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株主総会に提出された資料等の調査(316条)
@株主総会においては、その決議によって、取締役、会計参与、監査役、監査役会及び会計監査人が当該株主総会に提出し、又は提供した資料を調査する者を選任することができる。
A第297条の規定により招集された株主総会においては、その決議によって、株式会社の業務及び財産の状況を調査する者を選任することができる。
株式会社に関する一定事項を調査する者について、裁判所によって選任される者を検査役とし、株主総会の決議により選任される者には、とくに名称がつけられていません。
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株主総会に提出された資料等を調査する者(1項)
明治32年に商法が制定された時に、定時株主総会において取締役の提出書類と監査役の報告書を調査した上で配当を決めるとしていのに対応して、その調査を行う者として検査役の規定が置かれたのが端緒です。
・調査する者の選任
株主総会が調査者を選任する場合、条文にはとくに要件等の規定がありません。したがって、株主総会が必要と認めれば、調査者を選任することができると考えられます。調査者を選任する決議は普通決議(309条)でよく、調査者は1人に限らず数人を選任することも可能と考えられます。
調査者の選任は、必要と判断された場合になされるものですから、あらかじめ、事前の招集通知の段階では、必要か否かの判断はできないと考えられます。したがって、議事の場において動議により選任をすることが可能であり、取締役会設置会社では、その選任議案が招集通知に議題して掲げられていなくても、問題とはならないと考えられます。
調査者としてどのような者を選任すべきか、資格や欠格事由などの規定はありませんが、調査者による調査の対象とされている書類等の提出者、すなわち取締役、会計参与、監査役または会計監査人は、当然、調査者にはなれないと考えられます。
調査者は、選任の際に、株主総会で調査に係る具体的な任務が定められ、任務が終了すれば退任することになります。
・調査する者の地位
調査者は、株主総会提出資料等の調査を委託されることから、会社との関係で準委任の関係(民法656条)にあります。会社法には特段の規定がないので、この点については民法の規定に従うことになり、したがって、調査の費用を会社に対して請求することはできます(民法650条)が、報酬は総会で特段の決定を行わなければ特約のないものとして無報酬が原則です(民法648条)。また、調査者は職務の執行にあたり、委任の本旨に従い善管注意義務を負います(民法644条)。これに違反した場合は債務不履行責任を負うことになります(民法415条)。
・調査する者の調査権限の範囲
調査者の権限は、取締役、会計参与、監査役または監査役会および会計監査人が当該株主総会に提出した書類等に対する調査であり、これに限定されます。会計帳簿やそのほか会社書類の閲覧謄写、あるいは会社業務・財務の状況の調査の権限は認められないと考えられます。これは、当該書類の調査というあ限られた目的のために調査者の選任がとくにみとめられたことによるものです。
調査者は、委託を受けた範囲内において、調査対象となる書類等の適法性あるいはそこに掲げられた数字の正否を調査します。調査者には業務執行権限がないことから、書類等の内容に係る裁量的判断、つまり妥当性や合目的性に立ち入ることはできず、これは調査の対象に入らないためです。
調査の対象となる書類等は、株主総会に提出される各議題ないし各議案について要求される法定の書類が含まれることはもちろんですが、報告事項に関する書類も含まれるし、任意に提出された書類等もあればこれにも及びます。なぜなら、報告事項に関する書類等はほかの決議事項の前提情報となり得ること、そして任意に提出された書類に虚偽の内容が含まれていた場合、株主による権利行使の判断、つまり株主総会の決議の内容の成否に影響が及ぶ可能性があるからです。
・調査結果の報告
調査者が行った調査の結果について、報告についての規定がありません。民法の委任の規定によれば、委任者たる会社の求めがあれば調査者はいつでも調査の状況について報告すべき義務があります(民法645条)。また、調査が終了したときは、遅滞なくその経過および結果を報告しなければなりません(民法645条)。
実際問題としては、株主総会が調査者を選任する際にその報告(報告の日時、場所、相手、および方法)に関する指示を決めておくことが望ましいと考えられます。仮に調査者を選任した株主総会において、報告に関する詳細が指示されなかった場合、民法の規程に従って調査終了時に遅滞なく報告すべきことになります。例えば、調査者を選任した株主総会において、株主に対してただちに調査および報告ができれば問題はありませんが、総会において続行が決議され、別の日に継続会が開催された場合には、そこで報告するし、そうでなければ、相当な方法、例えば報告書を作成して会社に提出するか株主に通知する。
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株主会社の業務・財産状況を調査する者(2項)
明治32年に商法が制定された時に、監査役が会社の業務ないし会計事項の鑑査の過程において何らかの問題を発見し、株主総会を招集することが会社にとって必要性が高いと判断した時、監査役は臨時株主総会を招集できるとされていました。その臨時株主総会において会社の業務および会社財産の状況調査させるため検査役を選任できるとしたのが端緒です。
・調査する者の選任
株主総会が調査者を選任することができるのは、第297条の規定により招集された株主総会においてです。これには二つの場合があります。第一に、少数株主が取締役に株主総会の招集を請求し、これに従って取締役による招集がなされる場合(297条1項)。第二に、少数株主による請求がありながら取締役による招集が為されず、裁判所の許可に基づき、当該少数株主による招集が為される場合です(297条5項)。この二つの場合のいずれでも、調査者の選任が可能です。調査者の資格や退任および地位については、株主総会に提出された資料等を調査する者と同じです。
・調査する者の調査権限の範囲
株主会社の業務・財産状況を調査する者の権限は、株式会社の業務および財産の状況の調査であり、これは358条に定める検査役の権限と同じです。検査薬の場合は、当該調査に必要な一切の行為をなす権限を有すると規定されていますが、これとおなじと考えられます。
・調査結果の報告
株主総会に提出された資料等を調査する者と同じです。