新任担当者のための会社法実務講座
第115条 議決権制限株式の発行数
 

 

Ø 議決権制限株式の発行数(115条)

種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式(以下この条において「議決権制限株式」という。)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。

 

ü 議決権制限株式について

会社は、株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めをした、内容の異なる株式を発行することができます(108条1項3号)。たとえば、@ある種類の株式は総会決議事項のすべてにつき議決権を有するが(議決権普通株式)、Aほかの種類の株式は一切の事項についての議決権を有しない(完全無議決権株式)とか、一定の事項についてのみ議決権を有するとすることができます。この場合のAの株式を総称して議決権制限株式に呼びます。

平成13年の商法改正以前は、少額出資者が会社を支配することに対する警戒から、剰余金の配当に関する優先株式に限り議決権がないものとでき、むしかも優先配当額の支払がない場合には、議決権が復活するものとされていました。しかし、中小企業の共同経営者間、合弁会社のパートナー間等においては、たとえば持株比率は6対4であっても議決権比率は常に1対1にしたい等、資本多数決によらない支配権分配を行うニーズが高いと言えます。そこで、平成13年の商法改正以降、多数派が所有する株式の一部を議決権制限株式とすることにより、そのようなニーズに応えるものとなりました。会社法は、この趣旨を継承しています。なお、議決権に関して認められる株式内容の差異は、ある事項について議決権を行使できるか否かという形のみであって、1株に複数議決権を付与するとか、一定以上の株式を有する株主の議決権に上限制・逓減制を敷く形は認められません。

ü 議決権制限株式の発行数の制限

公開会社は、種類株式のうち議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至ったときは、会社は、ただちに、議決権制限株式の数を発行済株式総数の2分の1以下にするための必要な措置をとらなければなりません(115条)。

このような発行数の制限を定めるのは、少額の出資により会社を支配することが望ましくないという考え方によるものです。そして、この制限を公開会社に限って適用するのは、公開会社でない会社、すなわち発行する全部の株式が譲渡制限株式である会社では、経営に好ましくない者を排斥するために株式の取得を承認しないことが可能であるので、株式の取得を認めた上で議決権を制限する必要性は乏しいとされたからです。

この規制は、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えることを制限しているのであるから、発行済株式には会社が取得して保有する自己株式も含まれます。

そして、108条1項3号にいう議決権制限株式であることにより当然に、この規制が適用されるのではなく、定款の定めにより議決権行使の制限に条件が付いている場合には、条件が満たされて現実に株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式に該当する状態が生じたときにはじめて制限が適用されることになります。例えば、一定の割合以上の株式を保有する株主のみが議決権を行使できなくなるという制限がついている場合がそうです。

なお、この規制に違反する状態が生ずるのは、会社が議決権制限株式をこの規制に違反して新たに発行する場合に限られず、議決権制限株式以外の種類株式について株式の消却が行われ発行済株式総数が減少した場合も含まれます。

ü 発行数の制限を超過して発行された場合の効果

議決権制限株式が発行数の制限を超過して発行された場合、条文では議決権制限株式の数を発行済株式総数の2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならないと規定しています。このことから、制限に違反して議決権制限株式を新たに発行した場合、あるいは他の種類の株式の消却という会社の行為があったとしても、その行為が無効となるわけではありません。

この場合、会社は必要な措置を取らなければなりませんが、その必要な措置というのは、議決権制限株式の発行数の発行済株式総数に対する割合が2分の1を超えてしまっているのを2分の1以下に抑えるということですか、分子を小さくするか、分母を大きくするかすればいいということになります。ここで、分子を小さくする措置としては会社が議決権制限株式を自己株式式として取得し、消却することや議決権制限株式の株式併合を行うこと等が考えられます。また分母を大きくすることとしては、会社が議決権制限株式以外の種類株式を募集株式として発行する、あるいは議決権制限株式以外の種類株式の株式分割の株式無償割当等が考えられます。

※会社が115条違反の状態を解消すべき措置をとらなかった場合の法的効果については、とくには規定はありません。罰則もありません。取締役等の業務執行者が任務懈怠となりますが、取締役に損害賠償責任が生ずるということは考えにくいです。

 

関連条文

主の責任(104条) 

株主の権利(105条) 

共有者による権利の行使(106条)

株式の内容についての特別の定め(107条) 

異なる種類の株式(108条)

株主の平等(109条)

定款の変更の手続の特則(110条)

    〃           (111条) 

取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条) 

発行可能株式総数(113条) 

発行可能種類株式総数(114条) 

反対株主の株式買取請求(116条) 

株式の価格の決定等(117条) 

新株予約権買取請求(118条) 

新株予約権の価格の決定等(119条) 

株主等の権利の行使に関する利益の供与(120条) 

 

 
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