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第108条 異なる種類の株式
 

 

Ø 異なる種類の株式(108条)

@株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第9号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。

一 剰余金の配当

二 残余財産の分配

三 株主総会において議決権を行使することができる事項

四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。

六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。

七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。

八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの

九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第9号及び第112条第1講において同じ。)又は監査役を選任すること。

A株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。

一 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容

二 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容

三 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項

イ 株主総会において議決権を行使することができる事項

ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件

四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第2項第1号に定める事項

五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項

イ 当該種類の株式についての前条第2項第2号に定める事項

ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法

六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項

イ 当該種類の株式についての前条第2項第3号に定める事項

ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法

七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項

イ 第171条第1項第1号に規定する取得対価の価額の決定の方法

ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件

八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項

イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項

ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件

九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項

イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数

ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数

ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項

ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

B前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。

 

株式会社の構成員である株主にも多様な経済的又は会社支配に関するニーズがあり得ることに配慮して、一定の事項について権利内容等の異なる株式の発行が認められています。これを種類株と呼びます。定款上、内容の異なる二種類以上の株式の内容が規定されている会社を種類株式発行会社といいます。

当初の商法には種類株に関する条文は存在しませんでした。その後、明治32年の改正で配当優先株の記載が加わり、昭和13年の改正で種類株の概念が導入されました。しかし、商法の時代の種類株式の発行は経営状態が悪化した会社が資金調達のために発行する株式というマイナスイメージが強く、あまり利用されませんでした。それが1970年を過ぎると、証券市場の直接金融・株式市場の活性化策として、あるいは会社の側では資金調達の手段として社債の発行には制約が多かったので、種類株式の活用の機会が次第に増えていきました。そして、1990年代になるとベンチャー企業や合弁のような閉鎖的な会社での資金調達の方法として種類株式を活用する動きが活発化します。会社法では、このような動きに応えるように多様な書類株式が規定化されています。

ü 種類株式についての定款の定め

108条1項各号で規定された種類株式を発行するためには、それぞれの種類株式について108条2項で定める株式の内容に関する事項を定款で定めなければなりません(108条2項)。しかし、これにより法定された株式の内容を全部定款で定めなければならないとすると、種類株式の発行の機動性が損なわれるということから、118条3項で剰余金の配当について種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項については、定款でその事項の内容の要綱を定めることを条件に、その種類株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社の場合は株主総会または取締役会)の決議によって定める旨を定款で定めることができることとなっています(108条3項)。

このように法務省令で定める事項については定款では要綱で定めれば足りるということになっています。この法務省令というは、会社法施行規則20条1項に当たります。そこで規定されている、要綱を定めれば足りる事項は、そこで列記されている事項以外の事項という記述の仕方で、実質的には会社法施行規則20条は定款で内容を定めなければならない事項を列挙する内容となっていて、要綱を定めれば足りる事項はそれ以外と、著しく広範囲なものとなっています。

〔参考〕会社法施行規則20条(種類株式の内容)

@法第108条第3項に規定する法務省令で定める事項は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる種類の株式の内容のうち、当該各号に定める事項以外の事項とする。

一 剰余金の配当 配当財産の種類

二 残余財産の分配 残余財産の種類

三 株主総会において議決権を行使することができる事項 法第108条第2項第3号イに掲げる事項

四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 法第107条第2項第1号イに掲げる事項

五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項

イ 法第107条第2項第2号イに掲げる事項

ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該種類の株主に対して交付する財産の種類

六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項

イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨

ロ 法第107条第2項第3号ロに規定する場合における同号イの事由

ハ 法第107条第2項第3号ハに掲げる事項(当該種類の株式の株主の有する当該種類の株式の数に応じて定めるものを除く。)

ニ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該種類の株主に対して交付する財産の種類

七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 法第108条第2項第7号イに掲げる事項

八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 法第108条第2項第8号イに掲げる事項

九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)又は監査役を選任すること 法第108条第2項第9号イ及びロに掲げる事項

A次に掲げる事項は、前項の株式の内容に含まれるものと解してはならない。

一 法第164条第1項に規定する定款の定め

二 法第167条第3項に規定する定款の定め

三 法第168条第1項及び第169条第2項に規定する定款の定め

四 法第174条に規定する定款の定め

五 法第189条第2項及び第194条第1項に規定する定款の定め

六 法第199条第4項及び第238条第4項に規定する定款の定め

・種類株式の内容の要綱

会社法の条文では、種類株式の内容の要綱としてどのていどのことを定めなければならないかについては規定されていません。まず、種類株式の内容をどのようなものにするかは、既存の株主にとっては重大な利害があるので定款で定めることにしています。これは、その定款を変更しようとする時に、株主はまったく定めがないとなると、株主が定款変更に賛成すべきかどうかの判断材料がないことになります。そのためその内容の「要綱」を定款であらかじめ定めておくという仕組みになっている。このような趣旨から、「要綱」とは、一般的には、種類株式の内容のうち、定款変更の決議において株主が適切な判断をするために必要な事項を言い、「要綱」を定めるに当たっては、事後に行なわれる株主総会での細目の決定に参考となる事項について定めれば足りる、というのが一般的な解釈です。

会社法施行規則20章では第1項で定款で定めにければならないこととして、次の項目を列記しています。

@剰余金の配当 配当財産の種類

A残余財産の分配 残余財産の種類

B株主総会において議決権を行使することができる事項 法第108条第2項第3号イに掲げる事項

C譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 法第107条第2項第1号イに掲げる事項

D当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項

イ 法第107条第2項第2号イに掲げる事項

ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該種類の株主に対して交付する財産の種類

E当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項

イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨

ロ 法第107条第2項第3号ロに規定する場合における同号イの事由

ハ 法第107条第2項第3号ハに掲げる事項(当該種類の株式の株主の有する当該種類の株式の数に応じて定めるものを除く。)

ニ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該種類の株主に対して交付する財産の種類

F当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 法第108条第2項第7号イに掲げる事項

G株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 法第108条第2項第8号イに掲げる事項

H当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)又は監査役を選任すること 法第108条第2項第9号イ及びロに掲げる事項

そして、上記項目の以外の項目については要綱で定めることができることになりますが、第2項で列記する事項については定款で具体的に定めなければならず、要綱で定めることはできない事項を以下のものとして列記しています。

@164条1項に規定する定款の定め

160条2項及び3項では、会社が特定の種類株主から自己株式を取得するに当たり、特定の種類株主以外の種類株主が取得をする株主に自己も加えることを請求することができるようにされていますが、164条1項は定款によりこの規定を適用しない旨を定めることができることとしています。

A167条3項に規定する定款の定め

167条3項では、種類株式としての取得請求権付株式の取得の対価が当該会社の他の株式である場合において、対価の交付に際して端数があるときはこれを切り捨てて金銭を交付するに当たっての金額の算出基準について定款で定めることができるとしています。

B168条1項および169条2項に規定する定款の定め

168条1項では、取得条項付株式を会社が取得することになる事由を、当該会社が別に定める日が到来することと定款に定めている場合において、その日は株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議により定めることとしていますが、定款で別段の定めをすることを認めています。また、169条2項では、取得条項付株式の一部を会社が取得することとしている場合における取得する株式の決定は株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議により定めることとしていますが、定款で別段の定めをすることを認めています。

C174条に規定する定款の定め

174条は、会社は、譲渡制限株式を相続その他の一般継承により取得したものに対して、当該株式を当該会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができるとしています。

D189条2項および194条1項に規定する定款の定め

189条2項は、単元未満株主が当該単元未満株式について同項列挙の権利以外の権利の全部または一部を行使することができない旨を定款で定めることができるとしています。194条1項は、会社は、単元未満株主が当該会社に対して単元未満株式売渡請求をすることができる旨を定款で定めることができるとしています。

E199条4項および238条4項に規定する定款の定め

199条4項は、種類株式発行会社において募集株式の種類が譲渡制限株式であるときに、当該種類株式に関する募集事項の決定は、当該種類株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めをすることができるというものです。また、238条4項は、譲渡制限株式の新株予約権の募集について同様の定款の定めができるという規定です。

・要綱に基づき株主総会または取締役会の決議により定められた事項

定款で定められた要綱に基づき株式の内容の決定をすることができる会社の機関は、定款の定めに従い、取締役会設置会社では株主総会または取締役会、それ以外の会社では株主総会です。

定款で定められた要綱に基づき株主総会等の決議により具体的に定められた事項は、法的性質としては、株主総会等の決議事項ということになりますが、種類株式の内容となり、会社と種類株主との間の権利義務を定めることになるわけです。これにより当該種類株式の内容は確定したのであり、複数回に分けて当該要綱の定める種類株式を発行するときの株式の内容は同じものとなり、発行の都度、株主総会等の決場により異なる内容の種類株式とすることはできないわけです。このことから、優先配当額以外は同一内容の優先株式を、優先配当額について発行の都度、市場の状況を見ながら発行するシリーズ発行は、発行の都度、別の種類の優先株式として位置づけられることになります。

・定款変更による種類株式への変更・種類株式の変更

設立後の種類株式発行会社ではない会社が新たに種類株式を発行しようとする場合には、種類株式の内容の定めを新設する定款変更を行い、その後募集株式の発行によってその種類株式を発行することが基本となります。しかし、普通株式をのみを発行する会社では、一部の普通株式のみを何らかの種類株式に変更することも、株主全員の同意がある限りで可能となります。このほか、種類株式発行会社となっている会社では、ある種類株式の内容を定款変更によって変更することはできますが、会社法は、ある種類株式を取得条項付株式とし、または取得条項の内容を変更する定款変更に関する特則(111条1項)、ならびにある種類株式を譲渡制限株式とする定款変更および全部取得条項付株式とする定款変更に関する特則(111条2項)を設けています。これらの特則がある場合以外の定款変更については、一般の定款変更手続により行うことができます。ただし、ある種類株式に損害が及ぶおそれがある場合には当該種類株式の種類株主総会を要することになります(322条1項)。

・株式の内容の公示等

@登記

種類株式発行会社にあっては。発行可能種類株式総数および発行する各種類株式の内容が登記事項となっています(911条3項7号)。登記実務上は、要綱を定款で定めた場合には、要綱を登記しますが、その登記をした場合においては、当該種類の株式をはじめて発行する時までにその具体的内容を定めた時は、発行する各種類の株式の内容の変更を登記しなければなりません。

A株券

種類株式発行会社である株券発行会社では、当該株券に係る株式の種類およびその内容が株券に記載されていなければなりません(216条4項)。なお、種類株式発行会社は株券発行会社となる場合には全部の種類の株式については全部の種類の株式について株券を発行しなければなりません(214条)、一部の種類の株式についてのみ株券を発行することはできません。

B振替株式

書類株式が振替株式として発行されるとき、または会社の成立後に株式を振替株式とすることについて無同意するときは、発行会社は、振替機関に対して、株式に関する諸事項の通知をしなければなりませんが(社債株式振替130条)、その通知事項に株式の内容が含まれています。振替機関は、この通知があった場合、ただちに政令で定める方法により、加入者が株式の内容を知ることができるようにする措置を執らなければなりません。

・108条2項に基づく定款記載事項以外の事項についての定款の定め

種類株式を発行する場合、定款に法定の事項以外の事項について定めを置くことが少なくありません。とりわけ、会社が株式分割、無償割当て、株式併合、株式割当てによる募集株式または新株予約権の発行を行う場合の各種株式についての取扱いについて定めることが多いようです。典型的には、社債型の優先株式の、会社が普通株式について株式分割等を行う場合にも優先株式については株式分割をおこなわないとする定めや、普通株式型の優先株式において、会社が株式分割等を行う際に普通株式と優先株式を同一の分割比率にする応じて分割するが、その場合に優先株式の優先配当額を減額することとし、1円未満については切り捨てる旨の定めです。これらの定めは、例えば、株式分割を行う場合に優先配当額をそのままにして優先株式も分割すると株式分割後は優先株式に対する優先配当額が増加し、普通株主に損害が及ぶので、この株式分割については普通株主の種類株主総会決議を要することになるので、種類株主総会開催の負担を回避しようとして株式分割における種類株式の取扱いについてあらかじめ定款で定めておくものです。

会社法では、株式分割の場合には、その行為の都度、種類株式ごとの取扱いについて定めることになり、その取扱いによりある種類の株主に損害が及ぶおそれのある場合にはその種類株主の種類株主総会決議を要することになります(322条1項)が、定款であらかじめ株式分割等の場合の取扱いについて定めておき、そのとおりに処理すれば種類株主総会決議を要しないとすることができれば、負担をかるくすることができる、ということです。

また、会社法では、ある会社の行為がある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合であっても、種類株式の内容として種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができるとされています(322条)が、その場合には、損害の及ぶおそれがある種類株主は株式買取請求権を有することになります(116条1項)。

ü 剰余金の配当についての種類株式

会社は、剰余金の配当について異なる定めした、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項1号)。従来、実際に多く発行されてきたのは優先株式、すなわち、他の株式に先んじて剰余金の配当を受け取る権利がある株式です。これに対して、他の株式に遅れてしか剰余金の配当を受け取れない株式は劣後株式と呼ばれ、標準となる株式は普通株式と呼ばれます。

旧商法のころの利益配当についての種類株式は、優先株式と劣後株式という配当の優先性や劣後性のもののみがみとめられているだけでした。したがって、例えば、2種類の株式を作り、一方の種類株式には他方の種類株式に対するよりも2倍の配当を行うというようなものは発行できませんでしたこのような限定された状況で、平成13年ソニーがトラッキング・ストックの発行を企図し、その可否が問題となりました。というのも、例えば、子会社の利益に連動して配当が行われるトラッキング・ストックを考えると。子会社の利益があればそれに連動する親会社である発行会社の配当はトラッキング・ストックのみに支払われるので、その限りでは優先株の要素があるといえますが、子会社に利益がないときは、トラッキング・ストックには配当はなく、他の配当財源から他の種類株式に対する配当がなされるので、その面から見れば優先株とは言えないという問題です。その後の会社法では、このようなことを考慮して、剰余金の配当についての種類株式はその態様を問わず自由に設計して発行することができるというものとなりました。これにより、これまで実務で考えられた配当に関する種類株式は、会社法では問題なく発行できるようになりました。

・定款の定め

剰余金の配当についての種類株式を発行する場合には、定款において、種類株式に交付する配当財産の価額の決定方法、及び剰余金の配当をする条件、発行可能種類株式総数、その他剰余金の配当に関する取扱いの内容を定めなければなりません。それぞれの項目について見ていきましょう。

@種類株式に交付する配当財産の価額の決定方法

配当財産の価額をどのように決定するかについて、その方法を定款であらかじめ定めておくということです。優先株式であれば、優先配当額を確定金額で定めることの他、算定式を定めることでも客観的に優先配当額額が確定可能であれば差し支えありません。他の種類株式よりも〇倍の配当を受けられる種類株式ということでも、配当額が算出可能なので定款の定めとしては十分です。トラッキング・ストックの場合でも、対象子会社の利益ないし配当額や対象事業部門の利益ないし配当額に連動してトラッキング・ストックに対する配当額が算出可能なような定めであれば十分ということになります。優先株式については、優先配当額の決定方法として、累積・非累積の区別、参加・非参加の区別を、つまりどちらであるかを決めることが必要です。

(ア)累積・非累積の区別

ある事業年度の配当可能額では定款で定められた優先配当額全額を支払うことができない場合に、翌年度以降に累積され、この累積した優先配当が全部支払われなければ普通株式以下の配当をすることができないこととされているものが累積的優先株式です。これに対して、ある事業年度に優先配当するだけの配当可能額が存在しない場合や、配当可能額は存在するが配当の決定機関が優先配当をしないことと決定した場合には、その年度の優先配当はされないままに終わり、翌事業年度以降に累積されないのが非累積優先株式です。

(イ)参加・非参加の区別

優先株式に対して優先配当をした後に残った配当可能額の配当において、優先株式も普通株式とともに配当を受けることとされているのが参加的優先株式であり、優先配当の支払いを受けると、その後の配当は優先株に対してはなされないというのが非参加的優先株式です。参加の態様としては次のものがあるといわれています。

@)単純(普通)参加

優先株式が所定の優先配当を受け、その後普通株式が同額の配当を受け、さらになお残余の配当可能利益がある場合に優先株式と普通株式とが平等に配当を受けることとされているもの。

A)即時参加

優先株式がまず所定の優先配当を受けて、その後ただちに優先株式と普通株式とが平等に配当を受けることとされているもの。

B)特殊参加

@)とA)以外の参加の方法

A剰余金の配当をする条件

一定額以上の剰余金額がある場合にのみ優先配当をするという停止条件の定めや、剰余機関が一定額未満しかない場合には優先配当はしないという解除条件の定めなど、配当について条件を付すことができますが、その場合にはその条件を定款で定めなければなりません。例えば、対象子会社の利益に連動するトラッキング・ストックでは、対象子会社の取締役会が定時株主総会に利益処分案を提案することを配当の条件とするなどです。

また、一定の期間経過後は優先配当はしないことにする、あるいは一定の期間経過後に優先配当をすることとする旨の定めも一種の条件として可能です。

Bその他剰余金の配当に関する取扱いの内容

配当すべき時期や配当すべき財産の種類などについて、その内容を定めておくべくことがあります。

例えば中間配当における優先株の取扱いについて、中間配当時に優先株主に優先配当額の2分の1相当額の優先中間分配金を普通株主に優先して支払い、中間配当が行われたときは、その事業年度の決算期における優先配当額は所定の優先配当金額から中間優先配当分を控除した額とする旨の規定。あるいは四半期配当をする場合の優先配当の取扱いなど。

・要綱の定め

剰余金の配当についての種類株式について、法務省令で定める事項、配当財産以外の事項は要綱を定款で要綱を定めることができます。ここでいう配当財産の種類とは、金銭その他の財産の種類であり、したがって配当についての種類株式についてはすべて要綱を定款で定めればよいことになります。

1株当たり優先配当上限金額を定める。1株当たりの上限金額と下限金額を定める。あるいは1株当たりの配当性向の上限率を定める。配当性の上限率および下限率を定める。といったものです。

ü 残余財産の分配についての種類株式

会社は、残余財産の分配について異なる定めをした、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項2号)。従来、実際に多く発行されてきたのは優先株式、すなわち、他の株式に先んじて残余財産の分配を受け取る権利がある株式です。これに対して、他の株式に遅れてしか剰余金の配当を受け取れない株式は劣後株式と呼ばれ、標準となる株式は普通株式と呼ばれます。典型的なものとして、社債型の配当優先株式においては、優先株主には発行価額ないしは払込金額について残余財産の分配について優先権が与えられるという非参加型の定めとなるし、普通株型の配当優先株式においても優先株主には発行価額ないしは払込金額について残余財産の分配について優先権が与えられたうえで、優先株主は普通株主とともに残りの残余財産の分配を受けるというようなことです。

・定款の定め

残余財産の分配についての種類株式を発行する場合には、定款において、種類株式に交付する残余財産の価額の決定方法、及び残余財産の種類、発行可能種類株式総数、その他残余財産の分配に関する取扱いの内容を定めなければなりません。残余財産の分配においても現物の分配を行うことができる(505条)ため、財産の種類を規定することとされています。残余財産の種類以外の事項については要綱を定めれば足りる(会社法施行規則20条1項2号)ことになります。

優先配当額については定款で上限を定めればよいとされましたが、残余財産の分配については、1株当たりの残余財産の分配における優先額を定める。総額記載方式(1株当たりの残余財産の分配額ではなく、当該種類株式に支払われる残余財産の総額を規定するもの)、配当性向方式(普通株式の受ける残余財産分配額の〇倍の相当する額と規定するもの)については登記が可能とされています。

ü 議決権制限株式

会社は、株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めをした、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項3号)。たとえば、ある種類の株式は総会決議事項のすべてについて議決権を有する(議決権普通株式)が、他の種類の株式は一切の事項について議決権がない(完全無議決権株式)とか、一定の事項について議決権を有するものとすることができます。3種類のうち後者の2種類を議決権制限株式といいます。旧商法の平成13年以前は、少額出資者が会社を支配することにたいする警戒から、、剰余金の配当に関する優先株式に限り議決権がないものとできて、しかも優勢配当額の支払がない場合には、当該株式の議決権が復活するものとされていました。しかし、中小企業の共同経営者間、合弁会社のパートナー間等においては、例えば持株比率は6対4であっても議決権比率は1対1にしたい等、資本多数決によらない支配権分配を行うニーズが高くなりました。それにより、平成13年以降、多数派が所有する株式の一部を議決権制限株式とすることにより、そういうニーズを満たすことができるようになりました。会社法では、議決権が全くない株式、特定の事項についてのみ議決権を有する株式、特定の事項については議決権を有しない株式などを自由に設計することができるようになりました。

議決権制限株式は、すべての会社が発行することができます。この点で、取締役等選任種類株式が全株式譲渡制限会社のみが発行することができるのと異なります。公開会社では、議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1を超えて発行することができないという発行限度の制限があり、その場合は、会社はただちに限度以下にするために必要な措置をとる是正義務が課せられています(115条)。

・定款の定め

定款では、株主総会において議決権を行使することができる事項、および当該種類の株式について議決権の行使の条件を定めるときはその条件を定めなければなりません(108条2項3号)株主総会において議決権を行使することができる事項以外の事項は、要綱を定めればたりる(会社法施行規則20条1項3号)。

議決権を行使することができる事項の定め方としては、ある事項について議決権の有無が確定されればとくに定め方に制限はなく、議決権がまったくない無議決権株式とすることのほか、議決権を行使することができる事項に制限がある株式としては、議決権を行使することができる事項に制限がある株式としては、議決権を行使する事項を列挙する方法、議決権を行使することができない事項を列挙する方法のいずれかも可能です。議決権の有無ないしは制限が定められる事項は、株主総会の議題を単位として定められるのが基本です。

議決権制限株式は、108条1項3号により株主総会で議決権を行使することのできる事項についての種類株式とすることはできません。

議決権行使の条件としては、一定規模以上の合併についてのみ議決権を行使できるとする条件や優先株である無議決権株式において優先配当が一定期間行われないと議決権が復活するという条件が考えられます。

・議決権制限株式の有する権利

議決権制限株主は、株主総会の決議事項の全部または一部について議決権を行使することができないが、そのことによって株主が有する共益権をどのように有するかが問題となります。会社法では、次のように、共益権について権利ごとに議決権制限株主の取扱いが規定されています。

@株主総会において決議することができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主(無議決権株主)を株主から除外する旨が明記されているもの

298条2項(書面投票が強制されるか否かの基準となる株主数)、299条(株主総会招集通知を送付すべき株主)、300条(株主総会の招集手続きを省略するための株主の同意)、306条1項(株主総会検査役選任請求に係る少数要件)、310条7項(議決権の代理行使のための代理権を証する書面閲覧謄写請求権)、358条1項1号(取締役の業務執行検査役選任請求に係る少数要件)、433条1項(会計帳簿閲覧請求に係る少数要件)、522条1項(特別清算手続きにおける調査命令の申立てに係る少数要件)、833条1項(解散の訴えの提起に係る少数要件)、879条1項(特別清算手続の管轄)

A当該株主が議決権を行使することができる事項に限り権利を行使することができる旨が明記されているもの

297条1項(株主総会招集請求権)、303条1、2項及び304条(株主提案権)、319条1項(株主総会の決議の省略についての同意権)、342条1項(累積投票による取締役の選任請求権)、468条3項(略式事業譲渡について株主総会決議による承認をすることを求める少数株主権)

B当該議案について議決権を行使することができない株主を除く旨が明記されているもの

305条4項(株主提案権の再提案の制限の適用要件)

ü 譲渡制限株式

会社は、譲渡による当該種類株式の取得について会社の承認を要する点で、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項4号)。これは、譲渡制限を付すこと自体が種類株式を構成する要素として位置づけられ、極端にいえば、株式その他の内容では全く同一であるが、譲渡の制限の有無のみが異なる株式を2つの種類株式として発行することができるということになります。

・定款の定め

種類株式の発行後に譲渡制限の定めを設ける場合には、通常の定款変更手続きのほか、譲渡制限の定めを設ける種類株式及びその種類株式を交付される可能性のある取得請求権付株式・取得条項付株式に係る種類株主総会の決議を要し(111条2項)、反対株主には株式買取請求権が与えられます(116条1項2号)。また、譲渡制限の定めを設ける種類株式を目的とする新株予約権者にも、その買取請求権が与えられます(118条1項2号)。

株式を譲渡制限株式とするためには、定款において次の事項を定めなければなりません。

@当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨

株式に譲渡制限を付すのは、譲渡により会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することを目的としています。この目的を達成するために、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定めることが認められています。会社の承認を行う機関については、旧商法では取締役会が承認するとされていましたが、会社法では明文の規定はありません。そのため基本的には取締役会が承認するとしても、定款でどこが承認すべきかを定めることを認められていると解されています。

なお、株式の取得について会社の承認を要するものとすることができるのは、株式の譲渡、すなわち合意に基づく株式の移転であり、譲渡以外の事由による株式の移転については、定款の定めによる移転の制限を設けることはできません。具体的には、相続や合併その他の一般承継による株式の移転は、一般承継の効果として当然に株式の移転の効果が生じます。それにより会社にとって好ましくない者が株主となるという問題が生じる可能性がありますが、これについては、会社は、相続人その他の一般承継により譲渡制限株式を取得したものに対して売渡を請求することができる旨を定款で定めることができるという制度(174条)を設けて対応しています。

A一定の場合においては会社が136条または137条1項の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合

株式を譲渡制限株式とする場合においても、譲受人の類型によさっては定型的に会社にとって好ましくない者ではないと考えられる類型あり得るので、譲渡制限の対象から外すことを認めてもよいという趣旨から、107条2項1号ロは、一定の場合に、136条の定める譲受人からの承認の請求または137条1項の譲受人からの承認の請求のいずれについても会社が承認をしたものとむみなす旨を定款で定めることができるものとし、その場合には、定款に、その旨と当該一定の場合を定めなければならないものとしています。例えば、株主の間での株式の譲渡や従業員への株式の譲渡については承認があるものとみなすことが、その例として考えられているということです。ただし、一定の場合の定め方は、株主平等の原則の制限をうけることになります。例えば、特定の者や特定の類型の者が譲受人となる場合についてのみ承認を要するとする定めは株主平等の原則に反するので無効となります。

・登記

株式の譲渡制限も種類株式の内容として登記されますが、株式の譲渡制限に関する事項は公開会社であるかそうでない会社であるかを区別するための重要な指標となります。

ü 取得請求権付株式

会社は、株主が会社に対しその株式の取得を請求することができる点において、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項5号)。すべての株式を均一内容の取得請求権付株式とすることもできますが、取得請求権付株式であるか否かを株式の種類とすることもできます。

会社法の制定前、旧商法では、償還株式であって株主が利益による消却を請求することができるとされていたもの(義務償還株式)、株式の買受についての種類株式であって株主が買取を請求することができるとされていたもの(義務買受株式)及び転換予約権付株式が機能的に首都機請求権付株式に対応します。義務償還株式または義務買受株式は、有償の償還または買受とされる場合の対価は金銭でしたが、種類株式としての取得請求権付株式は、取得の対価は金銭に限らず、多様な対価が認められ、このうち対価が会社が発行する他の株式である場合が、転換予約権付株式に対応します。

・定款の定め

株式を取得請求権付株式とするためには、定款において次の事項を定めなければなりません(108条2項5号)。

@取得請求権付株式である旨(107条2項2号イ

株主が発行会社に対して株主の有する株式を取得することを請求することができる旨を定めることができる旨を定めることが必要です。

取得請求権付株式の会社による取得については、取得の対価の交付についての対価が分配可能額を超えてはならないという財源規制がある(166条1項)ので、株主はこの財源の範囲内でのみ取得を請求することができます。これは法定の条件ということになりますが、定款においては条件がどこまで認められるかが問題となります。

まず、財源規制さえクリアできれば、株主による取得の請求に何らの制限も定めないことは理論的に可能ですが、会社の発行するすべての株式に取得請求権があり、その権利が行使されて取得の効力が生ずることにより、発行済み株式がすべて自己株式になってしまうことになってしまいます。したがって、何らかの制限を加えるということになります。まず、株主が取得することができる株式に数量的な制限を設けるとすると、その制限は、株主平等の原則に従わなければなりません。例えば、株主全体の一定割合について取得請求ができることとするという場合、各株主の持株比率に応じて取得請求ができるというのは問題ないでしょう。しかし、持株数のいかんにかかわらず株主1人当たり〇株という定めは株主平等の原則に反すると考えられます。

また、取得請求権の発生を条件にかからしめる定めも有効と考えられます。一定の金額の払い込みをすること、会社の財産状況が一定の条件を充たしていること、代表取締役の交代や主要株主の異動という条件が挙げられますが、株主平等の原則から、株主の誰にとっても成就し得る条件であることが必要です。

A取得の対価の交付についての定め(107条2項2号ロ〜ホ

株主の請求により会社が株式を取得するが、会社はその対価として何らかの財産を交付すると定めることができます。108条2項2号の規定では、株式1株を取得するのと引換えに交付する財産の種類に応じて、定款で定めなければならない事項を規定しています。言い換えれば、取得の対価として財産を交付するには、定款の定めを置かなければならないのであり、その定めを置かない場合は、株主には対価は交付されず、取得は無償のものとなり、無償消却と呼ばれるものとなります。

@)当該会社の社債を交付することとする場合(107条2項2号ロ

当該会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法

A)当該会社の新株予約権を交付することとする場合(107条2項2号ハ

当該会社の新株予約権(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、新株予約権の内容及び数またはその算定方法

B)当該会社の新株予約権付社債を交付することとする場合(107条2項2号ニ

当該会社の新株予約権付社債についての社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法、そして当該新株予約権付社債に付された新株予約権の内容及び数またはその算定方法

C)当該会社の株式等以外の財産を交付する場合(107条2項2号ホ

当該会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう)以外の財産を交付する場合は、その財産の内容及び数もしくは額またはこれらの算定方法

以上の@からCまでの対価を組み合わせることや、複数種類の対価について株主に選択させること、あるいは会社が対価を選択できるという定めは、取得条項付株式の場合と同様に可能と考えられます。

なお、上記@からCまでの対価に関する定款の定めについては、交付される社債等の額を確定的に定款で定めることのほか、額の算定方法を定めることも認められます。この場合の算定方法についての定めは、株主による取得請求権の行使があった時に一定の数値を当てはめること等により一義的に交付される額が確定できるものでなければなりません。

B取得請求をすることができる期間(107条2項2号ヘ

株主が会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間を定めることが必要です。期間を限定しないという定めも可能です。

種類号)。

・取得の請求・効力の発生

取得請求権付株式の取得の請求は、取得請求権付株式の種類・数を明らかにしてしなければなりません(166条2項)。株券発行会社である場合には、株券を会社に提出しなければなりません(166条3項)。取得請求権は一種の形成権であり、会社は、その請求の日に当然に請求に係る取得請求権付株式を取得し、株主は、同日、定款の定めにより、社債権者、新株予約権者、新株予約権付社債の社債権者兼新株予約権者または無株主となります。

社債、新株予約権、新株予約権付社債または株式を交付する場合には、会社は、それに必要な発行可能種類株式総数を留保しておかなければなりません(114条2項)。

ü 取得条項付種類株式

会社は、一定の事由が生じたことを条件として会社がその株式を強制的に取得することができる点において、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項6号)。すべての株式を均一内容の取得条項付株式とすることもできますが、取得条項付株式であるか否かを株式の種類とすることもできます。

・定款の定め

株式を取得条項付株式とするためには、定款において次の事項を定めなければなりません(108条2項6号)。

@取得条項付株式および取得の態様に関する定め(107条2項3号イ〜ハ

.一定の事由が生じた日に当該会社がその株式を取得する旨及びその理由(107条2項3号イ

一定の事由は、客観的に確定できる事由であれば制限はありません。例えば、確定された年月日が到来したことをもって一定の事由とすること、あるいは会社の行う特定の事業が終了することや株式が上場株式となったなどの特定の事実の発生をもって一定の事由とすることなどが考えられます。

.当該会社が別に定める日が到来することをもって前の事由とするときは、その旨(107条2項3号ロ

取得事由をあらかじめ定款で確定的に定めるのではなく、会社が別に定める日をもって一定の事由とすることが認められています。取得を特定の日とすることとするが、その特定の日をあらかじめ定款で定める定めるのではなく、会社が別に定める手続きについて規定されています。

.一定の事由が生じた日に株式の一部を取得することとするときは、その旨および取得する株式の伊津部の決定の方法(107条2項3号ハ

会社の発行する全部の株式は取得条項付株式である場合に、定款でなにも定めなければ、一定の事由が生じた日に会社の発行する全部の株式を会社が取得する結果となります。しかし、取得条項付株式は、普通は発行済株式の一部を取得することが想定され、かつ、取得される一部を取得することが想定されているといえるでしょう。しかも、取得される一部を定款であらかじめ確定的に定めなくても、確定する方法を定めておけばよい。

A取得の対価の交付についての定め(107条2項3号ニ〜ト

定款の定める取得事由の発生により会社が株式を取得することになりますが、会社はその対価として何らかの財産を交付するものと定めることができます。取得の対価として財産を交付するには、定款に定めを置かねばならず、定めがない場合は、株主には対価は交付されず、取得は無償のものとなります。

@)当該会社の社債を交付することとする場合(107条2項3号ニ

当該会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法

A)当該会社の新株予約権を交付することとする場合(107条2項3号ホ

当該会社の新株予約権(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、新株予約権の内容及び数またはその算定方法

B)当該会社の新株予約権付社債を交付することとする場合(107条2項3号ヘ

当該会社の新株予約権付社債についての社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法、そして当該新株予約権付社債に付された新株予約権の内容及び数またはその算定方法

C)当該会社の株式等以外の財産を交付する場合(107条2項3号ト

当該会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう)以外の財産を交付する場合は、その財産の内容及び数もしくは額またはこれらの算定方法

以上の@からCまでの対価を組み合わせることや、複数種類の対価について株主に選択させること、あるいは会社が対価を選択できるという定めは、取得条項付株式の場合と同様に可能と考えられます。

なお、上記@からCまでの対価に関する定款の定めについては、交付される社債等の額を確定的に定款で定めることのほか、額の算定方法を定めることも認められます。この場合の算定方法についての定めは、株主による取得請求権の行使があった時に一定の数値を当てはめること等により一義的に交付される額が確定できるものでなければなりません。

なお、取得条項付株式の会社による取得については、取得の対価の交付につき対価が分配可能額を超えてはならないという財源規制がある(170条5項)ので、会社はこの財源の範囲内でのみ取得することができるという制限があります。

・定款の定めを設ける手続き

取得条項付株式は、株主の意思にかかわらず強制的に会社による株式の取得の効力が生じる株式なので、会社の発行する全部の株式を取得条項付株式とする定款の定めは会社設立時の原始定款において定めることのほか、会社の成立後に定款変更により定めるには、株主全員の同意を要するという特則が置かれています(110条)。

取得条項付株式であることは、登記事項です(911条3項7号)が、株券発行会社においても株券記載事項とはされていません。したがって、取得条項を設け、また、は取得条項を変更する場合に株券の回収広告は必要ありません。

・取得の請求・効力の発生

会社が取得条項付株式を取得する「一定の事由が生じた日」が定款の定めにより一義的に定まる場合もあり、その場合には、会社は、当該事由が生じた後遅滞なく、取得条項付株式の株主に対して、当該事由が生じた旨を通知しなければなりません(170条3項)。他方、会社が当該日を定めることができる場合(107条2項3号)もあり、この場合には取締役会設置会社であれば取締役会、その他の会社であれば株主総会の決議によりそれを定め、対象株主に対し、当該日の2週間前までにそれを通知しなければなりません(168条)。事前の通知・公告が必要な理由は、それが株主の投資判断等に影響を与えるからです。会社が取得条項付株式の一部を取得する場合には。対象株式の決定後、直ちに通知しなければなりません(169条)。

会社は、上の「一定の事由が生じた日」に、対象株式を取得します(155条1号)。同時に取得対象株式の発生は、定款の定めにしたがい、社債権者、新株予約権者、新株予約権付社債の社債権者兼新株予約権者者または株主となります(170条2項)。

ü 全部取得条項付種類株式

会社は、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができるという内容の種類株式を発行することができます(108条1項7号)。

会社法制定前の旧商法では、会社が債務超過の場合に既存株主の持株を0にする「100パーセント減資」は、同時に株式が発行されるのであれば可能であると考えられていましたが、更生手続・再生手続以外でそれを行う場合には株主全員の同意を要すると解されていました。しかし、株主全員の同意が必要では迅速性に欠けるので、会社法は株主総会の特別決議により会社が株式全部を強制取得することができる一方、取得対価無償等の扱いに不慣れな株主が裁判所に救済を求めることができる「全部取得条項付株式」の制度を新設しました。

・定款の定め

株式を取得条項付株式とするためには、定款において次の事項を定めなければなりません(108条2項7号)。

@取得条項付株式および取得の態様に関する定め(107条2項3号イ〜ハ)

.一定の事由が生じた日に当該会社がその株式を取得する旨及びその理由(107条2項3号イ)

一定の事由は、客観的に確定できる事由であれば制限はありません。例えば、確定された年月日が到来したことをもって一定の事由とすること、あるいは会社の行う特定の事業が終了することや株式が上場株式となったなどの特定の事実の発生をもって一定の事由とすることなどが考えられます。

.当該会社が別に定める日が到来することをもって前の事由とするときは、その旨(107条2項3号ロ)

取得事由をあらかじめ定款で確定的に定めるのではなく、会社が別に定める日をもって一定の事由とすることが認められています。取得を特定の日とすることとするが、その特定の日をあらかじめ定款で定める定めるのではなく、会社が別に定める手続きについて規定されています。

.一定の事由が生じた日に株式の一部を取得することとするときは、その旨および取得する株式の伊津部の決定の方法(107条2項3号ハ)

会社の発行する全部の株式は取得条項付株式である場合に、定款でなにも定めなければ、一定の事由が生じた日に会社の発行する全部の株式を会社が取得する結果となります。しかし、取得条項付株式は、普通は発行済株式の一部を取得することが想定され、かつ、取得される一部を取得することが想定されているといえるでしょう。しかも、取得される一部を定款であらかじめ確定的に定めなくても、確定する方法を定めておけばよい。

A取得の対価の交付についての定め(107条2項3号ニ〜ト)

定款の定める取得事由の発生により会社が株式を取得することになりますが、会社はその対価として何らかの財産を交付するものと定めることができます。取得の対価として財産を交付するには、定款に定めを置かねばならず、定めがない場合は、株主には対価は交付されず、取得は無償のものとなります。

@)当該会社の社債を交付することとする場合(107条2項3号ニ)

当該会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法

A)当該会社の新株予約権を交付することとする場合(107条2項3号ホ)

当該会社の新株予約権(新株予約権付社債についてのものを除く)を交付するときは、新株予約権の内容及び数またはその算定方法

B)当該会社の新株予約権付社債を交付することとする場合(107条2項3号ヘ)

当該会社の新株予約権付社債についての社債の種類(681条1号に規定する種類)及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法、そして当該新株予約権付社債に付された新株予約権の内容及び数またはその算定方法

C)当該会社の株式等以外の財産を交付する場合(107条2項3号ト)

当該会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう)以外の財産を交付する場合は、その財産の内容及び数もしくは額またはこれらの算定方法

以上の@からCまでの対価を組み合わせることや、複数種類の対価について株主に選択させること、あるいは会社が対価を選択できるという定めは、取得条項付株式の場合と同様に可能と考えられます。

なお、上記@からCまでの対価に関する定款の定めについては、交付される社債等の額を確定的に定款で定めることのほか、額の算定方法を定めることも認められます。この場合の算定方法についての定めは、株主による取得請求権の行使があった時に一定の数値を当てはめること等により一義的に交付される額が確定できるものでなければなりません。

なお、取得条項付株式の会社による取得については、取得の対価の交付につき対価が分配可能額を超えてはならないという財源規制がある(170条5項)ので、会社はこの財源の範囲内でのみ取得することができるという制限があります。

・定款の定めを設ける手続き

取得条項付株式は、株主の意思にかかわらず強制的に会社による株式の取得の効力が生じる株式なので、会社の発行する全部の株式を取得条項付株式とする定款の定めは会社設立時の原始定款において定めることのほか、会社の成立後に定款変更により定めるには、株主全員の同意を要するという特則が置かれています(110条)。

取得条項付株式であることは、登記事項です(911条3項7号)が、株券発行会社においても株券記載事項とはされていません。したがって、取得条項を設け、また、は取得条項を変更する場合に株券の回収広告は必要ありません。

・全部取得条項付種類株式の取得

会社が全部取得条項付種類株式を取得するには、取得を決定する株主総会(171条1項)の2週間前の日または取得する旨を株主に通知・公告する日(172条)のいずれか早い日から、取得日後6か月を経過する日までの間、法務省令(会社法施行規則33条の2)で定める事項を記載した書面または電磁的記録を本店に備え置き、株主の閲覧に供しなければなりません(171条の2)。株主総会参考書類には、一定の事項を記載しなければなりません(会社法施行規則85条の2)。株主総会では、取締役がその取得を必要とする理由を説明した上で(171条3項)、特別決議により、@取得対価の種類ごとに対価の具体的金額等またはその算定方法、A全部取得条項付種類株主に対する取得対価の割当に関する事項、B会社による取得日を特別決議しなければなりません(171条1項)。取得対価の額は、定款で定めた決定方法に即したものである必要があり、決議された取得対価に不満な株主は、取得日の20日前から取得日の前日までの間に裁判所に対し、取得の価格の申立てをすることができます(172条1項)。この申立てができることとの関係で、会社は、取得日の20日前までに、全部取得条項付種類株式の株主に対し、取得する旨を通知・公告しなければなりません(172条)。議決権のない株主は、取得の事実を知らない可能性があるからです。

ü 拒否権付種類株式

会社は、株主総会・取締役会・清算人会において決議すべき事項について、その決議のほか、当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要である点において、他と内容の異なる株式を発行することができます(108条1項8号)。すなわち、株主総会・取締役会・清算人会の決議事項に関する拒否権の有無を株式の種類とすることができます。

会社法制定以前の旧商法の平成13年に導入されたものですが、その株式の株主は、定款で定められる株主総会または取締役会の決議事項に対して拒否権を有することになりました。これは、少数株主や経営に関与しない株主が自らの利益を守る手段としての意味があり、株主間契約として行われていたものを会社法上の制度として認めることとしたものでした。典型的にはベンチャー企業においてベンチャーキャピタルが少数株主となるとしても、組織変更、新株発行、利益処分等の重要な決定について拒否権を有するものという例が想定されました。しかし、取締役等選任種類株式が全株式譲渡制限会社にむよってのみ発行可能とされるのに対して、拒否権付種類株式は公開会社も発行可能とされ、上場会社でも1株でも拒否権付種類株式として会社の重要な決定について拒否権を行使することもできることになっていました。なお、導入当初は拒否権付種類株式は独立の種類株式とはされず、いずれかの種類株式に付加できる属性という位置付けで、法令または定款で株主総会や取締役会の決議を要するものされている事項について、定款で、株主総会などの決議のほか当該種類株主総会の決議を要するものと定めることができました。会社法では、株式の種類と種類株式の属性という概念の区別をしないという考え方の下に、拒否権の有無により異なる種類の株式を形成できることとなりました。したがって、他の権利内容についてはまったく同一内容であるが、拒否権の有無のみが異なる2種類の株式を作り出すことができるようになりました。

・定款の定め

拒否権付種類株式について、定款で、当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項、および当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときはその条件を定めなければなりません。当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項以外の事項は要綱を示せば足りることになっています(会社法施行規則201条8号)。つまり、無定款の定めに従い、株主総会、取締役会、清算人会の決議のほか、拒否権付種類株式の株主による種類株主総会の決議がなければ、その効力が生じない(323条)ことになります。

当該化種類株主総会の決議があることを必要とする事項は、108条2項8号により、株主総会(または取締役会)において決議すべき事項です。これらの会議の法定決議事項の一部を拒否権の対象事項とすることもできるますし、法定決議事項以外の定款に基づく決議事項を拒否権の対象事項とすることもできます。

拒否権は、株主総会や取締役会の決議事項について、拒否権付種類株主の種類株主総会の決議があることを必要とするものであるから、株主総会などである行為をすることが等の積極的な決議をすることについての拒否権は合理的意味がありますが、何もしないことの決議、あるいは何かの行為をすることを否決した決議というような消極的な内容の決議についての拒否権は合理的意味がないと解されています。

・黄金株

会社が他の会社に買収されることになる組織再編行為等についての拒否権を種類株式に付与しておけば敵対的買収防衛策となることが可能です。このことに着目して、少数の株式に拒否権を付与した種類株式を黄金株と呼びます。しかし、黄金株は、その株主以外の株主が議決権行使を通じて会社のあり方を決定する事由を特定の黄金株主が制限することになります。そのため、東京証券取引所は、拒否権付種類株式の発行について、取締役の過半数の選解任その他の重要な事項について種類株主総会の決議を要する旨の定めがなされたものの発行は、株主の権利内容およびその行使が不当に制限される行為に当たるとして上場会社に対しては認めないという方針を打ち出しています。

・拒否権付種類株式による種類株主総会

拒否権付種類株式の株主が拒否権を行使するかどうかは、具体的には拒否権付種類株式による種類株主総会の決議により決定することになります。323条は、拒否権付種類株式について、株主総会、取締役会等で決議すべき事項については、当該決議のほか、拒否権付種類株主の種類株主総会決議がなければ、その効力を生じないこと、ただし、種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存在しない場合にはこの限りではないことを規定しています。この種類株主総会の決議要件については324条1項が規定し、決議要件は株主総会の普通決議と同じですが、定款で別段の定めをすることができます。

ü 取締役等選任種類株式

全株式譲渡制限会社では、その株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役・監査役を選任することができるという内容の種類株式を発行することができます(108条1項9号)。この株式を発行した場合には、取締役・監査役の選任は、各種類の株主総会単位で行われ、全体の総会では行われません(347条、329条1項)。

アメリカでは、ベンチャー企業や合弁会社などの閉鎖的な会社で、株主が相互に自己の利益を確保する手段としてクラス・ボーディングと呼ばれる各種類株主がそれぞれ一定の取締役を選任することができることとされる種類株式が活用されています。会社法以前の旧商法下では、累積投票による取締役の選任や議決権制限株式の活用などを通じて間接的に株主が自分の希望する者を取締役に選任する方法が試みられました。それが、平成14年の商法改正で取締役等選任種類株式が導入され、会社法でも継承されました。

・取締役等選任種類株式を発行することができる会社

取締役等選任種類株式だけは、他の種類株式と異なり、発行することができる会社が限定されており、指名委員会等設置会社および公開会社は発行することができません。したがって、公開会社でない会社、言い換えれば、会社の発行する全部の株式が譲渡制限株式である会社ということになります。

取締役等選任種類株式は、種類株式を有する株主が、他の種類株主を有する株主の意向にかかわらず、会社の業務執行等に当たる機関である取締役等の一定数を選解任することができることとする制度であるため、当該種類株式をどのような者が取得するかが、権利の内容の実現が株主総会決議に委ねられている株式や権利の内容が制限される議決権制限株式等の他の種類株式制度と比較して、会社の運営全体に大きな影響を与えることから、誰が株主になるかという点について会社の意思が反映される株式譲渡制限会社に限定して発行を認めることとなりました。裏返せば、公開会社が発行すること認めた場合の会社支配の歪みや一般株主のりぇく侵害のおそれが、株式譲渡制限会社に限定している理由です。

・定款の定め

取締役等選任種類株式については、定款において次の事項を定めなければなりません(108条2項9号)。なお、BおよびCの事項は、定款には要綱を定めれば足ります(会社法施行規則20条1項9号)。

@当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役または監査役を選任することおよび選任する取締役または監査役の数

取締役または監査役の一部だけを種類株主総会において選任し、残余を株主総会で選任するもの定めることはできません。種類株式ごとに、当該種類株主が選任することができる取締役または監査役の数を定めなければなりません。ある種類株式は、取締役または監査役を1人も選任することができないとすることも認められますが、定款においてその旨を定めなければなりません。各種類株主が選任できる取締役の数については特段の制限はなく、定款自治に委ねられます。また、種類株主ごとに選任できる取締役の任期を違えることも差し支えないとされています。

A@の定めにより選任することができる取締役または監査役の全部または一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類および共同して選任する取締役または監査役の数

2以上の種類株式を共同して取締役等を選任することのニーズに応えるもので、共同して選任する株式の種類及び選任できる取締役等の数を定款で定めなければなりません。取締役等の一部の者は、全部の種類株主が共同して選任することができるとすることもできますが、その場合には、そのことを定款で定めなければなりません。この場合でも、株主総会で取締役を選任するのではなく、全部の種類株主により構成される種類株主総会で選任することになります。

B@またはAに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件およびその条件が成熟した場合における変更後の@またはAに4掲げる事項

例えば、ある種類株式について、新株発行や自己株式の取得などにより、その出資比率に変更が生じた場合などのように、取締役等選任種類株式の発行後に事情の変更が生じた場合には、定款で定めた@またはAの定めを変更する必要が生じ得るので、定款でそのような場合に備えてあらかじめ変更について定めておくことができるようにしたものです。

取締役等選任種類株式を活用する場合には、このように事情の変更に備えてあらかじめ取締役等の選任についての定めの変更についても定款で用意しておくことが必要となりますが、実際に定款の設計が十分でなく、必要な取締役等の選任ができなく場合が生じる可能性があります。この事態に備えて、112条で会社法または無定款で定めた取締役の員数を欠いた場合において、そのために当該員数に足りる数の取締役または監査役を選任することができないときは、デッドロックで会社の運営ができなくなることを防止しています。

C@からBまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

会社法施行規則19条は、以下の事項を定めています。ある取締役等選任種類株式により社外取締役または社外監査役を選任することとされる場合には、定款に定める事項を108条2項9号の定款の定めに準じて定めるというものです。

ア.当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役を選任することができる場合にあっては、次に掲げる事項

@)当該種類株主総会において社外取締役を選任しなければならないこととするときは、その旨および選任しなければならない社外取締役の数

A)@の定めにより選任しなければならない社外取締役の全部または一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類および共同して選任する社外取締役の数

B)@またはAに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件およびその条件が成就した場合における変更の@またはAに掲げる事項

イ.当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において監査役を選任することができる場合にあっては、次に掲げる事項

@)当該種類株主総会において社外監査役を選任しなければならないこととするときは、その旨および選任しなければならない社外監査役の数

A)@の定めにより選任しなければならない社外監査役の全部または一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類および共同して選任する社外監査役の数

B)@またはAに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件およびその条件が成就した場合における変更の@またはAに掲げる事項

・定款変更により既発行株式を取締役等選任種類株式に変更する場合

取締役等選任種類株式を発行しないこととなっている種類株式発行会社が、新たに取締役等選任種類株式を発行する場合には、上記の通り、取締役等選任種類株式を発行する場合にはすべての種類株式について取締役または監査役を選任できるか否かおよび選任できる数を定款で定めなければなりません。この場合においては、取締役または監査役の選任について定款改正前よりも制限される種類株式の種類株主総会決議を要することになります。

・取締役等選任種類株主による取締役または監査役の選任または解任

取締役等選任種類株式が発行された場合、株主総会ではなく、取締役または監査役を選任することができることとされている種類株主により構成される種類株主総会において取締役または監査役が選任されることになりますが、この種類株主総会の手続きについては、324条及び325条の種類株主総会の決議に関する規定の適用があるほか、347条が株主総会の取締役または監査役の選任に関する規定(329条1項332条1項341条)を読み替えて適用する旨を規定しています。

取締役等選任種類株式が発行されて場合における、各種類株主により選任された取締役または監査役の解任についても、347条により取締役または監査役の解任に関する規定(339条341条)の株主総会を選任した種類株主総会に読み替えて、当該種類株主総会により解任することとなることが定められています。ただし、339条による取締役または監査役の解任の決議に関しては、定款で、株主総会で決議することなど、別段の定めを設けることができ、また当該取締役の任期満了前に当該株主総会において議決権を行使することができる株主が存在しなくなった場合にあっては株主総会で解任するものとされています。

解任についても選任した書類株主総会の決議によることとなるとも不正の行為や法令に違反する重大な事実があった取締役または監査役でも選任した種類株主が解任しないことがあり得ることになります。そこで、解任の決定をできる種類株主総会で解任の決議が否決されたときは、少数株主による取締役または監査役の解任の訴えを提起できることとされています(854条)。

・取締役等選任種類株式により選任された取締役または監査役の義務と責任

取締役等選任種類株式の制度は、各種類株主が自分の利益を代弁する者を取締役または監査役に選任することに意義のある制度ですが、各種類株主により選任された取締役または監査役は、法的には選任した種類株主の代弁者ではなく、会社から委任を受けた取締役または監査役として会社及び全株主の利益を実現する義務と責任を負います。この点では、取締役等選任種類株式がはっこうされておらず、株主総会により選任された取締役または監査役と異なるところはありません。

ü 発行可能種類株式数

108条2項で、内容の異なる2以上の種類株式を発行する場合には、種類株式ごとの同項各号で定める事項とともに発行可能種類株式総数を定款で定めなくてはならないものとしています。この発行可能種類株式総数というのは、会社法で会社の発行する株式の総数、いわゆる授権株式数を発行可能株式総数と呼んでいるので、そのひとに平仄を合わせたものです。

発行可能株式総数と発行可能種類株式総数との間の関係については、会社法では特段の制限が定められているわけではあれません。したがって、各種類株式についての発行可能株式の合計数が発行可能株式総数の範囲内にある必要はなく、前者が後者を上回ることも禁止されていないとされています。

 
 

関連条文

主の責任(104条) 

株主の権利(105条) 

共有者による権利の行使(106条)

株式の内容についての特別の定め(107条) 

株主の平等(109条)

定款の変更の手続の特則(110条)

    〃           (111条) 

取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条) 

発行可能株式総数(113条) 

発行可能種類株式総数(114条) 

議決権制限株式の発行数(115条) 

反対株主の株式買取請求(116条) 

株式の価格の決定等(117条) 

新株予約権買取請求(118条) 

新株予約権の価格の決定等(119条) 

株主等の権利の行使に関する利益の供与(120条) 

 

 

 

 
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