新任担当者のための会社法実務講座
第104条 株主の責任
 

 

Ø 株主の責任(104条)

株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。

 

株主有限責任の原則を規定した条文です。

株式会社では、株主は間接有限責任を負うだけです。言い換えると、株主は、会社の体験者に対して直接の責任を負わず、会社に対する一定額の出資義務を負うだけです。この出資義務は、株式会社では株式の引受価額の支払義務のかたちをとるため、株主の責任はその有する株式の引受価額を限度とすることになります(104条)。このことは、株金分割払込制度、つまり、株式の発行の効力が生ずるまでに株式の引受価額の一部を払い込ませ、残額をその後に分割して払い込ませる制度、がとられていた時期には、文字通り妥当したのですが、株金全額払込制がとられている現在は、文字通りには妥当するとは言えません。株金全額払込制とは、株式を引き受けた者が株式の発行の効力が生ずる前に引受価額の全額を払い込まなければならないという制度です。この制度の下では、株式の発行の効力が生じて株式引受人が株主となった時点では、すでに出資義務は履行されてしまっており、もはや会社に対して何の責任も負わないことになるからです。したがって、現在では、株主の有限責任とは、株式引受人の引受価額を限度とする責任ということを意味しています。

このような意味での株主有限責任の原則は、株式会社に本質的なものであり、このことを定める104条は強行法と解されています。それゆえ、これに反する株主総会または取締役会の決議や定款の定めは無効となります。

※株式会社の有限責任社員

一般に、株式会社を他の会社制度と区別する本質的要素は責任論に置かれてきました。合名会社は無限責任社員のみによって構成されます。これに対して株式会社は有限責任社員のみによって構成されるところにその本質があります。ここで、合資会社の有限責任社員と株式会社のや右舷責任社員の違いは、合資会社の場合、ひの責任は会社債権者に対して直接に負担する直接有限責任であるのに対して、株式会社の場合、会社債権者に対して直接に責任を負担するのはあくまでも株式会社それ自身であり、有限責任社員つまり株主は会社に対して出資義務を負うだけであるので、債権者との関係では間接的な責任すなわち間接有限責任というところにあります。

株式会社の株主の責任が間接有限責任であることの理由は、これによって出資者が安心して多額の資金を出資しやすくなり、会社としても大規模な資金の集積・集中が可能になるためとされています。しかしこのことは、上場株式等株式所有が分散した会社の小株主の有限責任の正当化の理由にはなれても、大株主に有限責任が認められることの説明にはならないと批判されています。

近代株式会社制度は、株式市場を使いこなすことのできる会社制度の成立を意味します。株主とは会社設立時には株式引受人であり、発起人も設立時発行株式を引き受け、払い込むことで株主となります。新株発行の際も、引受人が株式を引き受け、払い込むことで株主となります。その他、株式市場で株式を買った者が株主となります。このように常に株式を保有する者が株式と認識されるわけで、株式を離れた有限責任社員はありえないのです。

株式は均一・同質な多数の持ち分としてのshareという性格を有しています。もともと株式は1個のかたまりとしての出資持分としてstockと呼ばれてきましたが、それが均一・同質な多数の持ち分という性格を帯び、かつ出資が金銭であることが原則となるに及び、均一・同質な1個の単位の価格を容易に算定することができるものとなりました。このことは会社制度に大きな変革をもたらしました。この大量な単位の1つひとつに容易な価格形成可能性が獲得されたことで、均一同質で多量な取引客体の取引を集中される場である株式市場が成立することとなりました。

一方、有限責任が間接有限責任であるとされてきたことも、人的な会社から株式というモノが分離・独立していることを表わしています。この株式市場での取引の適格性を獲得した株式というモノの確立が、株式を有する人に有限責任を持たせることとなります。株主有限責任とは、株式の有限責任の結果であり、そこに近代の株式会社が成立している。したがって、株式の引受とは投資家による株式の購入ということになります。株主とは、社員というよりも株式の購入者ということです。株式会社という制度はこのような資本市場適合的な性格を有しながらも、株式を購入した個人による経営への牽制は株式会社有するべき民主的な要請を伴うこととなりました。

株式会社制度を資本市場活用型の社会的な制度と見る立ると、株式会社は資本主義経済社会の基本的な担い手として、国民経済ないし国民生活に必要な財とサービスを効率的に提供する仕組みと捉えられます。このような役割を果たすには市場による評価機能を前提とする必要があるのに、株式市場設立の必要条件である株式の有限責任を前提にせざるを得ないのです。

※持分複数主義

株式は均一の割合的単位に細分化されていて、個々の株主は複数の株式を有することが認められています。これを持分複数主義といい、合名会社および合資会社における持分が、各社員で1つであって、その大きさが社員ごとに定められている持分単一主義とは異なるのです。

株式会社の社員の地位が均一の割合的単位に細分化されているのは、多数の者が会社の社員になる場合の法律関係の簡便な処理のためです。たとえば、A、B、C3人という少人数の社員の場合には、それぞれ持分の大きさを、Aは300、Bは350、Cは370として、その大きさに比例して利益配分をし、また、それぞれがその一部を他に譲渡することを認めるという取扱いをしても、それほど法律関係を錯綜させることはないでしょう。しかし、社員が多数になった場合には、例えば10というように均一に定めて、社員は複数の社員の地位を取得できることにし、その単位ごとに利益配当の額を定め、また、それを譲渡することにすれば、法律関係が簡明になります。株式会社においては、多数の株主が存在することになり、そのような会社では多数の株主が存在することを前提として、社員の地位が均一の割合的単位を取ることが法律関係の簡便な処理のために必要とされたのでした。

株式会社の持ち分を株式というのは、以上のように割合的単位に細分化され、株主がこれを複数有することができるとされているからです。


 

関連条文

株主の権利(105条) 

共有者による権利の行使(106条)

株式の内容についての特別の定め(107条) 

異なる種類の株式(108条)

株主の平等(109条)

定款の変更の手続の特則(110条)

    〃           (111条) 

取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条) 

発行可能株式総数(113条) 

発行可能種類株式総数(114条) 

議決権制限株式の発行数(115条) 

反対株主の株式買取請求(116条) 

株式の価格の決定等(117条) 

新株予約権買取請求(118条) 

新株予約権の価格の決定等(119条) 

株主等の権利の行使に関する利益の供与(120条) 

 

 

 

 
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