補充原則4−1.B
 

2018年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前の原コードについての説明は、その下に続けます。 

 【補充原則4−1.B】

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行なわれていくよう、最高経営責任者の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである。

参考として、比較のために改訂前の補充原則を下に示しておきます。

 【補充原則4−1.B】

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)の後継者計画(プランニング)についての策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行なわれていくよう、適切に監督を行うべきである。

 

 

〔変更された点〕

@最高経営責任者(CEO)の後継者計画(プランニング)

些細な点かもしれませんが、従来の原則では「最高経営責任者の後継者の計画」とされていました。それが改訂されて文言では「最高経営責任者(CEO)の後継者計画」となり、単純に比べると改訂により「の」が削られたというだけのようです。しかし、よく考えてみましょう。まず「最高経営責任者(CEO)」とされで(CEO)が追加されました。これは役職を特定したことになります。これによって曖昧さが払拭されたわけです。漠然とした経営陣とか経営にかかわる人ではなく、もっと絞り込んでトップであるCEOについての後継者の育成です。これを深堀りすれば、経営陣とトップとは違うということを含意しているということです。

そして、「の」が削られたことによって「後継者計画」という特定の名詞になりました。従来の「後継者の計画」では形容詞的な使い方でした。この違いは、特定の名詞となったからには、他の何者でもない「後継者計画」そのものを策定し運用するということです。これに対して、従来はそういう特定の計画でなくてもよかったのです。他の計画のついでに後継者の内容が入っていれば、それで足りたわけです。そこで、改訂前後の変わった点を強調して言えば、改訂により特定の「CEOの後継者計画」でなければいけない、それだけCEOを特別扱いしているのが、今回の改訂での議論の大勢だったと考えるべきです。これに対して、改訂前はCEOに限らず経営陣あるいは経営にかかわる人たちの育成計画、とはいっても、それ自体特に作らなくても、全体の人材育成計画の中に、該当する部分があるというのでも許される最低限はクリアできていたわけです。それが、今回の改訂では、それでは不十分だ、ということになる。

A後継者計画(プランニング)についての策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行なわれていくよう、適切に監督を行うべきである。

この補充原則に関しての主要な改訂がここです。補充原則の内容が具体的になりました。そこで、何点かあるポイントについて、それぞれ考えていきましょう。

@)取締役会のすべきことが2種類に分けられたこと。

改訂前の原則では、取締役会は計画について監督していればよかったわけですが、改訂された補充原則では、計画の策定と運用に主体的に関与すること、つまり参加すること、取締役会が実際に計画を執行するわけではないので、その執行が計画通りに行われているか監督すること。この二つのことを行なわなくてはならないこととなりました。

A)後継者計画の策定・運用に主体的に関与する

改訂によって、取締役会が新たに行なわなければならなくなったことです。何をするかという後継者計画の策定と運用です。ます、この計画の策定についてです。この補充原則の前段を見てください、「会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ」とあります、つまり、会社の経営理念や経営戦略に沿った計画をつくるということです。そのためには、計画の方針、つまり、どのような人材をどのような方向に育成するかという、目指すトップの像といった基本方針が必要になるでしょう。そして、育成というのは1年や2年で終わるものではなく、中長期にわたって行うものです。その大きな計画をつくるということでしょう。これには取締役会は主体的に関与するということです。従って、関係部署にマル投げではだめでということです。少なくとも、基本方針については経営戦略などと同じように取締役会で議論する。最終決定は取締役会で経営の最重要事項として決定することになるだろうと考えられます。

また、計画の運用については、取締役会が実際に計画の執行をするわけではありませんが、基本方針があって中長期に進めていく計画でも、目先のこと、今年度、具体的に誰を対象に何を行っていくか、年度計画といった短期的な計画について、取締役会が主体的に関与する。つまり、対象者の選別についても関与する、それに加えて年度の実行プランの決定あるいは承認は取締役会とうことではないでしょうか。

B)後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行なわれていくよう、適切に監督

改訂前は、単に監督するというだけでしたが、改訂により後継者の育成が計画的に行われているかを監督するということになりました。つまり、A)の計画や実行プランのとおりに、実際に育成が進められているかを監督するということです。何度もいいますが、取締役会は、実際に後継者の育成をするわけではありません。実際の執行は主として人事部が社内の協力を得て実行するわけでしょうから、この経過状況や年間の実績などについて取締役会で報告を受ける、つまりモニタリングするということが制度的な基本ということになるでしょう。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

形式的な改訂された補充原則の内容については以上のとおりです。その改訂の前提となったコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の議論で、そこでは次のような内容のことが話されていました。経営陣による果断な経営判断が日本企業に求められているが、その経営陣で中心的な役割を果たすのがCEOであり、誰がCEOになるのか、ということは企業にとって大きな岐路となる。その一方で多くの企業では、そのCEOの育成や選任に向けた取組が不十分であるということが指摘されたと言います。実際、委員会の調査報告では後継者育成について取締役会がモニタリングしていた企業は全体の4分の1程度の少数にとどまっているということでした。そこで、この補充原則の改訂が議論されたということです。CEOをどのような人にするのかということが主眼ですから、この原則単独ではなく、CEOの選任や解任、あるいは報酬についての原則と連動して、その一環として対応することになると思います。

なお。そのフォローアップ会議の議論から「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」という意見をとりまとめていますが、その中で、この補充原則4−1Bについて次のような意見を提起しています。

日本企業に最も不足しているのはCEOとしての資質を備えた人材であるとの指摘がある。こうした課題へ対処するため、CEO候補者の人材育成及びCEOの選任には、中長期的な観点から、十分な時間と資源をかけて取り組むことが重要である。また、選任のための後継者計画の策定及び運用(補充原則4−1B)にあたっては、社内論理のみが優先される不透明なプロセスによることなく、客観性・適時性・透明性を確保するような手続が求められる。

 このような観点から種々の取組みを進めている上場会社がある。

(取組みの例)

・ 企業の中長期的な戦略を踏まえ、将来のCEOに求められる資質(あるべき像)を十分に議論する。また、議論の結果を社内で共有する。

・ 取締役会において、CEOとなりうる人材の育成方針を定め、その方針の下、早期の段階から候補となりうる者を複数選定し、必要となる実務経験を積ませつつテストを行うことによって、候補を入れ替えながら、人材を育成する。

・ 取締役会において、CEOの候補者複数名を明らかにし、十分な時間をかけ、取締役会が候補者の資質を見極めるようなプロセスを設ける。その際、社内のみならず、社外の人材にも目を向ける。

・ 独立社外取締役の十分な関与を得るため、指名委員会、指名にかかる任意の諮問委員会(補充原則4−10@)や、エグゼクティブセッション(独立社外者のみを構成員とする会合(補充原則4−8@))を活用する。

一方、欧米の上場企業では後継者計画、いうなればサクセッションプランの作成は、投資家に対する説明責任の一環としてとして、当たり前に実施されています。従って、この件については原則3−1や原則5−2とも関係するものと考えるべきだということになります。そこで、ひとつの例として、サクセッションプランについて触れておくことにします。

 

〔サクセッションプランの構築〕

参考として、サクセッションプラン構築の基本的事項を6つのステップで考えてみたいと思います。

@運営基盤の設定

サクセッションプランを実作業として検討する主管部署は、通常は人事部門か経営企画部門となるでしょうが、指名委員会や取締役会等での議論を経て、その主管部署が決定されます。

主管部署の決定と同時に、プランの目的、ゴール、期待される成果といったこと「なぜ当社は、プランを実施するのか」を明確にすることです。そして、プランの対象者(範囲)を明確にすること。CEOに限るのか、CEOを含めた取締役、あるいは執行役員まで広げるのか、最初から範囲を明確するということらなります。

A今後のビジネスの方向性の確認

各企業における将来の方向性が見えなければ、求められる人材像の定義は困難です。従って、中長期に重視する経営戦略や今後優先的に取り組むべき経営課題を固めることを行います。このサクセッションプランを、経営計画の一環として進るのもありです。

Bあるべき人材要件の定義

経営陣に求められる人材要件の設定です。デトロイト・トーマツ・コンサルティングの実施した調査では、多くの会社で以下の6つの要素が求められていたといいます。

1)基本能力の保有(誠実さ、聡明さ、経営を行うに足る十分な気力及び体力)

2)時代を変える新技術やサービスへの情熱と理解

3)デジタル技術の変化に関する知識・活用能力

4)多様な環境におけるリーダーシップの発揮

5)外部環境の変化と自社への影響度に対する理解

6)イノベーションの経験・実績

実際にあるべき人材要件を設定しても、その要件を完全に満たす人材はないというのが実情です。しかし、経営の後継者となるべき人物は、設定した人材要件のうち、どの点に秀でているのか、また重視するべきか等を考えていく、それが会社に適した方針となっていくものと考えられます。

C選抜プロセスの検討

選抜プロセスでは、通常、候補となる人物のリストアップを行った上で数回の選抜を実施するというのが一般的です。人物リストアップの際にポイントとなるのは時間軸です。例えば一定の時間軸があるとすれば20〜30名をリストアップできるとすると、第1段階のスクリーニングでは、各人物の基本情報を整理したうえで10名程度まで絞ります。この場合の基本情報とは、年齢、健康状態、過去の人事評価の結果、経歴、語学力などが一般的です。これらは客観的な数値化が可能な情報に近いものです。その後の第2段階で2〜3名程度まで絞り込みますが、性格や考え方、判断基準などを様々な手段で総合的にチェックします。

D育成計画の策定

前項までで候補人材を絞って行って、最終的なCEO後継者を決定するのは、CEO交代の直前です。それまでの間、候補人材は、各自の持つ能力をさらに育成し、CEOとして必要な能力を身につける努力をすることになります。

このため候補人材に対しては、毎年育成計画を策定し、現在の保有する能力・実績の評価、今後求められる能力・経験とのギャップ、それを埋めるためのプランを各々検討することになります。ただし、育成計画策定対象とする候補人材の対象範囲を前項の第1段階通過者とするか、第2段階通過者とするかは、その会社の育成計画策定、時間軸、工数などによって異なります。

Eサクセッションプラン全体のレビュー

特にプランの目的やゴール、後継候補者の選抜方法、候補人材の育成状況の把握を毎年定期に実施します。

 

〔コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の改訂〕

参考として、経済産業省が2018年9月に改訂コーポレートガバナンス・コードとの整合性を図ってCGSガイドラインを改訂しました。そのなかで、関係するところを紹介したいと思います。CGSガイドラインと改訂の概要については経済産業省のこちらのページを参照願います。

ž 経営トップの交代と後継者の指名は、企業価値を大きく左右する重要な意思決定であることを踏まえて、優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するため、十分な時間をかけて後継者計画に取り組むことを検討すべきである。

社長あるいはCEOは、企業経営の舵取りを行い、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を果たす上で中心的な役割を担います。誰が経営のトップに立つかによって、その企業の企業価値は大きく左右されることになり、経営トップの交代が企業価値を最大化させる資質を持つ有する最適の人材に対して、ベストのタイミングで行われるようになっていると、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が確保されていると言えます。

特に、日本経済が全体として右肩上がりの成長を続けていて、それが将来も続くと期待されていた高度経済成長期とは違って、現在の低成長の時代においては、グローバル化やデジタル化等に伴い経営環境が突然急激に大きく転換してしまうような状況で、企業の経営課題が複雑化し、既存の路線の単なる継続や小手先の手直しのような対応では足りず、時には大勢の反対をうけながら大胆な経営改革を迫られることになっています。このような経営改革は、トップダウンで行う以外にはありえず、その難しい舵取りを委ねられるトップの重要性は以前より大きくなり、同時に、そのような役割を担うに足る優れた人材を後継者として確保することの重要性は、いっそう大きくなっています。

そのため、将来の交替を見据えて、十分な時間と資源をかけて計画的・戦略的に後継者候補を育て、必要な資源を備えさせるとともに、後継者として最も相応しい人材を見極め、選び出すことで、適切な後継者指名を行うための中長期的な取組み、つまり「後継者計画」に取組むことが必要となっています。

ž 社長・CEOは、優れた後継者に自社の経営を託すために、その重要な責務として、自らリーダーシップを発揮して後継者計画に取り組むことが期待される。

社長あるいはCEOといった経営トップは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現する最高責任者であり、後継者となるべき優れた人材を育成し、選び出すことは、その中でも重要な責務となりました。また、後継者計画への取組みは、現在の社長やCEOが自ら先頭に立って、十分な時間を割いて深くコミットするとともに、必要な社内体制の整備を行わない限り、十分な実効性を伴うものとはなりません。

ž 取締役会は、後継者計画を適切に監督し、社長・CEOの交代と後継者の指名を客観性と透明性の高い手続で行うことを検討すべきである。

経営トップの交代と後継者の指名は、企業価値を大きく左右する重要な意思決定であり、こぽれートガバナンスの真価が問われる重要な局面です。そのため、取締役会には、後継者計画の策定と運用が適切に行われるように監督することが求められることになります。

しかし、多くの日本企業では、経営トップの交代と後継者の指名は、現在の社長やCEOが専権事項として一人で決定し、取締役会は形式的に追認するだけというのが実態だったのではないでしょうか。このような中で、後継者の選定は現社長やCEOの人物眼といった属人的な要請に依存し、客観的な基準や評価情報が用いられることは少なく、また後継者ま育成計画も現社長やCEOの頭の中だけに存在し、明確な育成方針や育成プログラムは存在しない企業が多いと思われます。

このような従来型の方法で行われる後継者指名では、現在のように変化の激しい経営環境の中では、適切な後継者指名が行われないリスクが高まっていると考えられます。また、客観性と透明性が十分でないため、後継者の指名の際に、社内論理や現社長やCEOの主観的あるいは恣意的な判断といった企業価値の向上以外の観点が優先され、幅広い候補者の中から最適な人材が選ばれていないのではないかという疑念や、最適なタイミングで経営トップの交代が行われていないのではないかという疑念が生じるおそれがあります。また、株主や投資家、あるいは従業員をはじめとするステークホルダーに対して説明責任が十分に果たされず、後継者指名に対する十分な信頼や納得感が得られないおそれもあります。選ばれた後継社長あるいはCEOが、自分を選んでくれた前社長やCEOの意向を慮って、その路線を否定するような経営改革に踏み切ることを躊躇する懸念も生じかねません。

したがって、社長やCEOという個人に任せきってしまうのではなく、取締役会が後継者計画を監督し、後継者指名に至るプロセスの客観性と透明性を高めることは、企業価値の向上のために合目的的な人選が行われることを手続的に保障することにつながります。加えて、このようなプロセスを通じて行われた後継者指名の適正性について、ステークホルダーの信頼や納得感を高め、新たな経営トップのリーダーシップを支えることも期待できるといいます。

ž 後継者指名プロセスの客観性・透明性を確保するための方策としても指名委員会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与し、これを適切に監督することを検討すべきである。

優れた社長やCEOを選ぶことは取締役会の重要な役割です。また取締役会は後継者計画を監督する責務を負っています。しかし、その取締役会のメンバーをみると、社内取締役は、現社長やCEOの人事権に服するため、現社長やCEOの意向を避けることが難しくなってしまう。また、その社内取締役当人も潜在的な後継者候補であるために、後継者指名に関して利害関係を持っているという問題があります。そのため、多数の社内取締役によって構成される取締役会では、後継者計画や後継者の指名について、とくに大胆な経営改革を求められる時などは、実効的な議論を行うことは現実的に難しい場合も少なくありません。

そこで、改訂ガイドラインは現在の日本企業の多くにとって標準とすべき後継者計画の監督の方法として、取締役会の諮問機関として社外取締役中心の指名委員会を設置し、この指名委員会を後継者計画の策定や運用に関与させ、計画の監督を担わせる仕組みを提言しています。

指名委員会が後継者計画の監督を担う場合には、取締役会は重要事項について指名委員会から報告を受けることで、監督状況を把握し、それに基づいて計画の修正を検討や後継者の指名について指名委員会の意見を尊重することが望ましい。なお、ここで指名委員会という特定の機関の設置求めているのではなく、会社によっては諮問機関として報酬委員会をこれに充てることや、後継者計画に特化した委員会を特別に設置することなども考えられるとしています。

ž 後継者計画のプロセス全般にわたって指名委員会を関与させ、社内論理が優先されていないか、主観的・恣意的判断に陥っていないかなどをチェックさせることで、後継者指名プロセスの客観性と透明性を確保することを検討すべきである。

指名委員会に、具体的にどのような形で後継者計画について関与・監督スルコトが期待されるかについての提言です。ここでは、指名委員会の役割について二つの内容が提言されています。

まず、ひとつ目は指名委員会が後継者計画のプロセスに関与する期間や範囲等について、改訂ガイドラインは、現社長やCEOといった社内の経営者が選んだ最終候補者を最終局面で審議して追認するだけでは、指名委員会として十分な役割を果たしているとは言い難いとして、後継者計画にプロセスの初期から関与し、現社長やCEOたちに十分に説明責任を果たせるようにすることを求めています。

二つ目は、指名委員会が後継者計画について監督を行う際の着眼点として、提言では「社内論理が優先されていないか、主観的・恣意的判断に陥っていないかなど」として、このような観点からのチェック機能が社外取締役をメンバーとする指名委員会の役割として期待しているということです。社内の経営者から示された原案のネガティブチェックによる客観性の確保だけにとどまらず、多様な価値観や複眼的な思考を反映させることや、経営経験者の持つ経営者をみる眼を活用することなど、指名委員会における社外取締役等の知見を積極的に活用することを求めています。

ž 指名委員会は、社長・CEOら社内者意見を尊重しつつ、独立した立場から後継者計画の適切な監督に努めることを検討すべきである。ただし、適切な後継者計画の策定・運用を現社長・CEOら社内者に期待することができない例外的な場合においては、指名委員会が主体的・主導的に、現社長・CEOの交代の要否や時期を判断し、後継者指名に向けた後継者計画のプロセスを構築していくことも、その重要な責務として検討すべきである。

現社長やCEOといった経営陣は企業を取り巻く経営環境や後継者候補に関する情報をはじめとする社内の情報・事情を熟知しています。この人々が指名委員会の委員として議論に参加することで、後継者計画の策定・運用に対する指名委員会の関与や監督の実質強化につながります。他方、トップの交代や後継者の指名について利害関係を有することが課題です。改訂ガイドラインは、このような現経営陣が指名委員会の委員に加わることについて、メリットとリスクの両面を考慮して、その是非を検討する必要があるとしています。その上で、委員に加える場合においては、リスクを回避するために、例えば現社長やCEOの業績評価や再任の適否等について審議する場合などま議題によっては席を外させて、社外者のみが議論するといった運用上の配慮が求められるとしています。

委員会において、社内者と社外者は、最適な後継者指名という共通の目的に向けて、それぞれの立場から協力して後継者計画に取り組むことが基本です。最適なタイミングで最適な後継者に経営トップを交代することが後継者計画とその監督の目的です。したがって、社内者と社外者の具体的な関与のあり方や役割分担については、一律かつ固定的に考えるべきものではないとしています。むしろ、その企業の状況を踏まえて、基本的な委員会の目的を実現する観点から、社会者、社外者がそれぞれがどのような形で関与するかを検討することが必要です。ガイドラインでは、そのあり方として、社内者に適切な原案の作成を期待することが可能な通常の場合と、そむれが期待できない例外的な場合という二つの場合に大別して、役割分担のあり方を次のように整理しています。

a)通常の場合

現社長やCEOは、実際に企業の経営のトップに立つ者として、その企業を取り巻く経営環境や、後継者候補に関する情報をはじめとする社内の情報や事情を熟知していることから、彼らの意見はとても重要です。これに対して、必ずしも社内の情報に精通しているわけではない社外者が後継者計画の原案の作成や運用を主導することは、通常は容易ではないでしょう。

そのため、現社長やCEOへの信頼・信認が存続している通常の状況では、現社長やCEOが主導的に、後継者計画の立案、後継者候補の選出、育成計画の策定・実施や最終候補者・後継者の選定などについての原案を作成することが考えられます。

これに対して、社外取締役等の社外者は、指名委員会としての関与を通じて、現社長やCEOの社内者に原案の説明責任を果たさせて、独立した立場から、社内論理が優先されていないか、主観的・恣意的判断に陥っていないかをチェックすることにより、後継者指名プロセスの客観性と透明性を確保する役割を担うことができます。ただし、その社外者の委員には、時間・労力・覚悟などの面で相当のコミットメントが求められるとともに、後継者候補の選出・育成・評価・見極めという高度な経営判断を適切に監督できるだけの資質を備えていることも要求される。

b)現社長やCEOの交代時期の判断

現社長やCEOの交代の時期について、現社長やCEO自身が、自社や自身の状況、後継者候補の育成状況などを踏まえて、指名委員会等に対して提案を行うことは否定できない。

しかしながら、現社長やCEOは、その交代時期について直接の利害関係を有しています。そこで、取締役会や指名委員会・報酬委員会は、企業の基本的な経営戦略や経営計画と、それを実現するための現社長やCEOのミッションを現社長やCEOとの間であらかじめ明確化しておくとともに、定期的に現社長やCEOの業績評価を行い、その結果を踏まえて、必要な場合には社外取締役などの社外者の委員が主導的に現社長やCEOの交代を発議できるように備えておくことが望ましいとしています。

また、現社長やCEOの交代と次期社長やCEOの指名とは表裏の関係にあるため、適切な後継者が特定されていなければ、現経営者の交代を発議することはできません。そのためにも、日頃から社外者が後継者計画を適切に監督し、後継者候補の状況の把握やその育成の取組みに対する監督に努めておくことが求められます。

c)社外者により積極的な役割が求められる場合

例外的な場合として、現社長やCEOへの信頼が失われ、適切な後継者計画の策定・運用や指名に関する提案を現社長やCEOに期待することができない場合です。例えば、組織ぐるみの大規模な不祥事の発生、業績の著しい悪化等、現社長やCEOが不適任であることが判明した場合などです。

このような場合には、社外取締役等の社外者が主体的・主導的に、現社長やCEOの交代の要否や時期を判断し、指名委員会の招集や取締役会への発議等を含め、社長やCEOの交代と後継者指名に向けた後継者計画を進める必要があります。

 

 

 【補充原則4−1.B】

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである。

 

〔形式的説明〕

原則4−1は、取締役会に対して、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うことをもとめています。この経営理念や具体的な経営戦略を実現していくに当たって、最高経営責任者等の後継者の人選は最も重要な検討課題のひとつです。したがって、現職の最高経営責任者の一存に委ねることとしてしまい、取締役会としては一切関知しないというスタンスは、ガバナンスの見地からは望ましいとはいえない、という観点から、この補充原則で、取締役会に対して、「最高経営責任者の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行う」ことを求めています。後継者の計画(プランニング)を適切に監督するためには、形式よりも実質が重要であるとして、必ずしも計画書のような特定の文書を作成し、取締役会で承認してオーソライズするようなことまで求めてはいない、と説明されています。また、補充原則においては後継者の計画(プランニング)の内容について具体的に規定していません。そのため、この内容は、各上場企業が自社の状況を考慮して合理的に判断することになります。ここで、参考としてニューヨーク証券取引所は上場企業が策定するコーポレートガバナンス・ガイドラインの内容としてマネジメント・サクセッションの記載をもとめていて、その内容としては、CEOの選任・業績評価に関する方針・原則や、緊急事態またはCEOの退任時における後継に関する原則が挙げられています(NYSE上場規則303A.09)。また、詳細な後継者計画の事例として、日本取締役協会CEO委員会による「経営者後継のベストプラクティス」が参考にできるかもしれません。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

この補充原則では最高経営責任者といい、各上場企業で、該当する者を合理的に判断するといいながらも、実のところは、社長さんです。そして、実際のところ、日本企業の多くは、社長の後継者をどう育成し、最終的に誰を次期社長とするかは、社長の専権事項と考えられています。むしろ、社長の最も重要な仕事であると言われることもあります。それは、企業文化や経営の継続性といったことや、次期社長という人材の見極めは、その地位を経験し広い視野で全社的に見渡せる社長でないと選別できないというような理由からであると、考えられます。しかし、これには個人的な感情が加わる可能性が否定できません。時に、後継者に自分の息のかかった人物を指名して退任後も会長や相談役、あるいは顧問といった役職で隠然と権力を振るう保身に勤しむ、という極端な例ですが、そのようなことが往々にして行われる。海外の投資家や株主からは、日本企業は、たしかにそのように見られていることは否定できません。実際に、このようなケースでは社長がリスクをとって積極的な経営を推進することはありえません。それはつまり、取締役の保身が先に立ち、企業価値向上が後回しにされるという最悪の事態です。そのような最悪の事態を避けるために、最高経営責任者の後継者は、現職の権限の維持ではなく、企業価値向上にとって最適な人選を公明正大に行う仕組みを整えることが求められている、と深読みすると、そのようなところに行き着くと思います。

だからといって、現状の日本企業の後継者の育成や選定について否定しているわけではなく、絵画いょ含めた投資家や株主の理解を得るために、透明化。客観化という点で改善していくことで、適切な後継者を選定できるようにしていこう、という趣旨であると思います。

最適な人選を公明正大に行うためには、具体的にどのようなことを考えればいいのでしょうか。補充原則では、各上場企業が自身で判断しなさい、ということでした。それで、参考事例をみても、あまり具体的なことは開示されていません。そこで、少し調べてみて、簡単なモデルの指標のようなことを以下で考えてみたいと思います。

まず、次の3点をつくり、体制を整えます。

@サクセッション・プラン(後継者計画)の策定

サクセッション・プランの策定・実行において重要なのは次の点だそうです。

1)的確で精緻なプロセス…育成や選定の手続をキッチリと明確化(とくに機密保持、関係者の納得性、プロセスの監督)

2)後継者の要件を明確化

取締役の指名と経営責任者の指名の場合とでは、求められる要件が違う場合がある

どこの会社でもリーダーとして必要とされる普遍的な要件

その会社固有の条件、経営環境や業界環境、事業特性等から要請される要件

A指名諮問委員会などの社外取締役をまじえた後継者指名の方法の構築(原則4−10との関連)

役員選任について透明性・公平性を確保する手段として、取締役会が後継者計画を監督する手段の一つとして社外取締役をメンバーに含めた任意の諮問委員会の活用することが考えられる。

経営トップ自身が後継を決める場合、ある意味自己評価となってしまう点は避けられない。これに対して社内の取締役は、社内の上下関係(経営トップの部下ということ)そのたのことから十分な監督機能を果たすことが難しいケースもある。そこで社内の上下関係から独立した社外取締役の活用が考えられる。また、社外取締役であれば、社外の人材との比較も可能と考えられる。ただし、社外取締役が候補者の策定をゼロからできるわけではないので、諮問に答える程度が適していると考えられる。

※日本企業の実態として、社内の様々な人々の仕事ぶりや自分が社長になってからの経営の中で誰がどのような役割を果たし、どのように貢献してきたかを一番責任ある立場で見てきたのは現職の社長であり、その視点で後継者に相応しい人材を選び、だれに引き継いで欲しいかと思うことの重要な意味は、変わらない。上記の社外取締役の活用は、このプロセスを透明化・客観化するためのものと位置付けられる。

Bサクセッション・プランの実施状況のモニタリング

これらの仕組みが構築できれば、コーポレートガバナンス報告書や株主総会の招集通知、有価証券報告書などに任意記載して、ある程度公開していくことで、株主との建設的な対話の契機とすることができるでしょう。そして、何よりも長期的な将来の経営者の対する理解を深めることができることになるとおもいます。なお、この際に育成中の後継候補者の指名や育成状況の開示ではなく、方針や仕組みを開示の限定することは言うまでもありません。。

 

〔開示項目としての対処〕

補助原則4−1Bは、開示項目ではありませんが、最高経営責任者の後継者の計画について検討せざるをえないことから、すでに計画を策定している企業の事例が開示されていれば、大きな参考になるとも思われるので、少ないなから事例を紹介したいと思います。

・後継者計画に言及している─HOYA

HOYAコーポレートガバナンスガイドライン

X 取締役会

1. 取締役会は活発な審議ができるよう上限を10 名とし、半数以上を独立性の高い社外取締役で構成することを定款に定める。

2. 取締役会の構成ならびに規模については毎年、指名委員会で次年度の取締役候補の審議の際に合わせて検討する。

3. 取締役会の運営方法やリーダーシップについて取締役会で定期的にレビューを行う。

4. 取締役会での審議には案件に応じた十分な時間をかけるものとし、各取締役は必要に応じ、追加情報の提供や社員へのアクセスを担当執行役に要求する。

5. 社内からの執行役候補輩出のためのサクセッションプランを取締役会で定期的にモニタリング、評価する。

6. 社外取締役による監視機能を確実なものとするため、取締役会の他に社外取締役だけで意見交換を行う場を設置するものとする。

・社長指名諮問委員会を設置し、次期の社長人事、緊急事態が生じた場合の継承プラン等を議論する場としている─オムロン

コーポレートガバナンス体制

取締役会 経営目標・経営戦略などの重要な事項を決定するとともに、執行を監視する。

監査役会 コーポレート・ガバナンスの体制と運営状況を監視し、取締役を含めた経営の日常的活動を監視する。

人事諮問委員会 社外取締役を委員長とし、取締役、執行役員の選考基準の策定、候補者の選定、現職の評価を行う。

社長指名諮問委員会 社外取締役を委員長とし、社長の選定に特化して次期の社長人事、緊急事態が生じた場合の継承プランなどを議論する。

報酬諮問委員会 社外取締役を委員長とし、取締役、執行役員の報酬体系の策定、評価基準の選定、現職の評価を行う。コーポレート・ガバナンス委員会 社外取締役を委員長とし、コーポレート・ガバナンスの継続的な充実と、経営の公正性・透明性を高めるための施策について議論する。

執行会議 社長の権限の範囲内で、重要な業務執行案件の審議・決定を行う

・比較的詳細な説明を行なっている─りそなホールディングス

りそなのサクセッションプランについて

当社では、持続的な企業価値向上を図るべく、当社及びグループ銀行の経営トップの役割と責任を継承するメカニズムとして20076月にサクセッション・プランを導入し、役員の選抜・育成プロセスの透明性を確保しております。

当社のサクセッション・プランは当社及びグループ銀行の「次世代トップ候補者」から「新任役員候補者」までを対象とし、対象者を階層ごとに分類した上で選抜・育成プログラムを計画的に実施しております。各々の選抜・育成プログラムは外部コンサルタントから様々な助言を得ることで客観性を確保しており、それらの評価内容は全て指名委員会に報告される仕組みとなっております。また、指名委員の活動としては評価内容等の報告を受けることに留まらず、個々のプログラムに実際に参加することなどを通じ、各役員と直接接点を持つことでより多面的に人物の見極めを行っております。さらに、それらの指名委員会の活動状況は社外取締役が過半数を占める取締役会に報告され多様な観点で議論されており、そうした全体のプロセスを通じ役員の能力・資質の把握と全体の底上げが極めて高い透明性のもとで図られております。

なお、当社では「役員に求められる人材像」として7つのコンピテンシーを定めております。指名委員会や役員が「求められる人材像」を具体的に共有することで、評価・育成指標を明確化させるとともに中立的な育成・選抜に努めております。

     


関連するコード        *       

原則1−3.

原則3−1.

補充原則4−1.@

補充原則4−1.A

原則4−2

補充原則4−2.@

原則4−3.

補充原則4−3.@

補充原則4−3.A

原則4−4.

原則4−5.

原則4−6.

原則4−7.

原則4−8.

補充原則4−8.@

補充原則4−8.A

原則4−9.

原則4−10.

原則4−11.

補充原則4−11.@

補充原則4−11.A

補充原則4−11.B

原則4−12.

原則4−13.

原則4−14.

 
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