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第313条 議決権の不統一行使
 

 

Ø 議決権の不統一行使(313条)

@株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる。

A取締役会設置会社においては、前項の株主は、株主総会の日の3日前までに、取締役会設置会社に対してその有する議決権を統一しないで行使する旨及びその理由を通知しなければならない。

B株式会社は、第1項の株主が他人のために株式を有する者でないときは、当該株主が同項の規定によりその有する議決権を統一しないで行使することを拒むことができる。

ü 議決権の不統一行使(1項)

議決権の不統一行使とは、株主が複数の議決権を有している場合に、有している議決権を統一して行使するのではなく、例えば10株の株主が5株分を賛成に、残りの5株分を反対にするとか棄権するというように、不統一に行使することを言います。会社法では、株主が、保有する議決権を統一しないで行使することを認めています(313条1項)。

実際の例としては、株式が共有されている場合に共有者間の意見が相違するとき、同一会社の株式が信託されていて受益者が複数人存在する場合において受益者間の意思が異なるときに不統一行使が行われます。したがって、不統一行使を行う株主は信託銀行や機関投資家の場合がほとんどです。

しかし、現実には株主総会に出席した株主が、保有する株式の一部に係る議決権のみを行使して定足数計算における出席議決権数に算入し、残りの株式に係る議決権数について算入しないように求める、ということが株主総会の会場で求められたたしても、株主が株主総会に出席した以上は、その株主が保有する株式に係る議決権はすべて出席議決権数に算入され、一部の株式に係る議決権を行使しなかったとしても棄権したものと扱われことになります。

議決権の不統一行使が、そのとおりに行使されるのは議決権行使書を通じての場合に限られるというのが実際のところではないかと思います。この場合、議決権行使書に記載された行使できる議決権の数と議決権不統一行使の内容として記載された賛・否・棄権の合計議決権数に差がある時は、その部分は議決権は行使されなかったものと扱い、出席議決権数に算入しないこととされています。

なお、議決権の不統一行使をするか否かは、議案ごとに決定することができます。同一の株主総会に複数の議案が提出された場合に、ある議案については議決権を不統一に行使し、他の議案については統一して議決権を行使することも認められています。

ü 議決権の不統一行使の事前通知(2項)

取締役会設置会社の場合、株主は、株主総会の3日前までに、会社に対して、その有する議決権を不統一行使する旨及びその理由を通知しなければなりません(313条2項)。この場合の「3日前までに」とは、その通知が会社に到達した日と株主総会の日との間に中3日あることが必要とされます(民法140条)。

このように通知が求められる理由は、株主総会の準備をする会社に不統一行使をする者があることを事前に知らせ、その不統一行使を拒否するか否かを検討する機会をあたえるためです。なお、不統一行使の通知をすると株主は不統一行使をする義務を負うわけではなく、実際の決議の際には統一的に議決権を行使することも差し支えありません。

また、通知の方法について、かつて旧商法では書面による通知に方法を限定していましたが、現在の会社法では通知方法についての特段の定めはなく書面に限定されているわけではありません。しかし、会社が事務処理の便宜及び法的安定性の確保の観点から、議決権の不統一行使の事前通知の方法を定めることができることを前提にして、そのような方法を定めるときは、株主総会の招集の決定に当たって、事前通知の方法を定めることができます(会社法施行規則63条6号)。この決定は、取締役会設置会社であれば、取締役会の決議が必要です(298条4項)。また、事前通知の方法を定めた場合には、招集通知もしくは議決権行使書面にその旨を記載しなければなりません(299条4項、会社法施行規則66条3項)。なお、定款に、議決権の不統一行使をする場合の事前通知の方法を定めている場合は招集の決定に際して改めて定める必要はなく、招集通知への記載も不要です。事前通知の方法を定める場合は、実務上の慣行からも書面による方法とするのが一般的です。現状では、株主が議決権の不統一行使を行う場合の通知方法として、会社作成の議決権行使書面に不統一行使を行う旨を追記して送付したり、不統一行使を行う理由を明確にしていないケースも散見されるなど、各様の通知方法が取られています。会社によっては通知書の書式を指定しているケースもあり、他方、信託銀行などでは不統一行使の通知件数が多いので、通知用紙を書式化しています。

※不統一行使の理由の記載

事前通知には不統一行使の理由を記載しなければなりませんが、その際、その理由に第3項の「株主が他人のために株式を有する者」に該当することを記載することが必要となります。株主が「他人のために株式を有する者」に該当しない場合は不統一行使を拒否することができるわけで、会社に拒否をさせないためには、「株主が他人のために株式を有する者」を明記する必要があると言えます。なお、株主が会社に対して不統一行使の通知をする際、記載された理由が真実であることを証明する必要はないと考えられています。

ü 他人のために株式を有する者(3項)

議決権の不統一行使は無制限に認められているわけではなく、株式会社は議決権の不統一行使を行おうとする株主が、他人のために株式を有する者でないときは、その不統一行使を拒むことができる(313条3項)とされています。他人のために株式を有する場合とは、名義上の株主と実質上の株主が別人であって、実質上の株主の意思にしたがって議決権を行使することが妥当な場合を言います。具体的には、株式の信託、ADR(米国預託証券)またはEDR(欧州預託証券)など外国預託証券等が該当します。しかし、株主が他人のために株式を有するものであるか否かが不明確である場合には、事前通知書に記載された理由で判断することになります。理由が記載されていない場合や他人のために株式を有することの合理的説明がされていない場合、会社は、その不統一行使を拒むことができます。

・株主名簿の名義書換が未了の場合

例えば、株主Aが持ち株の一部をBに譲渡したが、株主名簿の名義書換が済んでいない場合、譲渡分の株式についてAがBの指示に従いA自身の議決権行使とは異なる方向で議決権を行使しようとすると、Aは議決権を不統一行使することになります。この場合、会社は拒否できないというのが多数説です。ただし、上場会社の場合には、株式の譲渡は保振を通じて行われ、当日中に名義書換が完了してしまうので、現実にはこのような事態は発生しないと考えられます。

・株式の共有と「他人のために株式を有する者」

株式が共有に属する場合、株式の共有者はも共有株式の係る権利を行使する者を指定し、会社に通知しなければ、原則として権利を行使できません。権利行使者は、共有持分の過半数によって決定できるとするのが判例です(最高裁平成9年1月28日)。また、判例は、権利行使者は自己の判断で株主としての権利を行使できるとしています(最高裁昭和53年4月14日)。これによると、共有者内で議決権行使について意見が分かれた場合であっても多数決によって決定された権利行使者が自らの意思によって議決権を行使することができ、共有者内の少数派のま意見が議決権行使に反映されない事態が生じることになります。このような場合に、各共有者の意思を共有持分の割合に応じて議決権行使に反映させる方法として不統一行使が考えられます。

・従業員持株会が保有する株式に係る議決権行使

従業員持株会は、運用形態により信託方式と証券会社方式に分かれますが、前者では持株会によって購入された株式は受託者名義で株主名簿に登録されることになります。これは株式の信託であって「他人のために株式を有する者」たる受託者による不統一行使を会社は拒否することができません。

後者の場合、持株会が購入した株式は、持株会理事長名義で株主名簿に登録され、理事長を受託者とする管理信託が設定されます。議決権行使については持株会の各会員が理事長に指示できるとされており、異なる内容の指示があった場合、理事長は不統一行使をすることになります。これも株式の信託であって、受託者ため理事長による不統一行使を、会社は拒否することができません。

・外国人株主による議決権行使

外国人、とくに海外の機関投資家が、我が国の会社の株式を保有する場合、グローバルカストディアンに有価証券の保管業務が委託され、グローバルカストディアンが保管する株式に係る議決権は、グローバルカストディアンが選定した常人代理人によって行使されるのが一般的です。グローバルカストディアンは複数の投資家から株式の寄託を受けているのが通常であるため、投資家からの議決権行使について支持の内容が異なる場合には、議決権を不統一に行使する必要が生じることになります。グローバルカストディアンは・株式の共有と「他人のために株式を有する者」に当たり、会社はその不統一行使を拒否することはできません。

ü 議決権の不統一行使の拒否

議決権の不統一行使に対して、会社は次のような場合に拒否することができます。

・総会の日の3日前までに通知されていない場合

・事前通知の不統一行使の理由の記載が明確でない場合

・他人のために株式を有するものであることが明らかでない場合

このような、事前手続に瑕疵がある場合、この議決権行使を無効としなければならないかという問題があります。この場合、会社は、拒むことができます。これは拒むことができるというとであって、拒まなくてはならないわけではないということです。会社の判断で拒まないで認めることはできるとされています。なお、この場合には、株主間の取り扱いの平等に注意して、恣意的な運用とならないようにしなければなりません。

会社が適法に不統一行使を拒否した場合、株主は議決権を統一しないで行使することはできませんが、統一して行使することはできます。会社が適法に拒否したにもかかわらず、株主が議決権を統一しないで行使した場合、その議決権行使は全体が無効となります。不統一行使した議決権は出席議決権数には算入されるため、事実上、全部について反対の議決権行使をしたのと同じ結果になります。

〔参考〕議決権不統一行使に関する取扱い指針

全国株式懇話会連合会では、機関投資家の議決権の不統一行使の増加に鑑み、不統一行使に関する事前通知書および議決権行使書・委任状に添付する書類の様式ならびにその標準的な取扱いを議決権不統一行使に関する取扱い指針として定めています。


 

関連条文

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