新任担当者のための会社法実務講座
第308条 議決権の数
 

 

Ø 議決権の数(308条)

株主総会の表決に加わる権利が議決権で、株主総会で発言し、説明を求める権利の前提となるものです。株主は会社の残余財産の帰属者ですから、会社がよい経営をして企業価値を高めれば株主の利益が増大することになるので、会社の経営にコミットできる議決権は株主の経済的利益の追求と確保ために認められている、と考えてもいいでしょう。最近は、コーポレートガバナンスの向上が企業に強く求められていて、これを促しまたは実現させるものとして株主の議決権行使には、改めて関心が集まってきています。

※コーポレートガバナンス・コードの基本原則1が株主の権利確保に関するもので、原則1−1は株主の議決権に直接かかわるものとなっています。コーポレートガバナンス・コードの原則1−1については、こちらを参照願います。

@株主(株式会社がその総株主の議決権4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く)は、株主総会において、その有する株式1株につき1個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、1単元の株式につき1個の議決権を有する。

A前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については議決権を有しない。

ü 1株1議決権の原則(1項)

株主は、その有する株式1株につき、1個の議決権を有する。これを1株1議決権の原則といいます。これは株主が行使できる議決権の数に関する基本原則です。その根拠として、以下の3つの観点から説明されます。

.株式会社の資本団体としての特質・株主平等の原則

株式会社の資本団体としての特質から、1株1議決権の原則は次のように根拠づけられます。すなわち、株式の自由譲渡性が広く認められる結果、株主としての地位は非個性化するようになります。その結果、株主は単に株式会社に対する危険資本の拠出者として利益配当や残余財産分配を受ける地位しか有さないものとなります、そして、議決権は、株主の自益権を守るために付与されるものとなります。したがって、議決権は自益権の量、つまり、危険資本の負担率に比例させることが公平となるわけです。

※株主平等の原則

明文の規定はありませんが、会社法の原則です。株主は、株主としての資格に基づく会社に対する法律関係においては、原則として、その有する株式の数に応じて平等の取り扱いを受ける。これを株主平等の原則と言います。株主の地位が均一の割合的単位の形をとり、したがって各株式の表章する権利の内容が同一であることから認められるものであって、文字通りには株式平等の原則と言われるべきものを、その帰属者である株主の面から表現したものと言われます。

この株主平等の原則のメリットは、株式会社における多数決の濫用から少数派株主の利益を保護する機能を有する点にあります。すなわち、株主総会や取締役会において多数決で可決された事項でも、それが株主平等の原則に反する場合には、その決議の効力が否定されることになります。代表取締役の業務執行行為によって定められた事項についても同様です。ただし、株主平等の原則に反する行為であっても、それによって不利益を受ける株主が承認している場合には、不平等扱いも許されると考えられています。

イ.資本調達の便宜

1株1議決権の原則を、株式が分散保有の状況にある上場会社において、株式会社が効率的に資金調達を行うことを可能にすることから基礎付けられます。上場会社では、株主相互間に信頼関係が存在することは少ないので、そのために例えば、株主が行使できる議決権の数が1人1議決権によって決まる場合には、大口出資者が思わぬ不利益を被る可能性があります。小口出資者が連携して、大口出資者を会社経営から排除することが容易となるからです。これに対して、1株1議決権の原則であれば、出資の規模に応じて議決権を行使することができるわけです。したがって、1株1議決権の原則は、大口出資を募るためには都合がいいのです。

.株主の残余権者性

1株1議決権の原則を、株主が会社利益に対する残余権者であることから株主に議決権が付与されることに関連することから基礎付けられます。会社利益に対する残余権とは、賃金、利息、取引代金といった契約から確定的に生じる支払の後に、会社に残る利益に対する権利です。そして、残余権者は、議決権を行使し、他の会社に対する利害関係人の行為を監視することから生じる利益を獲得することになります。すなわち、会社に対する利害関係人の中で、残余権者には議決権を会社利益向上のために行使するもっとも大きなインセンティブを有していることになります。株主に議決権が付与されることが以上のように説明できるのであれば、株主間で議決権を配分する方法として、議決権が最適に行使されることを確保するために、残余権と議決権の量を比例関係に置くことが望ましいことになります。

そこで、議決権行使のインセンティブとして、1株1議決権を次のように説明できます。会社の支配権が移転する場合、1株1議決権の原則の下では、会社の支配権を確保するためには会社に対して多くの出資をしなければなりません。その結果、企業価値を向上させるように議決権を行使するインセンティブを有する者が、会社の支配権を獲得するようになる。なぜなら、もし、議決権行使が会社の利益を損なうことにつながれば、それは自らが所有する株式価値の下落に直接つながることになるからです。

ü 1株1議決権の原則の例外

会社法では、上記の1株1議決権の原則とは異なる基準で、株主が行使できる議決家の数を決定されることがあります。それは次のような場合です。

.個々の会社が定款の定めを置くことで、1株1議決権の原則とは異なる基準が適用されることがある。

このことは、具体的には単元株式数の定め(188条1項但書)、議決権制限株式(108条1項)、取締役または監査役解任に関する種類株式(108条1項)なとです。これらの特則が適用される場合には、原則として保有者の属性を問わず、1株1議決権原則とは異なる基準で、株主が行使できる議決権の数が決まります。

※単元株制度(188条)

会社法188条及び308条で、例えば100株をまとめて1単元とするような1単元について1個の議決権を有するように規定されています。これは、上記の株主平等の原則に反するように見えます。そういう議論も存在していますが、もともと単元株制度は前身である単位株制度が実質的には株式の併合と同じ効果を簡易な手続で行えるようにしたもので、単元未満株式は端株に相当するということや、会社は単元未満株式については売り渡しや買取請求に応じるという保障も補完的に行われているので、株主平等の原則の例外と考えられています。

.定款の定めとは無関係に、株主が議決権を行使することが制限されることがある。

このことは具体的には、相互保有株式(1項括弧書)、自己株式(2項)、自己が保有する株式を会社が買い取る旨を決定する株主総会決議における譲渡人が保有する株式(140条3項、160条4項)です。これらの特則は、保有者の属性または保有者を取り巻く利害状況に着目して、議決権の行使を制限する規定です。したがって、このような株式を取得した第三者は、制限を受けることなく議決権を行使することができます。

.単元株制度を利用することで、事実上1株に1個以上の議決権を付与する株式をつくり出すことができる。

 

ü 1株1議決権の原則の例外─相互保有株式(1項、会社法施行規則67条)

たとえばA会社とB会社とが相互に相手方会社の株式を保有している状態にある場合に、それらの株式を相互保有株式といいます。このうち、A会社がB会社の議決権の4分1を超える議決権を有しているときは、B会社は、A会社の株式を有していても、その株式について議決権を有していないことになります。この場合、A会社はB会社の議決権の4分の1を超える株式を有しているので、その持ち株を通じてB会社を支配している状態にあり、したがって、B会社がその有するA会社の株式について議決権行使を認められると、その議決権行使は、結局A会社の経営者の意思に従って行われることになります。それは、間接的な自己株式の議決権行使と同じことになるからです。

なお、実務上は次の点に留意することが必要です。

l 完全子会社が親会社の議決権の総数の4分の1を有する場合等に、株式相互保有規制を適用されてしまうと、総会において議決権を行使する者がいなくなってしまう。そういう場合には、議決権行使の禁止は適用されません(会社法施行規則67条1項)。

l 「議決権の総数の4分の1」をいつの時点で判断するかについては、議決権行使の基準日を定めたときは、原則として、その基準日となります。ただし、その基準日後に株式交換等によりB社がA社の議決権を全部取得した時、もまたは、その基準日から298条1項各号の事項決定の日(株主総会招集の決議)までの間にB社の議決権保有割合の増減によりA社の議決権行使の可否に変化が生じたことをB社が知ったときは算定時点は後ろにずれます(会社法施行規則67条3項)。

l 298条1項各号の事項決定の日(株主総会招集の決議)の後でA社の議決権行使の可否に変化が生じたことをB社が知ったときにおけるA社の議決権の取り扱いは、B社の裁量に委ねられます(会社法施行規則67条4項)。

ü 1株1議決権の原則の例外─自己株式(2項)

1株1議決権の原則の例外として議決権を有しない株式として代表的なものが自己株式です。もし、自己株式が議決権を有するということになると、会社が、つまりは経営陣が議決権を有することになりますから、取締役による会社支配、経営権の維持、保身などに利用されてしまうおそれがあります。それによって株主の意思が総会の決議に反映しなくなってしまって、議決権が歪曲化されてしまうことになる可能性があります。従って、自己株式は議決権を有しないことになっています。

〔参考〕議決権を有しない株式について

相互保有株式、自己株式以外にも議決権を有しない株式がありますので、参考のために紹介しておきましょう。

・議決権のない株式(108条)

いわゆる種類株式で、優先株と呼ばれる株式の中で議決権を有しない代わりに配当を優先的に受けることができる株式があります。これは、定款の定めにより、一般の株式とは別に募集されるものです。

・証券保管振替機関名義の失念株式(29条3項)

株券電子化前に、証券保管振替機構から預託していた株券の交付を受けて機構から脱退した者が、株主名簿への名義書換請求手続を失念している場合の株式です。株主名簿上は機構が株主として記録されています。株主総会では議決権を行使することができる株主の議決権数に含めることになりますが、機構は、招集通知を送付したとしても議決権行使をしません。

・株券喪失登録者(名義人以外の損失株券に係わる株式)(230条3項)

発行会社において、株券喪失登録者と株主名簿上の名義人が異なるときは、その株式の株主は、株券喪失登録抹消日まで株主総会での議決権を行使できません(会社法施行規則230条3項)。

・基準日後に発行された新株式(124条4項)

・単元未満株式、端株株式等

〔参考〕議決権を有しない株式の取り扱い

議決権のない株式に対して、株主総会の議決権を有しないので、一般の株式と異なる取り扱いとして、以下のようなことになります。

・株主総会の定足数への不算入

・株主総会招集通知、参考書類、議決権行使書などの関係書類の不送付

ü 議決権の帰属者

議決権を有する株主は原則としてその時点における株主名簿上の株主ですが、株主が多数いる会社では誰がその時点の株主名簿上の株主であるかを把握することが容易ではないので、特定するためにある程度の時間が必要です。そこで、株主会社は、権利行使日から3ヶ月前までの一定の日を基準日として定めることができるとされています(124条1項)。

基準日は一般的に定款に定められることが多く、定款をもって基準日を指定しなかった場合には、株主に知らしめるために2週間前までに広告しなければならないとさています(124条3項)。

上場会社である発行会社が基準日を定めた場合には、機構から発行会社(株主名簿管理人)に対して総株主通知が行われ、通知事項が株主名簿に記載又は記録されます(振替法151条1項、152条1項)。
 

関連条文

株主総会の権限(295条) 

株主総会の招集(296条)

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

書面による議決権の行使(311条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条) 

取締役等の説明義務(314条) 

議長の権限(315条) 

延期または続行の決議(317条)

 
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