Ø 株式会社の招集手続等に関する検査役の選任(306条)
@株式会社又は総株主(株主総会において決議することができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主は、株主総会の招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
A公開会社である取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株主総会において決議することができる事項」とあるのは「第298条第1項第2号に掲げる事項」と、「有する」とあるのは「6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とし、公開会社でない取締役会設置会社における同項の規定の適用については、同項中「株主総会において決議することができる事項」とあるのは「第298条第1項第2号に掲げる事項」とする。
B前二項の規定による検査役の選任の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない。
C裁判所は、前項の検査役を選任した場合には、株式会社が当該検査役に対して支払う報酬の額を定めることができる。
D第三項の検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を裁判所に提供して報告をしなければならない。
E裁判所は、前項の報告について、その内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、第三項の検査役に対し、更に前項の報告を求めることができる。
F第三項の検査役は、第5項の報告をしたときは、株式会社(検査役の選任の申立てをした者が当該株式会社でない場合にあっては、当該株式会社及びその者)に対し、同項の書面の写しを交付し、又は同項の電磁的記録に記載された事項を法務省令で定める方法によって提供しなければならない。
会社又は総株主の議決権の100分の1以上を有する株主(公開会社では6ヶ月前から引き続き有する者に限る)は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、株主総会に先立ち検査役の選任を裁判所に請求することができます(306条)。これは、紛糾が予想される株主総会について会社又は株主が、委任状の取扱いの適法性、説明義務の履行の状況等を調査させ、決議取消との訴えを提起した場合の証拠を保全するため選任を求める制度です。総会検査役には通常弁護士が選任され、調査結果を裁判所に報告し、かつ会社に対し報告書の写しを交付します(306条5〜7項)。報告を受けた裁判所は、必要があると認めるときは、取締役に対し、検査役の調査結果を開示しかつ取締役会がそれに関し調査した結果を報告するための株主総会の招集、または、検査役の調査結果の株主への通知を命ずることが出来ます(307条)。
358条による業務の執行に関する検査役の選任の場合は、一定の要件を満たした株主にのみ検査役の選任の請求が認められているのに対して、総会招集の手続に関しては会社のも権利が認められています。これは、株主総会の手続の公正さを担保させることを目的としているためです。実際には、株主が検査役の選任を求める場合は、紛糾が予想される株主総会について検査役に調査させて、不正が明らかになれば、それをもって決議取消の訴えを提起することができるということになります。これに対して、会社が選任を請求する場合は。検査役に手続が適正に行われていることを確認してもらう結果になるからです。
この総会検査役は、専門的知識を有する検査役が株主総会の招集手続・決議方法を調査して、裁判所に報告書を提供させることにより、違法な決議がなされることを防止し、また、事後に招集手続・決議方法の違法性が訴訟でもんだとなった場合に証拠を保全させる制度です。この制度は株主総会の招集手続・決議の方法の違法性を担保するとともに、将来争いが生じたときに事実関係を明白にすることを目的とする制度です。したがって、少数株主の請求によって総会検査役が選任された場合でも、少数株主のために調査をするものではありません。もともと、検査役制度は、明治32年の商法制に際して、裁判所が検査役を選任する場合として、現物出資等の調査、会社の業務・財産の状況の調査ということ、また、株主総会が取締役の提出したもの及び監査役の監査報告書の調査のために選任することが定められました。裁判所の選任による総会検査役の制度は、株主総会議長の権限の明確化のために、昭和56年の商法改正で新設されました。また、総会による検査役の選任はもっぱら少数株主の請求に基づいて行われていたのが、平成17年の商法改正により会社も検査役の選任を請求できるようになりました。
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申立ての要件(1項、2項)
・選任を申し立てることができる者
@)会社
一部の株主が株主総会を混乱させるおそれがある場合に、株主総会の公正な運営と事後の扮装を防止するため、少数株主だけでなく、会社にも選任の申立てができるようになりました。会社が申し立てる場合には代表取締役が行います(349条4項)。
A)少数株主
株主が検査役選任の申立てをすることができるのは、非公開の会社では総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主(1項)であり、公開会社では総株主の議決権の100分の1以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主(2項)です。議決権数で要件が課されて、すべての株主ではないのは他の少数株主権の場合と同じように権利の濫用を防止するためです。
この総株主には総会で議決権を行使できない株主は除かれるので、相互保有株式、自己株式、単元未満株式及び議決権を有しない種類株式を有する株主は除かれます。また、議決権数要件は、複数の株主の有する議決権を会わせることによって充たされてもよく、100分の1という割合については定款でこれを下回る割合を定めることができます(1項括弧書)。この100分の1という議決権数要件は申立て時に充たしていることが必要で、さらに、裁判確定時まで保有していなければなりません(大審院判決大正10年5月20日)。なお、公開会社の場合の6ヶ月間の保有期間は申立て日からさかのぼって6ヶ月間保有しているということを意味します。
・選任を申し立てをすることができる時期
会社または少数株主は、調査の対象となる株主総会の前に申立てをしなければなりません(1項)。総会開催後の申立ては不適法となります。裁判所が申立てた株主の議決権要件や検査役候補者の選定などにある程度の日数を要するので、総会日直前の申立てでは選任が間に合わなくなるおそれがあります。
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裁判所による検査役の選任(3項)
会社または少数株主から検査役の選任の申立があった場合、裁判所は不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければなりません(3項)。不適法な場合とは、会社の代表者でない者が申し立てたこと、申立て株主が議決権数要件を充たしていないこと、株主総会開催後の申立てであることなどです。358条に基づく会社の業務執行に不正。法令違反がある場合には裁判所は、その事実があるかを審査しなければなりませんが、総会検査役の選任の場合には株主総会について調査を必要とする事実があるかどうかを審査することなく検査役を選任しなければならないとされています(岡山地裁判決昭和59年3月7日)。
なお、総会検査役選任の申立ての裁判は非訟事件であり、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(868条1項)。申立てを認容する裁判には理由をふさなくてもよく(871条但書)、その裁判は決定をもってなし、裁判を受ける者に対する告知をもって効力を生じます。申立てを認容する決定には、不服を申し立てることはできません。しかし、申立てを却下する決定には、申立人に限って、即時抗告ができます。
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総会検査役の資格・員数と報酬(4項)
・資格・員数
総会検査役の資格についての明文の規定しありません。しかし、総会検査役の制度の趣旨から、会社の取締役、監査役、使用人及び会社の顧問弁護士は検査役になることはできないと考えられています。通常、検査役には、会社と特別の関係のない弁護士が選任されています。
検査役の員数についても明文の規定はありません。裁判所は、適宜1人または複数の検査役を選任します。また、複数の株主グループより別々に検査役選選任の申立てがだされた場合、裁判所は、それらの審理を併合して適宜1人の検査役をまとめて選任することができます。
・報酬
総会検査役は会社の臨時機関であり、会社と検査薬とは準委任の関係にあると考えられています。準委任は、民法上では無償が原則です(民法656条)。裁判所は、検査役を選任した場合には、会社がその検査役に対して支払う報酬の額を定めることがでます(4項)。
検査役が調査に要した費用の償還については、会計参与・監査役の場合のような費用の必要性の証明責任を転換する規定はないので、委任事後処理の一般原則に従います。
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総会検査役の職務・権限(5項)
・調査の対象
総会検査役の調査の対象は、株主総会に係る招集の手続および決議の方法です。招集手続については、株主総会の招集通知の記載・記録の内容(299条4項、298条1項、会社法施行規則63条)、書面及び電磁的方法により議決権を行使すると定めた株主総会参考書類・議決権行使書面の記載・記録の内容(301条、302条)の調査が中心となります。その前提として、株主総会の招集を決定する取締役会の決議があったか(298条4項)も調査の対象となります。
他方、決議方法については、株主総会の開会、議事運営、決議及び閉会にいたる手続の全過程が調査の対象となります。具体的には、総会出席株主・代理人の資格(309条、310条1項)、及び保有議決権数、返送された委任状及び議決権行使書面の取扱い(311条、312条)、株主提案権の取扱(303条、304条、305条)も役員等の説明義務の履行の状況(314条)、定足数及び決議に必要な賛成数(309条)、株主総会で決議できる事項(309条)などです。
・検査役の権限
総会検査役がその職務を遂行するために有する権限についての規定はありません。総会検査役は株主総会の招集の手続及び決議の方法について必要な調査を行なわなければならないので、当然に総会場に入ることができ、しかるべき場所を確保することができると考えられます。また、総会場に出席することは総会検査役の義務でもあります。総会検査役は、その義務を履行するために補助者を使用することができ、必要がある時は、総会議長に補助者の入場の許可を要請できます。
総会検査役は、調査のために必要がある時は、株主名簿などを調査することができますが、招集手続・決議方法の調査に関係ない会社の帳簿や書類を調査することはできません。取締役会の議事録の閲覧。謄写は、取締役会による招集の決議を確認すために請求することができるでしょう。
総会検査役には、総会場において議長または株主の質問に対して調査の結果及び自己の法的判断を説明する義務はありません。総会検査役は、調査の結果を裁判所に報告し、報告の写しを選任を申し立てた会社及び株主に交付する義務を負っているにすぎないからです。
・報告書の作成・交付
総会検査役は、調査の結果を記載しまたは記録した書面または電磁的記録を裁判所に提出して報告しなければなりません(5項)。電磁的記録は磁気ディスクであって、裁判所が定める電磁的記録です(会社法施行規則228条)。
裁判所は、総会検査役の報告について、その内容を明瞭ににし、またはその根拠を確認するために必要がある時は、検査役に対して、さらに報告を求めることができます(6項)。
総会検査役は、裁判所に対し報告したときは、会社に対し、株主が検査役の選任を申し立てた場合は会社及び申立て株主に対し、報告の書面の写しを交付し、または、報告が電磁的記録に記録されている場合は記録された事項を提供しなければなりません(7項)。電磁的記録に記録された事項の提供は、電磁的方法のうち提供を受ける会社及び株主が定めた方法によります(会社法施行規則229条)。
総会検査役の報告書について、株主総会決議取消の訴えにおける特別の証拠能力についての規定はありません。従って、訴訟において報告書は唯一の証拠能力なるわけではありません。しかし、現実には大きな意味を有します。