補充原則4−2.@ |
取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬の割合を適切に設定すべきである。 参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます。
取締役会は、経営陣の報酬
〔変更された点〕 @取締役会は、 些細な点かもしれませんが、従来の原則に比べて主語を明確にしています。つまり、取締役会が主体的に経営陣の報酬の体制をつくるということを求めているということです。これは、取締役の報酬を実質的に決定するのが取締役会の権限となっているからです。経営陣の報酬について、それを決めるところが主体的に改善を進めなければ動かないということを明らかにしているわけです。 A経営陣の報酬 これも、些細なテニヲハの訂正に見えますが、従来の原則が報酬をインセンティブのひとつとして表わしていたということはインセンティブがいくつかあって、報酬はそのうちのひとつとして考えられていたということになります。しかし、実際のところ経営陣にとってインセンティブとは報酬のほかに何があるでしょうか。ということから、従来の原則は、そこで曖昧にお茶を濁してしまった。それを今回の改訂で明確にしたと言えます。さらに、報酬をインセンティブとして積極的に位置付け、それゆえに報酬制度や決定方法などを考えて、より活用できる、つまりいっそう経営陣のやる気を高めるものとすることを求めていると考えられます。 B客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬の割合を適切に設定すべきである。 この赤字のフレーズを挿入したことによって、インセンティブとして機能する報酬制度を設計して、運用するとということが明確に求められました。そうでない場合は本原則についてはコンプライできないことになるわけです。これに対して従来の原則の文面では、それを明言していなかったので、報酬制度のなかで、報酬の中での中長期の業績連動報酬の割合や現金報酬と株式報酬の割合の設定を考えるということ求める文面だったので、あいまいなところでコンプライできる余地があったて言えます。今回の改訂では、その余地をなくしたわけです。 これはコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の議論のなかで、各企業は報酬制度について開示するようになってきているが、実際に経営陣が受け取っている報酬額がそのが開示されたとおりの方針で決められたものなのか疑義の意見が少なくなかったことによるものです。報酬制度として方針や開示がされていますが、実務においては取締役会から代表取締役に個々の取締役の報酬額の決定についての一任決議があって、代表取締役の一存で報酬が決まる。それについて、任意の諮問委員会があっても異議を差し挟むことなく承認されてしまう。その弊害を懸念して、本原則の改訂を提言したと言えなくないと思われます。 金融庁はコーポレートガバナンス・コード改訂にいてのパブコメの回答で次のように言っています。“補充原則4−2@は、経営陣による上場会社の持続的な成長に向けた健全な企業家精神の発揮に資するインセンティブ付けの観点から、経営陣の報酬制度の設計及び具体的な報酬額の決定を、取締役会の責任の下で、客観性・透明性ある手続によって決定することを求めるものです。実務においては、具体的な報酬額の決定を、取締役会から代表取締役に再一任する対応も行われていると承知しており、補充原則4−2@は、こうした実務を否定するものではありませんが、そうした対応を行う場合でも、十分な客観性・透明性が確保されるよう、取締役会の責任の下で、上場会社ごとに手続上の工夫がなされることが重要と考えられます。” 〔実務上の対策と個人的見解〕 原則3−1において、経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続を開示するよう求められ、開示しているわけです。この原則3−1は情報開示の充実を求める原則なので、株主に理解しやすい情報発信をしていればいいわけです。その開示している報酬決定の方針や手続きの内容については、本原則において吟味するということになります。その際の吟味する基準として、原則の中であげているのが「客観性・透明性ある手続」です。一方で、その「客観性・透明性ある手続」のひとつとして指名・報酬委員会のような任意の諮問委員会については補充原則4−10@が改訂されているので、本原則の一環として関連を考慮しなければならないでしょう。そして、間違ってはいけないのは、この原則が求めているのは報酬制度に客観性・透明性があることを求めているのではなくて、報酬制度の設計する手続に客観性・透明性を求めていること、そして具体的な報酬額を決定する手続に客観性・透明性を求めているということです。附言すれば、その企業の稼ぐ力を最大化させるために経営陣の尻を叩くようなインセンティブとして機能する報酬は、その企業の事情や戦略に応じて、独自のものを考えられるからということでしょうか。
経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬の割合を適切に設定すべきである。
〔形式的説明〕 @経営陣の報酬 経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続きについては基本原則3−1.において開示することが求められています。この補充原則の内容は、ある意味では、この原則3−1.に含まれると言えます。しかしながら、役員の報酬決定の方針・手続きについては、金商法により有価証券報告書に記載が義務付けられており、また、指名等委員会設置会社の場合は会社法上の規定により株主総会招集通知の事業報告において記載を義務付けられています。これらはお手盛り防止を主とした目的としたもので、開示されている内容の大部分は、監査役会設置会社であれば、株主総会で報酬の上限のみ決議し、その範囲内で個別の分配を取締役会で決定するという内容にとどまっているようです。 しかし、そのようなお手盛り防止の観点から法的な手続きを遵守するという開示では、コーポレートガバナンスの側面で、投資家にとって透明であると納得してもらえるでしょうか。そこには、中長期の業績・企業価値創造と報酬がリンクしているかの情報がありません。 Aこの補助原則が求めていること 原則4−2.では取締役会の責務として、企業が価値創造にはリスクテイクが伴うので、それを適切に管理して、価値創造を追及する姿勢を求めています。そのような原則の下で、この補充原則は取締役会がリスクを前にして怯むことなく価値創造の追及を続けるように、報酬において取締役の動機付けができるように求めているものと考えられます。ここには、日本企業の役員報酬の特徴的な固定報酬を中心とした制度からの脱却が求められている、と考えられます。業績がよくても悪くても、支給される報酬が固定額で、あまり変らないという従来の慣例を変えて、インセンティブによって過度なリスク提起をしないように管理しつつ、中長期の業績・価値創造と報酬がリンクすることを求めているものと考えられます。 しかし、中長期的な業績と連動する報酬や自社株報酬の具体的な割合をどのように設定するかは、各企業によって異なるので、企業の置かれた状況を踏まえ、さまざまな要素を考慮した合理的な検討が行なわれることが期待されていると考えられます。 そしてさらに、この補充原則では取締役の報酬の決定に際して業績連動の要素を加えるや、インセンティブとして自社株報酬を加えることを求めていることで終わっていません。さらに、それらの報酬要素が加わった上で、それらが有効に機能するように、つまり、取締役会がリスクを恐れず価値創造の追及に取り組むように、これらの報酬と現金支給による固定報酬との割合を適切に設定することを求めているのです。 したがって、この補充原則に対しては、単に役員報酬に業績連動報酬や自己株報酬が含まれているだけでは、コンプライとはいえず、その上で各報酬の割合が適切に設定されていて、はじめてコンプライということになります。 B方針が前提 この補充原則で求められていることは分かりましたが、コンプライか否かを判断するためには、上記の「適切な割合」というのは、どのように評価判断するのか、を考える必要があります。役員報酬の中で、固定額報酬と業績連動報酬との割合が設定されているか否かは明白です。しかし、その割合が適切であるかどうか、ということを判断するためには、何らかの基準が必要となります。これは報酬ですから、何の根拠もなく、何となく適切であると思うということでは、お手盛りにみなされてしまいます。したがって、適切かどうかの基準、とまでは行かなくても目安程度は必要と考えられます。それがあるためには、役員報酬を決めるに際しての方針が必要ということになります。ここで、原則3−1.の報酬決定の原則との関連に戻りますが、この原則で求められている方針に固定額と業績連動の割合、現金支給と自己株報酬の割合が定められていなくてはならない、ということになります。 〔実務上の対策と個人的見解〕 @海外投資家の眼に映る日本企業の役員報酬 機関投資家、とくに海外の機関投資家から見る、日本企業の役員報酬の問題点は、報酬額の多寡ではなく、報酬の内訳として固定報酬の比率が高い(平均で報酬総額の75%を超える)ことだと言えます。固定報酬とは基本報酬や退職金のように業績とは無関係に支給されるものです。このような報酬の性格で経営者のインセンティブは、どのような方向に向かうのかというと、これは極論ですが、無理に業績を向上させていくことよりも、会社に長く在職する方向に向かうのではないだろうか、海外の機関投資家は、そのような危惧を抱いていると言えます。特に、顧問や相談役といった日本企業によくある制度と重ねて、社長退任後も顧問や相談役として会社と長期の関係を構築したほうが、社長個人の生涯収入は、業績を上げる努力により報われる可能性のある一時的な利益よりも、会社に長く在籍することで得られる利益の方が大きくなります。そうであれば、問題を先送りしたり、リスクをとって決断することは、あえて避けるようになりがちです。 また、比較ですが、米国企業では業績がふるわないと市場から圧力が高まり、CEOとして居続けるのが難しくなるのに対して、日本企業には、そこまで圧力がかかることはありません。従って、日本企業の社長は業績が悪くても失職の可能性が米国ほどではなく、長期的に、報酬を企業価値とは関係なく受け取り続けることが可能となっている。海外投資家の眼には、そのように映るようです。 このような見方は一面的かもしれもせんが、事実を含んでもいることは否定できません。 A実際にどうするか 海外投資家をはじめとした投資家の視点だけでなく、そもそものコーポレートガバナンス・コードの趣旨を尊重するならば、役員報酬の体系を見直すということがストレートな対応です。それについては、役員報酬を経営戦略の面から考えていくことに関しては、たくさんの議論があり参考書籍なども豊富にありますので、それらを見て参考にすればいいと思います。すぐは、そこまではなかなかできないとしても、経営が市場からの理解をベースに成長を目指すのであれば、遅かれ早かれ真剣に取り組まなければならないことであると考えます。 しかし、多くの場合は、役員報酬を見直すというのは、なかなか手をつけにくい課題です。しかし、例えば役員の退職慰労金を廃止する企業が増えてきています。その代わりにストックオプションを始めれば、中期のインセンティブとなっているはずです。それが、インセンティブとして効果的であるのかを検討することは必要なことです。ストックオプションは、自己株の現物報酬のようなものですから、権利行使によって現金化された数値を算出して、役員報酬に占める割合を検証してみることから始めてみてはいかがでしょうか。 と、役員報酬制度の現状を見直そうとする場合、ひとつの目安として、つぎのような整理された視点で検討すれば、洩れはないと思います。(『株主に響くコーポレートガバナンス・コードの実務』より、詳しい内容はこの本を読んで下さい) (1)役員・経営者報酬の体系の設計、考え方 ○
設計の考え方と報酬総額のレベル ž
企業価値向上とリンクしたインセンティブ報酬の考え方(業績連動部分の割合が高い米国型か、固定部分の割合が高い日本型か、その中間となる欧州型か) ž
グローバルな経営者市場から有能な人材を確保できるのに十分な報酬額の把握 ž
同業他社、同規模の上場会社の役員報酬額との比較 ž
取締役としての業務に対する報酬と経営陣としての業務に対する報酬の分離、取締役を兼務する経営陣のジョブサイズと兼務しない経営陣のジョブサイズとの報酬額の整合性 ž
業務執行に携わらない非業務執行取締役、社外取締役、監査役の報酬の考え方(業務執行を行わず会社業績に直接的責任を持たない監査役は固定報酬のみとするか、業務執行は行わないが重要な意思決定を行う非業務執行取締役や社外取締役は、長期インセンティブ報酬を設定するか、監督機能だけを求め固定報酬のみとするか) ○
固定報酬と業績連動報酬の体系、業績連動報酬の設計 ž
基本的な固定報酬と業績連動報酬の割合はどうするか ž
短期・中期・長期の業績評価期間の設定 ž
業績連動報酬の内容(現金報酬とするか、株主との利益意識の共有化も図れる自社株を使った株価連動型報酬を入れるか) ○
個人別の適切な割合・テーブル表の設計 ž
役員・経営陣の生活や年収レベルの考慮、経営陣予備軍の幹部社員の給与水準と経営陣の差の考慮 ž
役割と責務・ジョブサイズとの整合性 ž
各担当別の目標に応じた業績連動報酬の内容 ž
役位別と担当別の織り交ぜ方 (2)役員・経営陣に適切な企業家精神の発揮を促すようなインセンティブ型報酬の設計、特に、中長期の業績連動型報酬、ストックオプションや自社株購入促進の仕組みなどを活用した株式報酬の適切な組み込み ž
対象者(社外取締役、監査役を対象とするか、幹部社員、子会社社員を含めるか、社外者を含めるか) ž
中長期で評価する業績目標、パフォーマンス条件の設定 ž
ストックオプションのリスク・リターンの型(権利行使価額を時価とするハイリスク・ハイリターン型か、権利行使価額を1円とするローリスク・ローリターン型か) ž
支給上限値・下限値の設定(目標未達時に支給がゼロとなる最低限の業績ラインと、目標到達時の支給額の青天井を抑える上限の業績ラインを設定するか) ž
ストックオプションの場合の株式稀釈化レベル ž
運営管理などの事務 (3)業績や潜在的リスク等を踏まえた役員・経営陣の評価・監督の仕組み ○
全社業績、個別担当業績、非財務面での取り組みなどの評価内容・方法 ž
取締役の実効性評価の反映 ž
全社業績への責任の割合 ž
個人別に設定された担当領域の目標の達成状況 ž 年度業績に反映されない中長期的課題に対する取り組みや、業績数値に表われない非財務活的な活動への取り組みや個人別考課などの評価内容とそのウェートづけの設計、評価方法
〔Explainの開示事例〕 大和ハウス工業 当社の報酬の要素としては、金銭報酬として固定報酬と年次インセンティブ賞与で構成しております。 また、経営幹部に対して中長期的な業績や株主価値と連動する投資制度としてのインセンティブプランを設け、持続的な企業価値向上への動機付けを図っている(業績達成条件付き有償ストック・オプション)ことから、自社株報酬を導入しておりません。 詳細については、当社ホームページにて開示していますので、ご参照ください。 (http://www.daiwahouse.com/ir/governance/pdf/principle4-2-1.pdf)
本多通信工業 中長期的な業績と連動する報酬として、インセンティブプランを検討中です。報酬全体の構成、割合等についてもインセンティブプランと共に検討します。
基本原則2. 基本原則3. 基本原則4. 原則4−4 補充原則4−4.@ 原則4−7. 原則4−10. 補充原則4−10.@ 補充原則4−13.@ 補充原則4−13.B |