新任担当者のための会社法
第296条 株主総会の招集
 

 

Ø 株主総会の招集(296条)

株主総会を開催するためには、まずメンバーを集めなければなりません。それが招集です。招集が株主総会のスターと言えます。したがって、招集について決めるということは、開催について決めることと同じことになります。株主総会は、すべての株式会社に置かれる必須の機関で、株主によって構成され、株主の総意によって株式会社の意思を決定する会議体の機関です。したがって、株主総会が開催されるためには、会議体としての株主総会が一定の手続よって招集されなくではなりません。

@定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。

A株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。

B株主総会は、次条第4項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。

ü 招集時期(1、2項)

招集しないことには株主総会を開催することは出来ません。いつ招集するかで、株主総会をいつ開催するかが決まってきます。そこで、いつ招集するかによって株主総会を二種類に分類します。なお、学説では定時株主総会と臨時株主総会の区別を計算書類の確定・承認等を議題となっているかどうかによるとする議題内容説というのがあるそうなのですが、会社実務では、気にする必要はないと思います。

ü 定時株主総会(1項)

条文の中で「定時株主総会」と言っていますので、この第1項は株主総会の中でも定時株主総会ということに限定してわけです。ここで書かれている内容を分解して箇条書きにしていきましょう。

@定時株主総会は事業年度ごとに招集する。

定時株主総会は、事業年度に1回は招集するということです。だから、事業年度で最低1度は招集しないといけないのです。

A定時株主総会は事業年度終了後一定に時期に招集する。

定時株主総会は事業年度の中でいつごろ招集するのかを決めています。つまり、事業年度が終わった戸で、一定期間のうちに招集するわけです。では、その一定期間とはどのくらいか。

※定時株主総会の招集時期

公開会社であれば、株主総会の招集について定款で基準日を規定しています。例えば、こんな具合です。

「当会社は毎年3月31日の最終の株主名簿に記載または記録された株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。」

では、この基準日とは何かというと、会社法124条で次のように規定されています。

@株式会社は、一定の日(以下この意において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。

A基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使できる権利(基準日から3箇月以内に行使するものに限る)の内容を定めなくてはならない。

(以下略)

このように、定時株主総会で権利を行使できる株主を特定するのは、基準日を設けて、その日現在の株主(株主名簿に登録されている者)とするわけです。一般的には、事業年度の末日、例えば3月決算の会社であれば3月末日を基準日とします。しかし、会社法の規定で、その権利の有効期限は3ケ月間で。したがって、3月末から3ケ月以内に株主総会を開かなければならないことになります。

※定時株主総会の目的事項

定時株主総会の重要な目的事項は、計算書類の承認、計算書類の内容の報告、事業報告の内容の報告、連結計算書類の内容および監査の結果の報告、および剰余金の配当の決定です(438条、439条、444条7項、454条)。これは、臨時株主総会で剰余金の配当の決定をすることができないようにしたためです(454条1項)。

〔参考〕有価証券報告書の提出期限

上場会社等は金融商品取引法に従って、有価証券報告書を決算期末から3ケ月以内に提出しなければなりません。この有価証券報告書の記載項目の中に、剰余金の配当や役員の状況などの株主総会の決議がないと記載できない項目があるため、株主総会を有価証券報告書の提出期限内に開催しなければならない理由となっています。ただし、今は、株主総会前に有価証券報告書を提出するのは可能になっており、実際に提出している会社が何社もあります。

〔参考〕定時株主総会の開催時期を一ヶ月ずらす

会社法やコーポレートガバナンスについて、政府の関係省庁で研究会や有識者会議で様々な検討が行われていますが、その中で、3月決算の会社であれば7月に定時株主総会を開催するということが検討されています。これは海外の機関投資家からの要求があるという事項です。7月とすることによって、会社は準備期間を十分に取ることができるし、機関投資家の側からすれば、招集通知をかなり早期に受け取ることが出来て、招集通知の内容を分析する時間を余計に取ることができるというメリットがあります。現に、アメリカでは、実際に行われています。

これは、日本の株主総会の場合でも、理論的には可能です。それは、上記で説明してきた基準日を4月30日に変更すればいいのです。そのための定款変更が必要になりますが。この場合の問題として、剰余金の配当は3月31日現在の株主に対して行われますので、配当と定時株主総会の株主が同じでないことになることです。剰余金の配当を株主総会で決議する場合、4月10日に株式を売却した株主は、その自分が受け取る配当金の決議に参加できないことになるわけです。

〔参考〕3月決算の会社の6月定時株主総会スケジュールのモデル案

期間の計算方法

事務日程

主 要 項 目

 

 3月31日

 事業年度末日
 

 4月25日

・計算書類等の提出

  @社外役員に対する事業報告等記載事項の照会

 A取締役は

ア.事業報告を監査役に提出

イ.計算書類(附属明細書を含む)を監査役、

  会計監査人に提出

ウ.連結計算書類(附属明細書を含む)を監査役、会計監査人に提出

総会日から8週間前 

(法定5/3

[303,305]

5月6日 

・株主提案権行使期限(株主総会の議題・議案を会社に提案)
計算書類・連結計算

書類・事業報告受領

日から4週間経過日

までに(法定5/21

[会算規130]

 5月10日

・会計監査人は、

   ア.計算書類の監査報告の内容を特定監査役・特定取締役に通知

   イ.連結計算書類の監査報告の内容を特定監査役・特定取締役に通知

事業報告受領日から

4週間経過日までに

(法定5/21

[会施規132]

会計監査人の監査報

告の受領日から1

間経過日までに

(法定5/18

[会算規132]

 5月12日

・特定監査役は、

   ア.事業報告の監査報告の内容を特定取締役に通知

   イ.計算書類の監査役会監査報告の内容を特定取締役・会計監査人に通知

   ウ.連結計算書類の監査役会監査報告の内容を特定取締役・会計監査人に通知

 

 5月15日

・決算取締役会

@計算書類・連結計算書類・事業報告・それらの附属明細書承認

A定時株主総会招集事項及び付議議案決定

・決算発表

総会日から2週間前

[299@]

[442@A]

 6月14日

・独立役員届出書の証券取引所への提出(変更のとき)

・招集通知を電磁的方法により証券取引所に提出

・招集通知の発送

・書類の備置

@計算書類、事業報告、それらの附属明細書、監査報告本店・支店(写し)に備置

 A役員退職慰労金規程を本店に備置(議案あるとき)

総会前日

[311@、会施規69]

 6月28日

・議決権行使書提出期限
基準日から3月以内

[124A]

 6月29日

・定時株主総会、決議通知発送

・取締役会(代表取締役・業務執行取締役選定)

・監査役会(監査方法、報酬配分の協議)

 

 6月30日

・株主総会議事録を作成・備置

・議決権行使書(委任状)備置

・有価証券報告書・内部統制報告書の提出(EDNET

変更が生じたとき

から2週間以内

[915@]

 7月1日

・商業登記申請(役員及び会計監査人等登記)【期限7/13

・議決権行使結果の開示(EDNET)【遅滞なく】

・コーポレートガバナンス報告書提出

総会日から3月間

[310E、311B]

決議日から3月以内

[831@]

 9月30日

・議決権行使書(委任状)の備置期限

 

・決議取消しの訴提起期限

ü 臨時株主総会(2項)

条文は、「株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。」となっていて、第1項は「定時株主総会…」で始まっていましたから、そこが違います。つまり、第1項で定時株主総会について規定していて、第2項は定時株主総会という限定がない株主総会についての条文です。つまり、定時株主総会以外の株主総会について、ここではいつでも招集できることになっている、これを普通は臨時株主総会と呼んでいます。定時株主総会は毎事業年度の一定の日に招集しなければなりませんが、臨時株主総会は、やらなくてもいいし何回やってもいい、いつでもいい。だから臨時です。株式会社で決議しなければいけない必要性が生じたときに招集されるということになります。

したがって、株主総会の招集を決議する取締役会が招集を必要であると判断した場合にはいつでも株主総会を招集できることになります。ただし、法令定款により、定款変更や合併等株主総会の承認または株主総会への報告が要求される臨時的事項が生じた場合には、取締役または取締役会は株主総会の招集を決定しなければなりません。また、取締役または取締役会が株父子総会の招集を必要と判断した場合、及び法令定款により株主総会の決議や報告を必要とする臨時的事項が生じた場合に、常に臨時株主総会を招集しなければならないわけではなく、その事項を定時株主総会を利用して審議し、報告することも可能です。

なお、会社法により臨時株主総会の招集が強制される場合として、裁判所の命令による場合と会社の清算の場合があります。裁判所による招集の場合は、株主が総会検査役の選任を裁判所に申し立て、裁判所が検査役の報告により必要があると認めるときに、取締役に一定の期間内に株主総会を招集することを命じた場合(307条1項)、及び、会社の業務執行に関して不正行為または法令定款に違反する重大な事実があることを疑うに足る事由があるときに少数株主が会社の業務・財産の状況を調査させるために裁判所に検査役の選任を申し立て、裁判所が検査役の報告により必要があると認めたときに、取締役に一定の期間内に株主総会を招集することを命じた場合(359条1項)です。この招集命令が発せられたときは、取締役は取締役会の決議の有無に課かよらず一定期間内に株主総会を招集しなければならず、裁判所の命令に違反して株主総会を開かなかったときは、過料に処せられます(976条18号)。会社の清算の場合は清算人が清算事務を開始するに当たって財産目録及び貸借対照表を作成して株主総会の承認を受けなければならない場合(492条3項)、及び清算人が生産業務を終了したときに決算報告を株主総会に提出・提供してその承認を受けなければならない場合(507条3項)です。その他、取締役が会社法または定款で定めた員数を欠くことになった場合、その選任の手続を怠ったときは過料の制裁がある(976条22号)ので、遅滞なく取締役を選任するための臨時株主総会の招集が実質的に強制されています。

※臨時株主総会の出席株主

定時株主総会で権利行使する株主は3月決算の会社であれば3月31日現在の株主でした。では臨時株主総会の場合は、どうなっているのでしょうか。それには、定時株主総会の場合と同じように会社法124条の基準日を特定することできまってきます。そのために、多くの会社は、定款にこのような規定を置いています。

「必要ある場合は取締役会の決議によって、予め公告して一定の日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録質権者をもって、その権利を行使することができる株主または登録質権者とすることができる。」

つまり、取締役会の決議で基準日を決めることができるわれです。ただし、この場合は定款の文言にもありますが、会社法124条3項によって公告しなければなりません。

〔参考〕臨時株主総会の株主名簿

定時株主総会の場合は、基準日の株主名簿が定例的に作成されて、その会社に届けられていると思います。これは、株主名簿管理人との契約で、期末現在の株主名簿を作成することになっている。そこに登録された株主に株主総会の招集通知を送るわけです。その場合、上場株主の取引による名義書き換えは実質的に保振を介してデータのやり取りが行われています。したがって、株主の状態のデータは保振にあります。しかし、上場会社は定時株主総会のために基準日の株主名簿が必要になってくるので、保振は年2回、すなわち期末現在と中間期末現在の株主名簿のデータを名簿書き換え代理人を通じて会社に提供することになっています。そのデータを総株主通知といいます。

株主名簿は臨時株主総会を招集する際にも、定時株主総会の場合と同様に必要となります。この場合は、臨時株主総会のために臨時で保振に取締役会で決めた基準日現在の総株主通知の作成を保振に依頼することになります。この臨時の場合には作成手数料を保振な支払うことになります。

ü 招集権者(3項)─取締役

株主総会は、原則として取締役が招集します。取締役会設置会社では、株主総会招集の決議を行なって、それに従って代表取締役が招集しています。実際に株主総会の招集通知を見てもらうと、右上のところに通知を発するものとして代表取締役が招集者として記載されています。

これは、多くの会社では次のように定款に記載しています。

「当会社の株主総会は法令に別段の定めがある場合を除き、取締役社長がこれを招集し、その議長となる」

取締役会は意思決定機関にすぎないため、具体的な総会の招集行為は業務執行機関である代表取締役がよって行われることになります。これについて、とくに会社法で定められていないため、各会社では定款で上のように定めています。また、定款でかさねて取締役社長に事故ある時は、取締役会であらかじめ定めた順序に従い、他の取締役が株主総会を招集すると定めています。原則としてこの場合のほかの取締役とは代表取締役である必要があるとされていましたが、会社法では業務執行の範囲は取締役会の決議によって定められることになっているから、取締役会によって定めた他の取締役が株主総会を招集する定款の定めは有効であることが明らかとなっています。したがって、定款に違反して指定された特定の取締役以外の者が招集行為を行った場合には、招集手続が定款に違反することになり、株主総会決議取消事由となります(831条1項)。

また、代表取締役が取締役会の有効な決議に基づかない株主総会を招集した場合は、株主総会決議取消の事由となります(831条1項)。また、代表取締役以外の取締役が取締役会の決議に基づかない株主総会を招集した場合には株主総会決議不存在の訴えの対象となります(830条1項)。
 

関連条文

株主総会の権限(295条) 

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

議決権の数(308条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

書面による議決権の行使(311条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条)  

取締役等の説明義務(314条) 

議長の権限(315条) 

延期または続行の決議(317条)

 

 
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