新任担当者のための会社法実務講座 第117条 株式の価格の決定等 |
Ø 株式の価格の決定等任(117条) @株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と株式会社との間に協議が調ったときは、株式会社は、効力発生日から60日以内にその支払をしなければならない。 A株式の価格の決定について、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。 B前条第7項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から60日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。 C株式会社は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。 D株式会社は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができる。 E株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。 F株券発行会社(その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社をいう。以下同じ。)は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。
株式買取請求により、株主は自己の有する株式を「公正な価格」で買い取ってもらうことになります(116条)。その買取価格の決定手続、買取価格および利息の支払、効力発生時期などを規定したのが117条です。この規定は、事業譲渡に係る株式買取請求における価格決定の手続(470条)、吸収合併等に係る株式買取請求における価格決定手続(786条、798条)、新設合併等に係る株式買取請求における価格決定手続(807条)と並列的な規定となっています。 ü
株式の買取価格の協議と支払期間(117条1項) 株式の買取価格の決定について、会社法では、裁判所による価格決定の申立てによるのではなく、まず、当事者間で協議を行うこととしています(117条1項)。裁判所による公正な価格の決定には困難が伴い、鑑定費用なども高額になることが予想されるため、できるだけ当事者間の協議により価格決定をすることが望ましいと考えられているからです。 当事者間に協議が調ったときは、会社は効力発生日から60日以内に支払いをしなければなりません(117条1項)。 ü
裁判所に対する価格決定の申立て(117条2項) ・価格決定の手続き 会社法は、株主総会の決議を基準とするのではなく、効力発生日から30日間の期間満了の日後30日以内に、株主または株式会社に価格決定を申し立てる権限を認めています(117条2項)。株式の価格決定手続は非訟事件とされます。 裁判所は、価格決定の裁判をするときは、価格の決定の申立てをすることができる者の陳述を聴かなければならない(870条2項)とし、利害の対立する関係者に十分に主張する機会を与えるために、原則として、審問の期日を開いて申立人や相手方の陳述を聴かなければなりません(870条3項)。また、主張およびその反論の期限を明確にするとともに、即時抗告などの裁判後の対応に備えさせるために、原則として、裁判する日を定め、申立人に告知しなければなりません(117条5項)。裁判所は、非訟事件の手続においては、決定で、裁判をします(非訟事件手続法54条)。裁判所は、申立てが不適法であった時または申立てに理由がないことが明らかなときは、ただちに申立てを却下することができます(870条の2)。 なお、価格決定の裁判に対して即時抗告をすることができます(872条5号)即時抗告は執行停止の効力を有します(870)。 ・振替株式の場合の個別株主通知 反対株主による会社に対する株式買取請求についてははともかく、反対株主が買取対象となる振替株式についてのむ価格決定の申立てには、個別株主通知が必要かについて、以前は株式買取請求権の行使時と買取価格決定申立時とが離れているので、個別株主通知は両者に必要とされていました。しかし、実務上では、株主が買取請求権を行使しながら、別途株式を市場で処分することがないよう買取請求権の行使と同時に保有する株式の口座に振り替えるように依頼されることが多いとされ、さらに、株式買取請求権の段階で個別株主通知が行われていれば、それと一体をなす買取価格決定の申立ての段階で再度個別株主通知を行うことは求められていないと考えられています。 ü
株式買取請求の撤回(117条3項) 株式買取請求をした株主は、株式会社の承諾を得ない限り、その株式買取請求を撤回することはできません(116条6項)。しかし、効力発生日から30日以内に協議が調わない場合で、効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがなされないときには、その期間満了後は、株主は、いつでも株式買取請求を撤回することができます(117条3項)。つまり、価格決定申立期間の経過は、株式買取請求の失効事由ではなく、会社の同意なしに株式買取請求を撤回できることとしました。 ü
利息の支払い株式買取請求の撤回(117条4項) 会社は、裁判所が決定した買取対象株式の代金支払債務について、効力発生日から60日経過後において、年6分の利率により算定して利息を支払わなければならない(117条4項)。 このような利息の法的性質は、従来は買取代金債務の遅滞として遅延利息と解されてきましたが、弁済期の経過により債務者たる会社の帰責性を問わず自動的に発生する年6分の法定利息と解されるようになりました。 効力発生日から60日間の経過により年6分の利率が発生するとともに、株式の買取の対象となる株式の買取代金が確定しその支払がなされるまで買取の効力は生じず(117条6項)、買取請求株主は株主としての地位を維持します。 ü
株式買取請求の効力の発生(117条6項) 株式買取請求の対象とされた株式の移転は代金の支払いの時に効力を生じることになります(117条6項)。株式買取請求をした株主はただちに株主としての資格を失わず、代金の支払いを受けた時に株式は会社に移転し、これによって請求株主は株主としての資格を失うことになります。 振替株式の買取を行う場合について、会社法の特例が認められています。株主から会社への振替が行われる必要がありますが、振替の申請は振替株式の記録を有する者しか行うことができず、また、買取に係る会社の代金の支払いと、株式買取請求を行った株主による振替の申請を同時履行の関係に立たせる必要があることから、会社は、請求株主に対して振替株式の代金の支払いをするのと引き換えに振替株式にについて会社の口座を振替先口座とするか振替を株主の直近上位機関に対して申請することができます(社債株式振替法155条)。 なお、反対株主の株式買取請求に伴い、会社が自己の株式を取得する場合、取得形態として相対取引にあたり、自己株式を譲渡した側で、みなし配当所得と譲渡所得が認識されることになります。 ü
株券発行会社等における支払方法(117条7項) 株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引き換えに、その株式の代金を支払わなければならない(117条7項)。この内容は、新株予約権証券および新株予約権付社債券を含め、株式、新株予約権および新株予約権付社債の買取請求権に共通するものとなっています。 振替株式の買取を行う場合について、会社法の特例が認められています。株主から会社への振替が行われる必要がありますが、振替の申請は振替株式の記録を有する者しか行うことができず、また、買取に係る会社の代金の支払いと、株式買取請求を行った株主による振替の申請を同時履行の関係に立たせる必要があることから、会社は、請求株主に対して振替株式の代金の支払いをするのと引き換えに振替株式にについて会社の口座を振替先口座とするか振替を株主の直近上位機関に対して申請することができます(社債株式振替法155条)。 関連条文 取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条)
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