新任担当者のための会社法実務講座
第341条 役員の選任及び解任
の株主総会の決議
 

 

Ø 役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条)

第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。

 

ü 役員の選任及び解任の決議

役員の選任及び解任は株主総会の決議によって行われます(329条1項、339条1項)。その株主総会の決議は法令または定款に特段の定めがない限り、一般的な普通決議(議決権の過半数の株主が出席し、その出席者の過半数の賛成による決議)によって成立します(309条1項)。その一般的な普通決議のよらない特段の定めがあります。例えば、この役員の選任及び解任について定款で規定できるとした341条や、累積投票によって選任された取締役及び監査役の解任(342条4項、343条4項)などが代表的です。一方、同じ会社の機関でも会計監査人の選任及び解任については特段の定めはありません。

309条1項では、株主総会に出席することが要求される株主数つまり定足数と、決議成立のために必要な数つまり決議要件の両方について、株式会社は定款で定めることができるとしていて、この341条では、役員の選任及び解任の決議に関して、定款でどこまで決めることができるかという範囲を規定しています。

ü 定足数に関する特則

定足数について、普通決議の原則では議決権を有する株主の過半数の株主の出席が必要ですが、役員の選任及び解任の決議に関しては、定款において役員の選任、解任について議決権を行使することができる株主の議決権の総数の3分の1以上の出席によって定足数が充たされるように定款に規定することができる。それは、裏を返せば、定款には、3分の1未満を定足数として規定しても無効になるということです。

※これを実際に定款に規定する場合、309条1項の規定によって、株主総会の一般の普通決議の定足数を引き下げることができます。それを総議決権数の3分の1まで引き下げる規定をした場合、役員の選任及び解任についても、その規定で含んでしまうことができるか。この点については、役員の選解任についてはとくに346条で、309条と異なる規律が適用されることを示していると考えられるので、役員の選解任に関する定足数については、定款に別に規定することが望ましい考えられます。

※株懇モデルの定款

(取締役の選任)

第19条 取締役は、株主総会において選任する。

2 取締役の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。

3 取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。

定足数を引き下げることと反対に引き上げることについては、理論的には定款に規定して、選任及び解任をそのような条件で行うことも可能です。しかし、実際には定足数が引き上げられると、決議の成立の困難さが増すこととなります。

ü 決議要件に関する特則

決議要件については、旧商法において平成17年の商法改正以前は、役員の解任には株主総会の特別決議が必要とされていました。それは、会社の経営機構の合理化の一環として、株主総会の権限を縮小し、代わりに取締役会の権限を拡大することに対応して、取締役の地位の安定が求められたためです。それが、平成17年の改正では次の二つの理由によって、取締役の解任の要件を選任と同じ普通決議とするように改正されました。それは、ひとつには、コーポレート・ガバナンスを向上させる手段として株主総会による取締役の選解任の重要性があらためて認められたこと、さらにもうひとつは、株主総会決議を必要としない組織再編行為を増やすなど会社経営について取締役会の裁量範囲を拡大する法改正が進められた結果、株主の側としては取締役の選解任権を通じて取締役に対する牽制を利かせる重要度が高まったこと、この二つの点から、解任についても、選任の場合と同じように出席した議決権の過半数の賛成によるものとなりました。

一般的な株主総会の決議要件を規定している309条1項と、役員の選解任の決議要件を規定している、この346条の文言は微妙に違うところがあります。それは、346条には「株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)」というかっこ書きがある点です。つまり、役員の選解任の決議要件は、定款に決めることができるとしても、決議要件を緩和する(決議要件を出席した株主の議決権の過半数未満に引き下げる)ような定款の規定はできない、賛成に必要な議決権の割合を増加する方向で会社の裁量は認められていないということです。

役員を選任または解任する株主総会の決議成立に必要な議決権数割合を重くするということは、例えば取締役の解任において過半数の賛成ではなく、3分の2以上の賛成を必要とすることなどは可能です。この場合、役員の選任と解任は別個の決議ですから、解任の決議要件を加重したからといって、当然に選任の要件も重くなる事にはならないとされています。ただし、役員の解任の決議要件のみを重くするということは、平成17年の法改正の趣旨である、取締役の選解任のハードルを低くして株主による牽制の効果をあげるという趣旨に反するものとなるので、実際にこのような内容の定款変更を株主総会で諮った場合に、株主の賛成を得ることができるかは疑問です。

※不正行為を行った取締役を解任する株主総会議案が否決されたときには、株主は解任の訴えを裁判所に提起することができます(854条)。

※もし、定款の定めによって決議要件を加重することになった場合は、その定款の定めの実効性をかくほするために、併せて、定款変更の決議要件も加重しておくことが必要となるでしょう。例えば、取締役の選解任には株主全員の同意が必要と定款に定めたとしても、定款の当の規定は特別決議で変更できてしまうので、定款を改定の手続を踏んで、株主全員の同意のない取締役の選任が可能となるわけです。

  

関連条文

選任(329条) 

株式会社と役員等との関係(330条) 

取締役の資格等(331条) 

取締役の任期(332条) 

会計参与の資格等(333条) 

監査役の資格等(335条) 

会計監査人の資格等(337条) 

解任(339条) 

監査役等による会計監査人の解任(340条) 

累積投票による取締役の選任(342条) 

監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)

監査役の選任に関する監査役の同意等(343条) 

会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)

監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)

 

 

 
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