新任担当者のための会社法実務講座
第109条 株主の平等
 

 

Ø 株主の平等(109条)

@株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。

A前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第105条第1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。

B前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第5編の規定を適用する。

 

株主は、株主としての資格に基づく会社に対する法律関係においては、原則として、その有する株式の数に応じて平等の取扱いを受けます(数種の株式が発行されている場合その他法律で定められている場合に、その例外が認められます)。これを株主平等の原則といいます。株主の地位が均一の割合的単位の形をとり、したがって各株式の表章する権利の内容が同一であることから認められるものであって、文字通りには株式平等の原則といわれるべきものを、その帰属者である株主の面から表現したものです。

株主平等の原則を問題にするメリットは、株式会社における多数決の濫用から少数派株主を保護する機能を果たしている点にあると言われいます。かなわち、株主総会や取締役会において多数決で可決された事項でも、それが株主平等の原則に反する場合には、その決議の効力が否定されてことにあります。代表取締役の業務執行行為によって定められた事項についても同様です。

なお、旧商法では、この原則を規定した条文はありませんでした。したがって、会社法制定によって新設された条文です。

※株式の均一性

株式株主平等の原則は、株式が均一な単位であることを基礎とした平等原則として捉えられてきました。株式の均一性には資本市場や取引所取引の成立のため、株式を上場する公開会社にとっては、株式が均一で同質的であることは証券市場での価格形成のためには必要不可欠であったと言えます。コーヒーや繊維のような商品も国債のような金融商品も取引所で取引されるためには、その商品を標準化・均一化されなければ、価格形成が不可能です。株式が個性的なかたまりとしてのstockが均一・同質な単位としてのshareに時間をかけて変形していったことで、市場取引の適格性を獲得してきたことで、有価証券となったと言えます。株主平等の原則は株式が株主の地位を均一な割合的な単位としてものであることを裏から表現したものであるという人もいます。

ü 条文制定の趣旨

会社法制定時にあえて条文を新設させたことについて、立案担当者は次のように説明しています。まず、109条1項について、会社法においては以前とは異なり、同一の種類の株式を有する株主について株主ごとに異なる取扱いをすることを許容していること、種類株式の内容がより一層多様化する等、形式的な株主平等原則をとは抵触するおそれのある制度が設けられること、また株式全般についても、より利用しやすくかつ多様な内容の株式を発行することができるようになることから、その権利内容なよっては、実質的な株主の平等が害され、その利益が害されることが考えられることから、会社法において、株主平等の原則について明文の規定を設けることにした、ということです。

ü 株主平等の原則の解釈の問題

・従業員持株制度と奨励金

従業員持株制度では、従業員が株式取得のための奨励金を支給することが株主平等の原則に反するものであるかどうか。従業員に対する福利厚生の一環等の目的で設けられた従業員持株制度では、持株会会員に対して株式取得のため奨励金を支給することは、株主としての地位に基づいて支給するのではなく従業員としての地位に基づいて支給されるものであるから、株主平等の原則に違反しないとの判例(福井地裁判決昭和63年3月29日)があります。

従業員持株会が、経営権強化の手段として位置づけられている場合には、従業員に対する経営上の指揮命令権をもって株主権行使を自己に都合のよい方向で行使させるための株式を取得させ、それに対して奨励金を支給することは、その他の株主の株式取得を経営権強化のために劣後させ、会社支配を歪曲させるものとして株主平等の原則に違反するとみなされ得ると考えられます。

株主平等の原則をもって、会社や支配株主側に正当化事由の立証責任を課すという見解によれば、従業員持株制度が真に従業員の福利厚生の趣旨に適っていることの立証責任は会社にあります。株主平等の原則を持ち出さずに、単なる私的自治の世界に委ねる場合には、株主の側で従業員持株制度の不当性を立証しなければならなくなります。

・少数株主の締め出し

例えば株式合併の割合が極端に大きく、一部の大株主を除いて、大部分の株主を株主でなくなしてしまうような株式併合は、株主平等の原則への違反が生じる可能性があります。

このような状況は、一定の株主の排除であり現に存在する株主間の不平等扱いではないため、あるいはすべての株主に同じ条件が適用されているとして、これを株主平等の原則の問題ではないとする判例もあります(東京地裁平成22年9月6日)。しかし、現に存在する株主間の平等が求められていることは、一部株主の劣後的取扱いや冷遇を問題視して、これを排除することで一部株主の専横を認めることは、株主平等の原則が機能する局面そのものです。

・議決権制限株式と発行制限

旧商法の時でも、優先株式や劣後株式、無議決権株式などの制度が認められています。これらは株主平等の原則の例外とされてきました。一方では、株式の均一性やそれを前提とする普通株式を株式の標準型とすることを当たり前としたものです。優先株主と普通株主との間で権利内容に差があることが肯定されるのは、資金調達の便宜という政策そのものによるものです。また、この両者の間で均一性の要請が働かないことを許されるのは、資本市場の論理や資本市場の要請としての均一性は、証券市場を構成する均一性、つまり優先株なら優先株式市場での均一性が保障されれば、市場単位での価格形成の可能性は保証されるためです。

しかし、資金調達の便宜という正当化事由は、支配株主あるいは多数株主の専横排除という機能や政策目的を有する株主平等の原則を毀損するおそれがあります。特に、優先株式が無議決権株式である場合には、優先株式を多量に発行して普通株式の比重を著しく低下させることで、結果的に伊津部株主による専制的支配を実現してしまうおそれがあります。その意味で、無議決権株式や議決権制限株式と普通株式の間に、その発行数ないし比率について制限が求められることになります。会社法では、公開会社の場合、無議決権株式は発行済株式総数の2分の1以下に抑えなければならない(115条)としています。この点、議決権制限株式の発行限度規制は、株主平等の原則と不即不離の関係にある規制といえます。

・株主優待制度

一定数以上の株式を有する株主に対する株主優待制度が株主平等の原則に違反するか否かが以前より議論されてきました。結論としては、これを肯定するのが一般的ですが、さまざまな見解が示されています。

@)営業上のサービス

A)軽微な差別にすぎない

B)各株式につき分子を1として所定の株式数を分母とする分数量の権利であるから、その分数量の間で平等ならいいとする

これらに対して、法人資本主義といわれる日本で個人株主の増大策という政策の合理性をもって端的に正当化事由として認めるべきという議論もあります。現に株主優待制度を採用している企業は個人株主の増大を掲げるのが常で、仮に、株式の単位自体が個人が真摯な投資判断をしてなし得る最低単位として構成されているならば、1株単位で株主優待制度を採用して株式数の上限のみを設けることでもかまわないところ、日本の株式単位が小さなものであったために、個人株主増大策にふさわしい単位ごとの優待制度となっているのが実情だと思えます。しかし、理論としては株主平等の原則違反とせざるをえない。

・買収防衛策としての差別的取得条件付新株予約権の無償割当て

会社を買収しようとして株式を買い進め大株主なった者が存在している場合に、その者の持ち株比率を引き下げるような、例えば新株の第三者割当増資は特定の者に株式を発行して他の株主の持株比率を下げるのであるから、株主平等の原則に反するかのように見えます。しかし、新株の第三者割当て自体が株主平等の原則に違反するというと、株式の発行は常に完全公募でしかできなくなります。これは、売買のチャンスの問題であり、株式の均一性と関わる株式単位の同質性の問題ではないのです。

新株の第三者割当増資についてはその発行目的が支配権確保目的か資金調達目的かによって区別し、そのいずれの要素が大きいかによってその発行の効力を判定する考え方が通説的見解です。この場合には、新株発行の目的が不公正発行であることを、その行為によって不利益を受けるおそれのある株主の側が立証することで発行の差止をすることができると考えられます。

同じように、現に株式公開買付けが行われているような状態で、公開買付け者が20%以上の株式を取得した際には、差別条件付きの新株予約権を発行するという防衛策の場合にも、現に支配権を有する者が将来にわたってその支配権を確実なものとするために、株主になろうとする者を排除するための決定として、株主平等の原則の問題として捉えることができます。いわゆるブルドック事件判決(最高裁判決平成19年8月7日)で、最高裁は、特定の株主による支配権の取得により企業価値が毀損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等の原則の趣旨には反しないとの基準を示しました。

会社が
 

関連条文

主の責任(104条) 

株主の権利(105条) 

共有者による権利の行使(106条) 

株式の内容についての特別の定め(107条) 

異なる種類の株式(108条)

定款の変更の手続の特則(110条)

    〃           (111条) 

取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条) 

発行可能株式総数(113条) 

発行可能種類株式総数(114条) 

議決権制限株式の発行数(115条) 

反対株主の株式買取請求(116条) 

株式の価格の決定等(117条) 

新株予約権買取請求(118条) 

新株予約権の価格の決定等(119条) 

株主等の権利の行使に関する利益の供与(120条) 

 

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る