新任担当者のための会社法実務講座
第4章.機関 
第1節.株主総会及び種類株主総会
第2款.種類株主総会
 

 

第4章.機関

第1節.株主総会及び種類株主総会

第2款.種類株主総会

Ø 種類株主総会の権限(321条)

種類株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。

 

種類株式という制度は、株主平等原則により株式に基づく株主の権利はすべて同じあるという原則の例外を正面から認めるものであるため、会社のある決定に係る利害が種類株主ごとに異なることが生じ得る。種類株主総会という制度は、種類株主ごとに利害が異なることから会社がそのような決定をすることができないとするのではなく、ある決定について不利益を受ける種類株主だけで構成される種類株主総会の多数決による決議をもって種類株主の同意があるものとして決定を行うことができるようにするための制度として決定を行うことができるようにするための制度として、設けられました。株主平等の原則からは、ある種類株主に不利益が生ずる場合にはその種類株主の全員の同意がなければその決定をなし得ないということになるべきところ、種類株主総会という制度は、その種類株主の多数決で足りるとすることから、株主平等の原則を緩和した制度であると言うことができます。

このように、種類株主総会という制度は、会社のある決定がある種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合に種類株主が集団的にその不利益に同意するという制度として設けられたものです。これに加えて、会社法では、例えば、拒否権付株式や取締役等選任株式が種類株式に加えられ、これらの種類株式は、会社の特定の決定についてあらかじめ種類株主だけで行うことができるようにされているのであり、それ以前の種類株主間の利害調整を図るための種類株主総会とは性格が異なってきます。そのことから、会社法における種類株主総会の制度は、種類株主により構成される総会であるという最大公約数的な意義を持つにとどまるということになっています。

ü 会社法で規定された事項

会社法で、種類株主総会の決議事項として明記されているのは下記の各事項です。

@ある種類株式の内容として譲渡威厳を設ける定款変更または全部取得条項付種類株式とする条項を設ける定款変更(111条2項

A譲渡制限種類株式の募集事項の決定(199条4項)

B譲渡威厳種類株式の募集事項の決定の委任(200条4項)

C譲渡威厳種類株式の新株予約権募集事項の決定(238条4項)

D譲渡威厳種類株式の新株予約権募集事項の決定の委任(239条4項)

E定款変更、株式分割等、組織再編行為の決定で、ある種の株式の株主に損害が及ぶおそれのある場合(322条1項)

F拒否権付種類株式の拒否権に係る事項の決定(323条)

G取締役等選任種類株式の株主による取締役・監査役の選任・解任(347条)

H吸収合併消滅会社または株式交換完全子会社が種類株式発行会社である吸収合併または株式交換において、消滅会社または完全子会社の譲渡制限種類株式でない種類株式の株主に対して対価として譲渡制限株式が交付される場合(783条3項)

I吸収合併存続会社、株式交換完全親会社または吸収分割承継会社が譲渡制限種類株式発行会社である場合において、消滅会社、完全子会社または分割会社の株主に対して存続会社、完全親会社または承継会社の譲渡制限種類株式が交付される場合(795条4項)

J新設合併消滅会社または株式移転完全子会社が種類株式発行会社である場合において、消滅会社または完全子会社の譲渡制限種類株式でない種類株式の株主に対して対価として譲渡制限株式が交付される場合(804条3項)

ü 定款で定めた事項

会社法などの法令で定められた事項以外には、種類株主総会の決議事項を定款で定めることができる、とされています。ただし、株主総会や取締役会等の会社全体の利益を代表する機関の権限を排して一部の種類の株式株主から構成される種類株主総会に会社の意思決定を委ねてよい事項については、当然、「当該種類株主の利害に密接に関係がある事項」という限定があると考えられます。実際に、定款で種類株主総会の決議事項として定めることができる事項として、譲渡制限種類株式に関するその譲渡(取得)承認、トラッキング・ストックに関するその連動対象である子会社の役員等の選解任等があるとされています。

ü 類株主総会の構成

種類株主総会は、ある種類の株式の株主によって構成される株主総会ですから、株式の種類ごとに種類株主総会が存在することになります。例えば、A、B、Cの3つの種類株式が存在する場合には、3つの種類株式ごとに各々の種類株主総会が構成されなければなりません。A及びBのいずれにも損害を及ぼすおそれのある定款変更であっても、種類株主総会はAとBの種類株式ごとに構成されなければなりません。

ただし、取締役等選任種類株式については、定款の定めにより2以上の種類株主が共同で選解任することが可能であるとされており(108条甲9号)、また、拒否権付種類株式についても定款の定めにより2以上の拒否権付種類株式で共同するすることができるようにすることができるとされています(323条3項)。

ü 109条2項の属人的定めと種類株主総会

非公開会社では、109条2項に基づいて、105条1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができますが、これを属人的定めと呼んでいます。109条3項で、属人的定めがある場合には、その定めによる株主が有する株式を属人的定めによる権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、会社法第2編および第5編の規定を適用するとされています。この結果、属人的定めがある株式については、そのような株式の発行をした会社は種類株式発行会社とみなされ、種類株式の規定が適用されることになります。

 

 

Ø ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会(322条)

@種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

1.次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第1項又は第2項に規定するものを除く。)

イ 株式の種類の追加

ロ 株式の内容の変更

ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

1の2 第179条の3第1項の承認

2.株式の併合又は株式の分割

3.第185条に規定する株式無償割当て

4.当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

5.当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

6.第277条に規定する新株予約権無償割当て

7.合併

8.吸収分割

9.吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継

10.新設分割

11.株式交換

12.株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得

13.株式移転

A種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

B第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。

Cある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。

 

ü 種類株主総会決議を要する会社の行為

・定款変更(322条1項1号)

322条1項1号は定款の変更を種類株主総会決議事項としていますが、すべての定款の規定ではなく、111条1項または2項に規定したものを除いた上で、@株式の種類の追加(322条1項1号イ)、A株式の内容の変更(322条1項1号ロ)、B発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加(322条1項1号ハ)に限っています。111条1項及び2項は、そこで規定されている定款変更については、111条1項及び2項で自足的に手続きを規定しているので、322条1項の適用対象とする必要はありません。これに対して、322条1項の種類株主総会が必要な定款変更を@〜Bに限定しているのは、損害を及ぼすべき場合とという事由が解釈上一義的でないことから、どのような定款変更すれば種類株主総会決議が必要かが明確でなく、実務上の種類株式の利用の阻害要因となっているという声に応えるためであったと考えられます。これを受けて、会社法では、定款変更がある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるのは、@からBの変更に整理できるとする趣旨です。以下で、@〜Bの各事項について考えてみたいと思います。

@株式の種類の追加(322条1項1号イ)

株式の種類の増加の反射的な効果として、他の種類株式の株主に損害が及ぶ場合を意味します。例えば、より優先性のある配当優先株式を発行する旨の定款の定めを設ける定款変更は、既存の優先株式や普通株式の配当の権利を希薄化することになるので、損害が及ぶことになります。既存の優先株式と優先性において同順位の優先株式を発行する旨の定款の定めを設ける定款変更も、既存の優先株主の優先配当に関する優先性を希薄化するので、既存の優先株主に損害が及ぶことになります。

拒否権付種類株式を発行することとなっていなかった会社において、新たに拒否権付種類株式を発行することとする旨の定款変更や、1つの種類の拒否権付種類株式を発行している場合に、さらに別の種類の拒否権付種類株式を発行することとする旨の定款変更は、既発行の各種類株主に損害を及ぼすこととなります。これに対して、公開会社において、新たに譲渡制限種類株式を発行することとする旨の定款変更することは、既発行の種類株式の株主にとっては、配当等の優先性や議決権の比率の面で不利益な変動がもたらされるのでない限り、損害が及ぶ場合に該当しないと考えられます。

A株式の内容の変更(322条1項1号ロ)

ある種類株式の内容を、ある種類株式の株主に不利益に変更する場合には、種類株主に損害が及ぶことになります。例えば、配当優先株式の定款で定めた配当金額を減額する事例や、拒否権付種類株式の拒否権の対象となる事項の縮小の事例がこれに当たります。しかし、ある種類株式の内容の変更が他の種類株式の株主に損害を及ぼすこともあり得ます。配当優先株式の優先配当額を減額することは、優先性において劣後する優先株式や普通株式に損害を及ぼすことになるし、拒否権付種類株式の拒否権の対象となる事項を拡大することは、他の種類株主に損害を及ぼすこととなります。

また、例えば、2つの種類の株式が発行されている場合において、そのうちの1つの種類株式に譲渡制限を付す定款変更をする場合に、譲渡制限を付される種類株式については、種類株式のの種類株主総会を要する111条2項で規定していますが、他方の種類株式について種類株主総会が必要と考えられます。

2つの種類の株式が発行されている場合において、そのうち1つの種類株式に取得請求権条項、取得条項または全部取得条項を付す場合に、他方の種類株式の種類株主総会は必要かどうか。取得請求権条項等が付されることは、株主としての地位を失う可能性があるということであり、その種類株式の株主には損害を及ぼしますが、他の種類株式の株主の権利はそのまま維持されるので損害が及ぶことにはならないとも言えます。しかし、取得請求権条項等を付すということは、株主の投下資本回収の手段を認めることもあり、事情によっては損害を及ぼすこともあり得るので、種類株主総会が必要と考えられます。

B発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加(322条1項1号ハ)

例えば、発行可能株式総数100株、A種類株式の発行可能種類株式総数50株、B種類株式の発行可能種類株式総数50株の会社において、A種類株式の発行可能種類株式総数を80株に増加し、同時に発行可能種類株式総数を130株に増加する定款変更をする場合には、A種類株式とB種類株式のいずれも議決権付きであるとすると、この定款変更はB種類株式に損害を及ぼすことになります。A種類株式が配当優先株式で、B種類株式が普通株式である場合には、定款変更は、配当に関する割合的権利関係についてもB種類株式に損害を及ぼすこととなります。

発行可能種類株式総数だけの増加の事例としては、発行可能種類株式総数100株、A種類株式の発行可能種類株式総数80株、B種類株式の発行可能種類株式総数50株という定款の定めとなっている場合において、発行可能種類株式総数を130株に増加することによりA種類株式が30株新たに発行可能となるというような事例です。

C定款変更に準ずる場合

322条1項各号の種類株主総会決議を要する事項は限定列挙であるにしても、各号の解釈として厳格な文言解釈によらなければならないというものではなく、322条1項1号は、とくに明確性を高めるという必要からイロハの定款変更に限定したという事情はあるとしても、準用される場合があり得ると考えられます。

・株式の併合または分割(322条1項2号)

株式の併合または分割は、種類株式間の割合的な権利関係に変動を及ぼすおそれがあるということから、種類株主総会決議の必要な事項とされています。例えば、AとBという2種類の種類株式が発行されている場合に、Aのみを併合し、または分類するとAとBの配当や議決権に関する割合的関係に変動が及ぶことは明らかです。しかし、AとBのいずれも同一比率で併合または分割する場合であっては、いずれかの種類株式に損害を及ぼすことがあることは以前から認められていました。例えば、Aが配当優先株式で1株当たり1株当たり1株当たり優先配当額が10円、Bが普通株式である場合に、優先株式と普通株式のいずれも1株を2株に分割する場合を考えると、この分類により優先株主に対する優先配当額は分割前の2倍となるので、この分割は普通株主にとって損害が及ぶから普通株主の種類株主総会決議が必要です。

・株式の無償割当て(322条1項3号)

185条に規定する株式の無償割当ても、実質的には、株式分割と同様に株式の細分化の効果を持つ会社の行為であるから、株式分割と同様に種類株式間の割合的権利関係に変動を及ぼす場合には、損害を受ける種類株式の種類株主総会決議を要するとしています。

・株式割当てによる新株引受人の募集(322条1項4号)

株主割当てによる新株発行は、種類株式間の割合的な権利関係を変動させることでは株式分割と同じ効果を持ち得るので、種類株主総会決議事項とされています。例えば、優先配当額10円の優先株式と普通株式が各50株発行されている会社において、同一種類の優先株式を優先株主に対してのみ株主割当てにより10株発行する場合には、優先株式1株が1.2株に分割された場合と同様に、優先配当額が60株分に増加するので、普通株主に損害が及ぶことになります。

・株式割当てによる新株予約権引受人の募集(322条1項5号)

新株予約権の発行も潜在的な株式の増加をもたらすものですから、株主割当てにより発行される場合には、新株の発行と同様に、種類株式間の割合的な権利関係に変動を生じさせ、いずれかの種類株式に損害を及ぼすことがあり得ます。

・新株予約権無償割当て(322条1項6号)

277条による新株予約権の無償割当ても、潜在的な株式の増加をもたらすという意味では、新株予約権の募集による発行と同じ効果を持つので、種類株式間の割合的な権利関係に変動を生じさせる場合には、いずれの種類株式に損害を及ぼすことになります。

・合併(322条1項7号)

新設合併と吸収合併のいずれも、また存続会社株主と消滅会社株主のいずれも対象となります。合併により種類株式の権利に定款変更と同じ不利益が及ぶ場合と、種類株主間の割合的な権利関係に影響が及び得ることから種類株主総会決議が必要とされてきたと考えられます。

・吸収分割(322条1項8号)

吸収分割は分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を承継会社に包括継承させる行為であると定義されています(2条29号)。吸収分割では、分割会社に対して承継会社の株式が交付されるが、分割会社においては、分割会社分割の対価として承継会社の株式が交付されるだけであるから種類株式発行会社であっても種類間の利害対立はありません。しかし、人的分割の場合には、分割会社の株主に対する承継会社の株式の分配(現物配当)も分割計画の記載事項であって(758条8号)、分割手段の一環であることから、吸収合併の消滅会社と同じで、分割会社の種類株主間に利害対立があれば、種類株主総会決議が必要とされています。

・吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部の承継(322条1項9号)

吸収分割が行われる場合の分割会社の側について322条1項8号で定めるのに対して、9号では、承継会社の側についての定めです。承継会社が種類株式を発行している場合には、分割の対価として種類株式のいずれかが交付されるかにより、吸収合併における存続会社におけると同様の利害対立が生じ得るので、その場合には種類株主総会が必要とされています。

・新設分割(322条1項10号)

分割会社が種類株式を発行している場合において、分割会社は新設分割により新設会社の株式の交付を受けますが、それ自体で分割会社の種類株主間に利害対立は生じません。しかし、いわゆる人的分割を行う場合には、分割手続の一環として新設会社の株式が分割会社の株主に現物配当されるので(763条12号)、その定め方次第では分割会社の種類株主間に利害対立が生ずるので、種類株主総会決議事項とされています。

・株式交換(322条1項11号)

株式交換は、会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させる行為であると定義されており(2条31号)、完全子会社となる会社の側の行為として位置づけられています。完全子会社となる会社が種類株式を発行している場合には、各種類株主に交付される対価いかんにより種類株主間に利害対立が生じ得るので、その場合には種類株主総会決議が必要となります。

・株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得(322条1項12号)

322条1項11号が株式交換により完全子会社となる側の会社について規定するのに対して、322条1項12号は、株式交換により完全親会社となる間の会社について規定します。完全親会社となる会社が種類株式を発行している場合には、完全子会社となる会社の株主に対価を交付することになりますが、いずれの種類株式を交付するかにより種類株主間に利害対立が生じ得るので、その場合に種類株主総会決議が必要とされています。

・株式移転(322条1項13号)

株式移転では、これを行う会社の発行済株式の全部を新設の会社に取得させることになりますが、株式移転を行う会社が種類株式を発行している場合には、新設会社から各種類株主に交付される対価のいかんにより種類株主間に利害対立が生じ得るので、その場合に種類株主総会決議が必要とされています。

ü 種類株主総会決議を要しない旨の定款の定め(322条2〜4項)

322条1項各号の種類株主総会決議を要する事項について、種類株主総会決議を要しない旨を定款で定めることができるとされています(322条2項)。ただし、会社の行為によりある種類株主に損害が及ぶことからその種類株主を保護するのが種類株主総会という制度であるので、単純に種類株主総会決議が不要とすることの代償措置として、定款で種類株主総会決議を要しない旨を定めた場合には、損害の及ぶ種類株主には株式買取請求権が認められるものとしています。そのことは、322条1項2号から6号の各行為については116条1項3号で規定されており、7号以下の組織再編行為に関しては、組織再編行為においてはすべての株主に株式買取請求権が認められる(785条、797条、806条)から種類株主に独自の株式買取請求権の規定は置かれていません。

以上の趣旨による322条2項は、種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、種類株主総会決議を要しない旨を定款で定めることができるものとし322条3項は、2項による定款の定めがある場合には、1項の種類株主総会決議が必要であるという規定の適用がないことを明らかにしています。

これに対して、3項但書は、1項1号に規定する定款の変更を行う場合には、種類株主総会決議を要しないものとする2項及び3項の適用はなく、種類株主総会決議が必要であるということを定めています。株式の発行等に関する行為や組織再編行為については、会社の行為の機動性を高めるという趣旨で、種類株主総会決議を不要とすることを認めますが、定款の変更については、株主の権利に関する基本的な定めであるから、本来の慎重な手続きを不可欠とし、株式買取請求権を代償として種類株主総会を不要とすることを認めるべきではないという趣旨であると考えられています。ただし、3項但書の括弧書では、単元株式数についての定款変更についてのみみは、種類株主総会決議を要しない旨の定款の定めを認めるものとしています。単元株式数の変更は、株式の分割または併合と実質的に等しいからです。

322条4項は、ある種類の株式の発行後に定款を変更してその種類の株式について322条2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、その種類の種類株主全員の同意を得なければならないものとしています。損害が及ぶおそれがあるにもかかわらず種類株主総会決議を要しないとされることは、種類株主が定款の定め知った上で株式を取得したことにより正当化されますが、種類株式の発行後に定款を変更して種類株主総会を不要とする定めを設ける場合には、正当化の前提を欠くからです。 

 

 

Ø 種類株主総会の決議を必要とする旨の定めがある場合(323条)

種類株式発行会社において、ある種類の株式の内容として、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項について、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする旨の定めがあるときは、当該事項は、その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

 

会社法では、株主総会において決議すべき事項のうち、種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする種類株式が認められて(108条1項8号)いて、これを拒否権付種類株式と呼んでいます。この拒否権付種類株式について、定款で定められた拒否権のある事項については、拒否権付種類株式の種類株主総会決議がなければ効力が生じない(323条)。

ü 拒否権のある事項

拒否権付種類株式の株主は、会社のいかなる行為についても拒否権をもち、323条に基づく種類株主総会決議をするということになるかは、108条2項8号に従い定款で定める。拒否権は、株主総会の決議事項、(取締役会設置会社にあっては)取締役会の決議事項その他のいずれにも存するものとすることができます。拒否権があるとされる事項について、323条に基づく承認決議がなければ、株主総会または取締役会の決議事項の効力が生じません。321条に基づき定款の定めにより種類株主総会の決議の対象とされた行為については323条の適用はありません。

323条但書は、種類株式発行会社であっても、定款に種類株式を発行する定めがあるだけで、実際には種類株式を発行していないか、会社が種類株式の全部を自己株式として保有し、議決権を行使することのできる株主が存在しない場合には、323条の決議をすることができないので、323条の適用はないということになります。

ü 拒否権行使の限界

拒否権付種類株式という種類株式を会社法が認めた以上は、拒否権付種類株主が323条の種類株主総会の決議により拒否決議を行うことは、株式に基づく株主の権利として自由に決することができるものであり、その決議について正当な理由があることを必要としません。ただし、拒否権の行使により、会社にとっては利益となる行為が実行できなくなったり、会社の運営についてデッドロック状態が生ずる可能性があるが、拒否権を認めるということ自体にそのような危険が内在しているのであり、そのような危険を認識したうえで、種類株式の設計を行う必要があります。ベンチャー企業などの閉鎖的な会社では、株主間の関係は継続的な契約という色彩を帯びるので、事情のいかんでは拒否権の行使が契約上の信義則違反の行為として評価される余地がないとは言えません。

ü 323条の種類株主総会決議の法的意義と決議に瑕疵がある場合

拒否権は、株主総会または取締役会の決議を要する事項について認められるのが、その事項について323条の種類株主総会で承認する、または拒否する旨の決議をすることの効果は、次のようなものとなります。

株主総会または取締役会の決議は有効に成立することを前提とすると、承認決議が行われた場合には、承認決議がされることにより株主総会または取締役会の決議を要する事項の効力が生ずることになります。逆に、拒否決議がされると、株主総会または取締役会の決議を要する事項の効力は生じません。承認決議と拒否決議のいずれもされない場合にも、株主総会または取締役会の決議を要する事項の効力は生じません。

以上のことは当然のことで、とくに問題はないと思われますが、種類株主総会の決議に瑕疵がある場合のことを考えてみましょう。

決議不存在の確認の訴えまたは無効確認の訴えは、訴えの利益があれば原告適格には制限がないので問題はないのですが、決議取消の訴えについては、原告適格を有するのが拒否権付株式の株主に限られるかについては、831条1項では、決議取消の訴えは種類株主を含む全株主が原告適格を有するとしています。

ü 323条の種類株主総会決議なしに行われた取引行為の効力

323条の種類株主総会決議を要する会社の株主総会の決議などを要する行為であるにもかかわらず323条の種類株主総会決議なしに行われることがあり得ます。この場合にも承認決議がない以上は、株主総会決議等の効力は生じないので、種類株主の承認決議が行われたがそれが取り消された場合等と同様の問題となります。

種類株主総会決議なしで行われた代表取締役の代表行為について、取締役会の法定決議事項であるにもかかわらず決議なしで代表取締役が行った取引について、取引相手方が取締役会決議がなかったことについて善意かつ無過失でなければ有効な取引とならない(最高裁判決昭和40年9月22日)と同様に考えるのは適当でなく、349条5項の適用によりつつ、拒否権が存在すること、および種類株主総会決議が有効に行われなかったことを知らなかったことについて重過失のある相手方の保護を除外すると考えられます。

 

 

Ø 種類株主総会の決議(324条)

@種類株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、その種類の株式の総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

A前項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。

1.第111条第2項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第108条第1項第7号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)

2.第199条第4項及び第200条第4項の種類株主総会

3.第238条第4項及び第239条第4項の種類株主総会

4.第322条第1項の種類株主総会

5.第347条第2項の規定により読み替えて適用する第339条第1項の種類株主総会

6.第795条第4項の種類株主総会

B前2項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。

1.第111条第2項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第108条第1項第4号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)

2.第783条第3項及び第804条第3項の種類株主総会。

 

ü 普通決議(324条1項)

株主総会決議については、普通決議が原則です。特別決議は株主にとくに重大な影響のある例外的事項について要求されることになっています(309条1〜4項)。これに対して、種類株主総会については、324条1項により普通決議で足りるのは、拒否権付種類株式の拒否権に係る種類株主総会決議に限られます。また、取締役等選任種類株式に係る取締役・監査役の選任決議及び取締役の解任決議も普通決議とされていますが、これらについては、347条や341条で決議要件が定められています。この他に、321条に基づいて定款で定められた決議事項があるとすれば、それは普通決議事項となります。

この場合の普通決議の定足数は、その種類株式の総株主の議決権の過半数とされている。株主総会の普通決議の定足数は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主とされています(309条1項)。この違いは、種類株主総会は、株主総会では議決権がなく、または制限される無議決権株主や制限議決権株主も議決権を行使し得るものであることによるものと考えられます。定款の定めにより定足数を引き下げたり、排除することもできます。取締役等選任種類株式による取締役もしくは監査役の選任決議または取締役の解任決議について、定款で議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満に定足数を引き下げることはできないという341条が347条1項で準用されていることから、総株主の議決権の3分の1未満に定足数を引き下げることはできまん。決議要件については、324条1項の条文の文言では定款で別段の定めがてきると書かれていますが、このようなことから、加重することだけしか認められていません。

ü 特別決議(324条2項)

旧商法では種類株主総会決議は特別決議というのが基本的な考え方でしたが、会社法では特別決議を要する事項を324条2項で以下の事項を限定列挙して特定しています。

@111条2項(種類株式として全部取得条項を設ける定款変更)

会社が強制的に株式を取得できるようにする定款変更ですが、111条1項に規定する取得条項を設ける定款変更(種類株主の全員の同意を必要とする)と異なり、会社による取得は定款変更以後の株主総会の特別決議により決定されることと、定款変更に反対の株主には株式買取請求権が認められている(116条1項2号)ことにより、特別決議で足りると考えられているものです。

A199条4項、200条4項(譲渡制限種類株式の募集事項の決定ないし委任)

B238条4項、239条4項(譲渡制限種類株式の新株予約権の募集事項の決定ないし委任)

これら(AB及びE)の事項は、全部が譲渡制限付株式である場合の募集事項の決定等については、株主総会の特別決議を要するものとされていることと平仄を合わせたものです。

C322条1項(定款変更等)

ある種類株式に損害が及ぶおそれのある会社の行為である会社の行為であるにもかかわらず集団的な同意で可能としようとするものであるので、特別決議が要求されているものです。

D347条2項、339条1項(取締役等選任種類株式の選任した監査役の解任決議)

株主総会による監査役の解任決議の要件(341条)と平仄を合わせたものです。

E795条4項(吸収合併存続会社、株式交換完全親会社または吸収分割承継会社が種類株式発行会社である場合において、消滅会社、完全子会社または分割会社の株主に対して存続会社、完全親会社または承継会社の譲渡制限種類株式を交付することの決議)

324条2項括弧書により、定足数は定款により引き下げることはできますが、総株主の議決権3分の1未満に引き下げることはできない。条文内のもうひとつの括弧書により、決議要件については、加重する旨の定款の定めのみが認められることが明らかにされています。加重の内容としてどのようなものが認められるかは、株主総会の特別決議に関する309条2項の解釈に準ずることとなります。また、株主総会の特別決議に関する309条2項に倣い、特別決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨のその他の要件を定款で定めることも妨げられないものとしています。

ü 特殊決議(324条3項)

324条3項では、1号及び2号で定める決議について、309条3項と同じ要件の特殊決議としています。

@111条2項(種類株式について譲渡制限を付す旨の定款変更)

A783条3項、804条3項(組織再編行為により譲渡制限の付されていない株主に存続会社等の譲渡制限の付された株式を交付する旨の決議)

上記@Aの両方とも、会社の発行する全部の株式に譲渡制限を付す定款変更や組織再編行為が309条3項各号で特殊決議とされているのと平仄を合わせたものです。

309条3項の特殊決議と同じく、定款の定めにより、議決権を行使することができる株主の半数以上という要件を加重することができ、また株主の議決権の3分の2以上という要件を加重することができます。

 

 

Ø 株主総会に関する規定の準用(325条)

前款(第295条第1項及び第2項、第296条第1項及び第2項並びに第309条を除く。)の規定は、種類株主総会について準用する。この場合において、第297条第1項中「総株主」とあるのは「総株主(ある種類の株式の株主に限る。以下この款(第308条第1項を除く。)において同じ。)」と、「株主は」とあるのは「株主(ある種類の株式の株主に限る。以下この款(第318条第4項及び第319条第3項を除く。)において同じ。)は」と読み替えるものとする。

 

種類株主総会は、種類株主により構成される機関てはあるのですが、株主の構成する会議体としての機関であるということから、種類株主総会についても、株主総会に関する会社法の規定が準用されます(325条)。

ü 準用されない規定

295条1項、2項は、株主総会の権限を定める規定であるので、事柄の性質上、準用がありません。296条1項は、定時株主総会の招集について、2項は、臨時株主総会の招集についての規定ですが、種類株主総会は決議の必要がある場合にのみ招集されるのであり、定時株主総会とか臨時株主総会という概念はないので、準用できません。また、309条は、株主総会の決議の要件を規定していますが、種類株主総会の決議については324条で独自に規定しているので、準用はありません。

ü 招集に関する規定の準用

種類株主総会についても、取締役が招集する(296条3項)ことのほか、297条の準用により少数種類株主が招集請求権を有することができます。少数種類株主による招集請求は、種類株主総会の目的(議題)とすることができる事項に関してのみ認められ、議題となり得る事項については、株主提案権の場合と同じです。

297条1項の準用については、次のような読み替えが行われます。

「総株主(ある種類の株式の株主に限る。以下この款(308条1項を除く)において同じ)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合においては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間を定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(ある種類の株式に限る。以下この款(318条4項及び319条3項を除く)において同じ)は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる」。

招集の決定をする取締役(取締役会)または招集をする株主は、株主総会に準じて種類株主総会の日時及び場所、種類株主総会の目的等を定めなければなりません(298条4項の準用)。種類株主の数が1000人以上である場合には、書面による議決権行使ができる旨を定めなければなりませんが、上場株式を発行している会社であって法務省令で定めるものはこの限りではありません(298条2項の準用)。なお、298条2項括弧書である「株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。次条から302条のままでにおいて同じ」という部分は、種類株主総会には準用されません。ある種類株式の株主の中かである決議事項について議決権を有しない種類株主というものは存在しないからです。したがって、取締役会設置会社で298条2項括弧書の読み替えを規定する3項の準用もありません。

種類株主総会の招集通知は、取締役が2週間前までに、種類株主に対して招集通知を発しなければなりませんが、株主総会と同じ要件で期間の短縮が認められます(299条1項の準用)。書面により招集通知を発しなければならない場合、電磁的方法による通知についても株主総会と同じです(299条2〜4項の準用)。種類株主全員の同意により招集手続きを省略することもできます(300条の準用)。

書面による議決権行使を認める場合における参考書類および議決権行使書面の交付についても株主総会と同じです(301条、302条の準用)。書面による議決権行使によらなければならない場合とされる株主の数の1000人という基準は、種類株主総会については、種類株主の数によります。

以上の招集に関して準用される規定に基づいて定められている法務省令である会社法施行の規定(会社法施行規則63〜65条)についても、同じく会社法施行規則95条により種類株主総会に準用されています。

ü 株主提案権に関する規定の準用

株主提案権に関する303条、総会場における株主提案権に関する304条及び議案の要領を株主に通知することを請求する権利(議案提案権)に関する305条も、種類株主総会について、種類株主に準用されます。303条および305条の少数株主要件は、種類株式の100分の1または300個の議決権と読み替えて準用されます。303条の議題提案権として議題を提案することは、種類株主総会の議題とすることができる事項についてのみ認められます。種類株主総会は、取締役等選任種類株式の種類株主総会を別とすると、株主総会または取締役会の決議による会社の行為について種類株主が同意を与えるという趣旨で要求されるものであるから、株主総会または取締役会と切り離して、種類株主総会の議題だけを提案することはできないと解されています。もっとも、株主総会の決議事項に係る議題の提案と合わせたものであれば種類株主総会の議題も提案できることになります。これに対して、取締役等選任種類株式については、選解任に関して種類株主総会における議題提案権を有する。322条1項に列挙される行為や323条の拒否権付種類株式の拒否権に係る行為については、株主総会の決議事項であれば、上記のように、株主総会の議題提案権と合わせて行使することができますが、取締役会の決議事項については、株主の議題提案権は認められないので、種類株主総会の議題提案権も行使する余地はありません。

議案提案権は、種類株主総会の議題に関して認められますが、種類株主総会の議題が株主総会の議題でもあるときは、議案提案権の行使には株主総会の議題提案権を同時に行使しなければならないことになります。株主総会でその議題について議決権を有しない株主は、その議題について株主総会における議題提案権及び議案提案権を有しないので(303条2項、304条、305条1項)、株主総会での提案権の行使ができない事項については種類株主総会でも提案権は行使できないことになります。

ü 議決権に関する規定の準用

種類株主総会においても、種類株主は、その種類株主は、その種類株式1株につき1個の議決権を有していますが、単元株式数が定款で定められている場合には、1単元の種類株式につき1個の議決権を有します(308条1項の準用)。株主の議決権については、会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主は議決権を有しない(308条1項の括弧書)。この相互保有株式についての議決権行使の制限の適用については、325条括弧書で、「総株主」を「在る種類の株式の株主」に限る旨、読み替えるものとしていますが、308条1項の準用ではこのような読み替えをしないものとしているので、会社の総株主の議決権の4分の1以上を有すること等の上記議決権行使の制限の要件が備わる場合には制限が適用されることになり、種類株式ごとに4分の1以上を有すること等の要件によるものではないことを明らかにしています(308条1項にいう実質的に支配することが可能となる関係を定める会社法施行規則67条は、同じ規則95条により種類株主総会に準用されています)。会社の保有する自己株式については、種類株主総会でも議決権を有しません(308条2項の準用)。

議決権の代理行使(310条の準用)、書面による議決権行使(311条の準用)、電磁的方法による議決権行使(312条の準用)、議決権の不統一行使(313条の準用)についても、株主とあるところを種類株主と読み替える準用をすることになる。議決権行使に係る代理権を証する書面等の閲覧請求権(310条7項の準用)、議決権行使書面等の閲覧請求権(311条4項、312条5項の準用)は、株主総会については株主が有するものとされるが、種類株式総会については種類株主が有することとなります。この点は、318条4項及び319条3項の閲覧請求権については、種類株主総会を構成する種類株主だけでなく株主が権利を有するとしていることとの対比から明らかになります。

ü 議決権に関する規定の準用

取締役の説明義務(314条の準用)、議長の権限(315条の準用)、株主総会に提出された資料等の調査(316条の準用)、延期または続行の決議(317条の準用)、議事録(318条の準用)、株主総会の決議の省略(319条の準用)、株主総会への報告の省略(320条の準用)の各規定も、株主総会を種類株主総会と、株主を種類株主と読み替えることになる。議事録の閲覧請求権(318条4項の準用)及び決議の省略の場合の株主の省略についての同意の書面等の閲覧請求権(319条3項の準用)については、株主を種類株主と読み替えないことが明らかにされているので、すべての株主が閲覧請求権を行使することができます。別の種類株式を有する株主も種類株主総会の効力に影響を与える可能性があるためと説明されています。311条1項312条1項314条及び318条1項に基づく会社法施行規則69条から72条の規定は、会社法施行規則95条により種類株主総会に準用されています。

種類株主総会の議事運営については、このように株主総会と同時に招集されているのが実務上は通例であますが、議事運営は、株主総会終結後に引き続き行うなど、株主総会とは切り離しておく必要があり、議決を分離するだけでは足りないと解される。

ü 種類株主総会の決議の瑕疵

株主総会決議の不存在または無効確認の訴えについての830条では、株主総会と種類株主総会が適用対象であることが明記されています。また、株主総会決議取消しの訴えについての831条1項でも、株主総会と種類株主総会が共通に適用対象とされています。その上で同項では、「株主」が取消しの訴えの原告適格を有するものとしています。種類株主総会の決議がなければ効力が生じない行為等があるので、その決議が種類株主以外の株主全員の利害に関係することがあるためであると説明されています。

種類株主総会の決議については、不存在もしくは無効確認の判決または取消の判決が確定した場合には、種類株主総会決議はなかった状態となります。種類株主総会決議が必要な事項については、それがないと、株主総会の決議は効力を生じないと明記されています(322条1項、323条)。株主総会の決議事項または取締役会の決議事項について種類株主総会決議が必要な場合として種類株主総会が開催され決議が行われたが、その決議の不存在等によりなかった状態になりますが、そのことにより株主総会の決議事項または取締役会の決議事項とされる会社の行為が効力を生じるわけではなく、種類株主総会の決議を適法にあらためて行わなければ会社の行為の効力は生じません。


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