新任担当者のための会社法実務講座 第105条 株主の権利 |
Ø 株主の権利(105条) @株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。 一 剰余金の配当を受ける権利 二 残余財産の分配を受ける権利 三 株主総会における議決権 A株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。 株式には、株主が会社に対し有する様々な権利が含まれます。それらの権利は、自益権と共益軒のふたつに分類されます。 自益権は、株主が会社から直接に経済的利益を受ける権利で、剰余金の配当請求権(453条)がその中心で、他に、株主の投下資本の回収を保証する目的の残余財産分配請求権(504条)及び会社株式買取請求権(116条)その他があります。これに対して共益軒は、株主が会社経営に参与しあるいは取締役の行為を監視是正する権利です。例えば、株主の経営参与は株主総会を通じて行われること株主総会を通じて行われることから、総会の議決権(308条)が中心で、他に説明請求権(314条)、提案権(303〜305条)など。取締役の行為を監督是正するものとして、総会決議の取消訴権(318条)、違法行為の差止請求権(360条)、取締役会の招集請求権(637条)、帳簿閲覧権(433条)、検査役の選任請求権(306条)その他があります。 ü
株主の権利の標準型 上記のように株主の権利は、それぞれ対応する条文があります。105条で掲げられている株主の3つの権利は、それぞれ各個の条文の規定が別にあります。つまり、第1項の@剰余金の配当を受ける権利は453条で株主には利益配当請求権があることを規定しているし、A残余財産の分配を受ける権利504条で清算株式会社が残余財産の分配をするときに株主の持株数に応じて割り当てられなければならないと規定され、B株主総会における議決権については、308条で株主は株主総会において、その有する株式1株につき1個の議決権を有すると規定されています。これらの3つの権利は個々に会社法で定められているのに、105条では「その有する株式につき次に掲げる権利」すなわち、これら3つの権利をわざわざ認めているのです。その意味はどこにあるのでしょうか。 これについては、これら3つの権利は株主から奪うことのできない権利であること、すなわち固有権を明文化したという見解があります。これらの固有権の背景には、これら3つの権利を有する株式こそが普通、すなわち株式の標準型であることを宣言するものであると考えられます。この根拠について、@剰余金配当請求権と残余財産分配請求権は、株式市場を活用した定型化された投資に対するリターンが定期的に保障されるという意味において、株式会社制度が証券市場を活用する局面に対応する本質的な権利であり、その意味において投資家としての株主像に対応する権利としての本質を有します。剰余金配当請求権それ自体は、事業活動によって生み出される利益の配分ですが、証券市場を前提としない場合には必ずしも強行法的な要請とは限りませんが、証券市場を前提とする場合には、定型的な金融商品としての株式に標準的に備わった権利としての位置づけがされる必要があると考えられます。市場取引客体としての均一性・同質性の要請が証券市場取引において求められるため、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権の標準装備は証券市場の取引適格性から要請されるものと無考えられます。剰余金配当請求権は事業の継続性と継続的な流通市場の存在を想定した継続的な投資リターンを意味し、残余財産分配請求権は事業停止時における財産のリターンを意味します。この意味において、ときに資本市場の活用を想定する株式会社制度にとっては、この2つの権利は市場取引の客体としての株主にとって普通とされてきたものと考えられます。 また、議決権についてては、株主によるガバナンス関与権、言い換えると経営関与権として4経営に対する統制を表わすものと見ることができます。資本市場一体型の公開性の株式会社にあって、この株主によるガバナンス関与権とは市民社会による企業社会への規律付けという意味を有してきており、その意味で株主権の基本的構成要素と考えられてきました。 ü
105条設置の背景 この規定は旧商法時代には存在せず、会社法の制定において新設されたものです。その新設の背景として次のような事情が挙げられています。 第1に、従来より基本権とされてきた議決権について、会社の価値を最大化させる議決権行使のインセンティブを重視する立場から、硬直的な規制を疑問視する見解が有力となっていたとして、ついには全株式譲渡制限会社では、株主間の議決権配分に関する事前規制は完全に廃止されたとされます。しかし、このような議論はプロ投資家とプロ経営者との間の取決めの実質を有する場合には一定の合理性がありますが、資本市場適応型の無大規模で公開性の株式会社にも妥当する一般論としての正当性を当然もつものではないので、公開性の株式会社を包含する会社法全体をカバーする理由とはなりません。少なくとも公開性の株式会社にとって、議決権はインセンティブの問題として処理すること自体が妥当ではないと言えます。なぜなら、インセンティブを重視する取引の主体とはなり得ないからです。 第2に、種類株式の多様化の拡大による株式の権利内容の相対化が進んだことが挙げられます。これはベンチャー法制にとって一定の限度で合理性を認めることができますが、公開性の株式会社を含むすべての会社に妥当するものではありません。ベンチャー法制を前提とした私的自治ないし定款自治の肯定は、均一・同質で定型的な資本市場取引適格とは異質な、契約ベースの株式を基本的に肯定するものとなりますから、言い換えると株主1人ひとりについて異なる取扱いを認めることを意味しています。 第3に、定款規定あるいは株主総会決議により、株主の権利内容を事後的に変更することが容認されたことが挙げられます。ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合にも種類株主総会決議でそれを認めることができること、全部取得条項付種類株式を利用して、普通株式をその他の種類株式やその他の財産権に強制転換できること、事業再編の際に対価の柔軟化により反対株主を会社から締め出すことができるが、例として挙げられます。株式会社の概念の下にベンチャー法制としての規律と資本市場対応型株式会社の規律という次元を異にする事象を区分することなしに会社法に包含するため、この両者で事後の権利内容の変更を認めるためにも標準的な型が必要となるためです。 関連条文 取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条)
|