この原則の趣旨は、価値創造を持続しようとすれば必ずリスクを伴いますので、そこでリスクを避けて価値創造を追及しないという無作為が蔓延しないようにすることが重要で、取締役会として、経営者がそういう姿勢にならないように努めなければならないということです。
優れた会社というのは、リスクを取りつつ、そのリスクをきちんと管理できる会社です。上場企業がそれにチャレンジしなければ経済は停滞します。コーポレートガバナンス・コードでは、経営陣に適切なリスクテイクとリスク・マネジメントを行うことが期待されています。そして取締役会にはその支援なりモニタリングが求められているのです。
欧米の会社では、このような例があります。顧客企業から「これから1年間この製品の部品を1000万ロット生産して納入してください」という注文を受けたとします。実際には、その1000万ロットが変動する可能性が十分にあるのですが、「今のところ絶好調だから、おそらく上にブレるでしょう」と言われます。そういうときに、日本企業はたいてい、上ブレ分の納入責任まで果たせるように材料を準備します。ところが、8か月後に雲行きが怪しくなって、顧客企業から「悪いね、当初の予定より2割少なくていいです」と言われる。そうすると納入企業は泣く泣く過剰在庫を処分する羽目になるわけです。これに対して欧米の経営がしっかりした企業では、1000万ロットの注文を受けた時点で、自社の部品が使われる最終製品の市場のニーズ、需要の変化など、自分たちで自ら調査します。お客さんが言っているから正しいのではなくて、お客さんが見誤っているかもしれないからです。たとえ「1000万ロット、プラスマイナス10%をよろしく頼む」と言われていても、自前調査した結果「せいぜい達成率は90%くらいだろう」というふうに、自分たちで積極的に見積もるわけです。最終的に在庫リスクを抱えるのは自分達なのですから。
そういう調査を含めたリスク・マネジメントを自己の責任として行うわけです。今の話は当たり前のように聞こえるかもしれませんが、日本企業では、お客さんを疑って「そこまで売れないでしょう」とは言いにくいということです。もちろん「売れないでしょう」とまで言わなくていいのですが、そういうリスクを考えて対策を講じておくことが必要だと感じるところがあります。
そういったリスクの取り方や管理方法については、まずは経営サイドが対処すべきということになりますが、経営サイドだけでは対処しきれない問題が生じたときに、独立社外取締役を含む取締役会が監督機関としてそういう視点を提起していくというのが、自律と他律の役割分担というわけです。取締役会はリスクの取り方について、常にいろいろな視点からグッド・クエスチョンをしていくというのが、この原則の求めているところではないか、と言うことができます。
A実際のところどうするか
この原則は環境整備であり支援をすることが、求めていることなのでしょうけれど、コーポレートガバナンス・コードとしての目的を考えると、経営陣がリスクテイクをしていくことが、本来一番重要なことで、大半の日本企業がそうでないという現状認識があるからこそ、わざわざコーポレートガバナンス・コードなどということを導入したわけです。だから、環境を整備する以前に、どんな環境だろうが、支援がなかろうが、経営陣がリスクテイクをする“攻め”の姿勢があるのが第一ということになるはずです。
そのためには、経営者にそういう人に就任してもらう以外にないでしょう。実際に。そのためには、取締役の選任についての方針や手続きを検討しなければならない、ということになると思います。
〔Explainの開示事例〕
本多通信機工業
中期経営計画の達成時に自社株購入権が生じる中期的なインセンティブプランを検討中です。