」に議決権行使を認めることができるとしています。この文言は、新株発行等が複数回行われた場合に、必ずしも全部の新株主に議決権行使を認める必要がないことを示したものであると解されています。同一の新株発行等で新株主となった者のうち、一部の株主だけに議決権行使させることは、株主平等の原則に反するとして認められません。

複数の新株発行の間でも、ある新株発行等について他の新株発行等と合理的な理由なく異なる扱いをすれば、株主総会の決議方法が著しく不公正であるとして、決議取消事由となり得ると考えられます。

つまり、「一部」という文言は、会社による恣意的な扱いを許容しているわけではないということです。

 

関連条文

 株主名簿(121条)

 株主名簿記載事項を記載した書面の交付等(122条)

 株主名簿の管理人(123条)

 株主名簿の備置き及び閲覧等(125条)

 株主に対する通知等(126条)

 

 
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