原則4−9.
【独立社外取締役の
独立性判断基準及び資質】
 

 

 【原則4−9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】

独立社外取締役は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するように努めるべきである。

 

〔形式的説明〕

@「独立性判断基準」について

社外取締役は、そもそも独立した立場から経営に意見を反映させることが期待されているため、会社法において、社外取締役であるための要件が次のように定められています(会社法2条15号)。

@)現在も含め就任前10年内に,当該会社,子会社の業務執行取締役、執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」といいます)に就任したことがないこと。

A)前号に該当するとしても、就任前10年内に当該会社,子会社の取締役、会計参与又は監査役に就任したことがある場合には、その職に就任する前10年間に当該会社,子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。

B)当該会社の自然人たる支配株主、又は親会社の取締役、執行役、支配人その他の使用人でないこと。

C)当該会社のグループ内兄弟会社の業務執行取締役等でないこと。

D)当該会社の取締役、執行役、支配人その他の重要な使用人、又は自然人たる支配株主の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

これに対して、東京証券取引所においては、経営陣と一般株主との利益相反問題に関し、一般株主保護の観点から、経営陣から独立した役員を確保することを目的として、独立役員(社外取締役・社外監査役)の確保に係る企業行動規範が導入されています。独立役員は、上記会社法上の要件とはべつに、次のような独立役員の基準を作成しています。

1)当該会社の親会社又は兄弟会社の業務執行者

2)当該会社を主要な取引先とする者・その業務執行者,又は当該会社の主要な取引先・その業務執行者

3)当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント,会計専門家又は法律専門家

4)最近において1)から3)までに該当していた者

5)次の(a)から(c)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者

(a)1)から4)までに掲げる者

(b)当該会社又はその子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与を含む。)

(c)最近において前(b)に該当していた者

この原則は、上記の取引所の独立性基準を最低限の基準であるとして、@最低限としての基準(ミニマム・スタンダード)に抵触しないというだけで足りるかを実質的に判断することが望ましいという考え方、及びA取引所が定める独立性基準のうち抽象的で解釈に幅のある点について、各上場企業が自社の個別事情を踏まえて適切に当てはめていくのは有益であるという考え方に基づいて、各上場企業に対して、独立性の有無についての実質的な判断のために自社に最適な独立性判断基準の策定を求めるとしています。

その際に、自社に最適の基準を考えた結果、取引所の定める独立性基準と同じ基準になった場合は、それはそれでコンプラインとなるという見解だそうです。

また、Aの考え方に従えば、取引所の定める基準の中には抽象的で幅広い解釈ができてしまうものがあります。例えば、「主要な取引先」という「主要」については曖昧になっています。これをより具体的・明確にしていくことが望ましいケースもあります。

そして、この基準を策定して開示されることによって、市場との対話が始まり、そのプロセスを通じてより合理的な判断基準を互いに見出していくことが、この原則では期待されています。

A独立社外取締役の資質

独立社外取締役は、独立性を有することに加え、独立社外取締役に期待される役割・責務を果たせるだけの資質を兼ね備えていることが求められています。こうした資質については、第2文で記されている。具体的にどのような人物が独立社外取締役に就任すれば、取締役会全体としての率直・活発で建設的な検討につながり得るか、について、各上場会社の取締役会の状況も踏まえた考慮が必要であろうが、いずれにせよ、社内の論理を慮ってこれに追随することに終始したり、その逆に、いわば指摘のための指摘や反対のための反対を重ねたりする人物がこれに当てはまるとは考え難い。そこで、各企業では独立取締役の候補者選定の差異には、当人の資質をよく見極めることを、この原則では求められています。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@経営上の必要性、有益性

独立社外取締役といい、独立性を確保するといいますが、そもそも何のために、独立社外取締役が必要かといえば、企業価値向上に有益だからということになるでしょう。だからといって、単に独立性の確保できた人物が社外取締役として選定されたからと言って、企業にとって有益であるとは限りません。

むしろ、ある意味では社外取締役が企業にとって有益である分野は限定されるといっていいかもしれません。要は、企業が経営理念や中長期の経営方針を貫くプロセスにおいて、その実践をチェックしたり補完することを期待されているのが独立社外取締役といえます。したがって、この原則でいうならば独立性の判断基準よりも、むしろ独立社外取締役の資質こそが重要であって、その資質を企業に活かすために独立性が明確にされているという順番ではないか、と考えられます。その前提として、企業が経営理念を貫徹していくだめに適した経営体制がどのようなもので、その一環として独立社外取締役に期待される機能が具体的にどのようなもので、そのために独立取締役にどのような資質が必要であるか、それが明らかであることが大きな前提にあって、はじめて、ここで求められている判断基準が活かされることになると考えられます。

そして、機関投資家の側でも、形式的な独立性基準なんぞよりも、ここで説明した経営の体制の説明を受ける方が、どれだけ有益かということは、分かると思います。

A独立性判断基準の策定と開示

原則4−9は、開示項目として東証のコーポレートガバナンス報告書において開示しなければならないものとされています。そこで開示を求められているのは、「独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準」です。ここで、原則では「金融商品取引所の定める独立性基準を踏まえ」とかかれているので、各社で独立性規準を策定し開示するとしても、金融所品取引所の定めに則ったものでなければならないということになります。実際には、金融商品取引所の定めにある要件を、より明確化・具体化させたり、金融商品取引所の定めにはない要件を追加して厳しい規準としたりする態様があります。そこで、この分類に従って、各社の開示から独立性判断基準のパターンを見ていきたいと思います。

@金融商品取引所の定める独立性基準に掲げられている要件を明確化・具体化した例

(@)主要な取引先

「主要な取引先」について数値規準(大半が連結売上高の2%以上)を記載

─オムロン、オリンパス、コニカミノルタ、住友商事、第一生命、ニッセンホールディングス、三菱商事

・「主要な取引先」とは、過去5年間のいずれの会計年度において、当社グループとの業務・取引の対価の支払額または受取額が、取引先の売上高の2%以上または当社グループの売上高の2%以上である企業等をいう。(エーザイ)

<取引先>当社及び中核子会社の当該取引先(取引先、その親会社、重要な子会社)への支払額が、当該取引先の過去3事業年度の平均年間連結売上高の2%未満であること。当該取引先(取引先、その親会社、重要な子会社)なゆる当社及びその子会社への粗利益が、当社の連結業務粗利益の2%未満であること(三井住友トラストホールディングス)

(A)当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家

「当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家」に関して数値基準(大半が年間1,000万円)を記載

─エーザイ、コニカミノルタ、住友商事、ニッセンホールディングス、三菱商事、三井住友トラストホールディングス

・直近3会計年度において、当社から役員報酬等以外に平均して年1,000万円以上の金銭その他財産上の利益を得ているコンサルタント、会計専門家もしくは法律専門家(第一生命)

多額の金銭とは、過去3事業年度の平均で、個人の場合は年間1,000万円以上、団体の場合は当該団体の連結売上高の2%を超えることをいう。(オムロン)

・過去10年間のいずれかの会計年度において、当社及び当社の関係会社(以下、併せて「当社グループ」)から1千万円超の報酬(当社からの役員報酬を除く)またはその他の財産を直接受け取っていないこと。本人がコンサルタント、会計専門家または法律家の場合は、本人が所属する団体への当社グループからの報酬等支払額が1千万円超でないこと。(オリンパス)

(B)その近親者であっても独立性が否定されない「重要でない者」

「近親者」に関して数値基準(大半が2親等以内)を記載

─エーザイ、コニカミノルタ、住友商事、第一生命、三菱商事、三井住友トラストホールディングス

・近親者等とは、配偶者及び二親等内の親族をいう。(ニッセンホールディングス)

・金融商品取引所の独立性基準で独立性が否定される者の中の「重要でない者」の判断基準を記載

重要な使用人とは、事業本部長職以上の者をいう。(オムロン)

A金融商品取引所の独立役員届出書の属性情報の記載事項に関連した要件

(@)多額の寄付

独立役員届出書の属性情報として記載が求められている「寄付」に関連して、多額の寄付を受けている者又は多額の寄付を受けている団体の業務執行者でないことを独立性判断基準としている。大半は数値基準として年間1,000万円以上を多額の寄付としている。

─エーザイ、オムロン、第一生命、ニッセンホールディングス、三菱商事、三井住友トラストホールディングス

・当社から年間1,000万円を超える寄附を受けている者(ただし、当該寄附を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当社から得ている財産が年間収入の2%を超える団体の業務執行者である者)(住友商事)

(A)大株主・主要株主の関係者

独立役員届出書の属性情報として記載が求められている「主要株主」に関連して、多数の議決権を有する者又は多数の議決権を有する企業等の業務執行者でないことを独立性判断基準としている。大半は数値基準として総議決権数の10%以上を保有する株主を「主要株主」としている。

─エーザイ、オムロン、オリンパス、ニッセンホールディングス、三菱商事、三井住友トラストホールディングス

・当社の大株主(直近の事業年度末における議決権保有比率が総議決権の10%以上を保有する者)又はその業務執行者である者(住友商事)

・当社の最新の株主名簿の10位以内の大株主、または大株主である団体に既に所属している者(第一生命)

(B)役員の相互派遣・相互就任

独立役員届出書の属性情報として記載が求められている「社外役員の相互就任」に関連して、役員の相互派遣・相互就任を要件としている。─オムロン、オリンパス

・当社グループとの間で、役員等が相互就任の関係にある企業等の役員及び使用人(エーザイ)

Bその他

(@)会計監査人の関係者

会計監査人である監査法人や法定監査を行う監査法人に属する者でないことを要件としている。

─オムロン、オリンパス、住友商事、三菱商事、三井住友トラストホールディングス

・当社グループの法定監査を行う監査法人に所属していないこと。(オリンパス)

・過去5年間のいずれの事業年度において、当社グループの会計監査人の代表社員、社員、パートナーまたは従業員であったことがないこと。(オムロン)

(A)主要な借入先

「主要な取引先」はべつにメインバンク等の主要な借入先を要件としている。この「主要な借入先」については、借入残高が連結総資産の2%以上となる金融機関を「主要な借入先」としている企業が多い。─住友商事、三菱商事、ニッセンホールディングス、

・当社の主要借入先(直近の事業年度にかかる事業報告において主要な借入先として氏名又は名称が記載されている借入先)又はその業務執行者である者(住友商事)

・主要な借入先とは、当社グループが借入を行っている金融機関であって、その借入金残高が当社事業年度末において当社の連結総資産又は当該金融機関の連結総資産の3%を超える金融機関をいう。(ニッセンホールディングス)

(B)通算の社外取締役在任期間

・当社の社外役員としての任期が8年を超える者(三菱商事)

(C)競合先企業の関係者

・当社グループの競合企業の取締役・執行役・監査役・その他同等の職位者の場合、または競合企業の株式を3%以上保有している場合(コニカミノルタ)

(D)主幹事証券の関係者

・当社の主幹事証券会社の業務執行者である者、又は過去3年間において業務執行者であった者(三井住友トラストホールディングス)

 

 〔参考資料〕 東京証券取引所による独立性判断基準(上場管理ガイドラインより)

   当該会社を主要な取引先とする者若しくはその業務執行者又は当該会社の主要な取引先若しくはその業務執行者

   当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者をいう。)

   最近において次の(a)から(c)までのいずれかに該当していた者

(a) a又はbに掲げる者

(b)  当該会社の親会社の業務執行者(業務執行者でない取締役を含み、社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、監査役を含む。)

(c)  当該会社の兄弟会社の業務執行者

   次の(a)から(f)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者

(a)  aから前cまでに掲げる者

(b)  当該会社の会計参与(社外監査役を独立役員として指定する場合に限る。当該会計参与が法人である場合は、その職務を行うべき社員を含む。以下同じ。)

(c)  当該会社の子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与を含む。)

(d)  当該会社の親会社の業務執行者(業務執行者でない取締役を含み、社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、監査役を含む。)

(e)  当該会社の兄弟会社の業務執行者

(f)  最近において(b)、(c)又は当該会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役)に該当していた者

 

〔開示事例〕

亀田製菓

当社は、経営の意思決定における客観性を高め、経営の健全化と透明性のより一層の向上を図るため、当社における社外取締役及び社外監査役を独立役員として認定する独立性基準を明らかにすることを目的として、当社取締役会の承認により、当社の社外役員の独立性に関する基準を定めております。

さらに、取締役会では、次の当基準に基づき、率直で活発、建設的な検討への貢献が期待できる独立社外取締役の候補者を選定することとしております。

(社外役員の独立性に関する基準)

1.当社及び関係会社と重大な利害関係がない者

2.以下の(1)〜(10)に掲げる者のいずれにも該当しない場合は、当グループと重大な利害関係のない独立取締役・独立監査役であるとみなす。

  (1) 当社又はその子会社の業務執行者

  (2) 当社又はその子会社を主要な取引先とする者又はその業務執行者

(a) 当社又はその子会社に対して製品又はサービスを提供している取引先で、直前事業年度における当社及びその子会社への当該取引先の取引額が、相互の連結売上高の2%以上の場合

(b) 当社又はその子会社が負債を負っている取引先で、直前事業年度末における当社及びその子会社の当該取引先への全負債額が、相互の連結総資産の2%以上の場合

(3) 当社又はその子会社の主要な取引先又はその業務執行者

(a) 当社又はその子会社が製品又はサービスを提供している取引先で、直前事業年度における当社及びその子会社の当該取引先への取引額が、相互の連結売上高の2%以上の場合

(b) 当社又はその子会社に対して負債を負っている取引先で、直前事業年度末における当社及びその子会社への当該取引先の全負債額が、相互の連結総資産の2%以上の場合

   (c) 当社又はその子会社のメインバンク又はその業務執行者

(4) 当社又はその子会社が大口出資者(議決権の10%以上の議決権を直接又は間接的に保有している者)となっている者の業務執行者

(5) 当社又その子会社から多額の寄付を受けている者又はその業務執行者

当社又はその子会社から、直前事業年度において年間1,000万円又は当該組織の売上高若しくは総収入金額の2%のいずれか高い方の額を超える寄付を受けている場合

(6) 当社又はその子会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者をいう。)

(7) 過去5年間において、上記(2)〜(6)まで該当していた者

(8) 上記(1)〜(6)に掲げる者の二親等内の親族又は同居の親族

(9) 当社の主要株主(議決権の10%以上の議決権を直接又は間接的に保有している者)又はその業務執行者

当社主要株主が法人である場合、過去5年間において業務執行者であった者も含む

10)当社及びその子会社と「社外役員の相互就任」の関係を有する者

(注)上記(1)〜(4)までの「業務執行者」においては「重要な業務執行者」、(5)に所属する者においては「重要な業務執行者」及びその団体が監査法人や法律事務所等の会計や法律の専門家団体の場合は、公認会計士、弁護士等の専門的な資格を有する者に限る。

 

資生堂

当社では、2012年に社外役員の独立性に関する判断基準を策定し、株主総会招集通知等にこれを記載して開示しています。具体的な内容は、当社の第115回定時株主総会招集ご通知(38ページ〜40ページ)または本報告書の「経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の1.機関構成・組織運営等に係る事項のうちの【独立役員関係】に記載の通りです。

http://www.shiseidogroup.jp/ir/account/shareholder/2015/pdf/shm_0000.pdf

 

新生銀行

当行は、社外取締役の独立性については、 東京証券取引所が示す独立性判断基準等を考慮して判断しています。

また、社外取締役の選任にあたっては、取締役会及び社外取締役による会合における十分な議論を通じて取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を候補者として選定しています。

 

〔Explainの開示事例〕

スタートトゥディ

当社は、会社法及び東京証券取引所が定める基準をもとに、取締役会で審議検討することで独立社外取締役の候補者を選定しております。

今後は当社独自の独立性判断基準を策定することも検討してまいります。

 


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