新任担当者のための会社法実務講座
第339条 役員及び会計監査人の解任
 

 

Ø 解任(339条)

@役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

A前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

ü 株主総会の解任決議(1項)

役員及び会計監査人と会社とは委任の関係にありますから、委任は各当事者がいつでも解除することができます(民法651条1項)。この場合の決議は議決権を有する株主の過半数以上を有する株主が出席し、その出席した株主の過半数以上をもって行う(341条)、といういわゆる普通決議です。

旧商法においては、株式会社の取締役の解任は、その地位の安定に配慮し株主総会の特別決議を擁するものとされていました。これに対して、会社法は、株主総会による取締役の選解任を通じた取締役に対するコントロールを重視する観点から、決議要件を普通決議に改めました。なお。定款で解任要件を加重することはできます(341条)。なお、監査役の解任については、監査役の地位の安定のために特別決議とされていて、取締役の解任より重きをなしています。ちなみに、取締役の解任議案が提出された株主総会において、解任の対象とされている取締役には、監査役の場合とは異なり、意見陳述権を認められていません。

※取締役の解任決議を普通決議としたこと

取締役の解任については、上記の通り、旧商法では株主総会の特別決議を必要としていました。しかし、現行の会社法では、同じ株主総会の決議を要するのであっても、普通決議でよいことになりました。それは、以下のような理由からです。旧商法において、取締役の選任は株主総会の普通決議であるのに対して、解任が特別決議という差があったのは、株主の支配権を確保するために取締役の解任理由を制限しないかわりに、取締役の地位の安定を配慮したためと説明されていました。しかし、最近は取締役の選解任を通じたコントロールによって株主総会のガバナンスを図るという考え方が強まりました。また、会社法では会社経営の機動性の確保を図るため、旧商法に比べて株主総会決議を必要としない組織再編行為の範囲を拡大するなど、会社経営の自由度を高めるものとなっています。それに対して、株主の意向を会社経営に反映させるための手段としての株主総会による取締役の選解任によるコントロールの重要度が増してきました。そういう事情によるものです。

ただし、累積投票制度によって選任された取締役については、少数派の株主の意向を取締役の選任に反映させるという累積投票制度の趣旨に照らすと、これを普通決議によって解任することを認めることは相当でないため、特別決議を解任要件としています(309条2項7号、342条6項)。

ü 正当な理由のない場合の損害賠償請求権(2項)

会社側からの委任関係の解除は、解任という形をとります。したがって、会社は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる(339条1項)、ということになります。委任の解除は各当事者の一方的な意思表示によってできるものですから、解任の際に正当な理由の有無を問わず解任することができます、しかし、正当な理由がなく解任された者は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(339条2項)。このことは、株主に解任の自由を保障する一方で、役員及び会計監査人の任期に対する期待を保護し両者の利益の調和を図る趣旨で一種の法定責任を定めたものとされています(大阪高裁判決昭和56年1月30日)。従って、賠償すべき損害の範囲は、解任された者が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益(報酬、賞与、退職慰労金その他)の額とされています。

※正当な理由

裁判では正当な理由の存否がしばしば争われます。例えば、つぎのようなものが正当な理由として認められています。

・担当事業部門の廃業(横浜地裁平成24年7月20日)

・取締役の職務遂行上の法令・定款違反行為(東京地裁平成26年12月18日)

・心身の故障(祭高裁昭和57年1月21日)

・職務への著しい不適任(能力の著しい欠如)(東京高裁昭和58年4月28日)

・独断的職務遂行(監査役の解任)(秋田地裁平成21年9月8日)

なお、経営判断の失敗も正当な理由に含める見解もありますが、確定したものではありません。

ü 株主総会の解任の効力の発生

取締役の解任は、決議によりその地位が剥奪されれば直ちに効力が発生し、当人に対する告知を要しない(最高裁昭和41年12月20日)。つまり、解任決議が成立した時点で、取締役は、その地位を失うことになります。

ü 解任の訴え(854条)

役員に解任されるべき理由があるにもかかわらず、総会における取締役解任が否決された場合に、その総会30日以内に、少数株主が裁判所に解任を請求するのが解任の訴えです。これは、多数派から取締役が選任されていて、多数決による解任決議が成立しない場合に、判決によって多数決原理を修正することを認めたものです。

この請求が認められるのは、取締役が不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があるにもかかわらず、総会がその解任を否決した場合です。経営方針についての意見の相違や能力の不足といった理由では訴えを起こすことはできません。

この請求をすることができるのは6ヶ月前から引き続き総株主の議決権数の3%以上を有する株主です、判決確定までこの要件を満たす必要があり、総会における多数決の結果の修正を求めるものであるため、議決権を有しない株主には、この権利は認められません。この解任判決は形成判決であるため、判決が確定した時点当該役員は自動的にその地位を失います。

この訴えの相手方は会社と役員の委任関係の解消を求めるものですから、会社と当該役員を共同被告とすることになります(855条)。

〔参考〕コーポレートガバナンス・コードが求める取締役の解任手続の開示

以前にも触れましたが、コーポレートガバナンス・コードでは、取締役の選・解任の方針や手続についての開示を上場企業に求めています。とくに2018年6月のコード改訂では、日本企業においては取締役選任についての開示は進んできているが、解任については進んでいないとの現状認識から、とくに解任についての開示を強く求めるものになりました。

しかし企業の側としては、選任手続に比べて、解任手続は、解任の理由、事実認定、継続困難性の評価のいずれにおいても厳密さが求められます。これまでは、能力・資質、欠格事由の非該当など取締役の選任基準を定め、この選任基準に欠けたときは解任する、と定めるのが一般的でした。しかし、これでは抽象的過ぎて、実際の発動が難しい。今後、解任基準をより具体的に定めようとする企業が増えると思われますが、一筋縄ではいきません。例えば、「不祥事で会社の名声・信用を損ねて多大な損失を生じた場合」と定めた場合、@名声・信用を損ねた事実を同判断するか、A多大な損害の金額規模をどう考えるか、B再発防止の費用発生は現任トップだけの責任か、C業績の影響が軽微だったら解任は不要か、等々の疑問が生じてしまいます。経営トップの解任は、組織内の力学や世論の空気に左右される要素が多く、ましてや辞任を固辞する経営トップに退場してもらう手続ならば、解任事由は低めに設定せざるを得ません。そうすると、解任を必要としない事案まで適用される外観を呈してしまいます。議決権行使助言組織が標榜する「〇期連続赤字」といった基準も、一律に解任事由とできるとは思えません。また、解任手続の主導は社外取締役が担当する形が多いと思われますが、社外取締役候補者と経営トップの距離が近かったり、反トップ派が社外取締役を懐柔したりするリスクも想定されますので、公明正大なプロセスをどのように確保するか、なにか「特別な手当」を考える必要がある。このように実際のことを考えると、かなりハードルの高い課題になっていると思われます。

ü 会計監査人を株主総会で解任する際の監査役あるいは監査役会の同意(344条)

監査役設置会社においては、取締役が会計監査人の選任議案の提出、解任、不再任を株主総会の目的とするには、監査役(二人以上あります場合にはその過半数)の同意を得なければなりません。監査役会設置会社では監査役会の同意が必要です(344条1項、2項)。

また、監査役(監査役会)は、取締役に対し、会計監査人の選任議案の提出、選任・解任、不再任を株主総会の目的とすることを請求することができます(344条2項、3項)。
 

関連条文

選任(329条) 

株式会社と役員等との関係(330条) 

取締役の資格等(331条) 

取締役の任期(332条) 

会計参与の資格等(333条) 

監査役の資格等(335条) 

会計監査人の資格等(337条) 

監査役等による会計監査人の解任(340条) 

役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条)

累積投票による取締役の選任(342条)

監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)

監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)

会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)

監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)

 

 

 
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