新任担当者のための会社法実務講座
第335条 監査役の資格等
第336条 監査役の任期
 

 

Ø 監査役の資格等(335条)

@第331条第1項及び第2項の規定は、監査役について準用する。

A監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。

B監査役会設置会社においては、監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。

ü 監査役の資格(1項)

監査役の資格として自然人に限られること、一定の欠格事由が法定されていること、及び公開会社の場合には定款による資格限定に一定の制限があることは、取締役の場合と同じです。

ü 監査役の兼任の制限(2項)

監査役は、会社の取締役・使用人または子会社の取締役・執行役・使用人を兼ねることができません。監査する者と監査される者が同一であっては、監査の実があがらないからです。同じ理由から、監査役は、会社または子会社の会計参与を兼ねることはできません。

この規定は、監査役の欠格事由を定めたものではなく、監査役に選任される者が取締役等の地位を辞任することは選任決議の効力の要件ではない。兼任禁止にふれる者が監査役に選任された場合には、それまでの地位を辞任して監査役に就任したとみなされ、その監査役が事実上、それまでの地位を継続した場合には、監査の効力がないとは言えないが、その監査役の任務懈怠となり、監査の公正さ疑問を生じさせるという裁判所の判断例があります(最高裁判例平成元年9月19日)。ただし、ある者が監査役を務めるA社が同人が取締役であるB社を子会社にした等、監査役が後発的に兼任禁止にふれる地位についたときは、B社の取締役の地位を辞任せずにした監査は向こうとする見解が有力となっています。

・兼任禁止の範囲

この規定により監査役が兼任を禁止される地位の具体的範囲について

・顧問や相談役

顧問や相談役は一般に諮問機関のようなもので、会社の経営に直接または間接に関係するとは言えない点があり、議論が分かれています。顧問や相談役の職務の実体にが業務執行機関に対して継続的従属性を有するか否かににより判断するというくらいが実務的な対応ということになるのではないでしょうか。

・顧問弁護士

顧問弁護士の中には、もっぱら特定の1社の法律事務の処理を行う社内弁護士や1社専属顧問弁護士と、1社または数社の法律顧問を務めてはいるが、独自に法律事務所を経営し、会社の顧問として以外にも法律事務の処理を行っている顧問弁護士の二つに分類できます。そのうち、前者については、顧問会社の取締役の指揮命令に服しているのが通例で、条文のいう使用人に該当すると考えられます。これに対して後者の中心的な職務は顧問会社からの各種諮問に応じて法律上の意見を述べることなるので使用人には該当しないと考えられます。大阪高裁昭和61年10月24日の判決の中で次のように判示しています。「弁護士は、一般に、独立した自己の職業と」

※弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件について、会社から委任を受けて訴訟代理人となる場合、上記の兼任の制限に抵触しないという裁判例があります。ただし、顧問弁護士が監査役を兼ねることができるかについては実態をみて実質的に判断すべきとされています。

ü 監査役の員数(3項)

監査役会設置会社においては、監査役は3人以上でなければなりません。そのうち半数以上は社外監査役でなければなりません。これは過半数ではないので、例えば、監査役が3人の場合には、社外監査役は最低2人必要ですが、監査役が4人の場合には社外監査役は半数の2人が最低必要な人数となります。その他の監査役設置会社では1人でもよく、定款で事由に員数を定めることができます。

監査役が3人となった場合でも、それが短期間であれば、当然に監査役監査が違法となることはないが、それが長期にわたり継続し、監査役が3人以上の監査役による監査報告書の作成(381条1項)及び3人以上の監査役で組織される監査役会による監査報告書の作成ができない状況にあると認められる場合には、適法な監査役監査が行われなかったことになります。その場合、会社の計算書類は定時株主総会の承認を受けたとしても、その決議は、決議取消の訴えを起こすことが可能なものとなります。

旧商法の下で、昭和56年以前には監査役の員数は1人とされていました。しかし、大会社の場合には取締役の業務執行を監査することが無理だという認識が広がり、2人以上とされました。さらに、平成5年の商法改正によって、企業の内容が複雑になったという一般的理由と合わせて、社外監査役制度が導入されたことに伴い、この制度の導入について、常任の監査役の員数の減少をもたらして総体的に情報収集能力を低下させるという批判に応えるという理由から、監査役の員数を3人以上とすることになりました。 

Ø 監査役の任期(336条)

@監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

A前項の規定は、公開会社でない株式会社において、定款によって、同項の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。

B第1項の規定は、定款によって、任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任した監査役の任期の満了する時までとすることを妨げない。

C前3項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、監査役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。

一 監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更

二 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の変更

三 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更

四 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更

ü 監査役の任期

監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうちの最終の年度に関する定時株主総会の終結の時までです。法に定める場合にその任期が短縮されること(3項、4項)は別として、法定の任期を定款・株主総会決議により短縮することは認められません。これは、監査役の地位を強化し独立性を高めるためです。

なお、全株式譲渡制限会社においては、定款の定めにより、任期を10年まで伸ばすことができます。

取締役の任期と比較して重要なことは、監査役の任期の方が取締役の任期より長いというだけでなく、取締役の任期は2年を超えることができないというように最長限度だけが定められているのに対して、監査役の任期は、それを伸長できないだけでなく、短縮することもできないことです。このことは、監査役の独立性を保障するためで、監査役の任期を短くすることができるとすると、落ち着いて十分な監査をすることができなくなってしまうおそれがあるためです。監査役の任期については、会社の大小の規模による差異はありません。小会社の監査役についても、その独立性および地位の安定性は保証される必要が在るからです。

なお、任期の起点は就任時(選任後被選任者の就任承諾がなされた時点)ではなく、選任時(選任決議の効力が生じた時点)となっています。これは、任期の起点を就任時とすると、就任承諾は被選任者の意向に委ねられる結果、任期の終期が株主総会の意思に反する事態が生じかねないからと説明されています。

ü 非公開会社の監査役の任期の伸長(336条2項)

旧商法においては株式会社の監査役の任期は4年とされていて、現在と同じですが、有限会社という小規模な会社形態があり、そこでは監査役の任期に特段の規制はありませんでした。会社法は有限会社と株式会社を一本化しました。実際、旧有限会社を含む非公開の小規模な株式会社は、株主の変動が少なく、株主に対して監査役の信認を頻繁に問う必要性は乏しいと考えられることから、定款によって1項の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時まで伸長することが認められました。

ü 補欠監査役の任期(336条3項)

補欠監査役とは、任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役のことです。この場合、補欠監査役の任期を1項の原則どおりとすると、補欠監査役と他の在任中の監査役とで退任時期が異なることとなってしまいます。そこで、補欠として選任された監査役の任期を退任した監査役の任期の終了するまで(残存期間)とすることを認めています。

なお、補欠監査役には、上記以外に329条2項の規定により、監査役の欠員に備えて、あらかじめ補欠監査役として選任されている者も、含むと考えられています。

〔参考〕定款の記載例

(取締役及び監査役の任期)

第○条 取締役の任期はその選任後2年以内、監査役の任期はその選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

A 補欠又は増員により選任された取締役の任期は、前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。

B 任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期は、退任した監査役の任期が満了すべき時までとする。

ü 一定内容の定款変更に伴う監査役の任期の満了(336条4項)

会社法は定款自治を認めていますが、株式会社が一定内容の定款変更を行なったことによって、監査役の任期をそのままにしておくことが、不可能または不適当なことになる場合があります。そこで、次のような定款変更を行なった場合には、定款変更の効力が生じたときに、監査役の任期が満了することになります。

@監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款変更

この場合にはも監査役を置くことができなくなるからです。

A監査等委員会または指名委員会等を置く旨の定款変更

この場合にも、会社は監査役を置くことができなくなるからです。

B監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更

この場合には、監査役の権限が拡大するために、監査役にふさわしい者が異なってくることが考えられるからです。

Cその発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更

非公開会社が公開会社となる旨の定款変更です。この場合、機関構成が大きく変わることになるので、あらためて株主に対して監査役の信認を問う必要があると考えられるためです。


 

関連条文

選任(329条) 

株式会社と役員等との関係(330条) 

取締役の資格等(331条) 

取締役の任期(332条) 

会計参与の資格等(333条) 

会計監査人の資格等(337条) 

解任(339条) 

監査役等による会計監査人の解任(340条) 

役員の選任及び解任の株主総会の決議(341条)

累積投票による取締役の選任(342条)

監査等委員である取締役の選任等についての意見の陳述(342条の2)

監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)

会計監査人の選任に関する議案の内容の決定(344条)

監査等委員である取締役の選任に関する監査等委員会の同意等(344条の2)

 

 

 
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