補充原則4−1.A
 

 

 【補充原則4−1.A】

取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未遂に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。

 

〔形式的説明〕

原則4−1は、取締役会に対して、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うことをもとめています。この具体的な経営戦略や経営計画等として、日本の上場企業の多くが中期経営計画を策定・公表しています。このような中期経営計画については、中長期的な視点で対話を行なうための資料としては有用という人もいます。中長期の投資をする人は必ず中長期の業績予想を作成するので、上場会社が自ら中期計画を策定し開示することは、株主として対話をする際には、たいへん有用だということになります。この中期計画では、とくに海外の機関投資家は、細かな数値を複数開示することよりも、目標として設定した重要な数値をコミットメントと捉え、それに向かって確実に計画をすすめていくことが重要なのです。ところが、日本の上場企業の多くは、中期計画最終年度の目標数値を示しながら、経済変動などによって未達に終わってしまうということを繰り返してきました。それで、信頼を失ってきたわけです。計画実行力への信頼性が低くなっているのです。そもそも、未達を繰り返す計画なんてナンセンスです。また、コミットメントが難しい目標数値の達成を安易にコミットするという経営陣の姿勢自体が無責任に映ることになってしまうのです。

そこで、この補充原則では取締役会・経営陣幹部に対して、(@)「中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行なう」ことと、(A)「仮に、中期経営計画が目標未遂に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行なうとともに、その分析を次期以降の計画に反映させる」ことを求めています。もっとも中期計画を策定しないという経営方針や経営判断もあり得るので、そういった上場会社には、この補助原則が最初から適用されず、この場合はエクスプレインをする必要がありません。また、ここでの「中期経営計画」に明確な定義がありませんが、そのような名称の計画が作られていない上場企業でも、実質的内容が中期または長期の事業戦略や経営施策についてのものであれば、ここでいう「中期経営計画」とみなされることになります。

では、どうすればいいのか。この補充原則で求められているのは上記の二つの項目で、(@)の中期経営計画の実現に向けて最善の努力を行うということは、経営として当然のこと(とは言っても、そのように株主や投資家からは見られていないから、このようなコーポレートガバナンス・コードが作られているわけですが)で、会社として努力するしかない。そして、ここで考えなければならないのは(A)の計画が未達の場合の原因分析と株主への説明です。実際に株主への説明というのを、どこで、どのように行うのか、です。建設的な株主との対話として、機関投資家の株主とのミーティングの場で説明する、というのは、このコードで想定されているのでしょう。ただし、それだけでいいのか、経営者とミーティングできない個人株主や議決権比率の低い株主には説明しなくてもいいのか、ということです。そのような株主に説明するということになれば、その場として考えられるのは株主総会です。会社法では、株主に対する会社の報告すべき事項は事業年度の経過と成果です。そこには中期計画やそれが未達であった場合の原因は含まれていません。したがって、株主総会で説明をするのであれば、法定の報告事項にプラスした任意の報告ということになります。そういうことになれば、株主総会の招集通知、とくに事業報告の記載事項、あるいは記載方法を、相応な内容にしていかなければなりません。そして、株主総会での説明シナリオや、そのような説明が行なわれれば、その説明に関連した質問が出席株主から発せられる可能性が生じることになりますから、想定質問を新たに考えなければなりません。つまり、株主総会の運営や書類を大幅に見直さなくてはならなくなります。さらに、中期経営計画について未達の原因を説明することになれば、その中期経営計画についても株主に説明しなければならないでしょう。また、未達になって突然、その説明をするというのは唐突で、それを聞いた株主からは、そうなる前に、経過状況の説明がなかったのかと、問われることになるでしょう。また、未達の時には説明して、達成した時には説明しないというのであれば、片手落ちです。そう考えると、中期経営計画について、その経過状況、そして結果についてその原因を含めて説明をすることになってくると思います。

つまり、中期経営計画の実現に向けて努力することについて、株主総会において報告するということで、取締役会や経営陣に対しての大きな牽制という機能が、ここで言外に内容とされていると考えられているのではないでしょうか。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

形式的な側面として、中期経営計画についての株主の説明をどうするのか、ということを考えてきました。そこで、今度は、その説明の内容について考えてみたいと思います。実際、多くの上場企業では、中期経営計画の内容はもとより、計画未達の場合も、その要因分析を行い、適切な対策を打ち出していると思います。しかし、株主は、必ずしも要因分析と対策立案が十分であるとは捉えていないのではないでしょうか。十分と捉えているのであれば、そもそも、このようなコーポレートガバナンス・コードが導入されることはなかったはずです。

では、どのように見られているのかを想定しながら、考えて行きたいと思います。例えば、確実に達成できる数値を保守的に目標としてしているケースは、中期計画を策定する意味がないし、中長期の成長とか企業価値の向上ということが考えられていないということです。そういう基本的なことを踏まえていれば、現在の業績数字を引き延ばしただけ計画や、社内のチャレンジ目標に過ぎないような計画数値を設定するといったもので、はたして企業の成長のためなのだろうか、という疑問が起こります。さらに、経済、景気変動の前提次第で業績数値は大きく変動することから、中期経営計画の最終年度といった特定の一時点での業績数値をコミットすることが、はたして適切なのでしょうか。欧米の企業では特定の時点の数字をコミットするのではなく、達成期限を切らず、経済変動などの外部要因によらない自助努力によって達成可能なやや大まかな目標数値を発表している例も多く見受けられます。

また、中期計画というと、日本の上場企業の多くは3年計画くらいのスパンを設定します。しかし、実際に長期投資家り観点でアナリストが株価を評価する際には、今年、来年のEPSと長期のEPS成長率を算出します。企業を評価する時に、長期成長率の想定が不可欠だからだと言います。この場合、長期を3年とすると今年、来年のEPSを見ているので、長期成長率をみようとすると近すぎます。そのため、5年程度の中期計画へのニーズが高いと言えます。この場合、アナリストに長期成長率を問われて、即答できる中期計画はどの程度あるのでしょうか。現在の業績数字を引き延ばしたとか、セグメントの見込みを積み上げ、それをまとめて追加目標を上乗せした目標値とした中期計画を策定しているようでは、答えることは難しいと考えられます。

どのような形で中期目標を設定し、中期経営計画を策定すべきなのかは、各上場企業の置かれた環境や条件、企業の側に則していえば業種や事業特性などによって異なってきます。海外企業は努力の結果として達成することが可能な経営目標を設定することによって、外部環境の影響に依存した説明ではなく、その中でどのような経営努力を行ったのかがより明確に示すことによって、株主や投資家、その他のステークホルダーとま信頼感の醸成につなげる傾向が強いといいます。この場合、コミットすべきは一時店の数字ではなく、そのとき、会社がどのような状態になっているのかというマイルストーンであるという考え方です。

例えば、3ヶ年の中期経営計画で区切られて、その計画ごとにポリシーがコロコロ変わってしまうと、長期的には、どのような方向に行こうとしているのかが見えません。それゆえ、中期経営計画よりもっと長い、あるいは大きなビジョンがあって「こういう会社になっていたい」という認識が、企業と株主との間に共有されるように呈示することを重要としていると考えられます。そのビジョンに対して、今の現実はこのような姿で、どのような課題があり、その課題を解決をするために中期的に取り組む方策として中期経営計画があるということです。その中期経営計画のひと区切りが過ぎたときには、その計画の反省をしながら、大きなビジョンのもとに次の課題のステップに上がるか、未達成であれば、継続して課題に取り組む。そのような構造になっていると言えます。中期経営計画というよりは、ポリシーに近いものかもしれません。「当社はこのようなビジネスモデルを貫き、ROE20%前後を維持するとか、利益成長率20%のために適宜事業ポートフォリオを入れ替える」といったような目指していく基準のようなものが示されているようです。多くの日本企業の中期経営計画のような起点がいつで終点が確定しているといったことではなく、変化率なり効率なり、それが自社のビジネスモデルが目指すところだというベンチマークのようなものとして数値があります。その数値を上回る時もあれば、下回るときもあるけれど、長期的にはビジョンに向かう軌道上にあるものとして開示、公開している欧米の企業は多いといいます。

 

〔Explainの開示事例〕

日本管財

中期経営計画については、毎期の目標達成に邁進することが株主の皆様の期待に応える最大の結果を生み出すという観点から、策定・開示はしておりません。近年は大規模なM&Aの実施等により各期において計画値と最終値の大幅な乖離が生じることも多いため、業績への影響が予想されるトピック等の各種情報を当社ホームページ等で適宜開示しております。

成長戦略の指標としての具体的な中期経営計画の策定や適切に開示するための方策・時期については今後の課題であると考えております。

     


関連するコード        *       

原則1−3.

原則3−1.

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補充原則4−11.@

補充原則4−11.A

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原則4−12.

原則4−13.

原則4−14.

 
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