資本政策の基本方針の試み
実例からは乖離しているようですが、コードの趣旨により沿うように、資本政策の基本方針のサンプルを個人的に作成してみました。この前段階には経営の基本方針が必要です。
(1)従来の資本政策のあり方
当社グループは1950年の会社設立以来、製造業向けに計測・制御機器を提供することで産業界に貢献し、事業を成長させてきました。当社グループの機器は製鉄所をはじめとして様々な工場の生産ラインで稼動し、日本の工業製品の高い品質を支える一翼を担っているものと自負しております。もし、何らかの事故などにより当社の製品やサービスの供給がストップした場合には、各地の工場の稼動に関して大きな影響を受ける懸念があり、当社グループにとって、経営の安定はユーザーのニーズであり、当社グループの強みである顧客の信頼の大きな基盤となっているものです。
このような当社グループの業態の要請から、安定した経営基盤を確保した上で、持続的な成長に努めていくことが当社グループの基本的な経営姿勢となっております。
資本政策に関しても、このような経営姿勢の一環として位置づけております。それは、収益性を向上させ、効率を上げることにより資産回転率を改善することにより資本効率を改善して、株主価値を高めていくというものです。とくに、当社で力を入れるのは、総資産に対する売上高の比率を高くしていくことです。これにより資本回転率が向上するだけでなく、派生して収益性も高まることになって、最終的にROEの改善に結実するからです。さらに、IRの推進と配当政策等の株主還元を総合的に進めることによって、少なくとも株主資本コストを上回るように、株主価値を持続的に向上させて、ついには最大化を目指していくものであります。
当社グループは、これまで、堅実な財務政策と企業努力の積み重ねにより、内部留保を厚くし、自己資本比率を高い水準で維持してきました。(下のグラフは最近5年間の自己資本比率の推移を示しています。)その主な理由(メリット)として、次の3点が上げられます。
@受注から売上までのリードタイムが半年〜数年と長期間で、売上を現金として回収するには更に期間を要し、その間の仕入れの負担のような安定した事業運営には、現金の備えを手厚くする必要があったこと。
A当社はもともとユーザーが資本を出し合って設立された会社で、B to
Bの事業形態をとっているため、事業を拡大するための戦略の一環として資本政策を機動的に行ってきたことから、保有している投資有価証券が多くなっていること。
B安定した財務基盤をベースに長期的な視野にたった研究開発や事業展開ができることで、他社が入ることのできないような開拓の困難な市場にフロンティアとして入ることを可能にしていること。
C外注や仕入先への支払を現金払いとすることにより、業者の経営の安定と信頼関係の強化を図り、協同で技術開発やコスト削減を進めるなど、質の高い協力体制をかためることができていること。
しかし、ここ数年当社グループの事業規模の拡大は進まず、売上高等の業績は横ばいもしくは減少の傾向が続き、ROEに代表される資本効率は低迷しています。
(2)今後のビジョンに向けての新たなあり方
前項の(2)未来のところで述べた将来の当社のビジョンをめざし、説明した事業戦略の一環として、資本政策においても、基本的には従来の方針を継続しつつも、事業戦略上の迅速な意思決定による技術開発や新たな事業への進出に機動的に対応するため、これまで財務基盤の安定性のメリットを活かすことを主目的としていた内部留保を、中長期の投資に積極的に振り向けてまいります。それだけでなく、当社グループを取り巻く環境変化のスピードやグローバル化への対応について、これまで以上に真摯に取り組むことは避けられないとして、M&Aをはじめとした大胆な戦略的行為にも積極的になるための資金として、内部留保を振り向けていくという方向性に転換してまいります。これに伴って、最適資本構成に変化が表われてくることになると思われますが、安定性を維持するために自己資本比率を指標として一定基準を保ちながらも、積極的姿勢に沿った最適資本構成を模索してまいります。
また、資本コストの面では、これらの点に加えて、株主に対する情報発信を質量ともに充実させていくことで、株主のエージェンシー・リスクの軽減を図って、ROE等の数字に表われない面も重視してまいります。
(3)利益還元について
当社の経営理念である「技術と信頼」は顧客との長期的な信頼関係を事業戦略の基盤としていることや、技術や製品も、そのようなせいかくのものであることから、株主との関係も長期的な信頼関係の構築を望んでおり、したがって利益還元についても、短期的リターンよりも中長期のスパンで投資の期待値に応え体期待と考えております。当社の事業の特徴として、毎期、コツコツと利益を継続して積み上げていく傾向にも即して、配当で毎期、利益還元を続け、長期のトータルでの成果に結実していくために、配当性向を重視しています。
(4)政策保有株式(原則1−4)
当社は、純投資目的以外の目的の、いわゆる政策保有株式を保有しております。これは、「技術と信頼」の経営方針の一環として、具体的には、顧客である製造メーカーの生産設備という、時には企業の強みにかかわる秘密に触れる分野を取り扱うために信頼関係を構築するために不可欠の手段として、また、資本政策の基本方針にある安定的な財務基盤として、戦略的に進めてきました。
また、保有している株式の議決権行使については、提案された議案が発行企業の価値毀損につながるものであると判断した場合、その企業を取り巻く状況及びと社とのパートナーシップへの影響を勘案した上で賛否について決定し、議決権を行使します。
(5)株主のエージェンシー・リスクへの配慮(原則1−1、1−2、1−5、1−6)
当社では、株主の権利や平等性の保障については、エージェンシー・リスクの軽減に結びつくこともなることから、資本コストとしても位置付けています。具体的には、現在の当社の株主に長期保有を期待することから、株主構成や株主の意向の方向性に配慮を怠りません。例えば、株主総会においてより多くの株主の参加を可能にするために開催日を集中日から外しながらも、総会を自主的で真摯な場とするために会場を敢えて自社会場に移し、その株主総会の決議における反対票の動向を検証しています。これは、現在の株主を最優先で考えており、例えば、外国人株主の保有比率はきわめて低いことから、将来増えるかもしれない外国人株主にかける配慮は、現在の株主に向けています。そのため、主に外国人株主に対する配慮の一環であろう英文の招集通知、議決権行使プラットフォーム等の電子投票制度の導入、招集通知の早期発送は実施していません。ただし、これは現時点のことであり、外国人株主が増えた場合には、相応の配慮をすることとしています。同様の理由で、敵対的買収に対するいわゆる買収防衛策を導入しておりませんし、株式価値の大幅な希釈を伴うような資本政策上の施策を行うことは考えておりません。 |