Ø 延期又は続行の決議(317条)
株主総会においてその延期又は続行について決議があった場合には、第298条及び第299条の規定は適用しない。
延期とは、議事に入らないで総会を後日に延期することで、続行とは議事に入ったが審議か終了しないために総会を後日に継続することです。この決議は議事の運営に関するものなので、招集通知に会議の目的たる事項として記載されないものですが、必要に応じていつでも決議することができます。その決議に従って開催される総会を継続会と呼びますが、これは新たに招集される総会ではなく、前の総会が同一性を保ちながら引き続き開催されているのと同じことです。したがって、改めて招集通知を発送する必要はないとされています。したがって、継続会の会議の目的たる事項は前の総会と同一でなければならず、またそこで議決権を行使することができる株主は、前の総会で議決権を行使することができた者です。
※株主総会と継続会の同一性
株主総会と継続会の同一性があることが必要となりますが、そのためには会議の連続性が重要で、二つの会議が同一であるといい得るためには、両者が時間的にも接近して行なわれなければならず、両者の間にかなりの期間が存在していると連続性を有しているいえないような場合には、同一の株主総会とみなされないことになります。この期間について、2週間以内であれば同一性、連続性が認められるという考え方が有力とされています。その理由として、株主総会を新たに招集するためには少なくとも2週間の通知期間が必要であることが勘案されたというものです。
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継続会のための手続
継続会の開催については、株主総会自体が権限を有しているので、株主総会の延期または続行の決議によらなければなりません。従って、議長が決議に基づかず、単独で延期・続行を宣言しても効力は生じません。
株主総会が延期または続行の決議を行う場合には、継続会の期日および場所も決めなければなりません(東京地裁判決昭和30年7月8日)。このいったん決めた継続会については、議長の権限で変更することはできません。ただし、その期日・場所で開催できない事情が生じた場合で、株主に対して適切な周知方法がとられた場合は、変更が許されることがあると考えられています。また、株主総会が延期・続行の決議をしたが、その際継続会の日時・場所については決定せず、その具体的な決定を議長に一任する決議を行うことは許されると解されています。
なお、株主総会における延期・続行の決定は、その株主総会に出席した株主のみによって決議されることになります。つまり、書面投票や電子投票の場合は、この決議に参加できません。
株主総会の延期・続行の決議が行われた場合には、招集者の名前ですべての株主に延期の通知が発せられなければなりません。この通知は当初の株主総会期日前(基準日から3ケ月以内)に到達しなければなりません。
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継続会における決議
・継続会議における議題
継続会は、それを決めた株主総会と同一の総会であり、その一部をなすものであるから、当然議題および出席し得る株主は共通していなければなりません。したがって、その議題は先行する株主総会における議題に定められ、先行総会の招集通知に記載されている議題の範囲に限られることになります。それ以外の議題については。取り上げことはできません。
・継続会における議決権行使
継続会で議決権を行使し得る株主は、継続会を決めた先行株主総会で議決権を行使することを認められた株主に限られます。したがって、当該株主総会に関して基準日が設定されている場合には、基準日現在に株主名簿に記載されている株主に限られます。
株主総会の議決権行使に関しては、先行の株主総会における議決権行使のために会社に提出された議決権行使書面および会社に提供された電磁的方法による議決権行使は継続会においても効力を有し、継続会の決議にも参入しなければなりません。また、議決権行使のための代理権は先行総会の場合同様に議決権の代理行使が認められます。
・継続会と決議取消の訴え
株主総会とその継続会は同一の会議ですから、先行の株主総会に関して招集手続きに瑕疵がある場合には、継続会における決議も瑕疵を帯びることになり、決議取消の訴えの対象となります。また決議取消の訴えの提訴期間は決議の日から3ケ月以内とされていることから、継続会における決議の日から起算して3ケ月以内ということになります。
〔参考〕株主総会の動議について実務対応
延期・続行の決議は株主総会の運営においては議事進行に関する動議として実務的には扱われています。ここで、動議とその実務対応についてまとめておきたいとおもいます。
動議とは会議において出席者から提出され、会議で討論・採決に付される提案のことです。株主総会は株主による会議体ですから、株主は総会で動議を提出し討論・採決することが出来ます。これは総会参与権といわれています。しかし、現代の株式会社における株主総会では会社法等の法令や定款で定められた事項しか決議することはできません。従って、株主総会では動議は招集通知に記載された議題及び議案に関する事項に限定して討議・採決に付して会議の意思決定を求める提案を行なうこととなります。他方、総会の運営と議事進行については会社法では総会の秩序維持と議事整理は議長の権限とされているので、総会出席の株主が提出する動議は、議長に対して適正な職権行使を求め、あるいは不適正な職権行為の排除を求めてなす協力や監視行為としてのみ認められていると考えられます。
@動議の種類
動議には実質的動議と手続的動議の二種類あります。
1)実質的動議:議案やその修正案をいいますが、株主総会の場合には修正動議、つまり、議案の内容について終生を求める動議、です。
株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項についての議案を提出することができるという304条の規定に基づくものです。従って304条但書による、その提案された動議が法令定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は、会社は拒否できることになっています。
2)手続的動議:株主総会の運営や議事進行に関する動議で議事進行に関する動議とも呼ばれます。以下の通り会社法に基づくものと、そうでないものに大別できます。
ア.会社法の規定に基づくもの
・株主総会に提出された資料を調査するものの選任(316条)
・株主総会の延期・続行(317条)
・会計監査人出席要求(398条)
これらの会社法に基づく動議は、株主から提出されれば議場に諮る必要があります。これらの動議を無視して議事を進行した場合には、決議取消の事由となるおそれがあります。
イ.会社法の規定に基づかないもの
・議長不信任、休憩、議案審議の順序変更、決議事項の一括審議、採決方法等
議長不信任動議については議場に諮らなくてはなりませんが、それ以外は議長の議事運営権の範囲内の内容ですから、議場に諮る必要はなく議長の裁量に任されています。
A動議の提出とその対応
1)提出された動議の取扱い
ア.正当な手続に違反して提出された動議の排除
・提出すべきでない時期にかかわらず提出された場合
動議は総会が開始されて以降いつでも提出できるのが原則ですが、議案の審議に関する動議及びその他の議事進行に関する動議は、その審議に入ってからに限られると考えられます。これは会議における一般的な原則で、多くの場合には、総会の開始の際に議長が議事整理権に基づき提案の時期を制限する旨をあらかじめ説明している、それを議長のシナリオに織り込んでいるケースいます。
この場合、議長不信任等を除いて、これに反する動議に対しては、議長は却下するか、提出すべき時期に提出し直すように指導します。
・合理的理由がないことが明白な場合
開始後間もなく休憩を求めたり、特段の理由もないのに議長の交替を求める等の客観的状況から合理的理由がないことが明白な場合には、動議の提案を却下します。
・一事不再理の原則に反する場合
修正動議の場合は304条但書により、総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は拒否できることになっていますが、それ以外にも、一度否決された動議が、その後の事情の変更がないのに蒸し返して同一内容の提案がなされた時には、議事運営の妨害とみなして却下します。
・権利濫用の場合
動議を連発して会議の正常な進行を著しく阻害し、あるいは他の多数の株主の権利行使を妨害する場合は権利の濫用であって、議長はこれを却下します。
イ.違法な動議の排除
提出された動議が法令又は定款の定めに違反しもあるいは公序良俗に反するものである場合、例えば、会議の目的事項として招集通知に記載されていない事項を新たに議題として提案した場合や毛各事由のある取締役候補者を提案した場合などは提案を却下します。
2)動議の審議方法
ア.先議の原則
動議は提出の時期に反しない限り、他の提案の審議に先立って直ちに審議されなければならない。したがって、議案の審議中に適正な動議が提出された時は、議案の審議一時中断して動議の審議を行います。
イ.複数の動議間の審議の順序
・2個以上の動議が提出された場合、その審議は手続的動議が先で実質的動議が後。
・手続的動議間では、議事の運営に関する動議を優先し、議題の審議に関する動議を後にする。
・その他の議事進行に関する動議間では優先順位がなく、その都度直ちに審議する。
ウ.審議の手続
修正動議は、総会の議題・議案の審議と同様に、提案者からの趣旨説明、質疑応答を経て討論を行った上で採決します。
手続的動議は、修正動議とは違って議事の客観的手続に関するものであり、出席株主が議事運営の具体的状況を現認しており、動議の内容も明確で特定でき、かつ、極めて簡単なものがほとんどです。したがって、動議を総会に諮ることについては、討議を経ることなく直ちに採決しても差し支えないと考えられます。
エ.採決の順序
修正動議は原案より先に採決し、修正動議が複数の時は、原案に最も遠いものから先に採決するのが一般原則です。しかし、修正動議を原案と一括審議した場合、議長は原案から先に採決することができるとされていて、これが一般的です。なお、裁判にも判断例があります(仙台地裁平成5年3月24日)。これは、修正動議の提案理由は原案の内容をベースにしているのが実情で、審議の際には原案と修正動議を一括して扱うのが常であるため、採決の順番もベースとなる原案から始めるほうが株主にも理解しやすいと考えられるからです。
実務上は、原案を先に採決して可決承認されれば、議案はその時点で成立し、修正動機を採決する必要がなくなってしまうので、そこで採決を省略することができます。例えば剰余金の配当について原案で配当額が決定してしまえば、その後で違う金額の配当金の採決をする必要はないわけです。
オ.手続的動議の採決
上記にもかかわらず、手続的動議に対しては、出席議決権中の圧倒的多数の賛成が得られるという前提の上で、ですが、直ちに動議を取り上げてその動議を諮るのではなく、その動議に反対する旨の議長提案を行い、その議長提案議決することで議長の意向に沿った議事進行を行うことが一般的です。
なお、その際の採決は、発生又は拍手の採決で足りるということです。
3)道義の採決の際の議決権行使書面等による事前行使の取扱い
ア.修正動議
議決権行使書面による書面投票、あるいは電子投票は、会社提案(原案)に対する投票のみであるので、会社提案に賛成の投票は原案賛成でかつ修正動議には反対として取扱い、会社提案に反対の投票は修正動議に対しての賛否は不明のため棄権として取り扱います。
イ.手続的動議
手続的動議は議事運営に関する動議なので、事前の議決権行使の効力は及びません。これらの議決権数はしたがって欠席と扱われます。書面投票制度及び電子投票制度は議決権の行使のみを株主に保障し、審議には直接参加するものではないことを前提としている制度であるため、これらの動議については、当日の出席株主のみで決議せざるを得ないのです。したがって、会社としては当日の出席株主の議決権の中においても動議に安全に否決できるだけの多数を掌握してことが望ましく、大株主の包括委任状や当日出席の大株主の座席位置と動議対応での会社側賛成を確保しているのが一般的です。
B修正動議の許容範囲
修正動議の許容範囲は、総会が議案を修正して有効に決議できる範囲のことです。招集通知記載の会議の目的事項(議題)から一般に予見しうる程度の原案の補充・変更の範囲となると考えられています。具体的には以下のような範囲と考えられます。
1)剰余金の配当議案に対する増額・減額
剰余金の配当に関する増額・減額については、いずれも一般的に予見できることから動機として採り上げるというのが多数説です。
2)定款変更議案の修正
定款変更議案の修正動議としては
ア.変更議案の一部を変更しない提案
○議案の同一性は失われず、一般的に予見可能とされている。
イ.変更議案の原案にさらに変更箇所を追加する提案
×議案の同一性が失われると解されている。
ウ.変更議案(事業目的の追加)における原案の追加事業の削除提案
○議案の同一性は失われず、一般的に予見可能とされている。
エ.変更議案(事業目的の追加)における原案以外の事業の追加提案
×議案の同一性が失われると解されている。
3)取締役・監査役選任議案の修正
ア.取締役が推薦する候補者以外の候補者の提案(候補者の変更)
○候補者は議案そのものではないと考えられている。
イ.「Aさんを候補者から外す」旨の提案(候補者の減員)
ウ.「候補者としてBさんを加え、選任人数を1名増員する」旨の提案目的の追加)
エ.別個に「Cさんを取締役として選任する」旨の提案(別議案)
イ.ウ.エ.いずれも×議案の同一性が失われると解されている。
4)取締役・監査役報酬議案の修正
ア.報酬枠の増加額の減額修正動議
○予見可能とされている
イ.報酬枠の増加額の増額修正提案
×議案の同一性が失われると解されている。
4)取締役・監査役報酬議案の修正
具体的金額を株主総会で決議する旨の提案
5)役員退職慰労金贈呈案の変更
具体的金額を株主総会で決議する旨の提案
○議案の同一性は失われず、一般的に予見可能とされている。