新任担当者のための会社法実務講座 第114条 発行可能種類株式総数 |
Ø 発行可能種類株式総数(114条) @定款を変更してある種類の株式の発行可能種類株式総数を減少するときは、変更後の当該種類の株式の発行可能種類株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における当該種類の発行済株式の総数を下ることができない。 Aある種類の株式についての次に掲げる数の合計数は、当該種類の株式の発行可能種類株式総数から当該種類の発行済株式(自己株式を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。 一 取得請求権付株式(第107条第2項第2号ヘの期間の初日が到来していないものを除く。)の株主(当該株式会社を除く。)が第167条第2項の規定により取得することとなる同項第4号に規定する他の株式の数 二 取得条項付株式の株主(当該株式会社を除く。)が第170条第2項の規定により取得することとなる同項第4号に規定する他の株式の数 三 新株予約権(第236条第1項第4号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第282条第1項の規定により取得することとなる株式の数
発行可能株式総数に関する定款の変更についての制限を113条で定めていますが、114条は会社が種類株式発行会社の場合の発行可能株式総数について必要となる定款変更について定めています。ある種類の株式の発行可能株式総数を減少する定款変更をすることにより、当該種類の株式の発行可能株式総数が発行済みの当該株式の総数を下回る事態が生ずることは認めるべきできないので、そのような事態が生ずる定款変更をすることはできないとしています(114条1項)。また、種類株式としての取得請求権付株式もしくは取得条項付株式で、会社による取得の対価として株主に対して当該会社の株式が交付されることとされている場合、または会社が新株予約権を発行している場合、会社による株式の取得または新株予約権者の新株予約権の行使の効力が生ずるときに会社が交付または発行しなければならない数の種類株式の総数と、発行済みの当該種類株式総数の合計額が、発行可能株式の範囲内に維持されなければなりません(114条)2項。 ü
発行可能種類株式総数の減少の制限(114条1項) 定款の定める発行可能種類株式総数を定款変更の手続きに従い減少させることは可能です。しかし、減少後の発行可能種類株式が定款変更の効力発生時における発行済み種類株式総数を下回ることになると、定款違反の事態が生ずるで、そのような事態が発生することを防ぐために、定款変更が制限されています(114条1項)。これは、発行可能株式総数の減少の定款変更について、減少後の発行可能株式総数が、定款変更の効力発生時における発行済株式総数を下回ることを禁止する、という趣旨は113条2項と同じです。 これに違反する定款の変更が行われ、発行可能株式総数が発行済株式総数を下回ることになった場合は、その定款変更は無効となります。なお、発行済株式の一部が無効になるということはありません。 また、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することはできません(113条1項)。このような定款の定めの廃止の禁止は発行可能種類株式の定めでは設けられていません。したがって、発行済みの当該種類株式がないのならば、当該株式についての発行済種類株式総数の定めを定款変更により廃止することができる、ということになります。 ü
発行可能種類株式総数のうち留保しておくべき数(114条2項) 発行可能種類株式総数が定款で定められると、その総数の範囲内で当該種類株式を発行することができるわけです。会社で定款等の定めに従い、当該種類株式を交付ないし発行しなければならない場合には、そのことにより交付ないし発行しなければならなくなる株式の総数と発行済株式の総数が定款の定める発行可能種類株式総数超過する事態が生ずるおそれがあります。そこで、そのような事態が生ずるのを防止するために、交付ないし発行しなければならないこととなっている種類株式の数は、当該種類株式の発行可能種類株式総数から当該種類の発行済株式の総数を控除して得た数を越えてならないとされています(114条2項)。言い換えれば、会社は、株式を発行するに当たって、交付ないし発行しなければならない種類株式の数を留保しておかなければならない、ということになります。 なお、この場合の発行済株式から自己株式を除いています。それは、会社が自己株式を保有するかぎりでは、自己株式を交付または発行に当てることができるので、その数を未発行株式と同様に扱うことになります(114条2項柱書)。 ・取得請求権付株式の株主が167条2項の規定により取得することとなる同項4号に規定する他の株式の数(114条2項1号) 取得請求権付株式の株主が取得請求権を行使したことにより、167条2項に基づき、定款の定めにより対価として交付を受けて取得することになる他の株式としての当該種類株式の数についての制限です(114条2項1号)。 なお、取得請求権先株式の株主の取得請求権を行使することのできる期間の初日が到来していない場合には、取得請求権を行使することができないので、ここでのむ制限の対象とはなりません(114条2項1号括弧書)。しかし、行使期間の初日が到来する時までには、この制限に反しない状態にしておかなければなりません。 ・取得条項権付株式の株主が170条2項の規定により取得することとなる同項4号に規定する他の株式の数(114条2項2号) 取得条項付株式の株主が、170条2項の規定に基づき、定款の定める取得事由(108条2項6号)の発生により対価として交付を受けて取得することになる他の株式としての当該種類株式の数についての制限です(114条2項2号)。ここでも114条2項1号と同じく、括弧書きにより株主から当該会社は除外されています。会社が自己株式として取得条項付株式を保有する場合には、その自己株式に対して取得の対価として種類株式が交付されることがないことは170条2項の括弧書きで明示されていることです。また、144条2項1号とは異なり、取得条項による取得がある期間について定款の定めがある場合について、その期間の初日が到来する時までに制限の対象から除外するする定めがないのは、解釈としては1号と同じく、初日が到来する時までは2号の適用はないと解されています。 ・新株予約権の新株予約権者が282条の規定により取得することとなる株式の数(114条2項3号) 新株予約権の新株予約権者が新株予約権を行使すると、行使した日に当該新株予約権の目的である株式の株主となります(282条)が、このようにして新株予約権者が取得することとなる株式としての当該種類株式の数についての制限です(114条2項3号)。ここでは、括弧書きにより236条1項4号により定められる新株予約権の行使期間の初日が到来していないものは除外されています。これは114条2項1号で、取得請求権の行使期間の初日が到来していないものを除外しているのと趣旨は同じです。しかし、行使期間の初日の到来する時までには、114条2項の制限に反しない状態にしておかなければなりません。 以上の各制限に関連して、取得請求権付株式もしくは取得条項付株式の取得の対価として発行される株式の数(108条2項)、または新株予約権者が取得すべき株式の数(236条1項)が、定款では算定方法だけ定められ数が確定していない場合や発行後に交付される株式数が調整される場合には、114条2項の制限にあり方については、議論が分かれています。実務としては、会社は、配当可能種類株式数に余裕を持たせることにより、交付または発行する株式の数が確定する時点では、宣言に反しないようにすることで対応することになります。 ü
114条2項の制限に違反する場合の効果 発行可能株式総数を超えて株式を発行した取締役らは、刑事罰に処せられます(966条)。この罰則は、114条2項の制限に違反して発行を留保しておかなければならないにもかかわらず、種類株式を発行した場合には、発行したこと自体で適用されるものではなく、取得の効力が生じ対価として種類株式を交付し、または新株予約権の行使に対して種類株式を発行し、それにより発行可能株式総数を超える状態になってはじめて罰則り適用があると解されています。 私法上の効力に関しては、114条2項に違反した、取得請求権付株式、取得条項付株式または無新株予約権の発行自体については無効事由となるものではなく、取得請求権の行使、取得条項の取得事由の発生または新株予約権の行使により会社が発行可能株式総数を超えて種類株式を交付または発行した場合に、新株発行無効事由となります。 関連条文 取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条)
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