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第315条 株式会社の議長の権限
 

 

Ø 議長の権限(315条)

@株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する。

A株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる。

 

ü 株主総会の議事

株主総会の議事は、会社法の規定のほか定款その他の会社の内部規則および慣行に従って運営されるのが普通です。株主総会の議題には報告事項と決議事項があります。

・議長

株主総会においても、他の会議体と同様に議長がその議事運営を主宰します。議長の権限については315条に規定が置かれていますが、このような法定の権限を有する議長の存在は必須ではありません(会社法施行規則72条3項5号)。

株主総会の議長の選任について、旧商法では定款に定めがなければ総会で選任するように規定されいましたが、会社法ではなくなりました。定款で株主総会の議長を定めてもいいというのは29条に規定されていますが、定款で議長を定めていない場合には、株主総会の議長を総会で選解任するというのは、株主総会に限らず会議というものの一般的な原則であり、株主総会もこの原則に従うのは当然のこととして、あえて会社法で規定するまでもないというのが立法者の考えだったようです。また、この議長となることができる資格については、株主総会に出席できることが前提ですから、株主、取締役などの役員に限られることになります。多くの会社では、定款で、議長を社長と定め、社長に事故・支障あって出席できないときは他の取締役が社長に代わって議長となると定めています。このように定款で議長に関して定めていても、それは株主総会ごとに、いちいち議長を選任する手間を省くためのものにすぎないから、株主総会において議長を選任する決議(普通決議)があれば、その決議の内容が優先します。また、少数株主によって招集された株主総会(297条4項)においては、議長に関する定款の規定はなく、議長を選任することが必要となります(広島高裁岡山支部決定昭和35年10月31日)。また、裁判所によって招集される株主総会(307条1項、359条1項)の場合も同じです。

・議事運営

株主総会の開会に先立って、出席者が総会に出席する資格を有しているかを確認する必要があります。確認の方法については、代理人を通じて議決権を行使する場合には代理権を証明する書面を会社に提出することを要するとされています(310条1項)が、このほかには規定はありません。通常、株主本人であるか否かの確認は、株主総会招集通知とともに送付される議決権行使書用紙、出席票等を通じて行われます。電磁的方法によって招集通知を送付し電子投票をする株主の場合には、確認の方法はとくに法定されていませんが、あらかじめ割り当てられたパスワードを議決権行使の際に入力する等の方法が考えられています。

株主総会の議事運営は、通常、冒頭に議長が開会を宣言し、続いて、定款の定めに従って議長に就任する旨、および決議に必要な定足数が満たされている旨が宣言される。これに続き審議に入ると、会議体の一般原則に従い、議案の提案者による提案理由の説明、出席者からの質疑、それに対する応答という形で議事が進行します。取締役・会計参与・監査役・執行役は、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、その事項について必要な説明をしなければならないことについては明文の規定がおかれています(314条)。

株主総会は、議長の閉会宣言により終了します。ただし、閉会宣言が不当になされた場合には、総会は終了しないとみなされます(東京地裁判決昭和29年5月7日)。

ü 議長の選任

株主総会の議長は、定款に定めがない場合には株主総会の場において選任されます。議長となる資格については株主総会に出席する権利を有する者出なければならないと解されていて、したがって株主であれば問題ありませんが、株主でなくても取締役及び監査役は議長になる事ができると考えられています。なお、旧商法では議長の選任に関する定めが規定されており、また株主総会議事録へ議長の署名が必要とされていましたが、会社法では、このような規定はなくなりました。

多くの会社では、定款に株主総会の議長を社長である取締役が務め、社長に事故がある時は予め取締役会が定めた順序により他の取締役が務めると定めています。したがって、社長が総会に出席できないときは、総会で議長を選任する手続をとることなく、定款の規定に従って取締役会で定めた順序にしたがって取締役が議長に当たります。

※株懇モデルの定款

(招集権者および議長)

第17条 当会社の株主総会は保冷に別段の定めがある場合を除き、取締役社長がこれを招集し、その議長となる。

2 取締役社長に事故あるときは、予め取締役会で定めた順序により、他の取締役がこれにあたる。

※特別利害関係ある者と議長資格

議長その地位において議事運営に当たるだけなので株主総会の決議については特別の利害関係を有する者も議長になりうると判断した裁判例(東京地判平成4年12月24日)もあります。ただし、特別利害関係ある者が議長となった結果、著しく不公平な議事運営がなされれば、その議長の下でなされた総会決議は決議取消事由となります(831条1項1号)。

実務においては、その総会終了時に退任となる取締役に対する退職慰労金贈呈議案の真偽採決において、その取締役が議長となっているときには、その議案の上程中に限り、議長に差し支えありとして交代する例があります。しかし、この場合は特別利害関係人であるからという理由によってではなく、自ら退職慰労金贈呈議案説明(その中に「在任中の功労に報いるため」という慣用句が入ります)をしにくいという事情によるものです。従って、議長不信任動議が出された場合の二つの決議、つまり、その動議を議題とするか否かの決議、そして議題とした場合の不信任動議に対する賛否の採決のいずれの場合にも、議長であり続けることが出来ます。議長の不信任動議を当の議長が採決にかけたとしても、そのこと自体が、その採決の公正さが失わせるわけではないからです。

※少数株主により招集された株主総会の議長

少数株主が招集した株主総会の議長について、定款の社長が議長となる規定は、取締役が招集を決定した通常の株主総会を前提とするもので、それ以外の場合には適用されない。したがってあらためて株主総会において議長を選任することになると考えられています(広島高裁岡山支昭和35年10月3日)。

ü 議長の権限

株主総会の議長の職務は、議事を公正・円滑に運営することです(315条1項)。そのために、議長には総会の秩序を維持し、議事を整理する権限が認められています(315条1項)。議場内の発言はすべて議長の議事整理権に服することになります。例えば、議場での発言は議長の許可を要するようにする。株主の質問の順番を決める。質疑を打ち切って採決にはいる。などといったことです。ただし、議長の議事整理権は正当な議事整理のためであるので、理由なく発言を禁止したり中止したりすることはできません。行き過ぎた違法な議事整理の下でなされた決議は。著しく不公正な時に該当するとして決議取消の訴えの事由となるおそれがあります。そして、議長は命令に従わない者その他総会の秩序乱す者を退場させる権限が認められています(315条2項)。

・議長の議事整理

開場前の議事整理

株主総会会場への入場資格の確認:不特定多数の株主が出席する株主総会において、入場資格を確認した上で株主を混乱なく総会場に誘導する必要があります。

手荷物チェック:議事妨害のおそれがある場合は、会場の安全面から、カメラ、テープレコーダーの持ち込み禁止や会場の入口での手に持つ検査を行う必要があります(東京地裁判決)。

※過去に脅迫的言動を用いて種々の要求を行っており、出席者の生命身体に危害を加えるおそれがあると予測される場合には、当該株主が所持品検査を受け、武器類を所持しないことを証明しない限りにおいて、株主総会への出席禁止の仮処分を認めた例(岡山地裁決定平成20年6月10日)。

会場での議事整理

傍聴の許可:警察の臨場要請や警備員の配置もこの権限の行使に含まれます。

※議長の許可も得ず、議事妨害をする目的で、非株主が株主と偽り強引に入場した場合は、建造物侵入罪が適用されます(東京地裁判決昭和62年5月19日)。

開会の宣言

議長の権限は、まず開会を宣言することにあります。議長は、事務局から当日の株主の出席状況、定足数の充足の状況等をもとに、予定時刻または、その後条件が充足した時点で開会を宣言するのです。これによって総会が開会されます。

株主総会の議事は、通常、あらかじめ議事進行要領(シナリオ)が用意され、これに沿って進められます。あらかじめ質問状の提出があった事項をシナリオの中に盛り込んで、総会場における質問を待つことなく一括して回答することも議長の判断で認められます(福岡地裁判決平成3年5月14日)。そして、発言がある場合は、議長が発言氏を許可し、これに対する回答も議長の指名に基づいて行われる。第2会場を設けた場合には第2会場で発言を求める株主がいれば、これに対して、機会を与えなければなりません(大阪地裁判決平成10年3月18日)。この場合、第2会場の指名については補助者を指定して当たらせることになりますが、補助者が故意に指名しないようなことがあれば不公正決議として決議取消の原因となります。議長は発言の時間を制限したり、発言回数を制限する場合もあります。議長は効率的に株主総会を進める職責を担っているので、発言が長引いた場合にはこれを制止し、あらかじめ発言時間を示して協力を求めることもあります。これらについては、合理性があれば、議長権限で行うことも可能です(仙台地裁判決平成5年9月30日)。また、質問者が多数いる場合に、1人1問と制限することについても、「できるだけ多数の株主に発言を認める」ということから適切し判断した裁判例もあります(名古屋地裁平成5年9月30日)。

質疑を打ち切って採決できるかどうかについても、十分な審議を尽くしたということが認められれば議長の権限で打ち切ることができます(東京地裁判決平成4年12月24日)。実務においては、総会の同意を求める場合もあります。

※質疑打ち切りの留意点

議長の権限による職務で難しいのが審議を打ち切り採決する際の判断です。株主総会において多数の株主が説明を求めれば、ある程度の時間を要することがあっても、取締役等は説明義務を尽くさねばなりません。しかし、総会も会議である以上合理的な時間内に終結すべきであるし、他の株主にも質問の機会を平等に与えるよう各株主の質問時間が不平等にならないように各株主の質問時間を制限する必要も出てきます。また、議長は相当の時間審議され、一般的な株主が会議の目的事項を理解できたと合理的・客観的に判断できる状況にあれば説明義務は尽くされたとしてときは、質疑・討論を打ち切り、採決する判断をします。その合理的・客観的判断の明確な基準はなく、議場の雰囲気や経過時間などを考慮して判断することになります。

実際には、多くの場合、議長から議場に議事進行上の提案として質疑打ち切りを諮り、賛意をとりつけるという方法がとられています。また、打ち切り時に議場が混乱することを避けて、「あと○名」「あと○問」等の予告を行うケースもあります。

〔参考〕議長が株主総会で質問を受けた場合の心得と発言例

1.議事進行のイニシアチブを株主に握られるな

議事進行の権限と責任は議長にある。株主が、開会冒頭あるいは議事の途中で発言を求め、発言の機会を得るとたちまち議事を独占し、長広舌を振るい、あるいは無意味な手続論を繰り返し、議事進行などについて執拗に自説を押し付けることがある。しかし、議長は決してその策に乗せられたり引きずられてはならない。議事進行の権限は議長に有り、株主が議長の議事進行を指図するような発言をしても、取り上げるべきではない。

「議事の進行は議長にお任せ願います」

「そのようなことは議長の権限で決めさせていただきます」

2.報告事項の報告が終わるまでは株主の発言は許さない

総会の議事進行は、報告事項、決議事項の順で行われる。株主にあらかじめ設定された質疑応答の時間以外の時間に発言を許してしまうと、議事の混乱を招くおそれがある。したがって、報告事項の終了まではいかなる発言も許さない。(ただし、議長不信任などの取り上げなければならない動議は別)

「質問は報告事項の報告が終わってからにしていただきます」

3.発言は必ず議長の許可を得てから発言させる

議長は、総会の秩序を維持する権限がある。株主の発言は、必ず議長の許可を得てから発言することを励行する。議長の許可のない発言や不規則発言を放置すると、やがて収拾のつかない混乱に陥るおそれがある。議長の許可のない発言には毅然と制止する。

「ご発言は議長の許可を受けてからにしていただきます」

「不規則な発言は禁止いたします」

4.報告事項については意見を言わせない

報告事項に関し質問があるといって発言を求め、質問ではなく長々と意見を開陳する株主がいる。報告事項は、取締役及び監査役が株主に対して営業、決算、監査等について報告をするものである。株主はそれを聞く立場にあり、報告事項について役員に説明義務があるとの立場に立っても、株主の質問、役員の説明は、株主が不明のところを質問し、役員の説明を受けて理解を深めるものである。報告事項は承認決議を要するものではないから、株主の討議の対象ではなく、意見を述べさせなくてもよい。

「ただいまは報告事項についてご質問をお願いし、これに対してご説明をしておりますので、ご意見の開陳はご遠慮願います。」

5.株主の質問のすべてに答える必要はない

株主総会における株主の質問権及びこれに対する役員の説明義務は、無制限ではない。会社法第314条によれば、質問が会議の目的事項に関連のないとき、説明をすることによって株主の共同の利益を著しく害するとき、説明するのに調査を要するときには説明を拒むことができる。さらに同条によれば、このような事由に該当しない場合であっても、正当な理由がある場合には説明を拒絶することができる。

「ただいまのご質問は本日の議題と関連がございませんので、お答えはご容赦願います」

「ただいまのご質問にお答え申し上げますためには資料を調査いたさなければなりませんので、ご説明をご容赦願います」

「ただいまのご質問はきわめて詳細な事項にわたり、株主総会においてご説明をする範囲を超えておりますので、ご説明はご容赦願います」

「ただいまのご説明で一般の株主さんには十分理解いただけたものと考えます」

6.発言が長くなりそうなときには時間を限る

株主総会は、多くの株主が集まって報告を聞き、審議をする場である。1人の株主が長時間発言を独占することは、他の多くの株主にとって迷惑である。株主総会という会議の性質上、討議の対象は限られており、微細な事項は対象にはすべきでない。どんな質問も5分もあれば十分であり、それ以上は株主本来の権利である質問権の範囲を超え、権利の濫用にあたる。

「大勢の方が発言を希望されております。お一人の株主さんが長時間独占されることはご遠慮願います」

「発言はあと3分で打ち切り願います」

(長時間発言に対し)「株主総会は大勢の株主さんのご質問を受けご説明をいたす場でございます。お一人の株主さんが長時間を独占されますと他の大部分の株主さんのご迷惑になり、このようなことはいわゆる不公正な方法として違法になると解釈されていますので、この辺でこの株主さんのご発言は打ち切らせていただきます。次の方どうぞ」

7.時には厳しい態度で臨む

8.動議が提出されたときは速やかに適切な措置をはかる

9.取締役候補者に対する質問は取り上げない

取締役候補者には説明義務はない。再選の候補者であっても、その立場では説明義務はない。

(役員候補者への質問に対して)「新任、再任を問わず、取締役候補者としては会社法314条の説明義務はございませんので、候補者の個人的な意見の開陳のご要求はご遠慮させていただきます。なお、取締役会としては今回の候補者はいずれも当社の取締役として最適任であると考えてご推薦申し上げたものであります」

10.将来のことを約束しない

来期のことを約束したり、議事録に株主の発言を記載することを約束したりすること、あるいは後日社員をして説明させること、書類を交付することなどを約束することは避ける。その場の雰囲気で不用意な約束をして法律的に問題があったり、後日取り扱いに苦慮する場合がある。

11.説明義務を負う事項については取締役として正面から取り組んで十分に答える

12.採決に当たっては賛否の議決権の数を正確に数える必要はない

13.トータルで2時間程度の終了を目途にする

・議長の退場命令

議長は、適法かつ公正な審議により、効率的に議事を進めるという職責を負っているので、そりために、総会秩序維持特権と議事整理権を有しています。これらは権限であると同時に義務であり、適切に行使されなければなりません。議長は議事を混乱させ、総会の秩序を乱す者に対しては、必要に応じて命令を発することができます。とくに、議長の命令に従わない者や総会場の秩序を乱す者に対して退場を命ずることができるとされています。

しかし、退場命令は、これによってその者は総会への出席権とともに発言権、議決権も奪われることになるため、相当に重い処分であり、厳正な対応が求められるのは勿論です。退場命令を出したことを適法とした判決例(東京地裁平成8年10月17日)もありますが、株主総会における報告事項・決議事項、原告の質問内容等を詳細に認定し、原告の質問事項については説明義務がなかったこと、冒頭において議長が議事進行の方針と株主の発言方法を明示し、出席株主の多数の承認を得て議事に入ったにもかかわらず、原告が再三にわたって不規則発言をしたことなどを詳細に認定した上で、議長の退場命令に違法な点はないという判決をしています。

なお、あらかじめ退場させる旨の警告を、何回か繰り返し命じたにもかかわらず、それに従わない場合は不退去罪(刑法130条)に該当すると考えられますし、退場命令を発しても退場せずに議事を妨害し続けた場合には威力業務妨害罪と認められることもあります(東京地裁判決昭和50年12月26日)。

〔参考〕議長が退場命令を出す場合手順の例

@不規則発言は無視する。議事を妨害するほどの発言であれば、不規則発言を制止(注意)する。

A制止(注意)しても議事の妨害行為をやめない場合は、退場命令を下す旨を警告する。

B最終的に議事の妨害行為をやめない場合は、退場命令を下し、命令をした以上は撤回しない。警備員や場内整備担当は、退場命令に基づき、妨害行為をやめない株主に退場を促す。なお、暴力行為を振るう場合はもちろんのこと、議長席に物を投げたりする場合は、無警告で退場命令を下す。

※不規則発言を繰り返す株主に対し、不規則発言を中止しないと退場を命ずる旨、再三警告したにもかかわらず、当該株主が不規則発言を中止しなかったため、退場命令を発したことについて、退場命令に権限濫用などの違法性はないと判断した裁判例(東京地裁平成8年10月佐藤工業事件)もあります。

・議長の採決と閉会宣言

議長は審議が熟したところで、審議を打ち切り、採決を行います。採決の方法については法律に特別の定めはなく、議長が会議体運営の一般の慣行に従い適宜の方法によることができます。また、定款に別段の定めをしていない限り必ずしも挙手規律投票等をしなければならない必要はありません。審議を通じて議案に対する賛否の態度が明白になり、あらかじめ会社に提出された議決権行使書や電子投票による議決権行使結果を含めて、決議に必要な議決権数の賛成を得られれば、決議は成立し、議長は承認可決された旨を宣言します。その際、賛否の数を出席株主に報告する必要はありません(広島高裁岡山支部判決昭和35年10月31日)。

※上場企業は臨時報告書で決議の結果を開示

企業内容の開示に関する内閣府令19条2項9号の2により、株主総会において決議事項が決議された場合に、@株主総会の開催年月日、A決議事項の内容とともに、B決議事項(役員の選任または解任のに関する決議事項である場合は、個別の役員ごとの決議事項)に対する賛成、反対および棄権の意思表示に係る議決権の数、当該決議事項が可決されるための要件並びに当該決議の結果等を臨時報告書に記載して提出することが求められます。

しかしそのためにいちいち投票される議決権数を数えていたら、総会が終わらなくなってしまいます。実際の実務では、大株主や役員である株主を除く株主については、投票その他の方法によって採決を行わず、事前行使および株主総会に出席した大株主の集計によって可決要件を充たして、会社法に則って決議が成立したものとして議決権の一部を集計しなかった等と理由を記載する例が多いようです。

議長は議事日程を終了した場合は、閉会を宣言します。議長の閉会宣言によって株主総会は終了します。もっとも、議長の閉会宣言は確認的なものであって、形成的な力はないとされており、閉会宣言後も残留株主だけで有効な決議を行い得るとした判決もあります(神戸地裁昭和31年2月1日)。しかし、議長の閉会宣言が適法になされたものであれば、議事日程は終了したとみなされます。

〔参考〕株主総会の運営─総会シナリオ

株主総会の実際の運営は、会社がシナリオ(議事進行要領)を作成し、議長をはじめとして、そのシナリオに従って議事進行や付随する運営を行います。

議事の進行方法(審議方式)には、大別して、個別審議方式と一括上程一括審議方式があり、シナリオも審議方式により異なってきます。個別審議方式の場合は、概ね、@報告事項の報告(監査報告を含む)、A事前質問状に対する一括回答、B質疑応答、C議案の上程、D議案の審議、E議案の採決という順序となります。これに対して一括上程一括審議方式の場合は、@→C→A→[B・D]→Eという順序です。ここでは、一括上程一括審議方式のシナリオの概要を以下に示してみます。

@議長就任宣言

法的に必要な手続ではないが、一般に、自身が議長を務めることとその根拠(定款の定め等)を述べるケースが多い。

A開会宣言

実務上、株主総会の開会時刻が明確となるよう、議長が「開会」の旨を宣言している。開会宣言の後に、議長就任宣言をすることとする例もあり、どちらでも差し支えない。

B議事進行方法の確認

議長の議事整理権の行使として、株主の発言は、報告事項の報告および議案の内容説明が終了した後に、まとめて受け付ける旨を説明する。

C議決権数等の報告

議決権を有する株主数とその議決権数、および出席株主数とその議決権数等を報告し、定足数が充足されていることを宣言する。実務上は、開会時刻の5分前や10分前の時点の集計結果に基づき、報告する例が多い。最近は、より採決の時点に近い数値を明らかにするため、会議の冒頭ではなく、報告事項の報告が終了した後の段階等で報告を行う例もある。

D監査役の監査報告

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類等が法令もしくは定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、調査の結果を株主総会に報告しなければならないが、そうでない限り、法的には、株主総会において監査報告をする必要はない。もっとも、実務上は、大多数の会社において、監査報告が行われている。

E報告事項の報告

多くの大会社では、事業報告と計算書類(連結・単体)が定時株主総会の報告事項となる。報告事項のすべての項目を読み上げるのは時間がかかるため、具体的に説明する対象を、事業報告の主要な項目(例えば、事業の経過および成果と対処すべき課題)と連結または単体の計算書類の一方のみとし、その余は「お手元の書類に記載の通り」である旨を説明することが多い。

近年は、株主総会のビジュアル化が進んでいる。報告事項の報告を、パワーポイントのスライドとナレーションを用いて行うといった方法が浸透してきている。

F決議事項の議案の内容説明

出席株主に対して、受付で招集通知を配布しているのが通例であるから、議案の内容についても、招集通知の内容をすべて読み上げる必要はなく、要点を説明したうえで、お手元の書類に記載のとおりと説明すれば足りる。

G審議(質疑応答)

ここで、報告事項および決議事項について、株主から、質問、意見、動議の提出を含む一切の発言を受け付ける。審議を終了した後は株主からの発言を一切受け付けないため、このような審議方法について、予め議場に出席した株主の過半数の同意を得て進める例も多い。

議長は、議事整理権に基づき、合理的な範囲内で、1人当たりの質問数や質問時間を制限することもできる。

質疑の打切りは、一般論としていえば、審議の時間が十分に経過しており、ひととおりの質問は出ていると考えられる状況にいたったところで、議場に諮って、出席株主の過半数の同意を得て行うことが多い。

H決議事項の議案の採決

採決の方法には、挙手、拍手、投票など、いくつかの方法が考えられるが、どの方法を採用するかは、議長の合理的な裁量に委ねられている。予め提出された議決権行使書および委任状や、当日出席予定の大株主による議決権行使によって、すべての議案が可決されることが株主総会前に判明している場合、拍手によるのが通例である。

I閉会宣言

議長は、株主総会の目的事項がすべて終了したところで、閉会を宣言する。これによって、株主総会は終了する。


 

関連条文

株主総会の権限(295条) 

株主総会の招集(296条)

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

議決権の数(308条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

書面による議決権の行使(311条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条) 

取締役等の説明義務(314条) 

延期または続行の決議(317条) 

株主総会議事録(318条) 

 
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