新任担当者のための会社法実務講座 第303条、304条、305条 株主提案権 |
Ø 株主提案権(303条、304条、305条) 株主提案権とは、会社の取締役に対して株主総会の決議事項を提案することができるとする権利のことです。これは、昭和56年の商法改正において、株主の意思が会社ないし他の株主に容易に表明されるようにして、株主と会社間の意思疎通を図るために新たに設けられたものでした。それ以前は、株主が総会の議題として求めるためには、総会招集権を行使する以外に方法がありませんでしたが、わざわざ自ら総会を招集しないで、会社側が招集する総会で、その目的を達することができるようにしたのがこの権利です。少数株主による株主総会の招集(297条)を簡易化したものと言えます。なお、株主提案権には「議題提案権」と「議案提案権」の2つがあります。 ※株主の有する権利の中で自益権と共益権のうち、株主が会社の経営に参与することを目的とする共益権にあたるものです。共益権のうち、1株の株主が単独で提起できる議決権のような単独株主権に対して、一定数以上の株式を有する株主に認められる権利であるため少数株主権に分類されます。 303条 @株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。 A前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を6ケ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)までにしなければならない。 B公開会社でない取締役設置会社における前項の規定の適用については、同項中「6ケ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。 C第2項の一定の事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。 304条 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第1項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は、この限りでない。 305条 @株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第299条第2項又は第3項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を6ケ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。 A公開会社でない取締役設置会社における前項ただし書きの規定の適用については、同項ただし書中「6ケ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。 B第1項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項ただし書の総株主の議決権の数に算入しない。 C前三項の規定は、第1項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合には、適用しない。 ü 議題提案権(303条) 議題提案権とは一定の事項を株主総会の目的とするように請求できる権利です。つまり、取締役会の決定した議題に別の議題を追加することを請求する権利です。それゆえ、追加提案権とも呼ばれることもあります。例えば、定款一部変更の件を議題とする定時株主総会に、取締役選任の件を議題とすることを請求するということです。株主総会で決議できる議題は法令や定款で決められています。それ以外の議題を株主が提案した場合には、会社はそれを議題とする必要はないとされています。他方で、適法な株主の提案を会社が無視した場合には、取締役に対して過料の制裁が課されます(976条)。 ü 議案提案権(305条) 会議の目的である事項について株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知するように、取締役に請求できる権利です。つまり、会社が出そうとしている議案の反対提案や修正提案を総会招集通知に記載することを請求する権利で、反対(修正)提案権とも呼ばれることがあります。例えば、取締役選任の件が議題とされており、会社側が甲を候補者とする議案を出そうとしているときに、株主が乙を候補者とする議案(反対提案)、または甲および乙を候補者とする議案(修正提案)を総会招集の通知に記載することを請求するという場合です。 この通知請求に応じて株主総会の招集通知に記載された場合に、参考書類も交付されることになります。その際には、通常の参考書類の記載事項の他に、議案が株主の提出に係るものである旨、その議案に対する取締役会の意見がある時はその内容、及び株主が提出した提案理由等を記載しなければならないことになっています。(301条1項、302条1項、325条、会社法施行規則93条) ü 株主総会会場における提案権(304条) 株主は、株主総会の会場において、会議の目的事項について取締役提出議案に対する修正提案等を提出することができます。会議の構成員が審議事項について、その審議のなかで議案に修正を求めることができるのは当然のことです。これは303条や305条のような少数株主権としての制限はなく、実務においては株主提案権の中で扱うよりも、株主総会の議事運営における動議対応として扱われています。ここでは、別に説明します。(こちらを参照してください。) ü 株主提案権行使の要件(303条、305条) @株式保有要件(303条2項、305条1項) @)保有議決権要件…総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を保有すること これを下回る数を定款で決めている場合は、その数が要件となります。株主提案権は、提案株主が議決権を行使することができる事項に限り認められるものです、提案事項について議決権を行使できない株主が有する議決権数は、総株主の議決権数に算入されません(303条4項、305条3項)。 A)継続保有期間要件…6ヵ月前から引き続き保有すること この6ケ月より短い期間を定款で決めている場合には、その定款で定められた期間が要件となります。 この継続する期間についてポイントは次の2点です。 ア.6ヵ月の保有継続の起算点「いつから株式を保有していることが必要か」 株主提案権行使の行使日から遡って6か月前からの継続した保有が必要です。これは、条文か要件を満たす株主に限り請求することができると述べられていることからで、請求のときに要件を満たしていないといけないと書かれているからです。これは裁判例としても定着していることです。この場合、株主提案権の行使日(初日)を算入しないでその前日から起算し(民法140条)、6ケ月の期間を暦にしたがって計算して(民法143条1項)、6ケ月目の起算日に応当する日の前日に満了する(同条2項)ことになるので、株主提案権の行使日と株主資格の取得の日との間は丸「6か月間」が存在する必要があるということです。 イ.株式保有期間の終期「株主提案権の行使後、いつまで株式を保有しておく必要があるか」 株主総会の議決権行使の基準日、株主総会終結時点、及び株主提案権の行使日と株主総会の議決権行使の基準日のいずれかの遅い日等の諸説があるが、実務では株主提案権の行使日と株主総会の議決権行使の基準日のいずれかの遅い日とするのが一般的です。 A株主提案の期限内であること(303条2項)…株主総会の日の8週間前までに請求を行う この8週間より短い期間を定款で決めている場合には、その定款で定められた期間が要件となります。 この提案の行使期限についてポイントは次の2点です。 ア.8週間の起算点となる株主総会基準日 そもそも、提案をする時点で株主は株主総会の開催日を知る由もないのです。そこで、8週間の起算点となる株主総会日については、実際の株主総会開催日と、株主総会日と客観的に予想される日とする考えがあります。実務的には、実際の株主総会日と考えられています。その理由として、株主総会の2週間前に招集通知を発することとの関係で8週間前が決められていることと、株主の側でも、事前に株主総会日を知らないため、十分時間的余裕を見込んで請求すべきと考えているためです。 イ.応当日が休日である場合の取り扱い 株主総会日の8週間前の日(応当日)が休日である場合について、次の3つの考え方があります。 ・休日に該当したとしても何ら影響を受けず、その応当日が株主提案権の行使の最終日となる ・休日である場合には休日の直後の営業日が株主提案権の行使の最終日となる ・休日である場合には休日の直前の営業日が株主提案権の行使の最終日となる とくに8週間という要件を充たしていなくても、会社が任意で取り上げることには問題がないことから、一般的には2番目の考え方が採られています。 ü 株主提案権行使の実質的要件(305条)←通知請求権の場合 次の場合には会社は、株主からの議案の通知請求を拒絶できることになっています。 @)実質的に同一の議案につき過去に議決権の10分の1以上(定款による引き下げは可能)の賛成が得られなかった日から3年を経過していない場合 圧倒的多数で否決された株主提案は再提案しても見込みはなく、このような株主提案が濫用的に繰り返されることを防止する趣旨の要件と考えられています。 実質的に同一の議案かどうかの判断は困難だと言われています。 形式的な文言等が異なっていても、実質的に意味が同じ場合は、同一性があると判断されます。一方、形式上はまったく同じでも、前回のときと背景や条件が異なり、提案の実質的な意味が異なる場合には同一性がないと判断されます。たとえば、1株当たり同一金額の剰余金配当を行う旨の提案でも、事業年度が異なれば実質的な同一性はないこととなる。実務的には、実質的に同一であることが明らかである場合を除き、当該議案が圧倒的多数で否決される見込みである時は、却下せず上程したうえで否決するという方法がとられることが多い。 A)当該議案が法令・定款に違反する場合 会社法295条2項で株主総会は会社法および定款で定めた事項に限り決議することができる旨規定に従ったものと言えます。法令・定款への適合性の判断の前提として、提案議案は具体性を有することが求められるものです。代表的な議題について個別に検討してみましょう A.剰余金処分議案 a.会社法460条の定款規定がある場合 定款で剰余金処分を取締役会権限としている場合において、会社法459条1項に掲げる事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めることができます(460条1項)。この場合は剰余金処分の株主提案は、定款に反することになり拒否事由にあたります。 b.会社法460条の定款規定がない場合 株主提案の配当議案が、会社提案に対する代替議案(会社提案の配当は行わず、株主提案の配当だけを行う)であるのか、会社提案に追加して配当する趣旨なのかを明確にする必要があります。この区分が明確に示されていない場合は、代替議案として扱うのが合理的と考えられます。この場合、会社提案の配当額に対して、株主提案の配当額が増額になる、減額になることだけをもって不適合の判断はできない。ただし、増額となる場合、または会社提案に加えて配当する提案の合計が分配可能額規制に抵触しないかどうかのチェックは必要となります。 B.取締役・監査役等の選、解任議案 a.会社提案と株主提案の候補者数合計が定款で定める員数枠を超える場合 役員選任議案では、候補者ごとに賛否の意思を表明するため、候補者ごとに別議案であると考えられるので、候補者合計が定款に定める員数枠を超えることがあっても定款に違反するものではないと考えられます。 b.解任により法令上の員数を欠くことになる場合 役員解任議案により、当該議案が株主総会で可決されると法令に定める役員の最低員数を欠くことになることがあり得ますが、そのために当該株主提案が不適法とされるものではないと考えられます。 c.特定の人物について連続して選、解任提案があった場合 前年の総会で否決された特定の人物の役員への選任の株主提案については、当該特定個人の資質に基づいて判断されることになるものと考えられるので、議案の実質的同一性が肯定できるものと考えられます。 〔参考〕実務上の留意点 実際にも株主提案はどのような手続で行われ、もし株主提案があった場合に会社はどのような対処をするのかを、簡単に説明したいと思います。 (1)実際の株主提案権の行使 株主が株主提案権のような少数株主権を行使するには、機構を経由して個別株主通知を行わなければならない。(振替法154条2〜3項、147条4項) A.株主が単独で権利行使する場合 機構が個別株主通知を行った日から4週間以内に、発行会社に対し、次の書類を提出して権利行使する。 ア.権利行使請求書 イ.口座管理機関が交付する受付票 B.複数の株主が共同して権利行使する場合 複数の株主が共同して権利行使する場合、株券電子化前は提案内容に同意する株主から、記名押印した委任状を代表者が集め、その代表者が発行会社へ提出する方法が一般的であった。株券電子化後も、基本的には以下の通り、株券電子化前と同じ手続きとすることが考えられる。 ア.個々の株主は、口座管理機関に対して個別株主通知の申出をする。 イ.個々の株主は、口座管理機関から交付された受付票及び記名捺印した委任状を提案株主の代表者に送付する。 ウ.提案株主の代表者が、上記イ.の書類を取りまとめ、機構が個別株主通知を行った日から4週間以内に、当該発行会社に提出する。 (2)会社が株主提案権の行使を受けたときの対応のフロー 会社が実際に株主提案権の行使を受けた場合、どのように対応していくかのフローを下に簡単に作りました。 株主から株主提案権行使の請求を受け取った時の確認(本人確認等)→ × 受付しない ↓○ 株主が行使した提案権の確認(提案された議題及び通知請求について確認) ↓○ @形式的要件 → × 提案却下 ↓○ A実質的要件、拒絶事由 → × 不適法提案 招集通知、参考書類、議決権行使書に株主提案を反映 (3)会社に株主から株主提案権行使の請求があった場合(株主から上記書類が送付された場合)の実務対応 前項のフローの最初のところ、株主から株主提案権行使の請求を受け取った時に、会社は何をするのかを簡単にまとめました。 A.受付時の確認 株主から株主提案権を行使するために前ページの書類が会社に送られてきた場合、つぎの点を確認して、当該請求に応じるか否かを判断する。複数の株主が共同で行使する場合、個別に確認する。 ア.当該請求者が株主本人であるか否か 個別株主通知の内容と受付票に記載された当該株主の氏名及び住所等を照合すること、及び株主の本人確認書類を提出させることで、株主からの権利行使であることを確認する。 ※株懇モデルの株式取扱規程 (株主確認) 第10条 株主(個別株主通知を行った株主を含む。)が請求その他株主権行使(以下「請求」という。)をする場合、当該請求等を本人が行ったことを証するもの(以下「証明資料等」という。)を添付し、または提供するものとする。ただし、当会社において本人からの請求等であることが確認できる場合はこの限りでない。 2.当会社に対する株主からの請求等が、証券会社等および機構を通じてなされた場合は、株主本人からの請求等とみなし、証明資料等は要しない。 3.代理人により請求等をする場合は、前2項の手続きのほか、株主が署名または記名捺印した委任状を添付するものとする。委任状には、受任者の氏名または名称および住所の記載を要するものとする。 4.代理人についても第1項および第2項を準用する。 イ.当該株主が口座管理機関から交付された受付票を有しているか ハ.当該請求が個別株主通知後、4週間以内であるか否か ニ.権利行使請求書について、次の2点が満たされているか ・株主の氏名または名称及び住所の記載、押印がなされている ・行使する株主提案の内容が法令に基づき記載されている (4)会社に株主から株主提案権行使があった場合の実務対応 前項のフローの2番目のところ、株主が行使した株主提案権の確認として、会社は何をするのかを簡単にまとめました。 A.形式的要件の確認 ア.会社法に規定された保有議決権要件及び継続保有期間要件を満たしているかを、個別株主通知によって確認します。 イ.株主提案の期限内であることの確認 ウ.株主の資格の確認 株主提案権を行使できるのは「株主」であるから、株主提案権が行使された場合には、株主名簿上の株主による株主提案権の行使であるかを個別株主通知と請求書に記載された氏名・住所を照合、確認する。 株主提案権の行使は、株主本人のほか、株主本人の委任に基づいて代理人が行ってもよい。この場合の代理人は株主である必要はない。もっとも、株主でない代理人によって株主提案権が行使された場合には当該代理人は株主でないため、株主総会会場に入場することはできない。代理人によって、株主提案権が行使された場合には、当該代理人が委任状等株主本人の真正な意思による代理である旨を確認できる書類を求めて、代理権の有無を確認する。 エ.株主提案の方式 会社法では、株主提案の方式については規定していない。旧商法では書面で行うと規定していたのに比べて、口頭でも電磁的方法でも可能となった。そのため、実務的には定款及び株式取扱規則で規定することが考えられる。 ※株懇モデルの株式取扱規程 (少数株主権等) 第11条 振替法第147条第4項に規定された少数株主権等を当会社に対して直接行使するときは、個別株主通知の申し出をしたうえ、署名または記名捺印した書面により行うものとする。 (株主提案議案の株主総会参考書類記載) 第12条 株主総会の議案が株主の提出によるものである場合、会社法施行規則第93条第1項により当会社が定める分量は以下のとおりとする。 一 提案の理由 各議案ごとに400字 二 提案する議案が役員選任議案の場合における株主総会参考書類に記載すべき事項 各候補ごとに400字 B.実質的要件の確認 通知請求の場合、305条では実質的要件を規定しています。その要件について確認します。内容については実質的要件の説明を参照して下さい。 (5)株主提案の受け入れ・不採用 前項のフローの最後のところ、株主提案を受付してから、会社は何をするのかを簡単にまとめました。 A.
株主提案を受け入れる際の留意点 会社提案と株主提案がどのような関係に立つのかによって、総会での両議案の位置づけ、それらに対する賛否の意思表示の扱いが変わってくる。つまり、招集通知、参考書類、議決権行使書の書き方が変わってきます。 例えば、株主提案を記載した招集通知としては、このような例 ア.株主提案が1つの独立した提案を構成していない場合 株主提案という構成をとりつつ、実体は会社提案に対する反対の意思表明に過ぎない場合は、独立した議案として取り扱わない。 (例)会社から「買収防衛策導入の件」が提案されているのに対して、株主から「買収防衛策廃止の件」が提案された場合 イ.株主提案が会社提案とは別の独立した提案を構成している場合 ・会社提案と株主提案が両立する場合 会社提案・株主提案に対してそれぞれ賛否を表明することができ、会社提案と株主提案は別々の議案として審議し、それぞれ採決する。 (例)会社から剰余金配当議案が提案されているのに追加して、株主から当該議案に追加して○円の剰余金配当議案が提案された場合 ・会社提案と株主提案が両立しない場合 会社提案・株主提案に対していずれも賛成することはできない。会社提案と株主提案は一括審議し、いずれか一方のみに賛成するという取扱をする。 (例)会社から剰余金配当議案が提案されているのに対して、株主から当該議案に代替するものとして剰余金配当議案が提案された場合 B.
株主提案があった場合の適時開示 適時開示規則では明確に規定されてはいないが、適時開示を行っている企業が多く、次の2通に分けて開示しているようである。 適時開示の事例としてたとえば、このような例 ・株主提案権の行使に関する書面を受領した旨及び株主提案の内容を開示するもの ・株主提案に対する会社意見を開示するもの C.
株主提案があった場合の招集通知・議決権行使書面・参考書類の作成 ア.招集通知 ★記載の順序 招集通知の会議の目的事項の決議項目に株主提案の議題、議案を掲載しますが、その順番について、先に会社提案の議案、その後に株主提案の議案を記載するのが通例となっています。それは、この後で説明する、総会での審議の順番と密接に関連しているからです。 参考例 【会社提案】 第1号議案 剰余金処分の件 第2号議案 取締役8名選任の件 第3号議案 事前警告型買収防衛策導入の件 【株主提案】 第4号議案 剰余金処分の件 第5号議案 定款一部変更の件 第6号議案 取締役2名追加選任の件 ★付議・審議の順序 ・同じ議題に関する両立しない会社提案・株主提案については、一括して付議・審議することになります。 上の例では、剰余金処分の件については会社提案・株主提案を一括して審議します。 ・論理的に先行する株主提案が出されている場合には、株主提案を先に付議・審議しなければなりません。 上の例では、会社提案の「事前警告型買収防衛策導入の件」、株主から買収防衛策導入については株主総会の特別決議を要するという内容に定款を変更する議案が提起されている場合には、株主提案の定款変更議案を審議します。つまり、定款の一部変更を否決して、買収防衛策の導入決議は特別決議にすることを否定してから、「事前警告型買収防衛策導入の件」を普通決議で承認させるというわけです。 ・両立しない別個独立の会社提案・株主提案については、会社提案を先に付議・審議します。 上の例では、会社提案の「取締役8名選任の件」と株主提案の「取締役2名追加選任の件」については(この会社の定款には上限役員数が10名となっていれば)両立する別議案なので、別々に審議することが可能です。 イ.議決権行使書面 ★会社提案と株主提案が両立する場合 別々の議案として審議することが可能です。従って、会社提案と株主提案をそれぞれ独立の議案としてナンバーを付して、賛否の欄を設けます。つまり、会社提案の議案が増えた場合と同じように扱えばいいのです。 ★会社提案と株主提案が両立しない場合 この場合は一括審議する必要があります。片方に賛成したら。もう片方は反対しないといけないという場合には注記をする必要があります。株主は議決権行使書面を全議案に賛成に記入するか、あるいは白紙で返送することが多いのです。全部賛成では、両立しない会社提案と株主提案の両方に賛成という意思表示はありえないので、そういう議決権行使書面は無効になってしまうからです。そのため、無効票を少しでも減らすために、全部に賛成できないということを注記する必要があるのです。この注記には二つの方法があります。 ・分別表示 分別して、第1号議案、第4号議案という形で、別の議案としてのせて、注意表で「第1号議案について賛成の表示をされる時に、第5号議案については反対としてください」という文章を入れます。 ・一括表示 第1号議案か第4号議案かの一方しか○をつけられない形を明確にするために、この二つを一括表示して姉妹、ひとつの議案について会社提案、株主提案という形に分けて、「どちらかひとつだけ○をしてください」という書き方をします。 ※取締役選任の場合にはかなり複雑なことになります。 ウ.参考書類 ★株主提案の参考書類記載事項(会社法施行規則93条) 会社提案の議案の記載事項に以下の項目を追加します。 ・議案が株主の提案に係るものである旨 ・議案に対する取締役会の意見がある時は、その意見の内容 ・株主が議案の通知請求に際して会社に対して提案の理由を通知した時は、その理由(ただし、当該提案の理由が明らかに虚偽である場合又はもっぱら人の名誉を侵害もしくは侮辱する目的によるものと認められる場合を除く) ・議案が役員選任に関するものである場合において、株主が議案の通知請求に際して会社に対して会社法施行規則74〜77条に定める事項(役員選任議案における参考書類記載事項)を通知したときは、その内容 ★提案理由の字数制限 提案理由の字数制限を定款や株式取扱規程で定めている会社は、何字以内にしてくださいという形で指導できます。 D.
プロキシファイト 株主提案が提出された時に、その提案を成立させるため、提案した株主は他の株主から委任状を集める場合があります。そのため株主総会の会場の運営では委任状の対策を考える必要が起こります。委任状対策については310条の議決権の代理行使のところを参照して下さい。 E. 不適法提案の処理 株主提案の内容が不適法である場合、会社はその提案を不採用とすることができる。その不採用とする場合、何らかの法律上の手続きは明文上要求されていない。 株主提案の適法性判断は取締役会で行うのが適当と思われる。 根拠 1.株主総会の目的事項の決定は、株主提案の採否も含めて取締役会決議による(298条)ため、その決定に当たっては株主提案の適法性も当然に問題になると考えられるため。 2.株主提案を不採用とされた株主から、当該取扱いを不服として、後日、株主総会決議取消訴訟を提起されるリスクに備えて、手続きを明確化させるため。 ※実務上は、不適法提案についても、不採用とした場合の株主のリアクションを考慮し、一応株主総会に付議することがある。株主提案を圧倒的多数で否決できることができるならば、一応総会に付議し、否決してしまうことの方が無難という議論である。また、当該株主との折衝により提案の修正や取り下げを説得するのが実務上、実際にやり取りされているものと思われる。 〔参考〕個別株主通知について 個別株主通知とは権利行使をしている当人が株主であることを証明する本人確認の書類です。以前の株券電子化がされる前は、各発行会社が株主名簿を管理していて、そこに株主の署名と捺印が登録してあったので、印鑑照合と署名の確認で本人確認ができました。しかし、株券電子化によって、株主は証券会社を通じて株式を売買しているので、それができなくなって、その代わりに個別株主通知という書類を保振機構が作成して証明してくれるようになりました。 個別株主通知の仕組みを簡単に説明すると、次のようになります。 個別株主通知は、株主が振替口座を開設する口座管理機関(証券会社)に対して個別株主通知の申出の取次請求を行うことによって為される。 口座管理機関は、申出の取次を受け、株主に対しては@申出株主の氏名または名称及び住所、A口座管理機関の名称、B個別株主通知の申出の取次請求を受け付けた日、C受付番号、D個別株主通知対象銘柄等を記載した受付票を発行し、機構に対しては申出の取次を行う。 機構は口座管理機関に口座の情報の報告を請求し、報告の請求を受けた口座管理機関は、機構に情報の報告を行う。各口座管理機関からの情報を集約して、機構は会社(株主名簿管理人)に対して個別株主通知を行う。個別株主通知の日程は申出受付日の4営業日後を標準とする。 ※個別株主通知には対象銘柄について株主が所有するすべての振替株式を通知対象とする全部通知と対象銘柄について株主が申出の取次を行った口座管理期間に開設した振替口座に記録された振替株式のみを対象とする一部通知があり、一部通知は申出受付日の3営業日後に通知を受け取ることができる。ただし、「少数株主権等行使対応指針」では、全部通知を進めているため、本レジュメでは全部通知を基本としている。 機構は、申出株主が口座を開設する口座管理機関に個別株主通知を行った日の通知を行い、口座管理機関は、申出株主に個別株主通知済通知書を交付する。 個別株主通知による通知事項は、1)個別株主通知対象銘柄、2)申出株主の氏名または名称及び住所、3)申出受付日、4)受付番号、5)対象日、6)対象日において申出株主が有する個別株主通知対象銘柄である振替株式の増減の記載または記録がなされたときは増減の別及びその数、7)対象日において申出株主が有する個別株主対象銘柄である振替株式の数等(業務規程154条19項) ü 公開会社以外の場合(303条1項、3項、305条2項) ここで説明してきたのは公開会社の場合です。公開会社以外の株式会社の場合には、要件が違ってきます。 @取締役設置会社以外の会社(303条1項) 取締役会設置会社以外の会社は、株主は、取締役に対し、少数株主権ではなく単独株主権として(株式保有期間の要件もない)、一定の事項を株主総会の目的とするように請求できます。この場合、請求時期の制限もないので、株主総会の会場での議題提案権の行使も可能です。また、取締役設置会社以外の会社では、株主総会の目的事項を事前に株主に通知することが原則として義務付けられておらず、招集者が目的事項として定めた事項以外の事項も決議できることの現れと言えます。 A公開会社以外の取締役設置会社(303条3項、305条2項) 公開会社以外の取締役会設置会社の場合は、公開会社とは提案株主の株式の保有期間6ケ月の要件がありません。 ü 罰則、違反の効果(976条、831条) 取締役は、株主の提案した議題を正当な理由なく取り上げなかった時及び株主の提案した議案を正当な理由なく取り上げなかった時及び株主の提案した議案を正当な理由なく招集通知に記載しなかった時は、取締役が過料の制裁を受ける(976条19号)。 また、取締役が会社または株主から提案されている議題についてなされた適法な議案提出権または通知請求権の行使に応じなかった場合は、その議題について招集手続に瑕疵があることになり、決議取消事由になる。(831条1項1号) ü
2019年の会社法改正に伴う株主提案権に関する見直し 近年、株主提案権の濫用が目立つようになってきたのを背景に、次のような趣旨で改定される。 ・膨大な数の議案の提案等で議案の提案権等の濫用的な株主提案権利の行使を制限 ・
株主総会における審議の時間が無駄に割かれ、株主総会の意思決定機関として機能が害されたり、会社におけるコストが増加する弊害の防止 305条 C取締役会設置会社の株主が第1項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が十を超えるときは、前三項の規定は、十を超える数に相当することなる数の議案については、適用しない。この場合において、当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については、当該各号に定めるところによる。 1.取締役、会計参与、監査役または会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを1の議案とみなす。 2.役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを1の議案とみなす。 3.会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを1の議案とみなす。 4.定款の変更に関する2以上の議案 当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1の議案とみなす。 D前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は、取締役がこれを定める。ただし、第1項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を求めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めるものとする。 E第1項から第3項までの規定は、第1項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合には、適用しない。 改定の主な内容 ・
議案要領通知請求権について、株主が提出しようとする議案の数が10を超える場合には、10を超える数の議案は提出できない。(新305条4項) ・議案の数の数え方に関する規律(新305条4項1〜4号) 役員等の選任に関する議案:議案の数かかわらず1議案とみなす 役員1人の選任を1つの議案と数えずに、何人の選任でも役員選任でまとめて1つの議案とする 役員等の解任に関する議案:議案の数かかわらず1議案とみなす(選任の場合と同じ) 会計監査人を再任しないことに関する議案:議案の数にかかわらず1議案とみなす 定款変更に関する2以上の議案:2以上の議案について異なる決議がされたとすれば内容が相互に矛盾する可能性がある場合には1議案とみなす 実務においては、株主が1議案として提案しているかどうかという形式面ではなく、何が内容として提案されているかという実質面で捉える。したがって、原則として提案の内容である事項ごとに1議案として捉える。例えば、取締役の選任の提案について、現状の取締役を総入れ替えするような議案が提案された場合、取締役の人数が15人であれば、1人の選任を1議案とした場合に、15人の選任の提案はできなくなってしまう。したがって、取締役の選任という実質的な内容で1つの議案として数える。また、経営体制の変更する提案の場合には、ひとつの提案で複数の議案の議決が必要な場合がある。例えば、監査役会設置会社から監査等委員会に変更する場合には、定款変更、役員選任、役員の報酬、退任役員の退職慰労金などを最低でも決議しなければなりません。このそれぞれを一つの議案として数えると、場合によっては、提案を成立させるための決議が不足してしまうおそれがあります。 ※定款変更について 定款変更議案については、2以上の議案について異なる決議がされたとすれば内容が相互に矛盾する可能性がある場合には1議案とみなす、ということになっています。異なる決議がされたとすれば内容が相互に矛盾する可能性がある場合、というのは、一部の議案について可決され、他方の議案について否決される場合の組み合わせで議決の内容が相互に矛盾することとなる場合です。 この際には論理的な矛盾の可能性ではなく、株主提案の趣旨を考慮したうえで判断することが必要だとされています。もっとも、これは提案株主の主観的な意図を全面的に汲み取ることを求められているのではなく、提案された変更が実現した際に、その条項が持つ客観的な意味及びその趣旨について、提案株主が提出した理由を参考に読み解くという程度のものです。常識的なことですが、定款が変更されたら、実際にどうなるかを会社の側も、ちゃんと考えろということです。 ・上限を超える提案があった場合(305条5項) 上限を超える数の提案があった場合、取締役が10を超える数の議案を定める。ただし、提案株主が議案相互間の優先順位を定めている場合には、それに従う。 実務においては、10を超える数に相当する数の提案かどうかは、取締役が判断することとなりました。しかし、実務上では、まず提案株主と接触して議案の数を10以内に収めるように交渉することになると思います。そういう交渉をしたうえで、交渉がまとまらないときや提案株主と連絡が取れない場合は、最終的に取締役が判断するということになります。この場合、10を超える提案があった場合、そのうち10の議案を選ぶ場合は取締役の選択に任されることになります。この選ぶ段階で議案が適法かどうかを考慮する必要はなく、したがって、10の議案を選んだあとで、そのうち1つの議案が法令定款に違反するので不適切であった場合は。のこりの9議案が取り上げられることになります。 〔実務上の対応〕 @対応のルール化 10を超える数に相当する数の提案かどうかは、取締役が判断することになっていますが、上述のとおり、提案株主との協議を行い、それでもだめなら取締役が最終的な判断をすることになります。 その場合、あらかじめ株式取扱規則で上程すべき議案の決定方法についてのルールを定めておく(このためには、株式取扱規則の改定は取締役会の決議で決められることが必要です)。そのルールが合理的であるかぎり、そのルールに基づいて取締役が判断することには問題はない(法務省立法担当者の見解)。合理的なルールの例として、「議案を、原則として、株主が記載している順序に従って、横書きの場合には上から(縦書きの場合には右から)数えて決定するものとするが、議案が秩序立って記載されていないなど、その順序を判断することが困難である場合には、取締役が任意に選択するものとする」 Aあえて数を絞らずに株主総会に上程してしまう 取締役が判断することが難しい場合、判断が微妙で株主と会社に見解の相違が生じそうな場合には、株主提案の数が全体として10を超えるのであっても、株主の議決権行使に関する予測等を踏まえて、その議案が否決されることが確実に見込まれるのであれば、株主提案すべてを株主総会に付議してしまい、否決してしまう方が、後腐れがない良策である場合もあります。 この場合、議案の数の制限に関するルール(株式取扱規則など)があったとしても、それは提案された会社の側の拒絶事由であるので、拒絶しないのであれば、問題はありませんん。 ※複数の株主による共同行使の場合 共同行使に係る各株主が提案することができる議案の数は10を超えることができないと解されています。例えばABCの3人が共同して10議案を提案した場合、各株主はほかの株主Dと共同して議案をさらに提案することはできません。また、ABCの3人が共同して6議案を提案した場合は、各株主はほかの株主Dと共同して4議案まで提案することができます。 ここで株主は株主名簿上の株主を指すことになるため、名義上の株主が異なれば、背後にいる株主が同一であったとしても議案数の制限の関係で拒絶することは実務上難しいと言えます。
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