新任担当者のための会社法実務講座
第315条 株式会社の議長の権限
 

 

Ø 議長の権限(315条)

@株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する。

A株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる。

ü 議長の選任

株主総会の議長は、定款に定めがない場合には株主総会の場において選任されます。議長となる資格については株主総会に出席する権利を有する者出なければならないと解されていて、したがって株主であれば問題ありませんが、株主でなくても取締役及び監査役は議長になる事ができると考えられています。なお、旧商法では議長の選任に関する定めが規定されており、また株主総会議事録へ議長の署名が必要とされていましたが、会社法では、このような規定はなくなりました。

多くの会社では、定款に株主総会の議長を社長である取締役が務め、社長に事故がある時は予め取締役会が定めた順序により他の取締役が務めると定めています。したがって、社長が総会に出席できないときは、総会で議長を選任する手続をとることなく、定款の規定に従って取締役会で定めた順序にしたがって取締役が議長に当たります。

※株懇モデルの定款

(招集権者および議長)

第17条 当会社の株主総会は保冷に別段の定めがある場合を除き、取締役社長がこれを招集し、その議長となる。

2 取締役社長に事故あるときは、予め取締役会で定めた順序により、他の取締役がこれにあたる。

※特別利害関係ある者と議長資格

議長その地位において議事運営に当たるだけなので株主総会の決議については特別の利害関係を有する者も議長になりうると判断した裁判例(東京地判平成4年12月24日)もあります。ただし、特別利害関係ある者が議長となった結果、著しく不公平な議事運営がなされれば、その議長の下でなされた総会決議は決議取消事由となります(831条1項1号)。

実務においては、その総会終了時に退任となる取締役に対する退職慰労金贈呈議案の真偽採決において、その取締役が議長となっているときには、その議案の上程中に限り、議長に差し支えありとして交代する例があります。しかし、この場合は特別利害関係人であるからという理由によってではなく、自ら退職慰労金贈呈議案説明(その中に「在任中の功労に報いるため」という慣用句が入ります)をしにくいという事情によるものです。従って、議長不信任動議が出された場合の二つの決議、つまり、その動議を議題とするか否かの決議、そして議題とした場合の不信任動議に対する賛否の採決のいずれの場合にも、議長であり続けることが出来ます。議長の不信任動議を当の議長が採決にかけたとしても、そのこと自体が、その採決の公正さが失わせるわけではないからです。

※少数株主により招集された株主総会の議長

少数株主が招集した株主総会の議長について、定款の社長が議長となる規定は、取締役が招集を決定した通常の株主総会を前提とするもので、それ以外の場合には適用されない。したがってあらためて株主総会において議長を選任することになると考えられています(広島高裁岡山支昭和35年10月3日)。

ü 議長の権限

株主総会の議長の職務は、議事を公正・円滑に運営することです(315条1項)。議場内の発言はすべて議長の議事整理権に服することになります。例えば、議場での発言は議長の許可を要するようにする。株主の質問の順番を決める。質疑を打ち切って採決にはいる。などといったことです。ただし、議長の議事整理権は正当な議事整理のためであるので、理由なく発言を禁止したり中止したりすることはできません。行き過ぎた違法な議事整理の下でなされた決議は。著しく不公正な時に該当するとして決議取消の訴えの事由となるおそれがあります。

※質疑打ち切りの留意点

議長の権限による職務で難しいのが審議を打ち切り採決する際の判断です。株主総会において多数の株主が説明を求めれば、ある程度の時間を要することがあっても、取締役等は説明義務を尽くさねばなりません。しかし、総会も会議である以上合理的な時間内に終結すべきであるし、他の株主にも質問の機会を平等に与えるよう各株主の質問時間が不平等にならないように各株主の質問時間を制限する必要も出てきます。また、議長は相当の時間審議され、一般的な株主が会議の目的事項を理解できたと合理的・客観的に判断できる状況にあれば説明義務は尽くされたとしてときは、質疑・討論を打ち切り、採決する判断をします。その合理的・客観的判断の明確な基準はなく、議場の雰囲気や経過時間などを考慮して判断することになります。

実際には、多くの場合、議長から議場に議事進行上の提案として質疑打ち切りを諮り、賛意をとりつけるという方法がとられています。また、打ち切り時に議場が混乱することを避けて、「あと○名」「あと○問」等の予告を行うケースもあります。

主に上場会社では総会屋が議事を混乱させることへの懸念から、議長は総会の秩序を維持し議事を整理すべきこと及びその命令に従わない者その他総会の秩序を乱す者を退場させることができると明文で規定しています(315条2項)。

〔参考〕議長が退場命令を出す場合手順の例

@不規則発言は無視する。議事を妨害するほどの発言であれば、不規則発言を制止(注意)する。

A制止(注意)しても議事の妨害行為をやめない場合は、退場命令を下す旨を警告する。

B最終的に議事の妨害行為をやめない場合は、退場命令を下し、命令をした以上は撤回しない。警備員や場内整備担当は、退場命令に基づき、妨害行為をやめない株主に退場を促す。なお、暴力行為を振るう場合はもちろんのこと、議長席に物を投げたりする場合は、無警告で退場命令を下す。

※不規則発言を繰り返す株主に対し、不規則発言を中止しないと退場を命ずる旨、再三警告したにもかかわらず、当該株主が不規則発言を中止しなかったため、退場命令を発したことについて、退場命令に権限濫用などの違法性はないと判断した裁判例(東京地裁平成8年10月佐藤工業事件)もあります。

〔参考〕議長が株主総会で質問を受けた場合の心得と発言例

1.議事進行のイニシアチブを株主に握られるな

議事進行の権限と責任は議長にある。株主が、開会冒頭あるいは議事の途中で発言を求め、発言の機会を得るとたちまち議事を独占し、長広舌を振るい、あるいは無意味な手続論を繰り返し、議事進行などについて執拗に自説を押し付けることがある。しかし、議長は決してその策に乗せられたり引きずられてはならない。議事進行の権限は議長に有り、株主が議長の議事進行を指図するような発言をしても、取り上げるべきではない。

「議事の進行は議長にお任せ願います」

「そのようなことは議長の権限で決めさせていただきます」

2.報告事項の報告が終わるまでは株主の発言は許さない

総会の議事進行は、報告事項、決議事項の順で行われる。株主にあらかじめ設定された質疑応答の時間以外の時間に発言を許してしまうと、議事の混乱を招くおそれがある。したがって、報告事項の終了まではいかなる発言も許さない。(ただし、議長不信任などの取り上げなければならない動議は別)

「質問は報告事項の報告が終わってからにしていただきます」

3.発言は必ず議長の許可を得てから発言させる

議長は、総会の秩序を維持する権限がある。株主の発言は、必ず議長の許可を得てから発言することを励行する。議長の許可のない発言や不規則発言を放置すると、やがて収拾のつかない混乱に陥るおそれがある。議長の許可のない発言には毅然と制止する。

「ご発言は議長の許可を受けてからにしていただきます」

「不規則な発言は禁止いたします」

4.報告事項については意見を言わせない

報告事項に関し質問があるといって発言を求め、質問ではなく長々と意見を開陳する株主がいる。報告事項は、取締役及び監査役が株主に対して営業、決算、監査等について報告をするものである。株主はそれを聞く立場にあり、報告事項について役員に説明義務があるとの立場に立っても、株主の質問、役員の説明は、株主が不明のところを質問し、役員の説明を受けて理解を深めるものである。報告事項は承認決議を要するものではないから、株主の討議の対象ではなく、意見を述べさせなくてもよい。

「ただいまは報告事項についてご質問をお願いし、これに対してご説明をしておりますので、ご意見の開陳はご遠慮願います。」

5.株主の質問のすべてに答える必要はない

株主総会における株主の質問権及びこれに対する役員の説明義務は、無制限ではない。会社法第314条によれば、質問が会議の目的事項に関連のないとき、説明をすることによって株主の共同の利益を著しく害するとき、説明するのに調査を要するときには説明を拒むことができる。さらに同条によれば、このような事由に該当しない場合であっても、正当な理由がある場合には説明を拒絶することができる。

「ただいまのご質問は本日の議題と関連がございませんので、お答えはご容赦願います」

「ただいまのご質問にお答え申し上げますためには資料を調査いたさなければなりませんので、ご説明をご容赦願います」

「ただいまのご質問はきわめて詳細な事項にわたり、株主総会においてご説明をする範囲を超えておりますので、ご説明はご容赦願います」

「ただいまのご説明で一般の株主さんには十分理解いただけたものと考えます」

6.発言が長くなりそうなときには時間を限る

株主総会は、多くの株主が集まって報告を聞き、審議をする場である。1人の株主が長時間発言を独占することは、他の多くの株主にとって迷惑である。株主総会という会議の性質上、討議の対象は限られており、微細な事項は対象にはすべきでない。どんな質問も5分もあれば十分であり、それ以上は株主本来の権利である質問権の範囲を超え、権利の濫用にあたる。

「大勢の方が発言を希望されております。お一人の株主さんが長時間独占されることはご遠慮願います」

「発言はあと3分で打ち切り願います」

(長時間発言に対し)「株主総会は大勢の株主さんのご質問を受けご説明をいたす場でございます。お一人の株主さんが長時間を独占されますと他の大部分の株主さんのご迷惑になり、このようなことはいわゆる不公正な方法として違法になると解釈されていますので、この辺でこの株主さんのご発言は打ち切らせていただきます。次の方どうぞ」

7.時には厳しい態度で臨む

8.動議が提出されたときは速やかに適切な措置をはかる

9.取締役候補者に対する質問は取り上げない

取締役候補者には説明義務はない。再選の候補者であっても、その立場では説明義務はない。

(役員候補者への質問に対して)「新任、再任を問わず、取締役候補者としては会社法314条の説明義務はございませんので、候補者の個人的な意見の開陳のご要求はご遠慮させていただきます。なお、取締役会としては今回の候補者はいずれも当社の取締役として最適任であると考えてご推薦申し上げたものであります」

10.将来のことを約束しない

来期のことを約束したり、議事録に株主の発言を記載することを約束したりすること、あるいは後日社員をして説明させること、書類を交付することなどを約束することは避ける。その場の雰囲気で不用意な約束をして法律的に問題があったり、後日取り扱いに苦慮する場合がある。

11.説明義務を負う事項については取締役として正面から取り組んで十分に答える

12.採決に当たっては賛否の議決権の数を正確に数える必要はない

13.トータルで2時間程度の終了を目途にする

 


 

関連条文

株主総会の権限(295条) 

株主総会の招集(296条)

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

議決権の数(308条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

書面による議決権の行使(311条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条) 

取締役等の説明義務(314条) 

延期または続行の決議(317条) 

株主総会議事録(318条) 

 
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