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第112条 取締役の選任等に 関する種類株式の定数の定めの廃止 |
Ø 取締役の選任等に関する種類株式の定数の定めの廃止(112条) @第108条第2項第9号に掲げる事項(取締役に関するものに限る。)についての定款の定めは、この法律又は定款で定めた取締役の員数を欠いた場合において、そのために当該員数に足りる数の取締役を選任することができないときは、廃止されたものとみなす。 A前項の規定は、第108条第2項第9号に掲げる事項(監査役に関するものに限る。)についての定款の定めについて準用する。
取締役等選任種類株式(108条1項9号、2項9号)に関する定款の定めがある会社において、会社法または定款で定めた取締役の員数を欠いた場合に、そのために当該員数に足りる数の取締役を選任することができないときには、当該定款の定めは廃止されたとみなされます(112条1項)。取締役等選任種類株式は、各種類株式の種類株主が定款で定める数の取締役を選任することができますが、ある種類の株式が取得請求権付株式または取得条項付株式であり、会社による株式の取得により、議決権を行使できる株主がいなくなってしまったため取締役を選任することができなくなり、その結果、会社法または定款に定める員数を欠くことに至った場合などに、その状態を解消するために、取締役の選任に関する種類株式に関する定款の規定は廃止されたものとみなすことにしたという趣旨です。また、監査役の場合(112条2項)も同じです。 ü
定款の定めが廃止されたものとみなされる場合 取締役等選任種類株式については、定款で、種類株主総会で取締役を選任すること及び選任できる取締役の数等を定款で定める(108条2項9号)とともに、これを変更する条件があるときは、その条件及び当該条件が成就した場合における変更後の事項を定めることになっています(108条2項9号ハ)。したがって、条文の通りに定款が規定されていれば、種類株式が取得条項付株式等であり、取得の要件が充たされて当該種類の株式が存在しなくなる場合に備えて、法令または定款の定める員数の取締役の選任をすることができるように、当該種類株の株主が選任できた数を他の種類の株主に再割当てする等の定めを設けることなどができるはずです。しかし、そのような定めが設けられる保障はないので、会社法では、そのような場合に備えて、定款の定めが廃止となると見なされることとしました。 なお、このような場合に、一時取締役または一時監査役の選任をする(346条2項)ことでは対応できません。一時取締役は取締役の員数が欠けた場合に新たに取締役の選任をすることができる場合に限り選任できるのであり、この場合の取締役を選任できない場合には利用できないからです。 ここでいう取締役または監査役を選任できない場合には、種類株式が取得請求権付株式または取得条項付株式であって、それぞれ取得の要件に従い会社により取得された場合のほか、種類株式の全部を会社が自己株式として取得した場合(308条2項)や、相互保有株式であることによる議決権制限のため種類株式について議決権を行使できる株主がいなくなってしまった場合なども含まれます。 いずれかの種類株式について、定款で定める取締役または監査役を選任することができないことになっても、他の種類株主により法律または定款で定める員数の取締役または監査役を選任することができ、これにより法律または定款所定の取締役または監査役の員数を割り込まない場合には、当該定款の規定が廃止されたと見なされることはありません。例えば、A種類株式では依然として3名の取締役を選任することができ、法定の員数を充たすので、112条は適用されません。 ü
廃止されたものとみなされる定款の定め 108条の適用により廃止されたと見なされるのは、「会社法108条第2項第9号に掲げる事項についての定款の定め」であり、すべての種類株式について一定の取締役または監査役を選任することができるという定款の定めが廃止されたものとみなされたこととなります。例えば、定款所定の取締役の員数が6名で、A種類株式3名、B種類株式2名、C種類株式1名の取締役をそれぞれ選任することができると定められている場合において、B種類株式について取締役を選任することができない状態になったときには、B種類株式についての2名の取締役を選任できるという定めのみではなく、A種類株式およびC種類株式についてのそれぞれ3名、1名の取締役を選任することができるという定めも全体として廃止されたものとみなされることになります。 これによる定款の定めのみなし廃止は、法律の規定に基づく定款の定めの廃止であり、定款変更の手続きを要しないで廃止の効力が生じます。そのため変更登記が必要となります(909条、911条3項7号)。 ü
定款の定めが廃止されたものとみなされた場合の取締役または監査役の選任方法 会社法112条により取締役または監査役の選任に関する定款の定めが廃止されたものとみなされた場合、取締役または監査役の選任に関する種類株式であることを維持するには、株主の間で、各種類株式が選任することができる取締役または監査役の数の再配分について定款変更の手続きにより定めなければなりません。そのような再配分が定められるまでは、取締役または監査役に係る種類株が存在しない場合として会社法の定めに従い、株主により取締役の選任を行うことになります。そのような選任が行われるまで、従前の取締役または監査役は、取締役または監査役として権利義務を有することになります。 関連条文
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