新任担当者のための会社法実務講座
第311条 書面による議決権の行使
 

 

Ø 書面による議決権の行使(311条)

@書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。

A前項の規定により書面によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入する。

B株式会社は、株主総会の日から3箇月間、第1項の規定により提出された議決権行使書面をその本店に備え置かなければならない。

C株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、第1項の規定により提出された議決権行使書面の閲覧又は謄写の請求をすることができる。

ü 書面による議決権の行使(書面投票制度)(1項)

書面による議決権行使、いわゆる書面投票制度は、株主総会の招集者が、総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使する旨を定めることができ(298条1項3号)、その定めをした場合、招集の通知に際して、法務省令の定めるところにより、株主に対して、議決権行使の参考書類及び議決権行使書を交付し(301条)、株主は議決権行使書面に必要事項を記載し会社に送付することによって議決権を行使できる(311条)という制度です。すなわち、書面投票制度は、株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるための便宜を会社が図る制度です。

議決権を有する株主が1000人以上の会社においては、この書面投票制度を採用することを法律上強制されています(298条2項)。このような会社は、通常、株主の分散度(株主が地域的に分散している程度)が高く、直接に株主総会に出席できない株主が多いので、そのような株主にも議決権行使の機会を与えて、できるだけ多くの株主の意思を株主総会に反映させようとしたものです。

ü 書面による議決権行使の効力が問題となる場面

・議決権行使書面の表示が問題となる場面

議決権行使書面の記載事項は会社法施行規則66条に定められていて、各議案についての投票は「賛」「否」の文字が印刷された記入欄が設けられて、そのいずれかに○を付す様式が、一般的に用いられています。その書面への株主による記載が実務において問題となる場合があります。

まず、議案の全部または一部について、株主が○を付さないで書面を会社に提出した場合の扱いです。会社は、あらかじめ招集事項としてこの場合の扱いを、白紙の場合は賛成とするとか棄権とするといったように定めることが認められています(会社法施行規則63条)。この場合、招集通知または議決権行使書面に記載することが必要です。実際のところ、多くの株式会社は議決権行使書面をこの記載のある書式に確定して毎回使用しています。

第二に、議決権行使書面に何らかの記載はあるものの、その内容が不明確な場合です。この場合には、株主の意思を矛盾なく判断できるときは有効な議決権行使として扱うという基本的な方針が共有されています。例えば、○以外の記号、例えばチェック記号とか、が付されている場合でも賛否は理解できるものは有効とし、記載内容を読み取ることができない場合は有効な議決権行使ではないものとして扱います。同じ議案について賛否の両方に○を付しているといった矛盾した記載がなされている場合も議決権行使の内容が不明なため、有効な議決権行使として認められません。この場合、議決権行使としては有効ではないとしても、出席議決権数に含めるか否かについては、出席と認める(投票は棄権)、あるいは無効として出席数にも入れないと。どちらも考えられます。

第三に、議決権行使書面に賛否以外の意志が表示されている場合です。例えば、「棄権」と記入されている場合、などです。この場合は、この議決権行使が無効となるわけではなく、棄権として出席議決権数には算入して、決議の賛成には含めないという株主の意思を反映した扱いをすることになると思います。

・重複行使

複数の書面による議決権行使または書面と電磁的方法による議決権行使が重複して行われた場合、それらの内容が対立する場合です。会社法では、複数の書面投票が対立する場合は(会社法施行規則63条)及び電子投票と重複し内容が対立している場合の処理について、招集事項とて定めることができるとしています。この定めをしていない場合には、議決権行使の時間的な先後によって決するものとされています。すなわち、後に出された方を優先する。先後不明であれば両方とも無効とする。

・出席(委任状)と書面による議決権行使の関係

書面による議決権行使ができるのは総会に出席しない株主である(238条1項3号)ため、株主が会社に議決権行使書面を送付した場合でも、総会に出席するとその効力は失われると考えられます。これは現実に出席した場合だけでなく、代理人を出席させた場合も含まれます。そのため、書面投票を行った株主が委任状を付与した場合は、常に委任状が優先し、議決権行使書の内容にかかわらず委任状に基づく代理人の議決権行使が有効になります。これが原則です。

・撤回と再交付

株主は一度会社に対して送付した議決権行使書面の撤回や、議決権行使書面の再交付を求めることができるかについてはも会社の事務負担を考慮して、一度送付した議決権行使書面について内容の変更のための再交付や廃棄の求めに会社が応じる義務はないと解されてきました。ただし、実務上、株主が議決権行使書面の紛失や未着を申し出た場合は、再発行である旨を表示した上で再発行がなされることがあります。

・動議

書面投票はは事前に示された議案に対して株主の意思を確実に示すことができる方法であり、議決権の代理行使の場合に生じるエージェンシー問題を生じさせない一方で、事前に内容を知ることが不可能な動議をはじめ、総会の場における審議への対応には限界があります。そのため、実務上は、会社の総会の運営のために大株主から総括委任状を取得して動議への準備をして会社は少なくありません。

1)議事進行上の動議

調査者の選任(316条)、延期・続行の決議(317条)、会計監査人の出席を求める(398条2項)及び休憩や議長不信任の動議といった議事進行上の動議に対しては、現在では、書面投票はその内容にかかわらず欠席扱い(出席議決権数に含めない)とされています。実際に、出席していない株主に対して、総会前にこれらの動議に関して意思決定する資料を与えることはできず、したがって意思決定もできないからです。

2)修正動議

議案を修正する動議については、欠席とすべきという見解もありますが、実際に出席しているわずかな株主によって決められてしまうという弊害が大きいので、実際には、対立する議案のひとつが可決するともうひとつのものは自動的に否決ということになるので、株主総会の議事運営において修正動議を先議にしてしまうと、書面投票を行った多数株主の意思を容易に覆すことができてしまう。そこで、現在では原案に賛成のものは修正案に反対、それ以外のものは棄権として扱うことにして、原案を先に可決してしまうという議事運営が採られています。

ü 書面による議決権の行使の方法、効果(2項)

総会に出席しない株主は、議決権行使書面に、各議案に対しての賛成、反対等の記載をして、これを総会の前日までに会社に提出して、つまり前日までに会社に届くように送付して、議決権を行使します。賛否の記載のない議決権行使書面が提出された場合には、議決権行使書面又は招集通知に、その場合の取り扱いについての記載があれば、その記載通りの取り扱いをすることができ(「白紙の場合は賛成とみなす」)、その記載がなければ無効として取り扱うことになります。

書面による議決権行使は、出席したのと同じ取り扱いがなされ、その議決権の数は出席した株主の議決権の数に算入されます(2項)。

書面による議決権行使に関する瑕疵は、株主総会の招集手続または決議の方法の瑕疵(831条1項)として取消事由となります。つまり、株主の示した議決権行使書の内容と異なる扱いがなされた場合は決議取消事由となります。この条文の3項が株主総会決議取消訴訟の提起期間に合わせて議決権行使書面の備置義務を課し、4項が株主に閲覧謄写請求権を与えているのは、この決議取消事由となることを前提としているからです。

ü 議決権行使書面の備置と閲覧謄写請求(3項、4項)

・議決権行使書面の備置と閲覧謄写請求

書面投票を行った株式会社は、株主総会件の日から3ヶ月間、議決権行使書面を会社の本店に備え置かなければなりません(3項)。そして、株主は営業時間内であればいつでも備置された議決権行使書面の閲覧謄写を求めることができます(4項)。閲覧謄写を不当に拒絶した場合(976条)及び備置義務に違反した場合は100万円以下の過料に処せられます。

これは株主の意思に基づかない議決権行使や、書面投票が採決に正確に反映されないといった瑕疵のある処理を防ぎ、総会決議が適法かつ公正になされることを担保するために設けられているものです。そのため備置が株主総会決議取消訴訟の提起期間と同じ3ヶ月間とされています。そのことから、会社は、備置基幹経過後は閲覧請求に応じる義務はないと考えられています。

また、この制度の目的が上述の通り株主総会の取消事由の調査を可能にすることであることから、株主の中でも基準日以降に株主となったものや単元未満株主のように、その株主総会で議決権行使ができず、関与できなかった株主には閲覧謄写請求権は認められていません(310条7項括弧書)。

・閲覧謄写請求の拒絶

議決権行使書面には、株主の氏名、議決権数に加えて通常は住所が記載されています。議決権行使書面は株主名簿と異なり返送した株主の情報しか記載されていないとはいえ、株主名簿と同様の情報を含むものであり、閲覧謄写によって株主のプライバシーが害される可能性があるといえます。しかし、株主名簿の閲覧請求の場合とは違って、帰結権行使書面の閲覧謄写請求については、株主はその理由を明らかにする必要はなく、拒絶事由も明文で定められていません。

ただし、従前の旧商法下において株主名簿の閲覧謄写請求に対する拒絶事由が明文で定められていなかった当時の判例で「株主名簿の閲覧又は謄写の請求が、不当な意図・目的によるものであるなど、その権利を濫用すると認められる場合」には閲覧謄写請求を拒絶できる(際高裁判決平成2年4月17日)とされていました。現在の会社法における議決権行使書面の閲覧請求についても同じように理解できると考えられます。

ü 書面投票制度─議決権行使書の利用

議決権行使書を株主総会の前日までに送付して、それで決議に参加するという制度です。上場会社では一般的になっているので、当たり前と思われる人がほとんどだと思います。しかし、この条文で利用する場合にはその旨となっているので、利用しなければならないわけではないのです。

そもそも議決権行使書という文書は昭和56年の商法改正により導入されたものです。それ以前には、議決権行使書と、このベースとなる書面投票制度というものはありませんでした。株主総会というのは、本来、株主が出席して、その場で議論を交わして熟議の末に投票を行い決議をすることで重要事項を決めるというものです。これは株主総会に関わらず会議というシステムはそれが原則です。例えば国権の最高機関である国会において本会議に出席せず、議案について書面で投票するなどということがあるでしょうか。議案について会議の場で議論を進めることで、自分とは異なる視点の意見や情報を得ることができたり、他人に自分の考えを説明することで再確認したりと議案に対する認識が深まることになるわけです。そのプロセスにおいて、以前に気付かなかったことを知らされ従来の意見を転換する可能性だってあるはずです。それが会議で議論をする意味です。これは、民主主義での多数決を正当化するために様々な議論が議会制民主主義の当初からあって、熟議によって意見が集約の方向に向かい一般意思に近づいていくというモデルが一般に認められるようになっている、というのがベースにあるのです。権威筋を持ち出すなら、公法学のケルゼンやラートブルッフといった人たちによる多数決原理、つまり、多数者による少数者の説得のために両者の討論があり、その結果としての少数者の多数への賛同・承認をたどることを意味するし、さらにいえば、この過程において少数者の意見も多数者の意見に近づくとともに、多数者の意見も少数者の意見に近づき合うという相互のあいだに、多数少数意見が転化しあい、交替し合う可能性が常にあると言う中で多数決による決議に参加者が納得することになるというわけです。

では、以前は株主総会に出席できない株主はどうしていたのか、実務担当者が気になるのは、どうやって定足数を確保していたかということでしょう。その際には委任状が使われていました。よく、何かの団体のメンバーである人ならば総会があると招集通知が送られてきて、出席できない場合には委任状を提出して下さいいと言われると思います。それと同じことが株主総会で行われていました。では、委任状ということでやっていたのを書面投票制度などという株主総会に特有のことを始めたのでしょうか。それは委任状と書面投票制度を比較しながら見ていくと分かってくると思います。

委任とは、自分は会議に参加できないから、会議に参加できる信頼に足る人に自分の分を代理して投票してもらうという内容です。端的に言えば、本人は会議の決議に自分の意志を投票するのではなくて、意志を他人に預けてしまうのです。だから、本人がある議案に賛成の考えをもっていても委任された人が反対の投票をすることもありうるのです。委任された人は会議に出席するので、上で説明した多数決原理による議論→投票のプロセスに参加するわけです。その際に議論の中で反対の説得に応じる可能性があるのです。その時、委任した人の意向に委任された人は縛られないのです。そうでなければ会議の議論に参加できませんから。だから、委任状の場合は会議の意味がかろうじて保たれることになるわけです。

こうして見ると、書面投票制度そのような本来の会議の意味を、言わば、端折って、議論に参加することなく事前に書面で議案に対する賛否を投票してしまうということは、会議の趣旨に反する行為のはずです。

もうすこし根本的として、会議形式で議論をして決議という結果を出すということは、どういうことかを考えて見ましょう。株主総会で言えば、取締役の選任とか会社が今後生き残って成長するために非常に重要なことを決めるわけです。そういうことを決めた選択が会議で多数決で決めたからと言って正しい選択だったとは限らないわけです。では、どうして多数決で決めるのでしょうか。みんなで決めたことだから、と参加者を納得させる(反対者を諦めさせる)ためでしょうか。たしかに、そういう効果もあるでしょう。しかし、それが間違っていたら誰が責任をとるのか、選んだ全員ですか。それでは責任が有耶無耶になってしまいます。そうではなくて、この背景には様々な意見や見方を持った人が集まって意見を出し合って、十分な議論を行うということ、これを熟議といいますが、この結果として生まれた結論は絶対に正しいと確言することはできないかもしれませんが、限りなく正しいに近いものとなるだろうと推測される、ということなのです。だから、会議で一番大切なのは熟議というプロセスのはずなのです。しかし、議論の前に書面で賛否を投票してしまうということは一番大切なはずの熟議を省略してしまうことになってしまいます。それでは株主総会の結果が正しいという根拠が否定されてしまうことになってしまいます。私は研究者ではないので、このような根拠を説明した学説や論文を聞いたことがないのですが、たぶん誰も考えていないのではないかと思います。

では、どうしてこのような制度が導入されているのかといえば、この制度が導入された昭和56年の商法改正の時点を状況を考えると、当時の株主総会は総会屋と言われる団体が跳梁跋扈していた時代で、彼らの株主総会でのパフォーマンスのひとつに株主から委任状を集めて、ある程度まとまった議決権の委任を受けて、株主総会の決議について、「我々の協力がなければ株主総会の決議は成立しない」と脅しをかけたり、株主総会の議場を混乱させたりするという方法がよくとられていました。それを行なわせないために、株主がたとえ株主総会当日に出席できなくても、他人に委任するのではなく、選挙の不在者投票のように自身の投票を事前に書面で行なわせるという方法を導入したのでした。こうすれば、総会屋は委任状を集めようとしても、同じ程度の労力で自分で投票できるのですから、何も他人に任せることもなくなります。このような制度導入の趣旨を考えれば、総会屋の活動がほとんどなくなったに等しい状態となり、委任状争奪のプロキシファイトもほとんど起こらない、と言うことを考えれば、本来の会議のあり方から外れた書面投票という制度そのものをやめてしまうことを考えてもいいのではないか、思います。

株主総会に対して、「開かれた総会」ということが謳われて何年もたっていますし、最近のコーポレート・ガバナンス・コードの中でも会社と株主との対話(エンゲージメント)が熱心に説かれていることなどから、株主総会という会議体を本来の会議で議論して結論を出すという形態に戻すことを考えてもいいのではないか。そのためには、株主だって、投資しているのだから自分で足を運んで株主総会に出席するくらいのことは自発的に行なうべきだし、それを前提に株主総会を行なうということを考え直してもいいのではないか、と思います。

株主総会で事前に書面投票で決議はほとんど成立することになっているなどということが、すでに分かってしまっていれば、わざわざ総会の議場に出向いて決議に参加する意味もなくなってしまうし、そんな状態で、果たして経営者と株主との間で対等な対話ができるかは、甚だ疑問です。


 

関連条文

株主総会の権限(295条) 

株主総会の招集(296条)

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

議決権の数(308条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条) 

取締役等の説明義務(314条) 

議長の権限(315条) 

延期または続行の決議(317条)

 
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