新任担当者のための会社法実務講座 第118条 新株予約権買取請求 |
Ø 新株予約権買取請求(118条) @次の各号に掲げる定款の変更をする場合には、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者は、株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。 一 その発行する全部の株式の内容として第107条第1項第1号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更 全部の新株予約権 二 ある種類の株式の内容として第108条第1項第4号又は第7号に掲げる事項についての定款の定めを設ける定款の変更 当該種類の株式を目的とする新株予約権 A新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、前項の規定による請求(以下この節において「新株予約権買取請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。 B第一項各号に掲げる定款の変更をしようとする株式会社は、当該定款の変更が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「定款変更日」という。)の20日前までに、同項各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、当該定款の変更を行う旨を通知しなければならない。 C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。 D新株予約権買取請求は、定款変更日の20日前の日から定款変更日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。 E新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、株式会社に対し、その新株予約権証券を提出しなければならない。ただし、当該新株予約権証券について非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第114条に規定する公示催告の申立てをした者については、この限りでない。 F新株予約権付社債券(第249条第2号に規定する新株予約権付社債券をいう。以下この項及び次条第八項において同じ。)が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、株式会社に対し、その新株予約権付社債券を提出しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債券について非訟事件手続法第114条に規定する公示催告の申立てをした者については、この限りでない。 G新株予約権買取請求をした新株予約権者は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。 H株式会社が第1項各号に掲げる定款の変更を中止したときは、新株予約権買取請求は、その効力を失う。 I第260条の規定は、新株予約権買取請求に係る新株予約権については、適用しない。
会社法では、@会社が新株予約権の目的である株式を譲渡制限株式または全部取得条項付種類株式とする定款変更を行う場合(118条)、A会社が組織変更をする場合(777条1項)、B会社が組織再編をする場合において一定の要件を満たす場合(787条1項、808条1項)に、新株予約権者は自己の有する新株予約権・新株予約権付社債を公正な価格で買い取ることを請求することができます。会社法118条は、前記@の場合、すなわち新株予約権の目的たる株式の内容のうち、譲渡制限を付す定款変更及び全部取得条項を付する定款変更について、新株予約権買取請求権を認めるものとし、その要件を定めるとともに、その手続き・執行などについて規定しています。 ü
新株予約権買取請求権を有する新株予約権者(118条1項) 平成13年の商法改正により新株予約権制度が導入された際、会社が転換社債または新株引受権付社債を発行している場合、転換請求をすることができる期間または新株引受権を行使できる期間の経過前は、定款を変更して、株式譲渡制限の定めを設けること(株式の譲渡制限の内容を厳格にしまたは譲渡制限の対象を変更もしくは拡大することを含む)はできないとする規定を引き継いで、将来行使されるべき新株予約権があるときは株式譲渡制限を付する定款変更の決議はできないとされました。 しかしこのような規制の下では、新株予約権を発行しているために会社が譲渡制限という選択肢をとれなくなってしまうことから、会社法は、このような定款変更を制限する規定を廃止するとともに、新株予約権者を不測の損害から保護するために買取請求権を与えることにしました。 会社法の下での種類株式の多様化を受けて、@株式会社が新株予約権の目的である全部の株式の内容として譲渡制限を付する定款変更を行うとき(107条1項1号)、全部の新株予約権の新株予億件者に加え、Aある種類の株式の内容として譲渡制限または全部取得条項を付する定款変更を行うとき(108条1項4号)、当該種類の株式を目的とする新株予約権の新株予約権者は、株式会社に対して自己の有する新株予約権を買い取ることを請求することができる(118条1項)ということです。 会社法は@A以外の会社の行為について新株予約権買取請求権を認めておらず、議決権制限条項や取得条項を付する定款変更については、新株予約権者の買取請求権や新株予約権者の全員の同意なしに実現することができて、この場合における新株予約権の保護については、会社が新株予約権者に生じた損害を賠償する義務(民法415条)を負うことになることになります。新株予約権の目的たる株式の内容変更のうち、いかなる場合に買取請求権を認めるかの根拠は明らかではありませんが、譲渡制限または全部取得条項を付する以外の会社の行為については、新株予約権者の同意を要することなく、新株予約権の目的たる株式の内容に変更を加えることを認めています。 ü
新株予約権付社債の新株予約権および社債の買取請求(118条2項) 会社の行為によって不測の損害を被るおそれのある新株予約権式社債権者の保護について、118条2項は、新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、新株予約権付社債が新株予約権と社債とを分離して譲渡することはできない(254条)等、新株予約権と債権とが一体的な扱いを受けることから、新株予約権の買取請求をするとき、別段の定めがない限り、社債部分についても併せて買取を請求をしなければならないと規定しています(118条2項)。ここでいう別段の定めとはも新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求を行う際に、その社債部分の買取請求をしないことができる旨の募集の定めであり、無別段の定めの内容はとくに限定されていないので、社債部分の買取請求をすることを新株予約権者が選択することのできる可否なども定めることができると解されています。 ü
新株予約権買取請求手続き(118条3〜6項) 新株予約権の買取請求手続きは、原則として、株式買取請求の手続きに準じています。ただ、無株式買取請求の手続きのように、議決権行使を前提とした権利確保要件は課されておらず、新株予約権者は適時に必要な内容の買取請求をすることが求められるのみということが違います。 ・会社からの情報提供(118条3項、4項) 会社は、定款の変更が効力を生ずる日(定款変更日)の20日前までに定款の変更を行う旨を通知しなければなりません(118条3項)。新株予約権者に対する通知は、無記名新株予約権を除き、新株予約権原簿に記載された当該新株予約権者の住所に宛ててすればたり(253条1項、249条3項)、当該通知は、その通知が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなされます(253条3項)。無記名新株予約権については、無記名新株予約権者の氏名等は新株予約権原簿に記載されておらず、新株予約権証券番号等のみ記載される(249条1号)ことから、電子公告や定款所定の日刊新聞に記載して公告を行う(118条4項)ことになります。 新株予約権付社債の場合、社債の受託会社(社債管理者)が設置されている場合には、受託会社に対して書面の通知がなされ、新株予約権付社債の要綱に従い、定款変更の効力発生日について通知がなされます。 通知を必要とする新株予約権者の範囲は、新株予約権買取請求権を行使することのできる新株予約権者の範囲と一致します。また、通知の内容は、定款の変更を行う旨であり、会社法はそれ以上の情報提供を規定していません。新株予約権者は株主総会での議決権行使の機会を持たず、債権者としての立場での情報入手の機会を有するにとどまり、定款変更の場合には、債権者保護手続きは存在せず、定款変更に異議を述べる機会はありません。 新株予約権者に対する通知については、公告による代替えが認められています(118条4項)。 ・新株予約権者による買取請求(118条5項、6項) 新株予約権の買取請求は、定款変更の日の20日前から定款変更日の前日までの間に根新株予約権の内容及び数を明らかにする必要があります(118条5項)。振替新株予約権については、買取請求と同時に、会社の開設する買取口座を振替先口座とする振替申請を行わなければなりません。 新株予約権は、会社に対する払込と引き換えに一定数の株式の交付を受けることができる一種の債権にすぎず、株式ではないため、会社は通常の債権と同様に、業務執行の一環として自己の新株予約権を取得することができ、自己株式取得の場合のような財源や手続きの規制はありません。 買取請求をする新株予約権者は新株予約権の内容を明らかにしなければなりません。その趣旨は、買取請求の対象となる新株予約権を会社が特定するためです。したがって、新株予約権の同一性を確認できる内容が明らかにさえなれば、当該請求は有効となります。 ü
新株予約権買取請求の撤回と失効(118条8〜9項) ・新株予約権買取請求の撤回(118条8項) 新株予約権買取請求をした新株予約権者はも株式買取請求をした株主と同様に、会社の承認を得た場合に限り、新株予約権買取請求を撤回することができます(118条8項)。 また、買取価格の決定について、効力発生日から60日以内に協議が調わない場合には、その期間満了後は、新株予約権者は、いつでも会社の承諾を要することなく、新株予約権買取請求を撤回することができます(119条3項)。 ・新株予約権買取請求の失効(118条9項) 新株予約権買取請求がなされた後に会社が定款変更を中止した場合は、もはや新株予約権の買取を請求する理由がなくなることから、株式買取請求の場合と同様に、新株予約権買取請求の効力は失われます(118条9項)。 ü
公正な価格 新株予約権者は、自己の有する新株予約権を「公正な価格」で買い取ることを請求することができる、とされています。「公正な価格」とは、株式買取請求の場合と同様に、経済界において一般に公正妥当と認められる評価手法に基づいて算定された価格です。 関連条文 取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条)
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