新任担当者のための会社法実務講座 第299条 株式会社の招集の通知 |
Ø 株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議 株主総会の招集の決定をしたとしても、それを株主に知らせなければ、出席することはできず、会議は成立しません。従って招集の通知をすることが必要です。このとき、招集者である取締役はちゃんと通知しなければなりません。「ちゃんと」と言ったのは、取締役にとって都合の悪い株主には通知しなかったり、通知したとしても会議の日のギリギリになって出席できないようしたりすることがないように、そのような事態が起きないように。通知の適正な手続を決めて、その手続を踏んでいない場合には、招集に瑕疵があったとして株主総会の開催が無効となります。 @株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合に、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。 A次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない。 1.前条第3号又は第4号に掲げる事項を定めた場合 2.株式会社が取締役会設置会社である場合 B取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす。 C前二項の通知には、前条第1項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
ü 通知の対象となる株主 @株主名簿上の株主 招集通知を発する対象となる株主は、株主総会において議決権を行使することができる、株主名簿に記載・記録されている株主です(298条2項括弧書)。現在、多くの上場会社では、定款において定時株主総会の議決権の基準日を毎年3月31日と定めています。その場合は、基準日現在の株主名簿に記載・記録されている株主に通知を発することになります。これが原則ですが、特別な場合として、次のようなケースが考えられます。 ・会社法は、基準日株主が行使できる権利が株主総会における議決権である場合は、会社は、基準日株主の権利を害することがなければ、基準日後に株式を取得した者の全部または一部を当該権利を行使できることができるものとしています(124条4項)。したがって、基準日から株主総会の会日までの間に募集株式の発行等が行われた場合のように、基準日後に株式を取得した者に招集通知を発しなければならないことがあります。 ・株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は、会社が株主に対してする招集通知を受領する者を1人定め、会社に対し、そのものの氏名・名称を会社に通知しなければなりません。その場合、会社は、その者を株主とみなして招集通知を発すればいいことになります(126条3項、5項)。共有者の通知がない場合は、招集通知は共有者のうちの1人に対してすればいいとされています(126条4項、5項)。 ・株式の振替対象会社では、株主名簿の名義書換は、原則として振替機関から会社に対する総株主通知によって行われ、総株主通知を受けた会社は通知された事項を株主名簿に記載しなければならず、基準日、株式の併合の効力発生日等の一定の日に名義書換がなされたものとみなされます。そこで、株式の振替対象会社では、一定の日に名義書換がなされたものとみなされる株主に招集通知を発することになります。 ・通知の対象となるのは株主ですが、会計参与を辞任した者、監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨およびその理由を述べることが出来ます(345条2項、4項)。また、会計監査人を辞任した者及び監査役全員の同意により解任された会計監査人は、辞任後または解任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由または解任について意見を述べることが出来ます(245条5項)。そこで、取締役は、会計参与を辞任した者、監査役を辞任した者、会計監査人を辞任した者または解任された会計監査人に対し、辞任後または解任後最初に招集される株主総会について、それを招集する旨およびその日時・場所を通知しなければなりません(345条3項)。 招集通知を通知の対象となるすべての株主に発しない場合は、株主総会決議の不存在確認の訴え(830条1項)の対象となります。一部の株主に招集通知漏れがあった場合は、招集手続が法令に違反するとはとして、株主総会決議取消の訴えの取消事由(831条1項)となります。 A通知を要しない株主 会社が株主に対してする通知または催告が5年以上継続して到達していない場合は、会社は、その株主に対して通知することを要しないとされています(196条1項)。したがって、招集通知などが5年以上継続して到達していない株主に対しては、取締役は招集通知を発する必要はないことになります。 また、株主総会において決議をすることができる事項の全部について議決権を行使することができない株主に対して招集通知をする必要がないとされています(298条2項括弧書)。 ü 招集通知の法定発送日(1項)公開会社は株主総会の日の2週間前までに株主に対して通知しなければならない。なお、非公開会社の場合は1週間前までに通知することになっています。この2週間というのは、株主に出席の機会と準備の機会を与えるために必要な期間とされています。従って、2週間は最低期間で、これ以上長いにこしたことはないのです。この場合のポイントは次の2点です。 @期間の数え方(初日不参入の原則) 法律行為において期間というのは重要な要素です。例えば契約を交わす場合には、有効期間を区切ります。その時に期間の数え方が契約当事者が別々に数えて食い違っていたら問題になります。そこで民法で機関の数え方を決めています。ここでも、その原則に従うことになります。民法140条において次のように規定されています。 「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りではない。」 具体的に言うと、通知の発信日と総会の当日を算入しないで、その間に14日間なければいけないという意味です。(昭和10年7月15日の大審院判例) A何をもって通知したことになるのか(送付主義) 2週間前まで通知されていることがはっきりしていなければなりません。後になって、通知されていないというクレームが株主から寄せられたり、場合によってはそれで株主総会が無効である裁判になったりするかもしれません。その際に、何をもって通知したということになるのか。株主の手元に届いたことで通知したことになるのか、それを2週間前までに行なわなければならないというのか。というと、違います。会社が招集通知を発送した時点で通知したということになります。実際上は郵便局に招集通知を投函した時点です。この場合、実務上は料金別納郵便で郵便局の窓口にまとめて預けます。その際に、郵便局は受付の受領書を返してくれるので、それを送付の証拠として会社は保管します。実際の発送は証券代行(株主名簿管理人)が代行して発送してくれて、後日受領書を会社に送ってくれるので、それを会社は保管しています。 〔参考〕コーポレートガバナンス・コード コーポレート・ガバナンス・コードでは原則1−4において招集通知の早期発送を推奨しています。それらついては、こちらを参照して下さい。 ü 書面による通知(2項) 書面投票、電子投票の株主総会または取締役会設置会社は通知を書類で行なわなければなりません。いわゆる招集通知です。 ü 電磁的方法による通知(3項) 書面による招集通知の発出に代えて、株主の承諾を得て、電磁的方法により招集通知を発することができます。このような電磁的方法により招集通知を発した場合においては、書面による招集通知を発したものとみなされます。 電磁的方法による招集通知も、その通知が通常到達すべきであった時に、電磁的方法による提供があったものとみなされます(126条2項、5項)。 書面投票制度を採用した場合には、招集通知の電子化を承諾した株主に対して、株主総会参考書類および議決権行使書面の交付に代えて、これらの書類に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができます。ただし、株主の請求があったときは、これらの書類をその株主に交付しなければなりません(301条2項)。なお、電子投票制度を採用した場合には、承諾株主に対して、議決権行使書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供しなければなりません(302条3項、会社法施行規則66条1項)。定時株主総会の招集通知を電磁的方法により提供する場合には、事業報告、計算書類および連結計算書類等の添付書類についても、電磁的方法により提供しなければなりません(会社法施行規則133条2項2号、会社計算規則133条2項2号、134条1項2号)。 〔参考〕電磁的方法による通知を行う場合の手続 @)電子化採用の検討・決定 招集通知の電子化を新たに採用しようとする場合には、株主総会の招集に関する基本的な事項として、取締役会で決議します。取締役会で決議すべき事項としては、招集通知の電子化を採用する旨、電磁的方法により送信する株主総会関係書類の名称、電磁的方法の種類および内容、招集通知の電子化に際しては株主名簿管理人の提供するシステムを利用する旨等です。なお、招集通知の電子化を採用するにあたっての取締役会決議は、特段の事情がない限り継続して適用する旨を併せて決議しておくことにより、株主総会の招集のつど決議する手間を省くことができます。 A)決定株主への案内 取締役会での決議をした後、招集通知の電子化を採用した旨を株主に案内する必要があります(そのように予め、株主に知らせておかないと、承諾を得ることがむずかしくなります)。株主に案内する方法として、案内状の送付、案内文のウェブサイト掲載などが考えられますが、周知性の観点からは、個別に案内状(招集通知メール送信勧誘ハガキ等)を送付することが最も効果的であると思われる。なお、案内状を単独で送付するとコストが割高になってしまうため、決議通知、株主通信または中間報告書等の郵送物を送付する機会に同封するか、中間報告書等に案内文言を記載することが効率的です。 B)株主の承諾およびメールアドレス取得 招集通知を電磁的方法によって送信するためには、あらかじめ株主に対して、その用いる電磁的方法の種類および内容を示して、書面または電磁的方法による承諾を得なければなりません(会社法施行令2条1項)。 株主の承諾は書面または電磁的方法により得なければならないとされており、実務上は、前記の株主への案内状とともに承諾書を送付し、それに必要事項の記入を受けて返送してもらう方法や、株主名簿管理人が提供するシステムのウェブサイト上で承諾してもらう方法が採られています。 株主の承諾は株主総会を開催する都度得なければならないものではなく、将来行われる招集通知についてあらかじめ包括的に承諾を得ておくことも可能であると考えられています。実務上は、株主から承諾を撤回する旨の意思表示がない限り、継続して電磁的方法により招集通知を送信するものとして承諾を得るようにします。また、招集通知の電子化を採用する場合には、電子投票制度も同時または先行して採用されていると想定されるため、株主が電子投票を行なう際に、次回以降の招集通知を電磁的方法により提供を受けることについて、ウェブサイト上で承諾を得る方法も採られています。 株主は招集通知の電子化に係る承諾を撤回することができ、株主から書面または電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があったときは、会社は株主に対して、招集通知を電磁的方法によって発してはならない(会社法施行令2条2項)ことになっています。 電磁的方法によって招集通知を送信するために株主から承諾を得る際に、併せてメールアドレスを会社に届け出てもらう必要があります。株主が会社に届け出たメールアドレスは、株主名簿に記載または記録しなければならない株主の住所(121条1号)ではなく、株主が通知を受ける場所または連絡先(126条1項)に該当するものと理解されています。 実務上、株主のメールアドレスを取得するにあたっては、株主名簿管理人が提供するシステムのウェブサイト上でメールアドレスを入力してもらう方法が採られています。なお、この方法による場合は、株主への案内状に株主固有のユーザーIDおよびパスワード等を印字しておき、それを株主にウェブサイト上で入力してもらうことにより本人確認を行なうこととなります。また、メールアドレスの登録後、登録完了メールを株主に送信し、株主のメールアドレスが正しく登録されていることを確認するのが望ましい。 C)招集通知の送信 書面による招集通知の発送日に、株主から届出のあったメールアドレスに宛てて、狭義の招集通知の内容を電子メールの本文または添付ファイルとして送信します。電磁的方法による招集通知は、通常到達すべきであった時に、電磁的方法による提供があったものとみなされます(126条2項、5項)。 事業報告、計算書類および連結計算書類等の添付書類ならびに株主総会参考書類については、添付ファイルとして送信すると、データの容量が膨大になり送信コストや送信時間の面で問題が生じるおそれがあります。したがって、実務上は、電子メールの本文にそれらの書類のファイルが掲載されたウェブサイトのアドレスを記載し、そのウェブサイトへの参照リンクを設定することにより、株主が容易に見読できるような措置が講じられています。 〔参考〕実務上の留意点 @)招集通知の不到達 会社から、株主の届け出たメールアドレスに宛てて招集通知を送信したのに、株主がメールアドレスを変更したことなどの事情により、不到達となることがあり得ます。しかしながら、電磁的方法による招集通知も、その通知が通常到達すべきであった時に、電磁的方法による提供があったものとみなされることから(126条2項、5項)、これが到達しなかった場合でも、有効に招集通知が行なわれたことになります。ただし、会社としては、招集手続の適法性について後日争いになった場合に備えて、サーバーの送信記録を保管するなど、招集通知を法定期限までに送信した証跡を残しておく必要があると思います。 なお、電磁的方法による招集通知の不到達が明らかな場合は、不到達となった株主に対して、メールアドレスの確認および変更等を依頼する書面を郵送するか、あるいは書面による招集通知を郵送するなどの措置を講じることも考えらます。 A)ウェブサイトの見読性確保 招集通知の添付書類や株主総会参考書類をウェブサイトに掲載した場合には、株主が総会終結の時まで常時見読できるようシステムの手当てが必要であり、サーバーのメンテナンス等による一時的中断に関しても十分配慮する必要があります。 招集通知等を掲載しているウェブサイトが改竄され、株主が見読できなかった場合であっても、会社が適切なハッカー対策を講じている限り、会社の責に帰すことのできない事由として、株主総会の決議の効力に影響は及ばないと考えられます。 B)議決権行使書面を送付しない取扱いとする場合の留意点 書面投票制度を採用した会社において、承諾株主の請求があったときに議決権行使書面を交付することとするときは、株主総会招集の決定事項として、取締役会でその旨を決議しなければなりません(298条1項5号・4項、会社法施行規則63条4号イ)。議決権行使書面を送付しない取扱いとする場合には、この決議を失念することのないよう留意しなければなりません。 ・総会出席株主の資格確認 株主総会に出席する株主に対しては、出席資格の確認のため、あらかじめ株主に送付した議決権行使書面の提出を求めていますが、承諾株主に対して議決権行使書面を送付しない取扱いとする場合は、受付において議決権行使書面を持参しなかった株主と同様の対応をする必要があります。すなわち、受付において、受付票等の用紙に株主の住所および氏名等の記入を求め、それらを株主名簿のデータと照合することにより出席資格の確認を行なうことになります。また、電磁的方法による招集通知に株主番号や電子投票のためのログインIDなど株主確認に資する情報が含まれている場合は、株主総会に出席するに際して招集通知のコピーを持参するよう、あらかじめ記載して案内することも考えられます。総会当日の受付事務を円滑に進める観点からは、電磁的方法で招集通知を送信した場合であっても、従前どおり議決権行使書面を郵送することも考えられます。 C)株主名簿管理人への確認事項 招集通知電子化の事務の殆どは株主名簿管理人が実施することとなるので、招集通知電子化を検討・実施するときには、あらかじめ株主名簿管理人へ次の点を確認しておくことが望ましい。 ・招集通知電子化に係る事務手数料 事務作業の増加に伴い、新たな事務手数料が発生することになります。承諾株主の数によっては、事務手数料がコスト削減額を上回る場合もあるので、注意が必要です。 ・招集通知電子化に係る事務手数料 事務作業および株主への送達日数の関係上、当該請求期日を議決権行使の締切日より前に設定する必要があるため、あらかじめ株主名簿管理人に当該請求期日の確認をしておくことが考えられます。 ü 通知の内容(4項) 通知には298条1項で決議した内容を記載しなければなりません。いわゆる狭義の招集通知の記載事項です。詳しい内容はこちらを参照して下さい。 定時株主総会の特則(437条) 計算書類、事業報告を添付しなければならない 定時株主総会の特則(444条6項、会社計算規則134条) 連結計算書類を通知に添付しなければならない ※通知に添付すべき資料 取締役は、定時株主総会の招集に際して、株主に対し、取締役会設置会社では計算書類・事業報告、監査役会設置会社ではその他に監査報告、会計監査人設置会社ではその他に会計監査報告を提供しなければなりません(437条他)、また会計監査人設置会社であって連結計算書類を作成するとの閉まり役会設置会社、及び大会社であって金融商品取引法に基づく有価証券報告書を提出しなければならない取締役会設置会社は、定時株主総会の招集通知に際して、株主に対し、連結計算書類を提供しなければなりません(444条)。 ü
招集通知の撤回と延期の通知 招集通知をいったん発し後で、株主総会を中止し、その招集を撤回することは認められています。そのためには、招集の手続に準じて、取締役または取締役会の決定に基づき、招集者の代表取締役が招集の対象となるすべての株主に対してその旨を通知しなければなりません。また、その通知は、先に通知した株主総会の会日よりも前に株主に到達しなければなりません。取締役または取締役会の決定に基づかず、あるいは、先に通知した会日よりも前に到達しない場合には、撤回は無効となります。ただし、すべての株主に対し会日前に撤回の通知が到達した場合は、取締役会の決議がなくても、招集者の取締役が通知した場合に限り、招集通知の撤回は有効とされています(東京地裁判決昭和38年12月5日)。 収集通知をいったん発した後、会日を延期する場合にも、招集通知の撤回と同様であり、取締役または取締役会の決定に基づき、すべての株主に対しその旨を通知しなければなりません。また、その通知は、先に通知した株主総会の会日よりも前に株主に到達しなければなりません。 なお、株主総会の議事に入らないで株主総会を後日に延期する決議をした場合、及び、議事に入ったが審議が終わらないまま後日に継続する決議をした場合は、あらためて招集通知を発する必要はありません(317条)。 関連条文 |